ダミー君のゆらぎ
ダミー君はアンドロイドだ。
正しくは、『ハルト・カツラギ』に似せたアンドロイドである。
名前はいつ誰がそう呼び始めたかわからないが、『ダミー君』で定着している。
由緒正しく『R某』ではない。
もうちょっとフレキシブルであり、アイザック・アシモフを誰も知らなかったからだ。
外見はもとより、声や仕草まで複製されている。
ただ、ハルト本人が使う一人称は“僕”だが、ダミー君は神殿長という役職を任されている故に“私”としている。
オリジナルであるハルトは元々は穏やかな性格であったが、不運にも変な男の道楽に巻き込まれたばかりに、少々眼光鋭い面相となってしまった。
そんな時期の顔を写したので、ダミー君もかなり冷淡な様相である。
おまけに不気味の谷の住人ゆえ、表情が乏しくどことなく違和感がある。
ダミー君と相対する機会の多い王族や貴族にはあまりウケが良くない。
たまに儀式中に泣き出す子供もいる程だ。
「私は、そんなに恐ろしいですか?」
「さあ?」
ダミー君は目の前の女性に質問を投げかけた。
が、聞いた相手が悪かった。
『聖女の人形』の一人だったからだ。
『聖女の人形』はハルト・カツラギの婚約者ソフィア・ルースのクローンだ。
二十歳前後の体格まで水槽の中で育てられ、ほとんど情操教育をしないままマグノリア国王へと渡される。
知識は植え付けられているが、人の感情はダミー君と同等の理解度しかない。
全くもって確実性のない話である。
そんな様子を見ていた人物が、思わず口を挟む。
「恐ろしくはないが、表情がね。⋯⋯硬いんだよ」
すうっと、ダミー君と聖女の人形が同時に発言者に顔を向けた。
見られた方は内心ギョッとするも笑顔を作る。
「ウォルター様。硬い、とは?」
聖女の人形が首を傾げる。
「表情がない。という事でしょうか?」
ダミー君も同様に。
二人の視線を一身に受けるウォルター・ルース。
世は六十二代ベニニタス王。
毎年春に行われる建国祭を前に、聖女縁の地フローレスから儀式の手伝いにウォルターは来ている。
まだ成人したばかりだが、当主の代わりに派遣されていた。
「うん、そういう事になるのかな⋯⋯?」
「左様でございますか。⋯⋯では、これでいかがでしょう?」
ニッ。
「⋯⋯はっ。はああああぁぁぁ。も、もういい。ちょっ、ちょっと待って」
後ずさりながら、両手で顔を覆うウォルター。
ゆっくり呼吸を整える。
再び表情を無くし佇むダミー君。
その横でダミー君の顔をひたすら覗き込む聖女の人形。
「す、すまない。笑い方はハルト様が起きた時に聞くといいよ⋯⋯」
「⋯⋯承知いたしました。ウォルター様」
さて、ウォルターは一体どんなダミー君の笑顔を見たのか?
聖女の人形はハルトそのままと言うかもしれない。
しかし、次に目覚めたソフィアは大笑いし、ハルトはその場で頭を抱えた。
果たしてダミー君の悩みが解決する日はやってくるのだろうか。
ハルトの悩みが解決されれば、あるいは⋯⋯?
ダミー君はその日を待っている。




