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41話 最後の手がかり

 チャドの家は、牧場のそばにあった。チャドは両親と一緒に住んでいるそうだが、離れの小山で一人で生活しているのだという。両親のいる母家の方は、妹夫婦や姪や甥がいて落ち着かないのだと言う。


「ごめんよ、マスミ。こんなボロい小屋で」

「そんな事はないわよ」


 チャドの小谷は、六畳間ぐらいの広さだったが、机やベッド、本棚もあり、生活に必要なものがぎゅっと詰まっている印象だった。日当たりは悪いようでちょっと寒いが、隠れ家のようだ。日本にある劇狭物件のような感じもして、広々とした土地では珍しい家かもしれない。日本にもありそうな狭さで、私は逆に落ち着いてしまった。クラリッサの屋敷も素敵だが、広すぎる所はちょっと掃除もめんどくさい。


「マスミはブラックティーでいいか?」

「わあ、ありがとう!」


 チャドは机の上に温かいブラッドティーを置く。こうしてはなしがはじまった。


 窓の外からは、母家の方から赤ちゃんの鳴き声と牧場の方からは羊の鳴き声もする。のどかな雰囲気だが、やっぱり後でチャドは仕事があるだろうから、手短に本題から入ろう。


 しかし、チャドはソニアの話をしたがっていた。


「ソニアが死んじゃうなんて」


 グズグズと泣き始めてしまった。

 相当なショックな事が伺える。ジェイクもショックを受けていたし、つくづくソニアは罪深い女だと思う。本当にどうしてソニアは死んでしまったんだろうか。悲しいというより、やるせない感情が胸を込み上げる。


「ソニアは、僕みたいな冴えない不細工にも優しくてさ」

「あなた、不細工?そんな事ないんじゃない?」


 確かに鼻が低く、田舎の青年という素朴な雰囲気ではあるが、そんな風には見えなかった。華やかなイケメンとは言えない雰囲気ではあるが。この村に来てロマンス小説を読む機会がなくなってしまったため、自分の中にある男性の美醜の理想の高さもだいぶ下がって来ているのかもしれない。


 確かにフィクションのイケメンに接する機会が減ると、目に見える男性の美醜についてあまり気にならなくなってしまった。日本でが美男美女である芸能人をテレビで見る機会も多いし、無駄に他人に関する美醜のジャッジを無意識にしていたのかもしれない。


「この村には、ジェイクがいるしね。僕や牧師さんは、この村の女性陣たちから不細工扱いなんだよ」

「そっかぁ…」


 ジェイクは確かのイケメンなので、相対的に不細工に見えてしまうのかもしれない。やっぱりテレビやフィクションでも、異次元レベルのイケメンや美女を鑑賞する事もあまり良い事には思えなくなってきた。身の程知らずに理想だけが爆上がりしそうだ。


「そのジェイクがソニアとあなたが揉めていたって言ってたんだけど、本当?」


 私はようやく本題を切り出した。この様子だとジェイクが言っていた事は嘘のような気もしてきたが、チャドは頷いた。


「なんで?何に揉めていたの?」

「実は、ソニアから今まで描いた絵を貰ってほしいって言われたんだよ」

「何で?」


 確かにソニアのアトリアには、描いた絵がほとんどなくなっていた。


「わかんないけど、ソニアは描いてはいけない絵を描いてしまったかもしれないって言ってた。危険だから、僕にあげるって」


 ソニアはなぜそんな事をしたのかさっぱり意図が分からない。ただ、事件と関係あるような気がする。犯人にとって不都合な事が絵に描かれ、それでソニアが殺されたのかもしれない。


「それで、どうしたの?」

「僕は、そんなの貰えないて言ったんだけどね」


 チャドは居心地が悪そうに頭をかき、ブラックティーを啜った。ソニアとチャドが揉めていたのは、これが原因のようである。やっぱりチャドがソニアを殺すようには見えなかった。


「結局、絵を貰う事にしたよ。親や妹夫婦からは、こんな邪魔なもの貰って来てって怒られたよ。うちの人達は、芸術を理解するような繊細な心はないね」


 そう言ってチャドは、薄く笑う。


「今はうちの物置に置いてあるけど、捨てようと思ってるよ。たぶん妹が今、整理しているんじゃないの」


 呑気にそんな事を言っていたが、ソニアの絵が事件の証拠になっている可能性もある。ここで捨てさせるわけにいかない。


「ちょっと、チャド。その絵はどこにあるの?案内して!」


 私は慌ててそう言い、チャドと一緒にこの小山の裏手にある物置に走った。

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