1.指先が緑に染まった娘
[日間]ハイファンタジー 完結済1位
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国境門をくぐろうとする一台の荷馬車を、鎧をまとった憲兵が手で制した。
荷馬車の主人は慣れた手つきで通行証を差し出す。憲兵はそれに軽く目を通すと、胸元から一枚の手配書を取り出し、無造作に男の顔前へ突きつけた。
羊皮紙に描かれているのは、どこか陰のある表情をした細身の少女の絵だ。その下には、箇条書きの文字が並んでいる。
『ラヴェンナ・イース』
『十七歳』
『紫色の髪』
『赤い目』
『拙い口調』
「この人物に心当たりは?」
「さあ…覚えてないのぉ。ナカ、お前さんはどうじゃ?」
主人が振り返って荷台に声をかけると、奥の幌からひとりの娘がひょっこりと顔を覗かせた。
一見すると少年にすら見える短い髪だが、バンダナの隙間からのぞく毛は淡い紫色で、瞳は輝くような赤だ。
憲兵が思わず手配書の絵と目の前の娘を交互に見比べると、ナカと呼ばれた娘は憲兵の手からひらりと手配書を奪い取り、小首を傾げてみせる。
「さあねぇ?あたしも見てないね」
「……おい娘、貴様は髪と目の色が酷似しているな」
「はぁ?あたしのどこが、このしみったれたお嬢さんに似てるって言うんだい。お兄さんの目は節穴かい?」
娘の図々しい返答に、憲兵は思わず言葉を詰まらせる。
確かに色彩こそ同じだが、手配書に描かれた大人しそうな令嬢と、目の前で不機嫌そうに鼻を鳴らす娘とでは、受ける印象があまりにも違いすぎる。
「大体、あたしが拙い口調に見えるかい?口から生まれたとまで言われるこのあたしが?そりゃとんだお笑い種だね。なんならお兄さんが泣き出すくらい流暢な罵倒を聞かせてやろ……」
「ああ、もういい!分かった!こんな生意気な田舎娘が、失踪した貴族令嬢なわけがない!いいからさっさと通れ!」
娘の手から手配書をひったくり、憲兵はいらだちを隠すことなく手をしっしっと振った。
「分かればいいんだよ」
口の中で小さな呟きを押し殺すと、娘は荷馬車が動き出すより先に、再び荷台の狭い隙間へと腰を下ろした。
やがて車輪が軋む音とともに、荷馬車がゆるやかに進み出す。ガタガタと伝わる振動。国境門をくぐり抜け、兵士たちの怒号や喧騒がだんだんと遠ざかっていく。
視界が開け、頭上には澄み渡る青空が広がっていた。
娘は日光にかざすように、そっと自分の手を高く掲げる。その指先は、わずかに緑色に染まっていた。
「もう少しだよ、ラビ……」
「口から生まれた」っていうのは「口から先に生まれた」って意味で、けしてピッコ◯大魔王のようにママが口から産んだわけではないのよ。
ここから少しドアマットターンです。




