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櫻は思わず目を見開いていた。あまりに衝撃だった。「人違いしていないはずだけれど、」という言葉で言い始めた少年が、次の瞬間に袴田のことを言ってきたのだ。袴田のした全てを、袴田の兄から聞いた、とまで言われたのだ。
さらには、少年が明後日の方を見ながら、殺人未遂犯の櫻が袴田を貶めたとまで言ってくる。
……どこまで尾行していたんだ、と櫻は不気味な恐怖に駆られた。背筋に悪寒が走って内側にまでゾ、とする寒さが浸透してくる。冷汗が首を伝うのを感じた。――それ以上に頭にきた。
「何で、そんな風に解釈されんだっ。僕は袴田のせいで人殺しにされそうになったんだぞ!!」
「そう、その通りのことを聞いたよ」――予想外の返しだった。櫻は言葉を喉に詰まらせた。
「っ、……な、――じ、じゃあなんでそんな風に言うんだ!!」
「記憶テストだよー念のためにさ」と少年が言い捨ててきた。
完全に舐められている。舐めてきやがる。初対面のくせにっ。
「もう解決したことなんだっ。ほじくり返してんだぞっ! 遊び半分もいい加減にしろよ!!」
「真っ向から真剣だよ。そもそも遊んでたのはそっちだろ?」
「なっ、……に?」櫻は目を見開いた。
まさか、袴田のせいで、辛かった一瞬一瞬、その全てを遊んでいたとでも言いたいのか?
「いや遊んでたんだろーが。そこまで蒸し返してやらなきゃ、俺の話が進まないんだ」
ふざけんなよッ! と櫻は唇の裏側で、歯を砕きそうなほど食いしばった。
「……遊んでたんじゃないっ。軽々しいんだよっ! どんだけ辛かったと思ってんだっ!!」
「解るからこそ、遊ばなければ堪らなくなったんじゃないかよ」――櫻はハッとして、眉根を絞るように寄せた。完全に頭にきた。まさに古傷をえぐられた。同情されたかのようにっ!
また口を開けた少年の憎たらしい顔面を、潰しにかかる勢いで睨みつけても気が済まない。
「脳は正直だが、意識は暗示で騙せるよ。ただ、正直な脳の遊びたい願いは叶えられたんだ」
「再現化された本心の紹介文かよっ。必要ないッ! もう十分知ってんだよ!!」
そしてさらに苛立つ。また古傷をえぐられたのだ。――友達に裏切られる前に、その友達と夢中になって、ルニ・オーソナーのやり方についてを調べ回った時が、思い出されたのだ。
そのせいでルニ・オーソナーのことも思い出されてしまった。――夢によるタイムマシンを手がかりにして手に入れたと言われている空間創造の技術によって、外側と内側の人生として再現化されて、しかも入退空間移動できる空間が、ルニ・オーソナーだということを。
さらに、そこでは望んだ瞬間にその通りになるし、望む前から望み通りになる時もある。
内側の人生の時と同じような感じだ。クローズマイアイズでは、あの時を思い出したい、と願いながら眠りにつくと、夢の中で再体験できる。睡眠中に行われる記憶の整理に紛れて記憶を読み込ながら、夢の中で思い出を再体験させてくれる。記憶の整理のため必ず見るが、混乱を回避するために忘れられる夢を、目が覚めても鮮明に覚えていられる夢に変えてくれる。




