第一話-2 第4地区
やぁやぁ皆のことが大好きラッコだよ!
話が全然進まないねぇ。おかしいねぇ。通信速度が遅いのかなぁ。今2150年なんだけどなぁ。
通信速度で思い出したけど最近仕入れた通信「cent20-21」の噂は知ってる?
皆も使っている最安値の20c(0.20AUD)から使える超お得な通信プランだよ。でもスポットに行かないと使えなくて滅茶苦茶不便だよねぇ。
第4地区なんて景観の関係で全部有線らしいよ。ふざけてるねぇ。
そんなふざけたシステムにしたのは日本連邦が地方で組織が立ち上げするのを防ぐためらしい。内戦は起きてるし海外に北上したり北海道がロシアの手に渡ってから東北地方で小さな小競り合いが争いが起きていて実にアホだねぇ。そういや6,7年ぐらい前にいた半島の激戦区で一気に北上して戦線を切り上げた若手将校の『北方の人食い虎』はいつかを僕も取り上げて動画撮りたいねぇ。
僕の情報筋によれば既に退官して・・・おっと脱線しすぎたねぇ、今日こそは佐藤ちゃんが問題を解決できる人に会えるか一緒に見て行こうかねぇ。
食事処を出てちょうど到着した路面電車に佐藤一人を乗せるとゆっくりと動き出した。通信端末を起動して「cent20-21」が機能しているのを確認すると反射的に愛用している写真投稿アプリの「ヘカトンケイル」を開いてしまい溜息を吐く。
やっぱりいる。
佐藤の投稿する写真は『一人で撮影したのに被写体が二人に増えている』のだ。
スタジオのARによる壁紙撮影で背景にあった服装に着替えて撮影する。
例えばAR背景で生成した西洋風の城の前では半鎧半ドレスに白いカツラを被り棘を落としたバラのドライフラワーを頭に差して模造の剣を構えた画を撮影する。撮影するとしばらくしてその写真にはフルプレートアーマーにハルバートを構えた騎士が佐藤の横に立っている。
ゴシック調の洋館の中での撮影では黒い三つ編みにメイド服に眼鏡でマリーゴールドのドライフラワーを花瓶に活けてる画ではティーンの白人少年絵に描いたような坊ちゃんが腕組している。
リンドウのドライフラワーを胸に差した赤紙のカツラでやや露出度の高いミリタリースタイルだと屈強な肉体をした中年の軍人がごっつい小銃を構えてこちらを睨みつけている。
他にも多数の写真にそれらは写り込んでいる。
共通点を並べてみてわかったこと。『写真の雰囲気にあった姿』佐藤の特異な服装と背景にも映りこんでいても違和感がない。
『一緒に映るのは男性』であること『閲覧者を威嚇または牽制するような表情』で見ていること。
結果コメント欄には『この渋い顔のおじ様はだれか』『あの少年はどこで連れ去ってきたんですか!?』『コラボしたのか?私以外の男と』『コラボした相手のリンク先を載せないのはマナー違反』と回答不能な状況が続き今は肌にも影響が出そうだ。
最初はハッキング等で合成されたのかと思った。または自身の知らないスタジオのAR技術により自動生成されたのかと、警察やスタジオの関係者に確認したが何らかの操作をされた痕跡もなく首を傾げるばかりであった。
更に時々開いてみると写真にいたハルバードの騎士が忽然と消えたりしており、次に開くとまた雄々しい立ち振る舞いで写真に戻ってきている。
まともな現象ではない。困っているとそれに気が付いた常連でちょうどシェイクを注文する夜月さんがこれを解決できそうな人がいると教えてくれた。
そして第4地区へ佐藤は足を運ぶことになった。
持って生まれた佐藤のルックスに引かれて1年でフォロワー1万人近くまで集まっている。
もちろん身元がバレないようにやや過剰な化粧にカツラは必須だが人から良い評価を下されるのは悪くない。だがいかんせんこの状況は怖い。
佐藤自身に危害があるわけではない、むしろ雰囲気的にはあまり問題はないが意味が分らないものほど怖い。自分が写っている写真だ。他人事にはできない。
佐藤の本職は隣接地区の不夜城と呼ばれる摩天楼のビル群が立ち並ぶ第5地区。その中に彼らにカフェインチャージのため無数にあるカフェの店員である。
15歳で働き始めて決して給料が低いわけではないが同時に特別高いというわけでもない。
カフェも本来なら食事処同様に完全自動化されるのが当たり前だが、この地区は客に提供するものが違う。カフェが提供するのは人間の温もりである。
客層の大半は高給取りの代償にゴーグルやナノマシン、はたまたサイボーグ化したパーツによる接続で延々とサイバーの世界で長い時間働くことになる。そうすると生の実感がわかなくなり。自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなる。
更に酷い段階になるとそもそも人間だったのかすら分からなくなる。
カフェで会話をして彼らを人間のあるべき場所に引き戻すにが目的。有料になるがスマイルやシェイクハンドの提供もやっている。
アコギな商売と思われるかもしれないが原初のカフェの形に戻っただけだ。むしろ枕営業をするだけ昔の方がたちが悪い。
器量良しで死体の様に冷え切った手でも脂ぎった手を握るのに抵抗のない佐藤はそこまで苦労せず就職できた。
1世紀以上前はこの国は18歳までは未成年扱いだったが少子化による高等教育の閉校と移民政策の結果一度大きな国内の内戦を経験して連邦になってからは、基本的に15歳で社会の海に放り出されるのがデフォルトとなった。
カフェの仕事内容も飲み物はマシーンが自動作成、補充も専用機械が行い人間がやることは注文した商品を指定された席に運び、たまに笑顔を振り撒き手を握り、彼らの心身に温もりを与える。それが第5地区のカフェ店員の役割だ。
肉体的にも悪質な客でもいない限りは精神的なストレスもない。それ故に退屈さを覚えてしまい。始めたのがヘカトンケイルでの写真投稿だがまさかこんなことになるとは。
通信端末のcent20-21が強制に接続が切れる。第4地区は雰囲気を崩さないため通信端末の使用が固く制限されている。
左右の木々が頭を下げていくと、二つのものが大きく見える。海と背の低い建物群だ。今まで少し鼻をくすっぐっていた潮風の香りがはっきりし始めた。
路面電車のゆっくりと流れる景観は明治後期とも大正ともとれるモダンな雰囲気なのがこの地区の特徴。
その景色は普段いるビルやマンション郡が並ぶ摩天楼の第5地区よりも遥かにゆっくりと落ち着いた雰囲気で優しい色合いのレンガや漆喰の壁が並ぶ。
ただこれらは再現されただけでありガス灯の中身は炎を再現したLED電球や、レンガ造りも全ては3Dプリンター等で作られているで触ればその暖かみのない肌触りで分かる。
今乗っている路面電車も車掌はおらず、AIによる自動運転で決済も電子端末による乗り込んで下車するだけで支払い完了だ。
そして今ではこの国の当たり前となったあの黒い線が天まで伸びる。
地上から伸びるそれを人は「カンダタの蜘蛛の糸」「黒いバベルの塔」とか勝手に呼んでいる。あることが当たり前だが『気持ちが悪い』という文字が頭にという表現があるが、もっと体の深い部分で信号を出している。長く見るものでないのですぐに視界から外す。
食事処で斎藤二等隊員から聞いた三番街で降りて言われた道をたどる。
紋付き袴にハット姿の老紳士、味のある暖簾の並ぶ木造の商店街、大道芸の様なパフォーマンスをする和彫りの褌姿の男たち、ハイカラな姿の女学生、その逆にバンカラにマント姿の男子学生達。
普段の佐藤ならこの珍しい景観、夜月から借りた許可の下りるパーレット型のカメラで撮影の一つでもしているであろうがそれはグッと堪えるしそれ以上に撮るのが今は少し怖い。
その気持ちを振り切るようにやや早足で坂道を登る。
「あった」
L字の曲がり角にちょうど位置する。少し奇妙な建物だ斜面にかけて登り切った先が二階入り口部分と中の構造が全く読めない。
一階部分であろう入り口には『白銀貸本屋』と墨で書かれた木造の看板が立て掛けられた。木造の柱と漆喰の壁の小さな洋館が建っており屋根の上の風見鶏が風もないのに激しく揺れて妙に印象に残る。
木製に小さなのぞき窓のあるドアには「Open」の立て札が吊るされている。
その庭先に巨大な黒い毛皮が鎮座していた。最初は置物だと思ったがその持ち上がった顔で大きくアクビをした。
その犬は全身は光沢のないより深い黒い毛に覆われている。お洒落なのか頭や尾にはロックビーズや鉄の輪がいくつも編み込まれている。
体を伸ばしてこちらに一瞥するが興味無さそうに大きく欠伸をすると扉の前から少し歩いて目を閉じる。佐藤は犬から「入りたければ勝手に入れ」と言われた気がした。
ドアを押し開けるとにベルが吊るされているのかカラコロと趣のある音が鳴る。
「あら思ったより早かったな」
白い刺繍の入ったブラウス、銀で装飾されて黒い宝石の埋め込まれたカメオ、足首まで届く茶色のロングスカートに、ブラウンの混ざった髪を後ろで団子にしている。シャープな顔立ちと目。
まるで恋愛漫画のヒロインを虐める家庭教師か継母という印象だ。
「あんた、まーさかその格好でここまで来たのか?」
佐藤を見た白銀 花は目を鋭くして不快感を隠しきれなかった。
まずは第一話-2を読んででいただきありがとうございます。
本編書くよりも、通信の門外の人間なので前書きに苦労してAIと相談してどの条件なら満たせるかを繰り返して、やりとりしてたらまさかの爆発物になったり金属の箱に通信端末をこすって通信するのが当たり前と言われたりしてどうにかこうにか収まる範囲になりました。
本編に書くスペースないのでラッコに頑張ってもらいました。最初の挨拶の時はラッコの被り物した人がいないいないばあっしているところを想像していただけると分かりやすいかもです。
そして、やっと白金花を出せたけど5節に分解状態になってもうたです。しかも次の進捗5割程度、頭の中でその先に書きたいことがあってもフィードバックできないですね。




