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マグノリア王国サイドストーリー  作者: 麻生あきら
夜明けの指標

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01 フローレス

挿絵(By みてみん)

「フローレスに妃にしたい娘を見つけた!」

 

 マグノリア王国、王太子ディルクルムは頬を紅潮させて言い放った。

 クレプスクルム国王とセーレナ王妃の御前であるにもかかわらず、臣下の礼を執ることも忘れ、まっすぐに顔を上げて

 

 

「真っ白い綺麗な髪に、赤い宝石みたいな目をした女の子なんだ!」

 興奮冷めやらぬ風情で、なおもまくし立てる。

 クレプスクルムは小さく肩を跳ね上がらせ、セーレナはそれを横目に見た。

 

 ディルクルムのその言動は、二人の意識の中に、過去の二つの記憶を再び浮上させた。

 十六年前の国を揺るがす事件と、十一年前のクレプスクルム即位後の乱心を。

 

 

 

 事の発端は王太子ディルクルムによる『フローレス』への訪問だ。

『フローレス』とは、王国のシンボル『聖女ソフィア』縁(ゆかり)の神殿が建つ土地である。

 王城がある王都から大街道を半月かけて、『司法』、『農務』の領地を南下する。

 

『農務』領内を過ぎれば、大街道の三分の一の細さになった未舗装路をさらに半月進む。

 途中、高い壁に覆われた害獣対策の軍の防衛拠点が数カ所あるのみで、一般人の行き来はほぼない。

 

 マグノリア王国の最果ての地だ。

 

 

 

 ディルクルムは学園入学を翌年に控えた十四の夏、王太子の慣例として視察に向かった。

 フローレス神殿は、移住元の地球との交流がある唯一の場所だ。

 その事実を王族の直系、継承第一位の者として初めて知る事になる。

 

 軍に守られ道程を進む。

 最後の防衛拠点で、王都の北にある大神殿の神殿長と合流した。

 何故わざわざ別行動なのか不思議に思うディルクルムだったが、神殿長とはあまり交流もなかった為にむしろ安堵した。

 

 幼い頃から神殿長は苦手だった。

 落ち着いた声と柔らかい物腰だが、感情のない目と口調。

 ディルクルムはいつも居心地の悪さを感じていた。

 

 

 

「ご覧下さい。あのマグノリアの木々がお分かりになりますか? あの中央がフローレスの町でございます」

 神殿長が馬車のキャビンから指差す。

 

 夏の光を受け、眩く映えるマグノリアの葉が町の様子の一切を隠している。

 風に靡くマグノリアの葉は喩えようもないほどに美しい。

 

 近づくにつれ、少しずつ町の様子が浮かぶ。ぐるりと高い塀に囲まれており、正面には堅牢な門。

 門の前には兵士らしき武装した二人が立ち、神殿長がキャビンの窓を開け手を上げると、一礼し馬車の通過を見送った。

 

 マグノリアの木立を抜けると広場に出た。

 広場を居住地が囲み、正面奥に小ぶりな白亜の神殿。王城の隣に立つ聖堂の様な繊細な作りだ。

 

 その前に神殿服に身を包んだ四人が頭を下げ並ぶ。

 フローレス神殿長ウォルター・ルース。

 その妻イルマ。

 長子のジョイル。

 

 そしてその隣に一際目を引く少女がいた。

 ざわざわとディルクルムの頭の中にノイズが入る。

 

「顔を上げよ。私はディルクルム・ソル・マグノリア。みな大儀であった」

 

 四人は静かに顔を上げる。

 そして、ディルクルムは一瞬にして目を奪われた。 

挿絵(By みてみん)

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