097 二人目の弟子でした
さて、商業ギルドの狸さんとの話し合いをはじめましょうかね。
あちらも、化かしあいと宣うからには、何かしら思惑がありそうだしね。
「あっ、その前に、此方の書類を受理おねがいします。でないと、後回しののち、わすれさられそうですから」
空気に徹していたヒューズ君が、待ったをかけた。
ああ、そういや忘れてたや。
商業ギルド長さんも、出鼻を挫かれた割りには、ばつの悪い表情でヒューズ君を認識しなおしていた。
あちらも、完璧に私の従者かオブサーバ役だと思っていた節が見えた。
ヒューズ君が提出した書類は、私の農園での家畜の生産品を売買する契約書と、間借りしている私への利益配分を付随した誓約書の二種類だ。
後は、女史の身内関係との絶縁書類で、身内が家族であるから利益を配分されるのは当然と主張する権利が無い事を証明するものだった。
まあ、女史夫妻の身内は、女史夫妻の私財を担保にして借金を繰り返しては、迷惑をすこぶる量産していたそうで、支援者のクラーゼン侯爵が間に入り、貴族院と行政に根回しし、女史夫妻の身内と女史夫妻は絶縁して、借金取りから財産を奪われるのを回避した。
その為、借金取りは逃避行を続ける女史夫妻の身内を、懸賞金をかけて捜索後、騙し取ったお金で豪遊する身内を確保して、借金奴隷に落とした。
が、頭の悪い身内は、借金は女史夫妻が返すとの一点張りで、監視されている重労働の現場から逃走を計り、捕まるを繰り返すばかり。
よって、クラーゼン侯爵家が間に介入して、女史夫妻を庇護下におく形で、身内との関係を清算した。
まあ、それでもあちらは諦めない根性で、まだ喚いているそうだ。
なので、学術と家畜の事にしか頭が働かない女史夫妻を置いて、ヒューズ君が前面に立ち関係各所に書類を提出したり、根回ししないとならない羽目になっていた。
今回も、ライザスの商業ギルドにて、女史夫妻が所有する家畜から生産される品は、ライザスの商業ギルドを介して商会に卸す許可を取り付けに来た訳である。
書類自体はクラーゼン侯爵家から、適切な人材が助言して申し分のない状態で持ち込んだので、訂正する箇所もなく受理された。
しかし、解せないのは、何故に事前に話されてない私への利益配分があるのだろうか。
「いや、衣食住整えて貰い、ただ飯食らいの単なる居候になる訳いかないじゃないですか。それに、ランカの領地に住まう税金も納めないと、ミーアさんが罰せられますよ」
済まん。
俄領主なもので、税金の事はころっと忘れてましたわ。
あれか、人頭税とかのヤツか。
そういや、アンナマリーナさんやナイルさん達一家がお世話になっているからと、アルバレア家からも毎月分も少なくない金銭が、押し付けられてたっけ。
あはは。
税金関係、完璧に無視してたや。
その辺りの人材雇用するか、派遣して貰うかしないと駄目だな。
帰ったら、シェライラに相談しよう。
「あっ、はい。此方は終わりました。では、後日になりますが、マクレーン様から卸していただける商品を扱いたい商会を推薦致しましょう。此方の、割符を所持している者が我が商業ギルドの職員となります。バーシー伯におかれましては、無下なく追い返さないでいていただけると助かります」
「承知しました。フィディル、うちの子達に通達しておいて頂戴」
「分かりました。ですが、割符を持つからとはいえ、農園にて傍若無人な態度をされましたら、叩き出すのは前以て言わせていただきます」
割符を所持している職員は、女史夫妻が対応する契約であるから、契約外の私の農園への口出しは厳禁と言いたいのだろう。
フィディルは、小さい釘刺しはしておかないとと判断した。
当然だね。
今後は、うちの農園に雇用されたいと希望している子達がいる。
未成年の子達が増えるから、事前の警告は必要不可欠である。
うーん。
成人していて、子供達を守れる人員も必要だな。
此方は、冒険者ギルドのお姉様に相談して、怪我や年齢によって冒険者を辞めざるをえなくなり、働く場がない人を推薦して貰うかな。
「その警告は、重く受け止めさせていただきます。何でも、マルローネさんの養護院の子供達を雇用するとか、聞き及んでおります。また、バーシー伯と共に叙爵された御一家も居住されていると。私共としましても、マーベリック子爵家の後ろ楯と名をあげる方々を敵に回したくはございませんし。商売人として、商機を逃す訳にはいきませんので、未熟な者に任すつもりはありません」
あー。
ナイルさんの子爵家にも、なかなかに友誼に厚い貴族さんがいたっけ。
ナイルさんが農民していたのを馬鹿にはしたりせずに、努力したのだと激励していた方々からも、くれぐれも一家を頼むと遠回しなお手紙がきたなぁ。
中には、気の早い方々もいて、ロイド君やエメリーちゃんの婚約者にどうかと身内を薦めてきたのもいたわ。
そちらは、アルバレア家のオレリアさんに対応を任せて、丸投げしたが。
兄妹が、貴族が通う学園に入学するのは免れないため、農民育ちと忌避する子供達が苛めに走らないよう、アルバレア家関係の子供達を只今教育中であるとか。
まあ、エメリーちゃんには既に守護者がついているので、酷い苛めなんかは起こらないそうである。
何でも、守護者持ち=女王候補に直結するので、他者を思いやれない性質の少女は、女王候補者認定者により候補から外されるらしい。
その例が、あのライザスにいたシスターだ。
シェライラがジルコニアに見出だされる前までは、人格に問題があったものの、平民出身の当代女王よりかは血統はまともであるとの理由で筆頭候補だった。
しかし、上位貴族のシェライラが初代女王の守護者と契約して台頭してきたら、あえなくお役御免。
聖母教会に引き取られて、捨てられた矜持からお金儲けと、八つ当たりによる他者見下しと、シスターの役割りを乖離した馬鹿をやらかした。
挙げ句に、私に喧嘩売って、守護者に契約解除されるという落ちが待っていた。
よって、反面教師となったシスターがいるので、守護者持ちの少女の教育は、王城からの苦言もあり見直されている。
が、その反面、少年の教育には、未だに貴族の選民意識が残り、上位貴族が幅を利かせて、権力でもって下位の貴族や準貴族である騎士の家系の子供に対する苛めは無くなってはいない。
ただ、ロイド君の場合、農民育ちだけれども、父親の家系はアルバレア侯爵家で、母親の家系はエンブリオ公爵家。
二家共に、女王国内では建国由来の貴族家である。
そして、私の後見も入る為、苛めが行われたら、罰を受けるのは相手側。
念の為に、ロイド君にも相性の良い精霊をお目付け役につける気でいる。
んで、新しく来る子供達も相性が良ければ、精霊の加護は頼んではみるつもりだ。
だから、防御面では、精霊任せになるが、暫くはそうしていくしかないなぁ。
いやまあ、シェライラには、大精霊がいるからといって、領地の守護を任せっきりにしてはならないのは忠告されてはいる。
伯爵にもなったからには、それなりに領地を開発して、領民を増やして、人材を雇用して、運営していかないと、王領地を賜った責任を果たす義務が生じた訳である。
現在は、私の所有する装飾品目当ての、甘い汁を吸おうとする輩ばかりなので、為人の見極めを誤ったら、損害が出る羽目に陥る。
一年は、領民を受け入れる気はないかな。
商業ギルド長さんも、冒険者ギルドのお姉様も、領地への支店参入は時期を見計らっていそうだしね。
将来的には、冒険者ギルドに突きつけた、農園を避難所代わりにするなは、撤回しても構わないとは思ってはいる。
が、最初に会った冒険者ギルド長があれだったので、信用は最低値だけどさ。
「では、ぼくの契約は終わりました。空気に徹しますので、ミーアさんどうぞ」
色々思案していたら、ヒューズ君側の契約関連は終わったようだ。
商業ギルド長さんも目付きを変えて、私を見ていた。
「あー。では、先ず、こっちが、農園の申請書類です」
「はい、拝見させていただきます。おお、かなり広い農園ですな。しかし、農園と牧場を兼ねますと、人手不足ではありませんか?」
「そこは、マルローネさんの養護院の子供達と卒院した成人組を受け入れてくださってます。又、まだ提案前ですが、引退した冒険者の中には職にあぶれた者がおります。こちらで、人格に問題が無ければ、推薦しようかと思ってはおります」
ギルド長さんの疑問に、お姉様が答えた。
やはり、冒険者ギルドも防犯面を考慮して、人員を派遣する案があったか。
「おや、貴女が肩入れするのは珍しいですなぁ」
「あら、やだ。兄弟子様も、あの方に指示された癖に」
何ですと?
お姉様の兄弟子とは、まさか人外さん関係の人ですか?
何だか、私の回りに着実に人外さんの息のかかった人がいるんですけど。
「私が言われましたのは、ミーア様を食い物にする輩の排除ですよ。あの方の指摘通りに、ミーア様は極上の餌をばらまいてしまいましたから。王都の商業ギルド支部は、貴族の手に入れろ命令で、数日閉鎖した程です」
「さもありなん、でしょうね。貴族の一部は商業ギルドに、無理難題吹っ掛けても手に入れてくると勘違いしているお馬鹿さんがいるでしょうしね」
「本当ですよ。何故、王都の商業ギルドが支部であるのか、理解してない貴族ばかりで相手にするのが面倒だと、王都のギルド長が愚痴を言ってました」
ギルド長さんとお姉様の話しに、ついていけません。
王都の商業ギルドが支部って事は、本部は別の場所にあるっていうのか?
疑問符だらけなのが顔に出ていてのか、ヒューズ君がこそっと教えてくれた。
「商業ギルドの本部は、商売と職人の神が顕現して、この地に自治区を構えろと神託を出されたガストーネ自治区にあります。別名商人の街と言われてます。そこは、十一人の代表者による評議会が自治区の運営をしています。神の加護厚き街なので、他国が利益を求めて侵略しても、神罰によって他国が負けるということが続いた為、現在はどの国も手を出さないのが暗黙の決まりになってます」
「本当は、大精霊様にあやかって十三人の代表者を選出しようとしたそうですが。生憎と、神託を出された神によって許可されず、神聖国も自治区と承認しないと反発がありまして、十一人になりました」
「ミーア様。この人、こんな場所で商業ギルド長してますけど。その十一人の一人です。商売関連でお困りの際には、遠慮なく頼ってくださいね」
おい。
人外さん。
私の周囲にどれだけの弟子を、根回し的に配置してるんですか。
ちょいと、お話しませんか。
今晩、夢でもいいから、呼んでくださいな。
逃げは、許さないからね。




