11. 紫の微笑み、支配の影①
朝もやが晴れ始めた庭園を臨む朝食の間。陽光が窓から差し込み、テーブルクロスの白さを際立たせる中、レザト様の低く落ち着いた声が響いた。
「本日は、この街を統括する副領主であるイリアナの所へ向かいます」
その言葉に、私は思わず身を硬くした。イリアナ様。
その名前を聞いただけで、私の中に不安が芽生える。レザト様は優しく微笑みながら続けた。
「イリアナは私の片腕として、長年このリタクロスの自治を担ってきた女性です。エマやギデオンとは幼馴染でもありますよ」
その一言に、私は思わずエマさんへ視線を向けた。エマさんはにこりと微笑み、柔らかい声で言葉を返す。
「うふふ、彼女とは魔術院の学生時代からの付き合いですわ。イリアナは昔から聡明で、常に周りを引っ張る存在でしたけれど、まさかリタクロスの副領主になるなんて……ふふ、さすがとしか言い様がありませんね」
そう言って何だか懐かしそうに目を細めるエマさん。レザト様も楽しそうに加わった。
「今日も、リタルク・ルミナリアの準備で忙しくしているだろうな。檄を飛ばすイリアナの姿が目に浮かぶ」
「ええ、この祭りはイリアナとレザト様、お二人のお力で築き上げられた大切なものですもの。イリアナが力を入れるのも当然ですわ。去年だって……」
二人の会話が弾み、その声が朝の静けさを楽し気に彩る。
長年共に戦い、街を守り抜いてきた二人の深い絆が、会話からも伝わってくる。
微笑んでいるエマさんの横顔と、それに応じるレザト様の姿。
瞬間、胸の奥深くから湧き上がる孤独感に、私は思わず目を閉じた。
レザト様とエマさんが共有する過去の記憶、知らない人々や場所の名前が次々と飛び交う中で、私はまるで置いていかれたような感覚に襲われる。
騎士団としての特別な絆を前にして、私はどうしようもなく小さく感じた。
まるで子供のように、もっとレザト様に構ってほしいと願ってしまう自分が情けない。
ローレンス家での日々の記憶が、ふいに脳裏をかすめる。
顔に傷を負い、誰からも必要とされない厄介者として屋根裏部屋の隅に追いやられていた私。
居場所が欲しくて、ただ必死に倉庫の仕事にしがみついていた。
誰かに認められたい、愛してほしいという飢えるような思いだけが、私を支えていたあの頃。
あの時深く刻み込まれた孤独感と劣等感が、今も尾を引いているの?
今はレザト様のそばにいて、愛されているはずなのに、どうしてもっと求めてしまうのか。
レザト様の全てが欲しいと願ってしまう自分が恥ずかしい。
胸の内で渦巻く感情を飲み込むように、私は深く息を吐き出した。
罪悪感を感じながらも、どこかレザト様への愛が深まっていく自分がいる。
そんな複雑な思いを抱えたまま、私たちはイリアナ様の執務室へと歩みを進めるのだった。
何やら新キャラが出そうなところで年内の更新は終了となります。
全体の構想として今は六割弱くらいなので、来年には完成させたいですね…良いお年を!




