346 ドジをやらかしました
怪我の描写がありますので、ご注意くださいませ。
あ〜、ひま。
まったりする意思はないのに、ひま。
本来なら、シェライラの領地のライザスの街の収穫祭に、こっそりお邪魔しようとしていたのに、外出禁止をくらった。
現在、お子様ズの厳重なる監視の視線の圧による、寝返りも許さないとばかりに私はベッドで寝かせられている。
追記で、フィディルとレオンはファティマに監視を任せ、私に近寄らせないようにされている。
まあ、うん。
原因は、身も蓋も無く、間が悪かっただけなのだけどなぁ。
人外さんお呼び出しの夢空間から解放された翌日、ロイド君とエメリーちゃんに相談事をされた。
「あの、このお金でララとリリに腕輪を造って貰えますか?」
「あのね、あのね。
もうじき、ララとリリがおうちに来た日の、おいわいの日になるの」
「前に付けていた首輪のかわりがいいかなって、話してみたけど」
「くびわは、いやみたいなの。
だから、前にミーアお姉ちゃんがくれたうでわと、おそろいならうれしいかなって」
代わる代わる話しかけてくる兄妹の内密の相談は、聴覚が優れている家族の猫妖精達にも聞こえているのだけども。
兄妹の背後で気配を潜めているナイルさんとララとリリが、沈黙を意味する口に指をあてている姿が微笑ましくて、釣られてほっこり笑顔になる私がいた。
で、確かにララとリリに嵌められていた首輪は曰く付きな呪いのアイテムであったのを、ロイド君とエメリーちゃんは知らないままでいた。
グレイスとファティマに協力して貰い、呪いの首輪は私が解呪して廃棄処分した。
ララとリリにとったら、自身だけでなく保護してくれたマーベル一家を巻き添えにして死に至らしめる首輪から解放されたのを、何よりも喜んだ。
「「これで、もうロイドやエメリーを犠牲にしなくてよくにゃったのが、凄く嬉しいにゃ。
本当にありがとう、にゃ」」
自身が解放された事より、兄妹を犠牲にしない事の方がララとリリには重要事項だった。
しかし、事情を知らないエメリーちゃんはララとリリの体毛に隠されていた首輪がない事を、気にはしていた様子でしきりにリボンを首輪の代わりに結んであげていた。
ただ、ララとリリは純粋なエメリーちゃんの行動に拒否はできなくて、リボンを結ばれる時に身体が硬直する癖がついてしまっていた。
事情を知っているナイルさんと、元祖母の守護者でもあった現エメリーちゃんの守護者のナナリーが、それとなくやんわりと首に何かを結ばれるのは嫌なのかもしれないねと、代わりに腕にリボンを結んであげようねと、エメリーちゃんを諭していた。
聡いエメリーちゃんは、すぐにうちのランカ領地に移住してくれた獣人種族の皆さんに、首輪の是非をロイド君と二人で聞き回った。
結果、猫科の獣人種族もだけど首輪は、奴隷時代を連想させられるから拒否反応が出るとの事情を把握した。
首輪=奴隷が繋がらない情報だったので、居候の女史夫妻にも聞きに行った。
何て、アグレッシブな兄妹であろうか。
女史夫妻も兄妹がアルバレア侯爵家の血筋だと分かっていたから、貴族的な常識の範囲内で理解できそうな部分を教えたと父親のナイルさんと私に申告してきた。
アンナマリーナさんも、歴史の学習で人間種族が獣人種族を奴隷扱いして、労働力を搾取していたのを学ぶ時期に入っていたから機会が早まっただけだと事前に女史に根回していたそうだ。
けどね。
かくいう、ロイド君とエメリーちゃんも農民奴隷階級にいたんだよ。
農民と農民奴隷との違いは、土地の所有権と農作物の販売権が有るか無いかで区別されている。
私に保護される以前のナイルさん一家には土地の所有権は無いが、農作物の販売権は有りだった。
けれども、元々開拓失敗した荒れ地では、まともな農作物は育てられないと判明している時点で、一家には収入源が断たれているも同然である。
では、これまでどうやって生活できていたかと思いきや、年に一度開拓地域の農民及び農民奴隷に女王陛下からの恩賜として一人につき規定の金銭が渡されていたから、ぎりぎりの生活をおくれていた。
あと、ナイルさんの奥さんは王配であったエンブリオ公爵さんの孫娘であり、隠し財産を所有していたのもあって農民奴隷としてはそこそこの生活水準を維持できていた。
が、前ライザス領主と詐称荒れ地の代官を名乗っていた輩達に気付かれ、呆気なく財産を狙われた。
ああ、自称村長とかもいたな。
そういや、移送されていった土地で農民奴隷として開拓成功したら、奴隷から解放される刑罰に処されたと聞いた。
話しを戻そう。
獣人種族さん達に首輪について知識を仕入れた兄妹は、なら腕輪なら自分達とお揃いになるし、拒否されないだろうと考えついた。
そうして、ララとリリはキラキラした石が好きだからとのエメリーちゃんの希望で、宝石は兄妹が選んで購入し、私に製作依頼を願った訳となる。
ララとリリの妖精族由来の魔法で隠していた秘密の小箱には、マーベル一家が子爵家時代の私財が眠っているのだけど、ロイド君とエメリーちゃんは先祖の私財に頼らず自分達が稼いだお金で贈り物をしたいと、休養日にライザスの街に行ったり、ランカ領地の唯一ある雑貨店にも足を運んだ。
でも、なかなか希望する宝石が見つけられないでいた。
はい。
ロイド君とエメリーちゃんが身に付けている腕輪は、アンナマリーナさんに付与しまくりで叱られた私謹製の腕輪でございます。
つや消しの銅製に見える様に細工したミスリル製でございます。
キラキラと小さな宝石が嵌め込んであります。
ロンバルディア国騒動が落ち着いたら、付与のランクを落とした腕輪と取り替えようと思っていました。
忘れてました。
マジ、忘れてました。
ごめんなさい。
基本的に、希少種族な猫妖精のララとリリは好事家に狙われている為、農園外に滅多に外出したりしない。
内緒の贈り物に拘る兄妹は、屋敷内で腕輪の相談事をしていてサプライズ相手に聞かれちゃっていたのには気付いてない。
休養日にナイルさんとナナリーを連れて外出する理由を、ララとリリに聞かれない事にも気付いていない。
迂闊な女史の旦那さんが指摘しようとして養子のヒューズ君に爪先を踏まれたり、女史に肘鉄見舞われて黙殺されたりと周囲の大人達にも微笑ましく見守られていたりする。
そんな日々を過ごしていた兄妹は、なかなか希望するキラキラの宝石が見つからず気落ちしていた本日、漸く希望していた宝石を入手できて喜びが爆発したんだね。
運良く、雑貨店がランカ領地の商業ギルドに仲介を依頼して、雑貨店の店主と商業ギルドへ行き、宝石を購入できた帰り道で、鍛冶師の親方さんと世間話をしていた私に遭遇した。
実は私も、兄妹の宝石探しが気になって商業ギルドに口入れした一人にカウントされる。
兄妹が商業ギルドに行くと聞いて、領主自ら鍛冶屋に直接農耕器具の修理と依頼をするなと注意されると分かって、破損した農耕器具を持ち込みました。
やはり、言われた文句を聞き流しながら、この辺が欠けてと刃の部分を指差ししていた私も悪かった。
ロイド君とエメリーちゃんが嬉々として私の元に駆けてくるのを、私に付いてきたお子様ズから話されて注意が疎かになっていたのも悪かった。
「ミーアお姉ちゃーん。
宝石が見つ……」
「マスター、外出中申し訳あり……」
「マスター、フィル兄とも相談した……」
「エメリー、前をちゃんと見ないと……」
はじける笑顔で駆けてくるエメリーちゃんと、突然に顕現したフィディルとレオンが、ロイド君の注意虚しく軽くぶつかった。
そうたいして衝撃は無かったのだけども、エメリーちゃんが後ろに転倒しかけてつい私も動いてしまった。
「エメリーちゃん!?」
「あっ、済まない」
「大丈夫か?」
「うん。
お兄ちゃん達、ごめんなさい。
エメ、周りをみてなかったです」
「いや、これは自分達も確認しないで現れてしまったせいだからね」
「俺も確認しなかったから、悪いのはお互い様かな?」
エメリーちゃんの転倒は、素早くフィディルが支えて回避できた。
守護者はマスターの側に顕現や転移が可能であるも、こういう状況に陥りやすい。
なので、隠形からの顕現に慣れると、転移の場合の周囲確認の見落としがちに繋がった。
お互いの不備に謝罪し合う中で、エスカが叫んだのにびっくりした。
「ぎゃあああ。
マスター、マスターがぁ。
フィル兄とレオ兄の、バカぁ〜」
「? エスカ、どうしたの?」
「マスター、どうしたのじゃない〜。
指、指がぁ〜」
「「「!! マスター!!」」」
「……マスター、大変。
えっと、こういう時は、冷やすのが大事!!」
「おい、領主様!
あんた、指がざっくり切れてやがるよ!」
エスカに限らず、フィディルとレオンとユリスが大声を出し、セレナが私の左手を氷で包む。
最後に鍛冶師の親方さんにも叫ばれ、氷漬けになった左手を見ると、あら不思議。
左手の人差し指が指先から半ば辺りまでざっくり切れていた。
結構派手に出血していたのか袖口まで紅く染まっていたし、鍛冶屋の軒先の地面には血溜まりが……。
「セレナ、違う。
エスカ、ポーションを出すんだ」
「ポ、ポーション?
何処から?」
「預かっているバッグからだ」
「あっ、そうだ。
バッグにポーション入っているんだった」
エスカに預け放しのショルダーバッグからポーションをと指示を出すフィディルですが、私自前で回復魔法掛けられるのですけどねぇ。
出血騒動で珍しくフィディルも慌てていたりして、切った痛みの感覚が無い私がいる。
半泣きでエスカがバッグからポーションを取り出し、氷漬けを解除するのに手間取るセレナも混乱していた。
エスカかフィディルか判明しないけど、セレナが解除できない様子に混乱に拍車がかかって最終的にファティマが呼び出され、冷静にセレナの魔法を解除して治癒魔法を私に掛けてくれた。
しかし、一堂一安心した矢先に、私が出血でふらついたもんだから、一大事になってしまい、自室で安静状態を余儀なくされているってのが現状ですわ。
ふらついた瞬間フィディルに自室に転移させられたので、鍛冶屋さんの出血掃除がどうなったのか分かりません。
寝間着は固辞したので楽な部屋着に着替えさせられている間に、状況を把握したファティマがフィディルとレオンへのお小言会が始まったそうです。
ロイド君とエメリーちゃんは、守護者のナナリーが責任持って屋敷に連れ帰ってくれた報告はあった。
どうやら、ナイルさんにお叱り受けている模様です。
あ〜あ。
間が悪かったというか、運が悪かったのかドジをやらかしました。
ご迷惑お掛けします親方さん、ごめんなさい。
外出禁止が解けたら、真っ先に謝罪に行かせていただきます。




