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ジョシュアの受難「酒は飲んでも呑まれるな」②

「ジョージくんは、こういうお店初めてなんで優しくしてあげて下さい~」


どこか先輩風を吹かせるトビアスが気に障るが、情報収集のためだ。

気を引き締めて、店内を見渡してみる。店の中は十数人ほどの客がおり、汚らしく騒ぎ立てる客、一人静かに飲む客。若いヤツからじじいまで、幅広い客層がいる。


俺たちはカウンターごしの席に腰を下ろした。席を一つ空けた隣には、汚らしいジジイがぶつぶつと独り言を言いながら酒を飲んでいる。

やけに瞳をギラつかせ、手を震わせながら酒を飲む様子は何とも近寄りがたい雰囲気だ。


「あ、ホムズじいさんじゃないですか、こんばんわ~!」


トビアスはそんなジジイの様子を意に介さず気さくに話しかける。

こんな汚らしいジジイによく声を掛けられるな……。


「ああ? …おお、トビアスの坊主じゃねえか!」

「ホムズじいさんは相変わらずお元気そうですね~。毎日酒場に来て飽きないんですか?」

「ったりめえよ! 家にいてもやる事もねえし、かかあからは邪険にされてるしな! ここなら色んなヤツと喋れるしよ!」

「そっかあ、僕もホムズじいさんとお喋り楽しいです!」


口から唾をまき散らしながら喋るじいさんと、トビアスは笑顔のまま話している。

俺ならあんなじいさんの唾が服にでもつこうものなら、そのおぞましさに身の毛がよだち、とても平静でいられないが、トビアスは、コイツ自身も衛生観念が終わっている奴だからか、気にならないようだ。


「ほんと、坊主は素直な子だなあ。よし、今日は俺が昔、王都の地下賭博場で貴族の男とやりあった話を……」

「あ、今日は友だちと来てるので、また後で聞きますね~! ルッティアさん、ホムズじいさんにエールお願いします~」

「あいよ! ほらホムズじいさん! いっつもくだらねえ話聞いてもらってんだから、今日くらいは邪魔しないでやんな!」

「ったく、なんでぇ……」


ホムズとかいうじいさんは、ぶつぶつ文句を垂れていたが、ルッティアから酒を受け取ると大人しく飲みだした。

その様子を横目で確認すると、トビアスは俺に向き直った。


「僕、この酒場にルチカさんがいなくなった後、納品に行ったりしてるんです~」


なるほど、ルッティアとかいう店主や常連たちと顔見知りだったのはそういう経緯があったのか。


「ルチカ? そこのジョージとかいう兄ちゃんも、ルチカの知り合いなんかい?」


ルチカという言葉に店主が目ざとく反応した。


「はい、僕もジョージくんもルチカさんと友だちなんです~」

「そうかい、まったくあの子ったらいきなり婚約とかで居なくなっちまうもんだから、びっくりしたよ。ルチカがいなくなってから納品物にも遅れが出るわ、違うもんが納品されてるわで、こっちも大変でさ~」

「あの時はルッティアさんにも迷惑掛けちゃって、ほんとごめんなさい~!」

「別に責めてるワケじゃねえさ。しっかし、最後の挨拶もなく行っちまうなんて寂しいじゃねえの。あの子がまだガキの頃からの付き合いだってのにさ。お祝いの言葉くらい言ってやりたかったね」

「……」


ルチカをすぐさまシュヴァルツェルトの領地へと追いやった母上の仕打ちを思い出す。

何だか二人にルチカの事で責められているような、妙な居心地の悪さを感じる。

……実際、あの時母上に意見できなかった俺も同罪か。


「ルチカさんも今頃、何してるんですかね~。シュヴァルツェルトの領主のお嫁さんなんてスゴイですよね。だけど僕、シュヴァルツェルトの領主様の事、全然知らないんですよ~……そうだ! この中でシュヴァルツェルト領出身の人いませんか~~? もしいたら、領地や領主様の事、色々教えて下さい~!!」


トビアスがやけにデカい声で店内の客に話しかける。

こいつ、自然な流れで話題をシュヴァルツェルト領の話に持っていったな。

ただのアホだと思っていたが、少しは使える奴なのかもしれん。

しかし、そんな都合よく……。


「シュヴァルツェルトだあ!?」


隣で酒をちびちび飲んでいたホムズじいさんが、トビアスのデカい声に負けない叫び声を上げた。


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