第29話 決着ゥゥーーーッ!!
「いくわよ、大竜巻――!!」
「うおおおおっ、食らえ、メイルストロム・ブリザード・ブレイク――!!!」
ぎゃりぎゃりぎゃり、どっかあああああん! シャルが生みだした風の渦にのって、高速回転しながらの突撃!
水の魔力で強化された螺旋剣メイルストロムが、敵――サテュロスのリンケの、ガードを突きやぶり……彼女のわき腹に、大穴をあけた。
倒れこむサテュロスと、すでに大の字に横たわっている、パートナーのアルケミスト……これで、勝負ありだ。
『決着! 決着ウウウウ――ッ!! 優勝は、ハーピーペア!! 観客、総立ち!! 最後の最後まで、息ピッタリな戦いぶりを見せてくれました!! 人類復興と、モンスターとの共存の象徴として開催されました、比翼連理杯!! 大盛況ッ! 大盛況のうち、これにて閉幕でございまああああ――っす!!』
『うおおおおお――っ!!』
アナウンサーのバンシーが、勝ち名乗りをあげる。俺とシャルは、抱きあって健闘をたたえ合い――頬に、口づけをすると――つないだ手を高くかかげながら、ゆっくりとゲートから退場していった。
手をつないだまま、いつもの東ゲートの通路をすすむ。その行く手にあらわれる、人影ひとつ。もちろん……腕組みをした、マレーネ女王だ。
彼女は、じっと俺たちを、見つめ……
「素晴らしい試合、でしたわ。ニュートさん、よくやりましたわね……シャルさんも、ご苦労さまでした」
言葉とはうらはらに、真顔の女王。その瞳が、「分かっていますわよね?」と、言っている。
ちらりと俺の顔を、見たシャルは……つながっていた手をほどき、ゆっくりと歩きだした。無防備な彼女の背中が、数メートル先をゆく。
俺は左腰から、音をたてないよう気をつけて、螺旋剣メイルストロムを抜きはなち……柄を、握りしめ……
あふれる、涙と嗚咽。ああ、できない。首を、横に振る。
「ニュート、なにをやっているのです。彼女を放置すれば、わが国に災いが起こること、間違いありませんわ。それに、ご両親にどう顔向けするのですか。せっかく、魔族への憎しみが人一倍深いあなたを、代表闘士として選びましたのに……」
「……」
「さっさと、殺しなさいッ! 殺せェ――!」
女王の気迫におされるように、意に反してカラダがうごき出す。
「い、いやだ、いやだ、シャル、う、うああ、うあああああ――!!」
メイルストロムを腰だめに構え、突進。彼女にぶつかる、最後の刹那……シャルが振りかえり、さみしそうに笑った。
こと切れた彼女を見おろし、呆然とつっ立っている俺。手から螺旋剣が落ちて、がらんと音をたてた。
「成しとげましたわね、ニュートさん。これでわが国も、とうぶん安泰ですわ。あなた、ついにお父さまを超えましたのよ。勇者にだいじなのは、聖剣でも雷魔術でもありませんわ。人類の守護者であろうとする、その意志ですの……」
寄りそって俺の背中をさすりながら、賞賛のことばをかけてくれるマレーネ女王。彼女のまなざしは、いつものように優しかった。
「シャルさんには、少しかわいそうなことを、しましたが……しょせん、この世界の異物です。ニュートさんには、もっと素晴らしい縁談を――」
――まわりに、たくさんの人の気配を、感じる。
「これで私たちの世界は、完全に正常に戻りましたね。エスローも、浮かばれるというものです。本当に、お疲れさまでした」
「ふぅーむ、ヴァンパイア……だったとはの。それにしても、惚れさせてから、反撃を許さず斃すとは……おぬし、なかなかの策士じゃわい」
槍兵ライオネルと、サムライのサジ。
「つまらぬ色仕掛けに惑わされず、みずからに与えられた使命を、全うする……真の、勇者でござるな」
「デュフフ……このコウモリといっしょに魔界に行っても、また終わらない戦いに巻きこまれるのは、確定的に明らか……キッチリ片付けとく以外、ありえないですぞ」
ニンジャのニシキと、ネクロマンサーのネザリウス。
「ニューちゃん、最後まで男前なんだからァ~。このコも、愛する人の手にかかって、まんざらでもなかったんじゃないのォ~?」
「ボク、ニュートさんの偉業を、一生語りつづけますね! 人類に、誇りあれ! モンスターに、栄えあれ!」
弓兵ボドカーマに、アルケミストのアレン。
全員が、満面の笑みで拍手している。
ああ、そうか。これは……
◇◆◇◆◇
がばっと身をおこして、あたりを見まわす。自室の、ベッドの上。窓の外は……まだ、暗かった。汗でぐっしょりと濡れた寝間着を、着替え……水差しをとって、ごくごくと飲みほす。
ベッドに座って、いまの夢を、思いだして……
――だめだ、だめだ、だめだ。これは、無理だ。
どうやら俺の自覚よりもはるか前に、ヴァンパイアへの好感度が、“ぜったいぶっ殺せないゾーン”まで達していたようだ。自分への評価が、甘すぎた……
しばし考えをめぐらせたあと、部屋を出て、向かう。
どこへ? 言わなくても、お分かりだろう……
◇◆◇◆◇
「なによ、こんな、夜更けに……まあ、いいわ。どうぞ、入って」
寝ぼけまなこの、シャル。服はヴァンパイアの伝統衣装、裸マント……ではなく、普通のパジャマだった。ちょっと黄ばんできたハーピーウィングが、背中のスリットから飛びだしている。
ヴァンパイアに許可をもらって招き入れてもらうとは、伝承と逆だなぁ……と思いつつ、部屋に入る。ソファーに、腰をおろし……ん?
「ふふ。ちょうどここ、あいてるわよ」
いたずらっぽい笑みをうかべ、棺をポンポン。
……今から、大事な話をしないといけない。少しでも盗み聞きの可能性を減らすのは、勇者として当然のリスク・マネージメントだろう。
俺はコクンとうなずき、彼女といっしょに、棺におさまった。……ちょっと、せまい……
「あのさ。ヴァンパイアは、みんな棺で寝るのか? 言い伝えでは、そうなってるけど……」
まずは、無難な(?)話題から入る。部屋のあかりがうっすらと、入ってきて……彼女の顔が、目のまえに大うつし。腕がくるしいので、どーしても、抱きあうような姿勢になってしまった。
「はぁ……そんなわけ、ないじゃない。女王さまがノリノリで用意してくれたから、しょうがなく使ってるだけよ。フツーに、ベッドで寝るわ」
「そ、そうか……」
しばしの沈黙。棺のなかは、バラと……ほんのり鉄の、においがした。
「アンタ、そんなことを聞きにきたんじゃないでしょ? ホラ、言ってみなさいよ」
とうぜん、お見通しのようだ。
「う、うん……えっと、優勝したあと、なんだけど……魔界にもどるのは、諦めてくれないか? いやもちろん、無茶なお願いというのは、分かってるんだが……」
「アラ、どーいう風の吹きまわしかしら。ははーん、さては……優勝したあとに私を殺す自信が、なくなっちゃった……とか?」
「うぐっ……」
あーあ、バレてた。血といっしょに記憶や考えが混ざるんだから、当然か。
「いいか、シャル。女王はぜったいに、キミが魔界ゲートをつかうのを、承知しないだろう。いっしょに戦ってきて、しかも自分がたすけた命を、奪いたく、ないんだ……」
彼女は、笑みを崩さずに――
「ビビってんの? 両親の仇とか言っときながら、情けないわね……勇者の息子が、聞いてあきれるわ」
どっかで聞いたようなセリフを、言った。
「ああ、ビビってるし、情けないんだ。シャルにこの世界で、少しでも幸せになってほしい。俺を助けると思って、ごめん、頼む……!」
彼女を、抱きしめる。だが、こんなショボい説得で、納得してくれるような相手では――
「いいわよ」
「へっ……?」
「構わないって、言ってんのよ。でもね、ひとつ条件があるわ」
「……」
「このセカイに、いるでしょ? もうひとりの……ヴァンパイア。そいつがパートナーになってくれるなら、いいわ。あっ、パートナーって、試合のアレじゃないわよ。ひとりで生きていくのは、寂しいじゃない」
「うっ、ううっ、シャル、ありがとう……!」
俺の目から、あふれる涙。これは、夢じゃない。抱きしめた腕に、力をこめた。
「……ちょっと、痛いじゃない。じゃあ、きょうはこのまま寝ましょ。明日からまた、作戦会議ね」
「ああ、そうだな。棺で寝るってのも、なんか……落ちつくな」
「……バカね」
……
……
「アンタ、私の記憶、のぞいてるんでしょ。こんな汚い、カラダ、でも……」
「知らなかったのか? この世界の人間は、そっちの方が興奮するのだ」
「……バカ」
……
……
「あと、私の母方の3世代前に、サキュバス族がいるの。だからこんなに、翼が大きく……」
「最高じゃないか。もっと早く言えよ」
「……スケベ」
……
……
「ちょっと、何回やんのよ。おっ立てるのは、フラグだけにしときなさいよね」
こうして、夜は更けていった……
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