表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユリカゴから宙へ ──漂う星々の記憶──  作者: 真野真名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/42

エピソード39、沈黙の運び屋




 それから数ヶ月が過ぎた。

 木星圏の酒場では、ある噂がまことしやかに囁かれていた。


 決して捕まらない、謎の輸送船の話だ。


「聞いたか? ガニメデの開拓村、食料危機で全滅しかけてたらしいけど、一夜にして倉庫が一杯になったってよ」


「GAの封鎖線をどうやって抜けたんだか」

「幽霊船じゃないのか?」

「いや、見た奴がいる。白地に青いラインの、古い民間船だってさ」


 小惑星帯の影に隠れた、名もなきコロニー。

 そこに一隻の船が静かに接舷していた。

 〈ホシノナギサ〉だ。


 ハッチが開き、物資の搬出が行われる。

 海斗は一回り逞しくなった腕で、重いコンテナを軽々と運んでいた。

 以前のような頼りなさは消え、プロの機関士としての自信が顔つきに表れている。


 ココはタブレットを片手に、次の航路計算をしていた。

 その表情は穏やかだ。過去の亡霊に怯える様子はない。

 彼女はもう、自分が「疫病神」だなんて思っていない。このチームに欠かせない「羅針盤」だと知っているからだ。


 戸来は、コロニーの代表者と握手を交わしていた。

 老人は涙ぐみながら感謝の言葉を繰り返す。


「本当に助かった。あんたたちのおかげで、孫たちも冬を越せる。……礼は何でもする。GAに通報もしない」


「礼は正規の料金だけでいい。それに、通報したところで俺たちは捕まらないよ」


 戸来はニカっと笑った。

 その笑顔には、宇宙の荒波を越えてきた者特有の太々しさがあった。


 搬出が終わり、三人が船に戻る。


《出港準備完了。次の目的地はカリスト周辺、依頼品は医療用ナノマシンです》


 スピーカーからミナトの声がする。

 以前よりも口調が滑らかになり、どこか人間臭い抑揚がついている。


「へいへい。人使いが荒いこって」


 海斗がぼやく。


《私の計算では、海斗さんの疲労度はまだ限界の四割です。サボる口実としては不十分です》


「うっさいわ! そういうとこだぞAI!」


「はいはい、喧嘩しない。さっさと行くわよ」


 ココが操縦席に座り、慣れた手つきでシステムを起動する。

 戸来はキャプテンシートに座り、二人と一台を見渡した。


 恐怖で結ばれた関係は、いつしか揺るぎない信頼で結ばれた家族になっていた。


「よし。野郎ども、稼ぐぞ」


「アイアイサー!」


 〈ホシノナギサ〉がスラスターを吹かす。

 GAの警備艇が嗅ぎつけるよりも早く、彼らは星の海へと溶け込んでいった。

 誰も知らない「近道」の予兆を読み、誰よりも巧みにそれを回避し、時に利用して。



 沈黙の運び屋は、今日も木星の空を翔ける。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ