第30話 柚子の花に赤を付ける
卒業旅行は終わった
帰ってきても私は葵と一緒にいる
葵のあの私の知らない顔の秘密を知りたかった
葵には私を見てて欲しい
百合に依存しないで欲しい
身勝手なのはわかってる
わかってるけど
私は葵がいないと
そうだ、私はとっくに
「お風呂、上がったわよ。柚葉」
「あ、ありがとう。葵」
「大丈夫?顔色悪いわよ?」
「大丈夫、それより葵の家って家族の誰もいないの?」
「まぁ、そうね。お父さんは単身赴任だし。母は、結構前にいないから」
言いながら、葵はテレビの近くに立てかけれていた写真立てを私から見えないように回収していた
写真はさっき葵がお風呂に入ってる時に見てしまった。あの写真には葵と40代ぐらいの女性、多分母だろう。それと
百合に似ている女の子が
「ごめんね、聞かないほうが良かったね」
「別に大丈夫よ。もうけっこう昔の話だわ」
「でもごめんね、お風呂入ってくる」
逃げるようにして私は脱衣所に歩いていく
なんで聞いてしまったのだろう
葵が傷つくことなんてすぐにわかっていたのに
私は、なんで、葵を傷つけることしか、できないのだろう
葵にはずっと笑ってて欲しい
でも、百合ばっか見て欲しくない
なんで百合ばっかり見るの?
私より可哀想だから?
私も前みたいに、可哀想になれば、葵は見てくれるのかな?
「柚葉?タオル切れてるはずだから持ってきたけーー」
葵が脱衣所の扉を開く
「どうしたのよ」
「なん、でもない」
「はぁ」
葵はため息をたててそれからパジャマのボタンに手をかける
「早く入りなさいよ、ほら、私も入ってあげるから」
「でも、葵入ったじゃん」
「いいの、入りましょ」
目が熱い、痛い。もう、私はどうしたらいいの
ーーー
「ねぇ、葵」
「なに?」
葵の上に座ってというか、座らさせられてるせいで葵の顔が見えない
「妹さん、の話聞きたい」
それが、葵を傷つけるのは分かってる。それでも、
それでもどうしても聞きたかった
「写真みたのね」
「うん」
答えて怒られるかもしれないと、思っていたら葵は私を後ろから頭を撫でてくる
「…ひなはね。白化病だったの」
「え、」
私が、後ろを見ようとしたら頭を撫でていた手で止まられてしまう
「ひなもね、百合と一緒で卒業式の日に白化日だったの、中学だけれどね」
私が後ろを見ようとするのをやめると、葵の手は再度撫で始める
「柚葉、少し前に百合に、白化病の自殺率は六割って言ったでしょ?」
「…そうだね」
もう、そこまで言われていたら、その子がどんな最後を選んだのか分かってしまう
「ひなにも、心強くて、優しいけど不器用な彼女がいたの」
それは、まるで今のすみれさんみたいな
「だから、ひなは私じゃなくて、その子を選んで…」
そこで、葵は話すのをやめる
私は葵の頭を撫でていた手を握って、私の胸の前で温める
「ごめんね、葵。もう大丈夫」
「…あと、少しだけ話させて」
何も言わずに、私は頷く
「柚葉は、私が百合をひなとして見てるのかもしれないと思ったのでしょ?」
「…まぁ」
類似点が多かった。すみれさんという百合さんにとっての心強い彼女、それに、最終日の
白化日
「私も、多分、そう思ってしまってるところはあるのだけれどね」
やっぱり、そうなんだ、それなら私は
「私の、大切な人が、また、いなくなってほしくなかった、の」
そういう声はどんどん、弱くなって、呼吸混じりになっていく
「だから、私は、どんなに苦しくても百合を守る」
それは、もう、私は。
あきらめないと、いけないのかな




