始まりの終わり
ここは白い部屋。
病院の一室で少女はため息をつく。
「ねぇ、私は死んじゃうの?」
少女は壁に向かってつぶやく。答える人はいない。
「何もできない人生だったな」
少女はどこか残念そう。病院以外の景色を知らない少女。
「もし、好きなことができたら何をしたのかな」
一転。楽しそうな笑みを浮かべる。想像する。
「普通に学校に行って、普通に友達と遊んで、普通にご飯を食べて、普通に恋愛をして、普通に結婚して、普通に子供が産まれて、普通の人生を歩めればよかったなぁ」
でも現実を思い出し、笑顔が消える。
「悲劇のヒロインなんていらなかった。ただ普通が欲しかったの」
少女の頬に涙が伝う。ぽたぽたと、真っ白いシーツに涙が落ちていく。
「あぁ、来世では幸せになれるかな。今は流行の異世界転生とか起きないかしら。できたら健康な体がいいなぁ」
ちょっとおどけるように。ベットの上にある本を見る。
「あと何日生きられるのかな」
沈黙。
「……ねぇ、キミは生きたいの?」
少女以外に誰もいない部屋に少女以外の声が響く。ベッドのそばに飾ってあったウサギのぬいぐるみがしゃべりだす。
「……あたりまえよ。私はまだぜんぜん生きていないの。生きてるけど活きてないの」
少し驚いた少女。でもすぐに平常心を取り戻し答える。
「いいねキミ。僕らは面白い物語を求めているんだ。キミがその手伝いをしてくれるなら、その体、直せるかもね。でもこの世のしがらみは消えちゃうよ。でももし、僕らの主が満足できたら開放してあげる。どう?」
ウサギのぬいぐるみは立ち上がりターンして、おちゃらけながら提案する。
「主が求めるのは、世界一面白い物語。キミにはそれを探してもらいたいんだ。ねぇ、どうだい?」
◆ ◆ ◆
少女は昔のことを思い出していた。
「いつまでたっても、主は満足してくれない」
少女は公園のベンチに腰を下ろし、頬杖をつきながら考える。
「どうしたら満足して貰えるのかな。主にもらった力を使えばたいていのことはできるけど、そうじゃない。既にある小説では満足してもらえない。書かなきゃいけないけど、書けないよ」
どうしたら面白いのだろう。少女は始め、健康な体を取り戻してはしゃいでいたが、制限のある自由はそれを謳歌できなくなっていた。
最初はすぐに満足できる物語を持っていける。そう思って色々な物語を書いたけど、全部ダメだった。
ため息をつく、少女の視界に快活そうな女の子の姿が映る。その姿を見て、何かいいアイデアが下りてきたかのように。
「そうだわ! リアルじゃないから駄目なのよ。私の力であの子の頭の中を映し出し、それを物語にすればいいわ」
そう、始まりはアリス。
いつだって始まりはAから。
不思議の国へようこそ。




