097 アズサ、天界を散歩する
今日はヨミ様とグリムがデートなので、私はフリーになってしまった。私はここでは完全に空気なので、お買物もできない。まあ、水さえあれば、私は一週間でも生きていける自信はある。というか天界にきてからお腹がまったく空かない。
空気の私は天界の街を散歩することにした。船でじっとしているのが一番安全なのはわかっているけど、もう二度とここにくることもないし、散歩くらいは良いだろうとグリムの許可をもらって出かけた。
グリムからは神殿、お店には入らないようにと言われている。私は空気だけど、神様からすればGと同じ扱いになるとのこと。
天界の街を歩く神々はほとんどいない。いても何かを考えながらその辺を歩いているだけ。お店といっても外からは何を扱っている店なのかがわからない。神殿とは違う作りなので、お店または下級神の自宅に見える。
街中をウロウロしている神々がお店または自宅を出入りしている。それを眺めるのも飽きたので、今は天界の噴水広場で私はボーッと立っている。神様もたまにくるのだけど、空気椅子に座って私同様ボーッとして居るだけ。
私もその真似して空気の塊を魔力で固めて座ってみた。思いのほか座りごごちは良いのだけど、バランスを崩すとコケる。
ラッパが鳴り響く。天界の軍隊の行進みたい。光り輝く弓に槍に剣って、勇者が一体全体何人いるのってくらいの装備の兵士たちが行進している。騎士団は全員、ペガサスに騎乗している。これでは帝国軍がいくら頑張っても五分以内で全滅するだろうな。帝国が滅びるとき、私の母親? ルーのお母さんが皇帝によって殺される。なんとかしたい。
助けたいのだけど、私にはその手のツテがない。おジンは情報屋と仲が良かったというか、ボられていたというか、その手の人たちとよく会っていた。おいちゃんはその手の人たちをなぜか嫌っているので、情報屋のツテがまったくない。
ドルドの街の情報屋が皇帝が監禁している奴隷の情報を持っているとは、私も思わないのだけど。誰か知っていそうな人といえば、若様しか思いつかない。後は奴隷商人か。
皇帝は知恵の水を飲んでいるから、私の出方なんか丸わかりだろうけど……。知恵の水を飲んだから、私の動きが丸わかり。私の知っている人で、知恵の水を飲んだ人がいる。その人の存在は皇帝は知らないはず。ああ、でも白猫から報告が上がっていると考えた方が良いか。
地上に戻ったら、エルフの里に行って、ボワンナーレさんに母親が監禁されているとしたら、どこかをダメ元で尋ねてみよう。あの奴隷商人から情報を得られれば助かるのだけど。仕事の内容はあれだけど商人の倫理はちゃんとしてるポイので、薬でも盛ってみようか?
うん、なんか暗くなったような気がしたので、顔を上げてみたら、私の目の前に巨人が立って私を見ていた。私は空気、私はGなんだ。叩き潰される前にそっと移動しようっと。壁だ。反対側に移動。ここも壁だ。
もしかして、私は壁に囲まれたわけ。逃げ場がないGってこと。この巨人さんに殴られたら、私の多重シールドも木っ端微塵確定だよね。やっぱり、船で大人しく引きこもっているのが良かったんだ。享年二十歳か短かかったけど、充実した人生だったよ。私は覚悟を決めた。
「あんた、アズサだろう?」
ええと、私には巨人の知り合いはいない。いれば絶対に忘れないから。
「あのう、直答しても良いんですか?」
「俺はそういうのは気にしない」
「はい、アズサと申します。神様」
「俺はトールだ」
「トール様、どうして私の名前を知っておられるのでしょうか?」
「俺が付けた名前だから。俺はお前のゴッドファーザーってことだ」
「はい? 私は無神論者でして……、ゴッドファーザーってまったくわからないのですが」
「俺は、以前エルフの里で暮らしていた。そこにお前の父親の剣鬼が剣の修行をしていたんだ。お前の父親は、何度か俺に挑んできた。俺は死なないし、ケガもしないから、ちょうどいいとか言って」
「俺も無役で、まあ今も無職だから同じなんだけどさ。俺の頭に剣鬼が一撃を与えたら、お前の子に名前を付けてやると言ったら、一撃を入れられた。男の子ならシンジ、女の子ならアズサにしろって言ったんだ」
「お前から、剣鬼のオーラが溢れていて、俺は懐かしくなって、ふらふらとここまでやってきてしまった」
「なんなら、剣の稽古をつけてやっても良いぞ。暇だし」
「私は、剣士にはなりませんでした。治癒師になりましたので、剣のお稽古は遠慮します」
「えっ、もったいない。剣鬼の子どもが剣士にならないって、お前才能をドブに捨てるのか!」
「でも、私は治癒師が本業で副業が魔術師ですから」
「ダブルス副業で今日から剣士と魔術師にしろ。これは神託である」
私はトールさんによって、副業が増えた。良いんだろうか? って考えていたらトールさんの手の中に入れられて、どこかに運ばれている。私はこれからどうなるんだろう。やっぱり船にこもっていれば良かったよ!




