3-7 予想外の動き出し
結局、あの後確認することはできなかったがモンスは気落ちしていなかった。そもそも、ダメで元々だったのだ。どれほどのものなのか改めて肉眼で確認する以外に価値もない。それができなかったところで何の問題もなかった。
なぜ、そんな優先順位の低いことを確認する必要があったかと言えば、端的に言えば有紀が関わっている。彼女とサユは東西の対立においてかなり重要なキーであるようにモンスは感じた。そのために動いたのだが、見事に無駄骨に終わった。まさに骨折り損のくたびれもうけだ。
(まぁ、失敗なんざ万に一つもねえし、無駄なことをいくらしても支障ねえけどなぁ)
モンスはそんなことを考えながら目の前で起こっている事態を冷めた目で見ていた。サユと有紀は悲しげな顔でその状況を見ており、サエナはどうでもよさそうな表情で見ている。
彼らの視線の先には二人の男女。つい先日五組のクラスの前で言い合いをしていた二人組だ。なぜか、五組の教室の前で再び言い争っている。
「てめえ、何で俺にそんなに突っかかってくんだよ!? 舐めてんのか!」
「はぁ!? 突っかかってきてんのはあんたでしょ! 言いがかりはやめてくれる!?」
「んだと!?」
完全に二人ともエキサイティングしてしまっている。モンスとしては、他の場所でやってほしいというのが本音だったが、やむを得ないという気持ちもなくはない。
計画を準備する段階である程度調査した結果、どちらも二組の生徒である。それは事実だ。だが、二人と繋がりのある者がこの五組にいるのだ。そして、それが意味するところは――。
「もう我慢ならねえ! 西側全員ぶっ殺してやるよ!」
「それはこっちのセリフよ! この野蛮人!」
二人はそれぞれ武器を取り出す。男子生徒は手甲を素早く装着し、女子生徒は薙刀を取り出す。もう周りなど見えていない。このまま喧嘩をおっ始めるつもりだ。
『……どうする?』
見かねたサエナが念話で話しかけてくるが、モンスの答えはそっけないものだった。
『放置だ。こんなくだらないところで力を晒す理由はねえ。それにこのまま潰しあってもらった方が都合がいい。まぁ、すぐに止められるだろうがな』
『了解』
サエナは小さく頷き、事の経緯を見守ることにした。どうせ、この状況では何もできない。放置する以外に選択肢などありはしない。
二人は武器を構え、
「行くぜ!」
「はぁっ!」
それぞれ武器を振るう。手甲と薙刀がぶつかり、激しい激突音が周囲に広がる。モンスは右耳を押さえながら、二人の戦いの様子を見る。男子生徒は回転の速い連続攻撃で女子生徒を攻める。女子生徒はそれを涼しげな顔で弾きながら、間合いの差を生かして薙刀の一撃を男子生徒に見舞う。男子生徒はそれを上体を反らしてかわし、反撃に転じる。
男子生徒が中西光世。女子生徒がシャーロット・アルブラス。どちらもこの傑物揃いの一年生の中で上位に入るとされている実力者だ。まぁ、実力を調整した者が数多く存在しているので単純に評価だけを信じることはできないものの、それでも相当な実力を有しているのは間違いない。
とはいえ、所詮はそれだけだ。この程度では当然モンスの脅威にはならない。二人が呪力を使って戦っていないとはいえ、もう二人の浅い底は見え透いてしまっている。
(……ったく、余計な真似しやがって……)
モンスは内心舌打ちをする。今の彼は不機嫌そうな表情になっているので別に堂々としてもよかったのだろうが、あえて表には出さない。
二人の激突音に消されて、聞こえにくいがモンスの耳に二つの足音が聞こえてくる。それなりの実力があると分かる足音。だが、モンスはそれに対して微塵も反応を示さなかった。
「そこまでだ!」
「何をしてるの!? あなたたち!」
上級生と見られる二人の男女が近付いてくる。それに中西とアルブラスは動きを止める。
中西たちの喧嘩を止めた二人は三年の風紀委員にあたる者たちだ。風紀委員は文字通り、校内の風紀を守るための組織。生徒同士の揉め事を止めるのも仕事だ。もっとも、あまりにあちこちで揉め事が発生しているせいで完全に機能しきっているとは言えない状況だが。
風紀委員たちに怒られている中西たちを冷めた目で見つめながら、モンスはふと何かに気付いた様子になって教室の扉に向かう。説教を受けている中西たちを尻目にモンスは隣の教室――四組の横を通り抜けつつ、さりげなく教室の中を窺い、小さく笑う。
「ま、けど、これはこれで好都合か。余計なことをしたとイラついたが、ここはよくやったと褒めてやるべきなのかもしれんな。先を読むまでもねえ。今日辺り……動くな」
モンスは誰にも聞こえないほどの小声でそう呟き、ほくそ笑んだ。ようやく始まるのだ。この国を蝕むくだらない病魔の一つによる破壊活動が。そして、それが起こった瞬間、人間たちにさらなる爪痕を残すことになる。モンスはそれが楽しみで楽しみでしょうがなかった。




