12. 琥珀色の追憶③
街に出ると、空気が心地よく肌を撫でていく。
至る所で祭りの準備が進められ、通りには色とりどりの飾り付けが施されていた。
商人たちが威勢の良い声で値段を競り、職人たちが黙々と作業を続ける。
その光景は、私が知る王都の雰囲気とは違う、野性的とも言える魅力を放っていた。
宿にエマさんとエドウィンさん宛てに書置きを残しておいたけど、大丈夫かな……。
突然、いなくなった事を後で咎められないか少し心配だけれど、レザト様の過去を知る滅多にない機会。
それを逃すわけにはいかなかった。
「この通りはですね、昔からの商人たちが軒を連ねる場所なんです」
カイさんは歩きながら、軽やかに街の説明を始めた。
「ほら、こちらをご覧ください」
カイさんが指差した先には、色とりどりの布が風になびいていた。
「このお店、一見すると普通の織物屋に見えますがねェ……実は先代から続く秘石染めの老舗なんです。あの紫色の布、よーく見ると光を受けると模様が浮かび上がる。これぞリタクロスの技術力!」
確かに、陽に照らされた布地が、まるで生き物のように光を纏っている。カイさんの声には、商人特有の誇らしさが滲んでいた。
「それに比べて、向かいの店。ここ最近、妙に安い値段で商売してますねェ。気になる気になるゥ」
その眼は鋭く、軒先の商人たちもカイさんの存在を認識した途端、顔色が露骨に変わった気がした。
「あ、もちろん今日はただの観察ですよォ~! ワタシは商人ギルドのサブマスターですからね。こういった値動きも把握しておかないと」
からかうような笑みを浮かべながら、カイさんは歩き続ける。
「おや、リタルク石の新しい加工所ができてますねェ。この通りも随分と変わった……」
一瞬、懐かしむような色が瞳に浮かぶ。すぐに気を取り直したように、カイさんは軽やかに話を続けた。
「このリタルク石、元々は装飾用の建材なんかに使われる程度の石だったんです。その秘石を使ってランプを発明したのが、街の端っこにあるグラシア工房のアレンって方なんですが、まあ~そのババア。癖が強くて強くて……おっと! 今の失言は聞かなかったことでお願いしますねェ」
人差し指を唇に当て、からかうような仕草。けれど、その言葉の端々には、この街の変化を見守ってきた者特有の深い知識と愛着が感じられた。
「商人は街の『今』を見る目と、『未来』を読む目、両方が必要なんです。ルチカ様にも、この街の変化を感じ取っていただけたらと思いまして」
その言葉には、単なる案内人以上の意図が込められているような気がした。
私は黙ってカイさんの横顔を見つめた。彼の中で、商人としての鋭さと、何か別の想いが交錯しているように見える。
「あっ! そうだ、ルチカ様。リタクロスの名物、まだ召し上がってないでしょう? この通りの先にあるんです。今日はワタシがご馳走しちゃいますから! ささ、行きましょ~!」




