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王を譲ったので、正体を隠して国を旅します!  作者:


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7/7

偽りの王女

「そろそろ次の村に着くはずじゃ」


山道を歩きながら、イデアールが呟く。


「やはり山道は疲れるのぅ」


「まあ、いいじゃないか。たまにはこういう道も」


ティヒカイトが笑う。


「しかし、この辺りまで道は整備しなかったのか?」


「この辺りは確か……小さな村しかなかったからのぅ。街道整備も後回しになってしまったな」


「なるほどな」


「おっ! 見えて来たぞ!」


山道の先に、小さな村が見えてきた。



「こじんまりしてるが、村人の顔色も悪くねぇな」


「じゃなぁ」


畑もあり、店もいくつか並んでいる。


「しかし、宿場なんてあるのか?」


「どうじゃろうな?」


その時だった。


ざわざわざわ……


「ん?」


ティヒカイトが足を止める。


「何だ?」


「どうしたんじゃ?」


村の中心から、人の怒鳴り声が聞こえてくる。


「貴様! この金利は違法だぞ!」


「はっ! こんな小さな村まで法律は届かねぇ!」


人垣の中を見ると、商人らしき男と、一人の少女が言い争っていた。


「貸した時にも話しているはずだ! 払えねぇなら土地でも家でも売って返してもらうぞ!」


「ふざけるな!」


少女が怒鳴る。


「この金利は明らかに違法だ!」


「小娘が法律を語るんじゃねぇ!」


「何だ、あの娘は?」


「どうやら高利貸しの取り立てを止めているようじゃ」


少女は一歩も引かない。


「貴様のやっていることを私は見過ごせない!」


「なら、どうする?」


男が少女を睨みつける。


「お前に何ができる!」


少女は懐から何かを取り出した。


「これを見ろ!」


王家の紋章。


「な!?」


男の顔色が変わる。

少女は堂々と言い放つ。


「私は第一王女である!」


「第一王女だと!?」


「ここの警備兵!」


「はっ!」


「こ奴らを縛り上げろ!」


「承知しました!」


警備兵が高利貸しとその取り巻きを取り押さえる。


「な、何だこりゃ……」


ティヒカイトが呆然とする。


「おい、ジジイ!」


「何じゃ?」


「第一王女って何だ!」


ティヒカイトがイデアールの肩を掴む。


「苦しい……ティヒカイト、首を絞めるな!」


「歳の頃は十六前後か?」


「そうじゃな」


「十六年前を思い出せ!」


「……」


イデアールは考え込む。


「心当たりがあるような、ないような……」


「おい」


シュングがじっとイデアールを見る。

その目は、まるでゴミを見るような目だった。


「シュングよ。そんな目でわしを見るな」


「では、魔法を向ける必要はありませんね?」


「何故わしに魔法を向けておる!?」


「念のためです」


「念のためって何じゃ!」


「まあ、さておいて……」


イデアールは少女へ視線を向ける。


「王女殿下に話を聞いてみるとするか」



「いやいや、王女様がお忍びで旅とはのぅ」


三人は少女と一緒に食事をしていた。


「奢ってもらって悪いな、爺さん!」


少女は遠慮なく料理を口へ運ぶ。


「成長盛りじゃろ。たんと食べなさい」


「うん!」


ティヒカイトが苦笑する。


「随分と遠慮がないな」


「旅先で遠慮していたら腹が減るだろ」


「王女様らしからぬ発言じゃな」


「私は王女じゃない」


少女が突然真顔になった。


「……え?」


三人が顔を見合わせる。


「私は本物の王女じゃない」


少女は料理を見つめながら話し始めた。


「私は、この近くにある小さな村の出身なんだ」


「村の出身?」


「そう。村では昔から生活が苦しくてな。税もそうだが、何より高利貸しが酷かった」


「それで王都へ?」


「そうだ。村の現状を王都へ伝えようと思った」


「なるほど」


「でも、王都へ着いた時には王が息子に代わっていた」


少女は苦笑する。


「新しい王に直接会うことなんて、私にはできなかった」


「それは……そうじゃな」


「母親は、昔から王様と面識があるって言っていた」


「「なっ!?」」


ティヒカイトとシュングが同時にイデアールを見る。


「……何じゃ?」


イデアールは目を逸らす。

少女は続ける。


「まあ、多分嘘だ」


「嘘?」


「私を落ち着かせようとして、母が適当に言ったんだと思う」


「そうか……」


「それで村へ帰る途中、噂を聞いたんだ」


「噂?」


「引退した元王が、国内を旅しているって」


「……」


「しかも、旅先で悪い奴らを退治しているらしい」


少女は拳を握る。


「なら、私たちも偽物でいいから王族を名乗って、悪い奴を懲らしめてやろうと思った」


ティヒカイトが頭を抱える。


「お前なぁ……」


「何だよ」


「王族を偽って名乗るのが、どれだけ危険か分かってるのか?」


少女は頷く。


「分かってる」


「バレれば死刑になる可能性だってあるぞ」


「それでもいい」


少女は真っ直ぐに答えた。


「嘘でも、人を助けることができるなら」


イデアールは黙って少女を見つめていた。


「今日の高利貸しもそうだ」


少女は悔しそうに拳を握る。


「何度も何度も、この村へ来やがった。村の人たちから金を巻き上げて……」


「なるほどのぅ」


イデアールは静かに頷いた。


「それで王女を名乗ったのじゃな」


「そうだ」


「ならば、わしらもお主を助けよう」


「え?」


少女が顔を上げる。


「いいのか?」


「なーに」


イデアールは笑った。


「放浪の旅じゃ。それくらい、お安いことじゃ」


「ありがとう!」


少女は嬉しそうに笑った。



翌朝。

村の入り口から怒鳴り声が聞こえてきた。


「この小娘!」


少女が外へ出る。


「よくも騙しやがったな!」


昨日の高利貸しだった。

その隣には、数人の男と文官らしき人物がいる。


「王都まで行って確認した!」


男が叫ぶ。


「第一王女なんぞ、どこにもいねぇ!」


少女の顔から血の気が引く。


「偽りの王族を名乗った罪は重いぞ!」


「……」


「お前は捕まるんだよ!」


ティヒカイトが前へ出る。


「そうはさせねぇよ」


「何だ、貴様は!」


「旅人だ」


「なら、お前らも同罪だ!」


男が叫ぶ。


「偽りの王族を名乗る者を助けたんだ。お前らも死刑だ!」


「ディフィカルト!」


「おうよ!」


「シュリンク!」


シュリンクも前へ出る。


「助けるぞ!」


「大丈夫か?」


ティヒカイトが少女を見る。


「ああ。どうにか……」


「なら下がってろ」


男たちが一斉に襲い掛かってきた。


「またこの流れかよ!」


ティヒカイトが剣を抜く。


「お前ら、怪我したくなければ帰れ!」


「うるせぇ!」


男が剣を振り下ろす。


ガキン!


ティヒカイトが受け止める。

そのまま剣を弾き飛ばした。


「なっ!?」


別の男が横から襲い掛かる。


「ファイヤーボール!」


シュングの魔法が男の足元を吹き飛ばす。


「うわっ!二人とも、強すぎだろ!」


あっという間に男たちが倒れていく。


「くそっ!」


高利貸しが後ろへ下がる。


「お前ら、一体何者なんだ!」


イデアールが静かに前へ出る。


「もうよいじゃろ」


「何だ爺様!」


「わしらは旅人じゃ」


「だったら関係ねぇ!」


「そうもいかん」


イデアールは静かに懐へ手を入れた。


一本の短剣を取り出す。

柄には王家の紋章が刻まれている。


文官の顔色が変わった。


「ま、まさか……その短剣は……」


イデアールは静かに告げる。


「元ルーエ国王、イデアールである」


その場の空気が凍りついた。


「もちろん、本物じゃ」


文官は震えながら膝をつく。


「建国王陛下……!」


高利貸しも顔面蒼白になった。


「そ、そんな……」


イデアールは少女を見る。


「この娘が王女を名乗ったことについては、わしも責任を持とう」


そして高利貸しへ視線を戻す。


「じゃが、お主の悪質な金利と取り立てについては、別の話じゃ」


「……」


「村人から不当に取り立てた金は全て調べよ」


イデアールは文官へ命じる。


「違法な金利についても調査し、正しい額を算出するのじゃ」


「はっ!」


「そして、この村の者が安心して暮らせるよう、必要な対策を取れ」


「承知いたしました!」


高利貸しはその場で連行されていった。

少女はイデアールを見つめていた。


「本当に……本物だったんだな」


「まあのう」


「じゃあ、私が王女だって言った時……」


「本気で信じておったわけではない」


「……だよな」


少女は苦笑する。


「でも、助けてくれてありがとう」


「礼を言うのはまだ早い」


イデアールは笑う。


「これからも村の者を守るのじゃろう?」


「……うん!」


少女は力強く頷いた。

イデアールたちは、また街道へ向かって歩き始める。

その後ろから、少女の声が響いた。


「爺さん!」


「何じゃ?」


「また会おうな!」


イデアールは振り返り、手を上げる。


「その時まで、王女らしく精進するのじゃぞ」


「私は王女じゃないって!」


三人の笑い声が、山道に響いた。

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