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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
エピローグ

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30/30

始まりの終わり

 ここは白い部屋。


 病院の一室で少女はため息をつく。


「ねぇ、私は死んじゃうの?」


 少女は壁に向かってつぶやく。答える人はいない。


「何もできない人生だったな」


 少女はどこか残念そう。病院以外の景色を知らない少女。


「もし、好きなことができたら何をしたのかな」


 一転。楽しそうな笑みを浮かべる。想像する。


「普通に学校に行って、普通に友達と遊んで、普通にご飯を食べて、普通に恋愛をして、普通に結婚して、普通に子供が産まれて、普通の人生を歩めればよかったなぁ」


 でも現実を思い出し、笑顔が消える。


「悲劇のヒロインなんていらなかった。ただ普通が欲しかったの」


 少女の頬に涙が伝う。ぽたぽたと、真っ白いシーツに涙が落ちていく。


「あぁ、来世では幸せになれるかな。今は流行の異世界転生とか起きないかしら。できたら健康な体がいいなぁ」


 ちょっとおどけるように。ベットの上にある本を見る。


「あと何日生きられるのかな」


 沈黙。


「……ねぇ、キミは生きたいの?」


 少女以外に誰もいない部屋に少女以外の声が響く。ベッドのそばに飾ってあったウサギのぬいぐるみがしゃべりだす。


「……あたりまえよ。私はまだぜんぜん生きていないの。生きてるけど活きてないの」


 少し驚いた少女。でもすぐに平常心を取り戻し答える。


「いいねキミ。僕らは面白い物語を求めているんだ。キミがその手伝いをしてくれるなら、その体、直せるかもね。でもこの世のしがらみは消えちゃうよ。でももし、僕らの主が満足できたら開放してあげる。どう?」


 ウサギのぬいぐるみは立ち上がりターンして、おちゃらけながら提案する。


「主が求めるのは、世界一面白い物語。キミにはそれを探してもらいたいんだ。ねぇ、どうだい?」



◆ ◆ ◆



 少女は昔のことを思い出していた。


「いつまでたっても、主は満足してくれない」


 少女は公園のベンチに腰を下ろし、頬杖をつきながら考える。


「どうしたら満足して貰えるのかな。主にもらった力を使えばたいていのことはできるけど、そうじゃない。既にある小説では満足してもらえない。書かなきゃいけないけど、書けないよ」


 どうしたら面白いのだろう。少女は始め、健康な体を取り戻してはしゃいでいたが、制限のある自由はそれを謳歌できなくなっていた。


 最初はすぐに満足できる物語を持っていける。そう思って色々な物語を書いたけど、全部ダメだった。


 ため息をつく、少女の視界に快活そうな女の子の姿が映る。その姿を見て、何かいいアイデアが下りてきたかのように。


「そうだわ! リアルじゃないから駄目なのよ。私の力であの子の頭の中を映し出し、それを物語にすればいいわ」


 そう、始まりはアリス。


 いつだって始まりはAから。


 不思議の国へようこそ。

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― 新着の感想 ―
 お邪魔していました。  ちょっと時間がかかり過ぎちゃったけど、最後まで楽しく読まさせていただきました。最後は、少しびっくり! うっわ、深い! いろいろ考えることができました。アリスが出くわす物語は、…
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