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2-18 次への布石

 特人協会。特人の活動を統括している組織であり、国に属する機関でもある。



 その本部である高層ビルの一室にて、椅子に座る白髪の壮年男性と机の前に立つ若い男性が話していた。内容は昨日の特校襲撃に関するものである。


「では、報復は失敗したということでいいのだな?」


「ええ。今朝方、敵の拠点に目星をつけて襲撃したのですが、玄関が焼かれた上に中はもぬけの殻で……」


「何ということだ……」


 若い男性の報告を聞いて、壮年男性は頭を抱える。この壮年男性は檜山(ひやま)和俊(かずとし)。特人協会の東側のNO4だ。檜山は視線で先を促す。


「それだけではなく、ウィーダラー・リリーフの王都第二支部のメンバー全員が消息不明でして。目撃者を探したところ、奴らの拠点で突然火災が起こったという証言は得られたのですが、それ以外の情報は一切得られていません。現場検証も同様です」


「完全に何者かにしてやられたということだな。まぁ、誰の仕業かなど容易に想像がつくが……」


「調査部隊の方でも確証はありませんが、ヒューマン・イーターの仕業である可能性が高いという結論が出ています」


「くそっ! あの人外集団どもめが!」


 檜山は机を思いっきり叩く。男性はそれに唇を噛みながらも口を開く。


「報告は以上です」


「……ああ。ご苦労だった。戻っていいぞ」


 檜山の言葉で男性は一礼し、去っていく。檜山はそれを見送ると、臍を噛み、両手の拳を強く握りしめる。


「くそっ! 人外が人を出し抜くなどあってはならない……! 連中にだけは、絶対に負けてはならんのだ……!! 絶対に……!!」


 檜山はそう言って歯ぎしりした。






 ○○○○○


 襲撃から二日経ち、サユは自宅の居間で悩ましげにため息をつく。学校が休校となったために暇を持て余している……などということはなく、休みの間にしっかり自主的な修練を積み重ねている。特校とは入るまでが勝負なのではない。入ってからが本当の勝負だ。ここで怠けては将来特人としてやっていくことなどできはしない。

 今はそれを終えて、少し休憩を取っているところだ。湯飲みで緑茶を飲みながら憂いげな表情をする彼女は多くの男たちを虜にすること間違いなしだ。


「サユ。お客さん」


「お客?」


 サユは居間に入ってきた母の言葉に首をかしげる。ちなみにここは彼女の実家だ。王都から三十キロほど離れた場所にあるため、普段は特校近くにある専用の女子学生寮で過ごしているが、今は休校のため実家に戻ってきているのだ。



 誰が来たのだろうと不思議がっていると、その相手はサユの母親に一言断って居間に入ってくる。その人物を見て、サユは目を見開かせる。


「よぅ。元気か?サユ」


 黒い髪をツーブロックにした少年。少年は親しげな笑みを浮かべて、サユの正面へと座る。


「サーゾン様……!?」


 サユは顔を強ばらせる。サーゾンはそんな彼女に構わず、笑みを浮かべたまま、口を開く。


「一年生が襲われたと聞いて心配したんだが、無事そうで安心したよ。さすが、ソルドー家の歴代最高傑作。そう呼ばれるに相応しい力を有している」


 サーゾンの言葉をサユは顔を真っ青にして聞いている。それを見て、サーゾンは眉根を寄せて、困ったように笑う。


「おいおい。褒めてるんだから、少しくらい嬉しそうにしたらどうだ?」


「あ……。申し訳ありません……」


 緊張するのも無理はない。目の前の少年はサーゾン・カルドザス。英雄と称されるクレナール・カルドザスの一人息子(・・・・)だ。今年は特校の最高学年になっており、実力者として特校を引っ張っていく存在として目されている。



 サーゾンは出されたお茶を飲み干して、一息をついてから、一言。


「お前なら大丈夫だと思うが、間違っても東の連中には気を許すなよ」


 あまりにも無慈悲な言葉。サユは一瞬目を見開き、やがて唇を強く噛んで俯く。


「……はい。分かりました」


 消え入りそうな声で答えると、会釈をして居間から離れていく。その後ろ姿をサーゾンは頭を掻きながら見送る。


「やれやれ。釘は刺したが、どれほど効果があるか分からないな。まぁ、どちらでも構わないが……」


 先ほどの発言の真意はサユと有紀の関係に関するものだ。そんなことは直接言わずとも彼女も分かっている。その上での警告だったが、効力はあまり期待できそうにない。しかし、サーゾンは苦笑しており、先ほどの警告についてはそこまで本気でなかったことが分かる。サユの気配がなくなったのを確認すると椅子の背もたれにもたれかかり、盛大に息を吐く。


「それにしても……モンスと言ったか。何もかも違うはずだが、どこかあいつに似ている……」


 サーゾンは今は亡き弟とモンスを重ね合わせる。容姿はまるで違う。声も声変わりを考えてもまるで別人だ。けれど、似ているのだ。彼の弟に。


「まさかな……」


 サーゾンは自嘲した笑みを浮かべ、椅子から立ち上がり、ソルドー家の居間を後にした。

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