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10.泥濘の眠り

レザト様の帰還を待っている間、私は何度も眠気に襲われた。

でも、どうしても目を閉じることができない。


長い哨戒が続いているのだろう。

せめて、戻ってきた時には私が待っていることを知って、少しでも安心してもらいたい……ただその思いだけが私を起こしていた。


やっと扉が開き、彼が戻ってきた。彼の足取りはいつもよりも重く、その顔には深い疲れの色が浮かんでいる。それでも、レザト様の目が私に向けられた瞬間、彼の厳しい表情がわずかに緩んだのを感じた。


「レザト様……お帰りなさい」


声に少し震えが混じる。私が待っているのが迷惑かもしれないと思うと、不安になる。

それでも、彼はかすかな笑みを見せてくれた。


「……只今戻りました。お待たせしてしまいましたね」


その声はかすれ、疲労がにじみ出ている。

けれど、その声を聞けたことが私には何よりも嬉しかった。

心の奥がじんわりと温かくなる。

レザト様が無事に帰って来てくれた。

ただそれだけで、今日も生きている実感を感じる。


「いえ、私が勝手に起きていただけなので…」


私がそう言い終わると、レザト様がおもむろに私の目の前まで歩いてきて、何も言わずに私を抱きしめた。

彼の腕の中に包まれて、私の鼓動は一瞬で跳ね上がった。


「すまない……」


どうして、謝るの……? 

レザト様の言葉の意味を聞こうと口を開こうとしたけれど、それすらも言えないまま、彼に引き込まれるようにしてベッドに倒れこんだ。


彼の体の重みが、まるで私を守るようにのしかかってきたけれど、不思議と苦しくはなかった。

密着する身体、レザト様の鼓動と体温が私を包み込む。どこか身体の深い所で、何かが揺らめく。


「レザ、ト様……」


彼の名を呼んだ私の声は、いつもより弱々しかった。そっと彼の背中に腕を回してみる。

大きくてゴツゴツとした背中。レザト様はこの背中に色々なものを背負っている。

それを思うと途端に切なくなってきて、胸の高鳴りと合わせて心臓がギュッと苦しくなる。


「貴女がいてくれて、よかった……」


レザト様の呟きに、私の思いが溢れ出す。


「レザト様……私も同じ思いです。愛してます……!」


ぎゅっとレザト様を抱きしめる腕に力を込めてみる。レザト様の気持ちに応えたい。

今日、身も心も全てレザト様に捧げられたら……。


「……レザト様?」


レザト様の反応がない。そっと顔へ視線を向けると、レザト様はもう眠りに落ちているようだった。

何だか期待してしまった自分が酷く恥ずかしくなる。


けれど彼の規則正しい呼吸が聞こえてきて、私はその音に心が穏やかになっていくのを感じた。

こんなに近くで、レザト様の寝顔を見ることができるなんて……。


その顔には、普段の強さや威厳が影を潜め、無防備で、どこか幼さを感じさせる。

私は思わず手を伸ばし、その頬にそっと触れた。


彼の肌はひんやりとしていたけれど、次第に温かさが戻ってくる。

それを感じると、胸の奥から愛しさがこみ上げてきた。

レザト様が皆のためにこうして全てを捧げてくれていることに、感謝の念が押し寄せてくる。


「お疲れ様です……レザト様」


小さな声で呟くと、私は彼の頬にそっとキスをした。


その瞬間、何かが自分の中で静かに広がったような感覚があった。

暖かな光がレザト様を包み込んで、疲労を取り除いてくれるような……そんな感覚。


なんてね……眠気のせいで、現実と幻想の境目が曖昧になっているのかもしれない。

私は目を閉じた。

レザト様の温もりに包まれたまま、深い眠りの中へと沈んでいく。




「うおっ⁉」


レザト様の突然の声で、私は目を覚ました。

彼の腕の中にいることを認識すると同時に、自分が彼にぴったりとくっついて眠っていたことに気づいて、慌てて体を起こそうとするけれど、身体が布団に包まれて動けない。


「ど、どうしましたか?」


私の問いに、レザト様は少し恥ずかしそうに笑いながら答えた。


「いや……すまない。こんなに近くで、貴女と密着して眠っていたとは……」


レザト様の苦笑いを見て、私も顔が一気に熱くなる。

まるで鼓動が倍速で走り出したように、心臓が音を立てているのが恥ずかしかった。


「おはようございます、レザト様……よく眠れましたか?」


恥ずかしさを隠すように言葉を絞り出すと、レザト様はどこか顔を赤らめながらも頷いた。


「ああ、今までにないくらい、すっきりしている。まるで疲れが全て取れたかのようです」


レザト様は自分の体を確かめるように腕を伸ばし、軽く肩を回した。

そんな彼を見て、私もほっと胸を撫で下ろした。

レザト様が少しでも楽になったのなら、それでよかった。


「きっと、安心してぐっすり眠れたからですよ」


そう言って笑顔を見せると、レザト様は一瞬、何かを考え込むような表情を浮かべた。

だけど、それもすぐに消え、私に優しい笑みを返してくれた。


「そうかもしれませんね。ありがとう、ルチカ」


レザト様の言葉に心が満たされていく。レザト様の隣が私の居場所だって、強く思える。

これからもずっと……レザト様のそばにいたい。

私はそっとレザト様に微笑み返した。


そのためなら、私は何だってする。


今年はあと一回くらい更新出来るかな? 相変わらずの遅筆ですいませぬ…。

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