来る日は近く、感じる者は少なく、既知者はただ静観する。
先に歩いていく彼女を追いかけ隣まで急ぎ、一緒に歩く。友達として一緒に遊びにいくのだが、昨日と今日の出来事のせいで変に意識をしてしまい胸の高鳴りがひどい。
落ち着かせるように一呼吸してから、デートのプランを伝えつつ他愛もない話していると、胸の高まりは自然と静まっていて二十分ぐらい道のりを経てアマイノ町へと着いた。
町中に入ると多くの人達で賑わう露店が並んでいる商店街の大通り。何時もとは違った景色に圧巻する。
ただそれに驚いているのは自分だけのようで、カザクラさんは平然としている。そんな自分を微笑むように笑って、流れを妨げないように人の流れから外れるように手を引っ張る。
引っ張れるままに商店街の大通りから路地に続く脇道へと一次避難する。
そこは、大通りとは違って、路地のために日影が出来ており暗く静かで冷ややかであった。
あんなに大勢だとは思わず、何時ものように露店や店を見て回ろうとしていたけど。あれは、止めておいたいいかもしれない。
「凄い人数だね、王都と遜色無いぐらいの人の多さだよ」
「ええ、そのぐらいはいるでしょうね。何時もは仕事や家事をしている大人が息抜きをする日だったりするから。他に学園の生徒も混じっているけど、ただ一番の客は町の外から来た人達」
わざわざ町の外から来るほどのことが体魔全力祭にあるとは思えない。
ただ来ているなら理由があるのだろう。けどその理由は依然分からない。
すると自分の疑念が伝わったのか、カザクラさんが話してくれる。
「簡単にいえば、子供の様子を見にきたり、親同士の繋がりを得たりとするために……まあ貴族やそこそこの裕福な家庭じゃないとできないけれどね」
なるほど、この学園にも少なくない貴族の子供がいて、少なくない商人の子供がいる。なら、こういう機会に繋がりを得れる場があるのなら来るわけだ。
そう結論に辿り着くけど、すこし商人や貴族が来る理由には弱い気がする。
「流石にそれだけで貴族や商人が動くことはないけれど。でも、来るに足りる理由があるの。 ここ辺りの広大な領土を持ちこの町を治める四大侯爵家の一つスウィート家が開く、お茶会が本当の目的ともいえるかしら? 後はなんとなく分かるよね」
「ああ、体魔全力祭はついでに、お茶会で集まる貴族や商人との関係の構築とか、情報交換なとで人が集まっているわけか。商人やその護衛としてやって来た攻略者の人がついでに商売したり観光したりとしているわけか?」
「……そんな感じね。まあ、プレフランスがいるからというのが多いと思うけどね」
プレフランスとは何か分からないけど自分にはあまり関係ないか。
脇道から大通を見るが人の多さに酔いそうになる。その人混みを複雑化させるように露店が大通の道の両側に幾つもの並んで、露店を開く人が客引きをすると混み度が増していく。
それにどうしたものかと思いながら、自分は彼女に話し掛ける。
「カザクラさんは人混みとか大丈夫?」
あまり変化は見えないけど、出ていないだけかもしれない。
「私は特になんともないけど……貴方の方は大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫だよ、人の多さには少し驚いたけど……カザクラさんも大丈夫なら、行こうか」
カザクラさんに自分は問いかけ、頷いたのを見てから一緒に路地裏から大通りに出る。
大通りに出れば、活気溢れる商店街。
露店の店主は大通りを歩く人、人、人に元気で大きな声かけをして店へと寄せ、商品を見せている。
多勢の流れは遅く歩みは自然とゆっくりとなり、日差しがよく当たる為にとても暑い。
「あ、あつい」
人の多さではなく、暑さに弱り自然と溢れた。
まだ六月の上旬、それにしてはとても暑く。このまま歩き続けるには何処かで水分補給を取る必要があるだろう。
暑さに少し気が参っている自分に対して隣を歩くカザクラさんは平気の様子で、こちらを見つめ。
「そう? ちょっと暑いぐらいと思うけど……」
ひんやりとしていそうな白い肌が眩しく、赤い髪が紅い色味と彩華に変色し、際立つ紅い美しさに人目を引く。
すれ違う彼女にすれ違った人達は立ち止まってしまうほど。
当の本人はその事には気づいてはいないようで、自分の返事を待っている。
「熱いのは大丈夫なんだけど、暑いのは駄目なんだよね」
「……どういうこと? 熱いのはよくて、暑いのは駄目?」
自分の言葉に疑問を呈するカザクラさん。その彼女に自分は目についた露店へと指を指す。
「まあ、そんなことはいいとして、あそこの面白そうな露店を見ない」
「あのお店? 普通の肉串屋のように見えるけど……興味があるなら行きましょう」
そのことは面倒くさいので話を反らすと、事情を察してくれたのかあっさりと身を退き話に乗ってくれた。
人の流れに少し逆らいながら、露店の肉串を売っている店へと着く。
そこそこの人がおり、なかなかの繁盛の店。人が数人と並んでおり、そこの列に自分達も加わろうとした時、横から何かが自分にぶつかってきた。
「いたぁ!」
小さな音で溢れた言葉と声は幼さが残っており、ぶつかった時の衝撃は弱い。
何がぶつかってきたかはそれで容易に分かり、自分にぶつかってへたり込んでしまった少女へとしゃがみ、怖がらせないようにできるだけ柔らかい笑顔で優しく話しかける。
「大丈夫かい? お嬢さん」
尻餅をついている少女に話しかける。「いたた」と目を瞑りながら声を溢す少女は、その言葉をきいて瞼を開く。
大きなくりんくりんなブラウンな瞳が此方を捉え、キャラメルのような色にくるくるとしたボムヘアーの少女は自分と顔を合わせたまま固まっている。知らない人に話し掛けられてこわがってしまったのか、ピクリともしなくこちらの顔をみつめる。
はて、何処かで見たことがあるような、ないような少女。それはおいといてとりあえず、少女へと手をさしのべる。
「立てるかい?」
どうでもいいとばかり、自分の顔を凝視する少女にすこし戸惑う。どうしたものかとカザクラさんの顔をみるが彼女もどうしたらいいか分からない様子。
ふと、本当に何処かで会った気がしたと思い、記憶を遡っていく。あれでもこれでもないと遡っている最中に声が聞こえた。
カザクラさんとも、少女とも違う。微かに聞き覚えがある声は徐々に近づいてきて、誰かの名前を呼んでいる。
「オレンジ、どこに行ったの?」
その声は段々と此方に近づくと顔を凝視する少女はピクリと反応を示し、声が聞こえる方へと顔を向けた。
それに釣られ自分も少女が見つめる方を見る。
「そこに居たのね、オレンジ。もう先に行っち…………」
そこから先はなく、静寂が生まれる。そんな周りは自分達に気づいていないのか変わず祭りを楽しんでいる。
少女の母親と思われる女性は、肩に掛かるぐらいの髪、毛先は外側に跳ねており所々と髪の流れから逆らっているほどに癖毛。それが親子だと思わせる印象だが、母親にしては若々しく、どちらかというと姉のようだ。
女性は何がどうなっているのか分かったのか、その後は迅速だった。
「す、すみません。内の娘がご迷惑を掛けました」
娘の元へとより、そう頭を下げられた。
もちろん、そんなことをされるようなことは起きていない。立ち上がりって。
「大丈夫ですよ、そんな頭を下げるようなことではないですから、頭を上げてください」
「すみません…………オレンジ、怪我はない?」
もう一度、謝りを入れてから娘へとしゃがみ、声を掛け、怪我の確認をしてから尻餅から立ち上がらせようとするも、うーんと考え込むように動かない娘を脇に手を差し込み無理やり立ち上がらせる母親はどこかけがしたのではないかと心配そうに伺う。
「どうしたのオレンジ? 大丈夫? 怪我したの? ほーら、返事しなさい。オレンジ」
何度も声を掛ける母親でも反応は特段となく、考え込んでいる。
ため息を吐く、母親は娘からこちらに向き直り。
「本当にすみません、うちのオレンジが多分ぶつかったのだと思いますから」
「いえ、大丈夫ですから、謝罪なんていいですよ」
「いえいえ、娘が多分勢いよくぶつかったのでしょう。それはちゃんと謝るべきですから謝らせてください」
そう言われればこれ以上は言うこと出来ない、これは教育なのだ。道徳感情や礼儀といったコミュニケーションとして大事な教育の為に言えなくなしまった。
ただ少女は自分の顔を凝視を続けてくる。そんな娘に母親は怒りをふつふつとさせている、最中。
少女は悩み顔だった顔をパッと明るくさせた。
「あっ! 思い出した!」
大きな声を出した。その突然の変化にビックリとしたが、目の前に静かなる怒りを雰囲気で伝わらす母親を前人気容易に掻き消えた。
そして、悩み事が解決してスッキリしたのか隣にいる母親に嬉しそうに伝える。
「ねえねえ、お母さん。聞いて聞いて」
嬉しそうに呼ぶ声。
「どうしたの?」
変哲もない静かな声。
「私、思い出しの」
楽しそうな顔。
「何を?」
笑みを浮かべた顔。
「あの人ね」
自分に指して、喜びが伝わる目で。
「お兄さんがどうしたの?」
ただ目は笑っているが怒りを表している冷ややかな目で。
「馬車の人だよ!」
楽しそうに母親に言った。
「そうなの偉いわね、思い出せて…………」
優しく娘を褒める。だが、
「その前に、思い出すことがあるじゃないかしら?」
つんと冷たい空気が漏れ冷える。
それに楽しそうな少女も異変に気づいて、確りと母親を見る。
少女にどう見えたのか分からないが、怖がっている様子であった。
「お兄さんにぶつかったことは謝らなくてもいいの?」
あっと、声が溢れ、恐れ恐れと此方に振り返り、それはぎこちなく固く硬く、声は途切れ途切れに。
「あ、あの……ぶつ、ぶつかって……ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ、ちゃんと謝れて偉いよ」
褒めながら俯く少女の頭を優しく撫でる。
「うぅ」
つい、妹に接するように頭を撫でてしまい、余計に俯いてしまう少女。
頭を触れることが嫌の子もいるわけだから、しないように妹に言われたのにやってしまった。
「ごめんね。頭、触られるの嫌だよね」
と言ったが少女は首を横に振る。
嫌ではないのかな、かといって別に嬉しくもないだろうけど。うん、良く分からない。
そんな光景を母親は微笑ましく見ていて、目が合うとにっこりと笑い娘の頭を撫でながら。
「そう言い子……オレンジは家族以外の男の人に頭を撫でられたことがないかなら恥ずかしいのよね、オレンジ」
恥ずかしそうにポコポコと叩く娘とそれを楽しむ母親。微笑まし限りの光景に見たことがある気がした。
何処にでも溢れているような光景、区別なかつかないほどに人生の中、観る。でも覚えていて、忘れていない。
そんな不思議な感覚に体は捕らわれ、カザクラさんから声が掛かるまで、思い出さない限り消えなかっただろう。
「そろそろ、離れましょう」
「あ……うん」
何故、そんなことを言うのかと考えるが、その言葉の意味は周りを見れば容易に分かり、とっとと離れることにする。
「それでは、自分達は行きますので……」
「はい、またどこかで」
微笑みを浮かべ、お辞儀をする女性に。こちらも頭を下げ、女性の傍らにいる少女の方にも「じゃあね」と挨拶し、カザクラさんと共に親子から離れていく。
色んな視線が向けられる中から脱兎の如くに二人して去る。
何故、あんなにも視線が向けられているのか、分からなかったが注目を集めていたことは確かであった。それに気づいたカザクラさんが居なくては、気づくのに遅れ逃げれなかっただろう。
少しだけど、気になることがある。それは少女が言っていたあの言葉の意味は何だったのか。
……分からないことは置いといて。
肉串を買いそびれ、またしても裏路地へとやって来た自分達は人が少なそうな露店の方へと向かう。
日陰を遮る石造りの家、風通し良く作られた道は肌身の暖かさが奪っていくが寒くはない。人が居ない裏路地、人の気配すら感じ取れないほどに誰も居なく。
人の視線というのが完全に無くなり、最初と似たような状況で似たようなお礼をカザクラさんにいう。
「ありがとう、カザクラさん。あの時、教えてくれなかったら多分大変なことになっていたよ多分」
「そうね……私も人にじろじろと見られたくないから……」
後ろから流れる風が歩く自分達を追い抜かし、導かれるように進み。
前を見て、光が満ちる場所へと向かう為に歩く。
会話は途切れたまま、音は少なく、二人の足音が路地裏に響く。
この空気間は自分にとって居心地の悪さがない。だからといえ、落ちく、安らぐとかの心地よさがあるわけでもない。
ただ悪くはない、無理してなにかを話さなくてもいい、長くとも短くとも感じられるこの時間。
自分はそんな気持ちでも彼女はそうではないようである。
「ねえ、私の話、聞いてくれる」
此方を見ずに前を向いたまま、聞いてきたカザクラさん。
その様子から何を見ていて、何を思いるのかは分からない。今が何時かにどのような影響が出るのかはわからない。
どんな返事を返すかで、どんな結末になるかなんて知りたくても分からない。ただ聞かないという選択肢はない。
「どんな話?」
話の先を施すように返す。彼女はそれに答えるように話していく。
「さっきの親子……仲良さそうだったわね」
さっきの親子。自分とぶつかった女の子とその母親。
ぱっと見た感じでは確かに仲が良さそうである。本当かどうかは知らないけど、悪くはないだろう。
そんな不安要素をわざわざ言う必要もなく、最初に思ったことを素直に言う。
「そうだね、あの感じだと。父親の方も仲良さそう」
自分のその言葉を聞いて彼女は微笑を溢す。
「それは、分からないけど。悪い人ではないと思えるわね……本当に仲が良さそうな家族ね……まるで--私の家とは反対ね……」
だがその微笑には何処か自傷を含んだ痛い痛いしさがあった。
自分は何も答えず、彼女の言葉を待つ。幾度の経験が教えてくれる、一切を聞き逃すなと。
だから彼女を待つことにした。
「私の家はね……あれ? 私が貴族だってのは教えたかしら」
その初めて此方を見た彼女……自分は相変わらず、答える。
「知っているよ。一緒にクラスを掃除した時に聞いた」
「そう、なら話を少々割愛するわね」
此方を捉えていた瞳の奥は安堵の色を窺わせ、顔には一切出さずに前に向き直って話し出した。
その行動の意味を考えつつ、話を静かに聞く。
「貴族の家というのわね、大体の親は子を育てないの、九分九厘ね。母乳は乳母の方がやるのよ。知っていたかしら?」
確かに貴族の女性が我が子に母乳をやるとは聞いたことがない。ただ聞いたことがないだけだが、それが真実であると分かる。
「いや、初耳だけどしっくりくる」
「母乳や育児を乳母がやるからといって、家族としての絆が結ばれないということはないわ。親はやっぱり子を気する、色んな面で……」
それは、貴族として、親としての責務からか、それとも生命としての本能からのか。
自分にとっては一生分からない部分だろう。
「私の家もその例外ではなかったわ。でもね、私の家は貴族として爵位が低くて、親は貴族の責務を果たすだけで精一杯だった。だから必然的に共にする時間は低くなる一方、ようやく一緒になれた時間もパーティーなどの私情を挟めない場所……」
隣を歩く彼女は懐かしむように語る、今はそうではないかのように。この話は何処に向かっているのか、何を伝えたいのか、分からない。
思考の材料として加わっていく。
「パーティーに向かう馬車の外から見える町の中は平民と呼ばれる人達で一杯。その人達の姿は背一杯に生きていて、幸せそうに手を繋ぐ親子、楽しそうに笑う同年代達、学校の帰りか話をしながら帰路に変える学生と色んな光景が写り写り変わっていく。その中で視線が追いかけていくの」
そろそろ裏路地から表へと出口が見え始め。
「……幸せそうな笑顔をしている親子をね」
抜けた。暗い場所から弾き出されるように出た。
裏路地から抜ける時に言った言葉を聞き逃さない。その表情は光に隠されて見えず、心は感じとる。悲しみと痛みを。
自分は今、どんな顔をしているだろうか。イラついた表情か、哀れみの表情か、無表情か。
どんな顔をしていようと関係なとばかりに彼女は自分に、彼女自身にいう。
「今日を楽しみましょう--ヨシタカくん」
あらゆる暗さが一切と奥へ奥へと隠れて、何処までも眩い笑顔が一際、輝いた。
だからこそ。暗さが黒々ともいえるほどに真っ暗としてあるのじゃないかと、疑わずにはいられなかった。
そうなのか。本当に、そうなのか。彼女は決意してしまったのか?
頭の中で疑いを反芻し、気づけば自分は彼女に手を掴まれていて。思考が停止してだが理解もする。
これがどんな結末にも至らせる時間であったとしてもここでの思い出を最悪として刻みたくない。
だって、カザクラさんはこんなにも楽しそう何だから……。
巡る巡る町を彼女は最高に祭りを楽しみ、緩む心が固く結ばれた誰にも語ることはないと思っていた過去を話させるほど。
いつもと違った見知らぬ露店、そこには普段は売られない品の数々が並べてあった。
他国で人気があるとかのぬいぐるみ、ボードゲーム、言葉を覚えさせると共に遊ぶ木の板、仮面、ボール等の子供達が注目するような商品を並べていたり、正反対の大人が気なるなるような商品ももちろんある。
アクセサリーに服、遠い他国の日常道具、本など。少し値は張るが魔道具も売られている。だが一番露店として多いのは料理であり、その中でもスウィーツである。世界各地の甘いお菓子が集められている。
お菓子やおもちゃが売られる場所にはやはり子供が集まるものである。
子供らがワイワイとお菓子やおもちゃで盛り上がっている姿。それを微笑ましそうに見る大人達。
隣でそれを一緒に見るカザクラさんは何処か懐かしそうに見ていた。何を思い出しているのか、ただ微笑ましさもあるのは確かである。
カザクラさんはずっと見ていた自分に気づく。
「どうしたの、なんか付いてた?」
「……いや、何も付いていないよ。あの子達を懐かしげに見ていたから少し気になって」
その言葉を聞くと彼女は少し驚くような様子を見せる。
「そう見えた?」
「見えたというより、そう思った程度だけどね」
「……あってる。少しだけ、思い出したの初等部の頃を」
初等部。高等部の一個したであり十五歳未満が通う学校。自分も行っていたが最低限。大半がどこかしらに行っていた為にほぼ通うことがなかった。その中での思いでといえば、彼との出会いであるが……。
自分の話はいいとして、カザクラさんである。懐かしそうで微笑ましさもあった表情にある思い出と出会ったばかりの彼女が同一に思えない、彼女をそうさせた何かがあるとしたらその期間である。全くもって関係ないという可能性もあるけど、間違ってはいないだろう。
たったこれだけの情報では考えることも少なく、情報がほしい。だから聞こうと思っていたら彼女が自分を見つめていた。
顔が近く覗き込むように下から見上げていた、瞳の奥にある考えや感情を読み取ろうとするかのように。
先と逆にカザクラさんにいう。
「なんか顔についてる?」
微笑む。妖しく。こちらの考えを見たようにイタズラを含んだそれに、いつもの彼女と雰囲気が違う。
「ねぇ、聞きたい?」
「なにを?」
妖しさはさらに色妖しくなり、意識しているのかしていないのか、上目使いになっている。
「分かってるよね? 私の……昔の私のことを知りたいの?」
「……」
そう、その違いは最初からあった、でもそれはここまでの違いではなかったから気にすることはなかった。彼女が今、何を考えて、何を思っているのかは全くもて分からない。
ただ。ただ一つ分かることもある。
彼女は今、嬉しそうである。
そしてこれが彼女、黒の部分。それが合間見えて、先の決意。この時間を大切にしようと思った、その決意が揺らぐ。
本当にそれを守り通せるのか、明らかに様子が変わった彼女を前にして自分は思わずにいられなかった。
驚き、困惑に囚われていた自分を見て彼女はハッと自分の瞳を覗く、それで少し冷静になったのか、徐々に頬を色づかせ距離を必要以上に取る。
「す、す……少し、変だったよね…………ごめぇーー」
「そんなことはない、変なじゃない。少しだけ君に驚いただけ……」
間髪を容れず。
彼女、カザクラさん。いや、カクチカさんの言葉を遮った。
決めた。決めている。この時を最高の時間にすると決めたのだ。
この後、どんなことが起ころうとも。この一時が最高の思い出になるようにと。そしてこれからもその思い出を共に懐かしめるようにと誓おう……。
いくども、訪れたあの時がやって来ても、自分は進む。
だから、この言葉はいう。
「それに友達だから、謝られるようなことじゃない。逆にカクチカさんを少し知れて、嬉しいよ」
カクチカさんは目を大きく開きこちらを見る。彼女が何を思い、何に驚いたなど分からないけど。自分には一切もう関係ない。
ただ彼女が見せた懐古が表れる表情、その過去がどんなのか知りたい。純粋にそれがどんなのか気になった。
「カクチカさん」
「は、はい……」
「カクチカさんの思い出話を聞かせてくれる? どんな感じだったのか気になってね。初めはああだったけど、その前はどうだったのか」
彼女は先とは印象が変わり、少しおどおどとした様子であった。
「……気になる?」
「うん、すごく」
素早くハッキリとそう答えると少し迷うような仕草を見せて。
「前……前…………ーー」
彼女がどこまで思い出したのか。そう言葉を残すと過去を思い出す彼女を見守る。




