13. ジョシュアの疑問② <ジョシュア>
「あ! ジョシュア様!」
その騒がしさの中に、突如として聞き覚えのある声が割り込んできた。
声の方へ振り向いた時、目に飛び込んできたのは、両手で何かを大事そうに抱え込むトビアスの姿だった。
その表情は、まるで世界で最も価値のある宝物でも手に入れたかのように、愚かしいほど嬉々としている。
「トビアス。 この通りで何を……」
声をかけようとした瞬間、彼は待ってましたとばかりに言葉を溢れさせた。
「へへへ、これ リュミセラちゃんへのプレゼントなんです! お祭りのデートで渡すんです!」
小さな包みの中から現れたのは、七色に輝く秘石を丁寧に細工したブローチ。
その繊細な造りは、商人である俺の目さえも奪った。
装飾品を見る目には自信がある。これは間違いなく、並の工房では作れない逸品だ。
「これは……どこの工房のものだ?」
「えっと何だっけ……そうそう、たしかグラシア工房ってところのブローチです!」
「グラシア工房だと!?」
思わず声が大きくなる。
秘石ランプの発明者として知られるアレンの工房。
店主のアレンは老年に差し掛かった大変気難しい女性で、商人たちが契約を結ぶことは非常に稀だと聞く。
それどころか、気に入らない客は容赦なく追い返すという噂まである。
「どうやって手に入れた? そもそもお前の給金で買える代物じゃないはずだ」
「え~と、道端でお洒落なお姉さんを捕まえて、『女の子にプレゼントしたいんですけど、何がいいですか?』って聞いたら、相談に乗ってくれて。それで、お姉さんが『あの店の主人、私の知り合いだから』って連れて行ってくれて~……お姉さんが『この子、初恋なんだって。可愛いでしょ?』って言ったら、なんかデカいおばあちゃんが『ふん!』って言いながら売ってくれました! お金はこれが全財産です! って渡したら何も言われませんでした!」
トビアスは得意げに説明するが、その話を聞いて俺は思わず額に手を当てた。
この間抜けが、俺たち商人が何ヶ月もかけても叶わないことを、こうも簡単に……。
「……お前の、その図々しいまでの行動力には感心するよ」
「えへへ~。リュミセラちゃんのためだったら、なんだってできちゃいますよ!」
へらへら笑うトビアス。
その気の抜けた笑顔に、俺は何か大切なものを思い出していた。
本当に欲しいもののために真っ直ぐに行動する――そんな単純な真理を。
「よし」
「え? ジョシュア様?」
「あいにくお前に付き合うほど、俺は暇じゃないんでな。大事な初恋の贈り物だ、盗まれないようせいぜい気をつけろよ」
「えええ~もう行っちゃうんですか?」
トビアスの声が背中から響いてくるが、振り返ることはしない。もう迷う時は過ぎたのだ。
グラシア工房――。
今までのような遠回りな交渉は必要ない。 真っ直ぐに、この足で、あの扉を叩こう。
いつしか空は雲一つない青さに変わり、街路の石畳が陽光を反射して金色に輝いていた。




