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王を譲ったので、正体を隠して国を旅します!  作者:


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森の恵み

「この辺りは豊かな森じゃな」


イデアールは深呼吸をした。


木々の香りが心地よい。


「空気が美味しい!」


シュングが嬉しそうに辺りを見回す。


「この先に小さな村がある。今日はそこで休むとしよう」



村へ入ると、店先には色とりどりの木の実や山菜、きのこが並んでいた。


「見たことない実がいっぱい!」


シュングが目を輝かせる。


「これは森の恵みじゃな」


イデアールは一袋買い、三人で分ける。


「甘い!」


「美味いな」


ティヒカイトも頷く。


村人たちも皆笑顔で挨拶してくる。


「こんにちは」


「旅の方ですか?」


穏やかな空気が流れていた。


「良い村じゃのう」



宿屋。


夕食には山菜料理や鹿肉の煮込みが並ぶ。


「海も良かったが山もいいな」


ティヒカイトが満足そうに笑う。


その時。


宿の主人が困った顔をする。


「また今年もか……」


「何かあったのか?」


イデアールが尋ねる。


「森の奥に住むエルフの皆さんと少し揉めておりまして」


「揉め事?」


「村では薪を取らないと冬を越せません。でもエルフは森を切るなと言うんです」


イデアールは静かに話を聞く。


「なるほど」


「村も悪くありません。エルフも悪くありません」


宿の主人はため息をついた。


「ただ、お互い譲れないだけなんです」


イデアールは小さく頷く。


「それならば、話を聞いてみる価値はありそうじゃ」


ティヒカイトは苦笑する。


「また事件ですか」


「事件というより、相談じゃな」


シュングは嬉しそうに言う。


「初めてエルフに会えるかもしれません!」


翌朝。


三人は森の奥へ向かうのだった。



三人は深い森へと足を踏み入れた。


見渡す限り、何百年も生きてきたような大木が天高くそびえ立っている。


「ここは……」


イデアールはゆっくりと辺りを見渡した。


「流石はエルフの森じゃな」


シュングは辺りを見回しながら目を輝かせる。


「凄い……。木が空まで届きそう」


ティヒカイトも感心する。


「これだけ立派な森は初めて見た」


イデアールは一本の大木に手を添えた。


「しかし……」


「しかし?」


シュングが首を傾げる。

イデアールは足元を指差した。


「見てみい」


そこには小さな苗木が何本も生えている。

だが、どれも細く弱々しい。


「大木が多すぎる」


「それが何か問題なの?」


「枝葉が空を覆ってしまう」


イデアールは空を見上げる。

木漏れ日はわずかしか差し込んでいない。


「これでは太陽の光が地面まで届かぬ」


「なるほど……」


シュングも空を見上げた。


「苗木は光を受けられず育たん」


ティヒカイトも腕を組む。


「つまり、新しい木が育たない?」


「そうじゃ」


イデアールは静かに頷く。


「やがて老木ばかりとなり、森そのものが衰えてしまう」


「じゃあ、どうすれば?」


「適度に間引くことじゃ」


「大木を切るの?」


「必要な分だけな」


イデアールは一本の木を軽く叩く。


「一本切れば、その周囲に光が差し込み、若木が育つ。森を守るとは、木を一本も切らぬことではない」


「次の世代の森を育てることじゃ」


その瞬間。


「動くな!」


鋭い声が森に響いた。


気付けば、弓を構えた数人のエルフが三人を取り囲んでいた。


「これ以上、一歩も動くな」


ティヒカイトが静かに剣へ手を掛ける。


しかし。


「待て」


イデアールが片手を上げる。


「戦うために来たのではない」


エルフたちは警戒を解かない。

イデアールは穏やかに笑った。


「主たちの長へ伝えてくれ。昔、この森で道に迷った若き戦士が、再び訪ねて来た……とな」


エルフたちは顔を見合わせる。


「若き戦士……?」


「そうじゃ」


イデアールは懐かしそうに森を見上げた。


「随分と昔の話になるがのう」


森に静寂が戻る。

やがて、一人のエルフが静かに口を開いた。


「……長へ伝えてくる」


その姿は、森の奥へと消えていった。

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