EP1-32.
富士山近くの山間部には、過去の大戦によって作られた塹壕が多くあり、その奥にはシェルターも用意されていて、一時的に人が住める環境があった。
「大戦時に使用されていたシェルターを、ここまで快適に過ごせるように改装するなんて。さすがは、『砂モグラ』だな。」
二人の男がソファに向かい合って座り、チンと赤ワインが入っているグラスを互いに当てて鳴らした。
シェルターの中には多くのモニターが用意されていて、それぞれが日本支部の各箇所をカメラにて映し出しており、エリア38や42の現状も確認出来る。モニター近くには数名の武装した者たちがいる。
「ここは幹部クラスが利用していたシェルターだったようだし、少し手を加えただけだよ。それよりも、色んな場所にカメラを用意するのに苦労したよ。」
『砂モグラ』と呼ばれた男はサングラスと帽子を身に着けていて、あまり読み取れない表情をしていた。話し合っているもう一人の男は大柄で白髪の西洋人だ。
「ステルスカメラ、無線で通信しているのに察知出来ない仕組みなんだってな。しかも、それを日本支部に潜入させた設備士達に設置させたらしいじゃないか。平和ボケしているからやりたい放題なわけだ。」
「いつの時代もお金の力は凄い、人が簡単に動かせる。」
「しかし、こちらを察知されたのは予想外だったんじゃないのか?」
「まあ、それは腐れ縁というやつかな。ある程度近づくと互いに引き寄せられているようなものなんだと思う。でも、想像以上に強くなっていそうだ。」
先ほど海獅子達が戦っていた映像を映し出しているモニターを見て話す。
「意外と狭い世界だからな。まあ、本当の目的は把握されては無さそうから何も問題ないがな。」
「そこはちゃんとしたビジネスですので、しっかりとさせて頂いていますよ。でも、少し障害が発生しているけどね。」
「ああ、ヨージンらしき奴がいる話か?」
「AIを使って、海側のフルマリンをこっそりとゲットしたかったんだけどね。あのBDの動きはヨージンに見えた。」
「なんとも言えないが、奴は若いが勘が鋭いからな。まあでも、一人での行動には限りがある。なんなら俺が動いてもいいんだぜ?」
「いやいや、ゴッドセイラー(神の船乗り)を陸で戦わせるなんて大変失礼ですよ。」
「その名はもう過去に捨ててきたはずだったが、やはり心の奥から戦いがしたいとうずいてきている。」
「それは大変だ。でも、ここでは静観していてください。私が確実に駒を次に進めますので。」
「山豹達の処理は大丈夫なのか?」
「ここが見つかる前にお暇する予定ですので問題ないかと。それに、こちらにも戦いを生業にしている者がおりますので。」
「ああ、そうだったな。俺はあいつを扱うのは御免だぜ。」
「はい、そういう事ですので、お任せくださいませ。」
ピースコネクトのメンバーは整備工場にてAFの改造を終えた後、今後の予定について話し合っていた。
「よし、これからの計画はこんなもんだな。皆、ここまでの内容は理解出来ているな?」
ホワイトボードに書かれた文字やイラストを指差して、廣田はメンバーに確認する。
「はい、安全な所に避難できていない民間人を助けに行く。そのためには周辺エリアの安全を確保する。」
「現場には湊さんと前田さんが向かいますが、こちらからは十分な支援はさせて頂きます。」
「十分な支援って、ここから何が出来るのでしょうか?」湊が感じた疑問を話す。
「AFとは常時リンクしておきますので、追尾性の高速射出にて支援物資を送る事が出来ます。」
情報に詳しいメンバーの一人が、モニターでデモを移して見せる。
「へぇ、この倉庫みたいな工場にそんな設備があるのですね。」
「それは頼もしい限りだ。」
一緒に行く、アラフォーな見た目の前田も納得する。
「今までは直接的な武器を装備していたAFですが、色々と妨害装備も用意しました。」
画面を切り替えて、武装についての情報を流す。
「ジャミングや拘束型、色々とあるな。多彩な作戦が出来そうだ。」
「その通りだ。AFは基本的な戦闘力も高いが、どちらかというと拠点確保に重きをおいて設計されている。大きな災害が起こった時の為の要になるための希望という事だ。」
「なんか、聞いていて実感が湧かない機能とかがありますけど。天候を操るって、まさかそんな事が本当に出来るのでしょうか?」
湊が見ているモニターには、ロッドで雷や雨を降らせている画像が映し出されていた。
「今は未知のテクノロジーと思って、これから使ってみて確認していきましょう。」
「そうですね。僕はとにかく人命救助に尽力をつくします。」
「よし!では、ピースコネクトの本来の仕事を開始しよう!」
「先ずはエリア50番台の千葉地域ですね。軍事的な設備は少ないですが、資源を狙ったテロが複数確認出来ています。私達の仲間も困っているとの情報も入ってきています。」
「結構な時間も経っているから、資源は盗まれているだろう。それよりも人の命だ。」
「よろしく頼むぞ、湊君、前田君。」
「一肌脱いできます。」
「承知しました、安全に頑張ってきます!」
海獅子達と砂モグラが潜んでいる場所にたどり着く前に合流を考えていたガンマ1達は、先に遭遇したBDと戦闘を行っており、足止めをくらっていた。
「風の死神、まさか、お前がこんな所にいるなんてな。こいつには迂闊に近づくんじゃないぞ!軽率な行動で一撃で行動不能にされてしまう!」
アジュールDについてきた二体のカスタムされた八式型は、相手の攻撃に対して器用に回避しつつ反撃をしていた。
しかし、攻撃した方向には相手BDが見えず、砲撃はあさっての方向に飛んでばかりだった。
「あいつの反応速度はこちらの予測を随分と超えています!」
「相手は七式のはずなのに、どうしてあんな速度で動けるんだ!」
八式の二体は相手から距離を取る回避行動を中心に動いているので、相手の姿を捉える事が出来ないながらも、攻撃を仕掛けられる事は回避出来ていた。
対してADは相手を捉えようとする動きをしているので、何度か攻撃を受けていた。
「相手の攻撃は少し様子を見ているように感じます。やはり新型だから警戒しているのでしょうか?」
「ガンマ1、相手から通信が入っています。受けますか?」
「せっかくのお誘いだ、相手してやろうじゃないか。」
通信を開始した相手からは少し高い男性の声が聴こえてきた。
「おっ、僕と話をしてくれるんだね。嬉しいなぁ。」
「なんでこんな所にお前がいるんだ?何もメリットがないだろう。」
「あれ?その声は確か…エレファントさん?」
「ああそうだ死神、その通り名を聞くのは久々だ。俺達がいるのが分かっているのに、こっちのテリトリーまで来て大丈夫なのか?」
会話しながらも七式の攻撃は続く。ボディの色々な場所にシールドを用意したADは、そこに攻撃が当たるように防御姿勢を取る。
「そっかそっか、どおりで僕の刃が通らないんだね。ぶ厚い皮膚を持った象さんだから、これは厳しい戦いになりそうだ。」
「お前の目的は何だ?砂モグラと手を組んでもあまり意味が無い気がするが?」
「僕は強い人達と戦いたいだけだよ。こうやって象さんともまた出会えたんだし、嬉しいよ。」
風の死神と呼ばれた者が操る七式は、重厚なADとは正反対の軽量型にカスタムされており、呼び名の通り、風のように軽快に動いて、ADに攻撃の隙を与えなかった。
「そんな理由だけとは思えないが…。そうだとしたら、ここは引いてはくれないか?」
「う~ん、そうだね。象さんとやり合うのは終わりが見え無さそうだし、それに忙しくなってきたし、分かったよ。」
「何か引っかかる事を言わなかったか?」
「あまり気にしないで、こっちの事だから。時間稼ぎも出来て、象さんの新しい乗り物も知れて良かったよ。それでは、また会いましょう。」
風の死神はADの肩を踏み台にして、軽やかな動作で視界から消えていった。
「相手から引いてくれたのには助かりましたね。」
「このまま戦っていたら、ADでも負けていた可能性だってありそうです。」
「いや、あいつの攻撃には全然本気を感じなかった。以前会った時とは全然違う。」
「そうなんですか?まあ、先を急ぎましょう。」
三体は強敵が出てきた事で先に不安を感じつつも、海獅子達との合流に急いだ。




