森の恵み
「この辺りは豊かな森じゃな」
イデアールは深呼吸をした。
木々の香りが心地よい。
「空気が美味しい!」
シュングが嬉しそうに辺りを見回す。
「この先に小さな村がある。今日はそこで休むとしよう」
◇
村へ入ると、店先には色とりどりの木の実や山菜、きのこが並んでいた。
「見たことない実がいっぱい!」
シュングが目を輝かせる。
「これは森の恵みじゃな」
イデアールは一袋買い、三人で分ける。
「甘い!」
「美味いな」
ティヒカイトも頷く。
村人たちも皆笑顔で挨拶してくる。
「こんにちは」
「旅の方ですか?」
穏やかな空気が流れていた。
「良い村じゃのう」
◇
宿屋。
夕食には山菜料理や鹿肉の煮込みが並ぶ。
「海も良かったが山もいいな」
ティヒカイトが満足そうに笑う。
その時。
宿の主人が困った顔をする。
「また今年もか……」
「何かあったのか?」
イデアールが尋ねる。
「森の奥に住むエルフの皆さんと少し揉めておりまして」
「揉め事?」
「村では薪を取らないと冬を越せません。でもエルフは森を切るなと言うんです」
イデアールは静かに話を聞く。
「なるほど」
「村も悪くありません。エルフも悪くありません」
宿の主人はため息をついた。
「ただ、お互い譲れないだけなんです」
イデアールは小さく頷く。
「それならば、話を聞いてみる価値はありそうじゃ」
ティヒカイトは苦笑する。
「また事件ですか」
「事件というより、相談じゃな」
シュングは嬉しそうに言う。
「初めてエルフに会えるかもしれません!」
翌朝。
三人は森の奥へ向かうのだった。
◇
三人は深い森へと足を踏み入れた。
見渡す限り、何百年も生きてきたような大木が天高くそびえ立っている。
「ここは……」
イデアールはゆっくりと辺りを見渡した。
「流石はエルフの森じゃな」
シュングは辺りを見回しながら目を輝かせる。
「凄い……。木が空まで届きそう」
ティヒカイトも感心する。
「これだけ立派な森は初めて見た」
イデアールは一本の大木に手を添えた。
「しかし……」
「しかし?」
シュングが首を傾げる。
イデアールは足元を指差した。
「見てみい」
そこには小さな苗木が何本も生えている。
だが、どれも細く弱々しい。
「大木が多すぎる」
「それが何か問題なの?」
「枝葉が空を覆ってしまう」
イデアールは空を見上げる。
木漏れ日はわずかしか差し込んでいない。
「これでは太陽の光が地面まで届かぬ」
「なるほど……」
シュングも空を見上げた。
「苗木は光を受けられず育たん」
ティヒカイトも腕を組む。
「つまり、新しい木が育たない?」
「そうじゃ」
イデアールは静かに頷く。
「やがて老木ばかりとなり、森そのものが衰えてしまう」
「じゃあ、どうすれば?」
「適度に間引くことじゃ」
「大木を切るの?」
「必要な分だけな」
イデアールは一本の木を軽く叩く。
「一本切れば、その周囲に光が差し込み、若木が育つ。森を守るとは、木を一本も切らぬことではない」
「次の世代の森を育てることじゃ」
その瞬間。
「動くな!」
鋭い声が森に響いた。
気付けば、弓を構えた数人のエルフが三人を取り囲んでいた。
「これ以上、一歩も動くな」
ティヒカイトが静かに剣へ手を掛ける。
しかし。
「待て」
イデアールが片手を上げる。
「戦うために来たのではない」
エルフたちは警戒を解かない。
イデアールは穏やかに笑った。
「主たちの長へ伝えてくれ。昔、この森で道に迷った若き戦士が、再び訪ねて来た……とな」
エルフたちは顔を見合わせる。
「若き戦士……?」
「そうじゃ」
イデアールは懐かしそうに森を見上げた。
「随分と昔の話になるがのう」
森に静寂が戻る。
やがて、一人のエルフが静かに口を開いた。
「……長へ伝えてくる」
その姿は、森の奥へと消えていった。




