種目
女子二人とフルカザキ先生に、まるで捕まった犯罪者のごとくある所に連れてかれる。今、逃げると手段をとれば一体どうなるのか。考えるだけで恐ろしく、震え上がりそうだ。
そんな自分を置いて、面倒ごとから逃げるように次の種目に向かったヒマワリくんとハルキくんは、許さない。ご飯を奢ってもらわないと気が済まない。
冗談はさて置き。
今、色んな感情がひしめき合っている。タツガワくんは女性だった、今もなぜか分からないが自分に向けられる威圧感を放つ女子達、それに友達に置いてからたこの気持ち、不安要素を持つカザクラさんなど。
どう折り合いをつけるべきなのか。それに連れてかれる場所は競技選手の控え室で、タツガワくんについて色んなことが聞かれるのだろう。
そこにタツガワくんがいなければ確認も何もない、だから今から合うことになる。
何って声を掛けたら良いのやら。考えても良い案は思い浮かばない。
そうこうとしている間に、控え室の扉の前についてしまう。
フルカザキ先生からほんのりと向けられる疑いの念。
先生がドアノブに手を掛けて、空いている手で扉をコンコンとノックをしてから中へ入った。
「タツガワさん、少しい話があるからちょっといい?」
「はい、大丈夫です」
試合で見ていた雰囲気と違って、いつもの落ち着いていて明るみがある声が聞こえてくる。
先生は入ってもよいか確認すると自分達を手招きする。それに少し躊躇があったが思いきって入る。別に、後ろから感じる早くしろという圧に押されたわけじゃない。
中に入ると、椅子に座るタツガワくんが見えた。破れた体操服の変わりに着た白地のシャツ。血に濡れた髪はサパッリとしていて、髪は濡れを見せる。
服が少し大きいのか、首元から鎖骨辺りまで見え、そこを滴る水滴が重力に従うように下へと肌身を伝う。視線が自然と吸い付いてしまう。
少しだけだが、芯に熱が籠る。試合時のあの光景が蘇った影響なのか、そんなことを考えるより早く忘却の彼方へと投げ捨てた。
出来るだけ顔を直視せずに、鼻を辺りを見る。平常に保て、そうしないとあの光景を何回も思い出して恥ずかしくてタツガワくんに顔を向けることが出来ない。
シーとした空間、でも誰もが誰かの動きを意識していて、だから緊張だけが漂う空気間へとなって話し煩いさが発生している。
タツガワくんは不安の表情を浮かべながらも、いつも自分達に見せるいつもの調子のように振る舞おうと少し無理して装い、声を掛けようとしていた。
「あー、シロミヤさんにカザクラさん、それにナガクラくん? …………その、あ、あの…………ッ!」
口ごもって正直に何も言い出せない様子だが、頬を叩くと何か決意するように目付きに変えた。
気づく。今の自分の愚かさに。
ああ、何をやっているだ、自分は。
今まで隠していた秘密を勇気を持って明かす友人に、今の自分はなんだ。何を考えている? 友達のタツガワくんのことを考えず、嫌われたら否定されたらという不安の気持ちで満たされている友達に。
少しの恥ずかしさで顔を直視できず、どうしたらいいかも分からずに沈黙という形をとってしまった。
本当に情けない。情けない。
そんな後悔が生まれるが、まだ取り返しがつく。だから自分は彼――彼女の顔を確かに向けて瞳を見つめる。
決意の気持ちを顕にするように、彼女は口を開く。
「自分は……違う……わ、わたしは――」
次に発せられる言葉、それがどんな言葉であろうと。自分は、言うべきことを今答えるべきことを彼女の言葉を遮って、
「タツガワくん、お疲れ。楽しめたかい、戦いは?」
いつものような調子で友達に投げ掛ける何気ない言葉。
唖然とした顔を向けてくる。
本当ならこの後に行われるだけだった会話、それをタツガワくんが何であろうと知ったことでない。
友達であることが覆ることはないのだから、それでいいじゃないのだろうか。だから、自分はこう答えたのだ。
僅かな沈黙、唖然とした空気も消えて、タツガワくんは不安や勇気といった顔からいつものようで、ほんの少し変わったのほほんとした笑顔を浮かべる。
そして、
「久々に、とっても楽しめたよ。ナガクラくん」
その笑顔は何よりも替え難く、印象的に残る。
「それは、よかったけど、次の種目もあるから、気を緩めるなよ」
「うん」と返信を返す。それを聞いて自分もと「そろそろ行かないと間に合わないかもしれないから、行くからまた後でな」と立ち去ろうとするが、自分の後ろに立っていた二人の女子に首根っこを捕まれて、ぐぇとカエルが潰されたかのような声を出る。
逃がさんとばかりに、込められた力から、大人しくすることにした。
長らくの沈黙を破るシロミヤさんは、どこか悲しそうで、だけども嬉しそうに。それは、とても複雑な表情で。
「タツガワちゃん、何があってそうなったのかは分からないけど。これからもよろしくね! それと一緒におしゃれしようね」
彼女もいつものように微笑みを向けて、これからもと告げた。その言葉にどれだけの意味が込められているのか、込められていないのか。
首根っこを掴むもう一人のカザクラさんも悲しそうで、でも嬉しそう。だけど、どこか寂しそうな雰囲気。それが気のせいだったように、慈愛が籠った声で話しかける。
「タツガワちぁ……さん、何かあったなら相談してください。これからも付き合う友達でしょう。それに一緒に服を選んでいる時や組手の時は楽しかったし、助かったのよ。これからもよろしくね」
そう微笑み、自分から手を離した。
タツガワくんはとっても嬉しそうに、二人に抱きて。
「これからもよろしく」
「ええ」「よろしく」
と微笑ましくも誰にも邪魔させたくないほんの一瞬ともいえる光景に、これからもその幸せが続くことを祈る。たとえ世界は流転するとしても、そう願わずにいられなかった。
なんか積もる話しでもあるのかというぐらい、超密接に抱きつき合って話している。
時間はそろそろ、急がないと次の種目に間に合わなくなる……
が、フルカザキ先生が黙りぱっなしであった。だから、そろそろ話し出すかなとそれを少し離れた所でチラリと見てみると。
桜の花が埋め込まれたような綺麗な瞳と合う。
頃合いを計って先生が口を開く。
「そろそろ、話してもいいかしら」
その言葉からは落ち着いていた雰囲気からは疑いの念は感じなくなっており。大人の雰囲気が醸し出ている。
それに彼女達は先生の方に向いた。それが了解の合図と受け取ったようで話し出す。
「次の種目があるから手短に……タツガワさん。貴女は、女性なのようね。生物学的に」
一応の確認であろう。多分、色んな書類の訂正をする必要があるのだろうし。
「はい」
隠すこともないから素直に答える。
「うん……じゃあ、後。これが一番大事なことで、一応の確認だけと、本当に確認だよ……いい…………タツガワくんと、ナガクラくんの間に……いッ、いん」
「「いん?」」
何だ? と気持ちでタツガワくんと一緒に繰り返す。
「婬行な関係はないよわね!?」
恥ずかしそうに、大人っぽい雰囲気はどこに行ったってぐらいに顔を赤く染め。その恥ずかしさを振り切って、いい放つ。
戸惑い過ぎて、何をいっているのか、分からなくなってくる。
みんなも同じなのか、ポカンっとして先生を見ている。
タツガワくんのことはさっき初めて知ったのだから、そんなことが起こるわけがない……あ?
……あッ! ああ、ああ! だからか。だから、先生から疑いの
念が向いていたのか。
自分はタツガワくんのことを前から知っていたのではないかという疑いが向けられていたのだろうけど。それも先ので、そんな疑いもなくなった様子。でも本当にないのか、と確認したのだろう。
そもそも、そんな極端な発想になぜ至るのか。男女が一緒の部屋で過ごしているだけで、付き合いもしていないのに。それが可笑しくてついつい笑が零れてしまう。
自分が笑うと他の者も可笑しそうに笑いが零れる。
返答ではなく笑っているために、先生は困惑の顔をして、恥ずかしがりながらも確認を迫ってくる。
「二人とも、笑ってないで。これは一番大事なことなの」
もちろんのことだけど。
「無いですよ。そんなこと、そもそもタツガワくんが女性だと知ったのは、ここの皆と同じですし――」
自然に麺がつるりと滑るように口は一切の抵抗なく、答えてしまう。それは、和む光景を見ていて心が緩み切っていたのだろう。
「自分には好きな人が居ますから……」
「「「えっ?」」」
呆けた声を息を合わせたように揃い、部屋さえも同調しているかにも思える響。ただ、前から
知っているカザクラさんは特に何もなく、平然とした顔であった。
だけど、本当に急がないと時間が危ない、種目に出れないかも。だから、早く行くために三人の女性陣を驚きの中から覚まそうと動くがカザクラさんが先に動いてくれた。
「先生、早くしないと時間が間に合わなくなります」
ハッとした顔で先生は周囲を見渡して、恥ずかしさを隠すためか咳払いをしてから話し出す。
「まあ、二人の関係にそう言った関係は無いということは分かりました。タツガワさんは今日はカザクラさんとシロミヤさんの所で寝なさい」
それは、当たり前だな。前は知らなかったから良いものの、今は違うから変わるところも仕方ないが、寂しくなるな。
「明日は手続きの変更をしますから、用事を入れないように。頑張ってきてね」
そう言われると自分達は、部屋を後にして次の種目が行われる森へと向かう。
急いで向かう途中でタツガワくんから「多分、別々の部屋になるから、お別れ会しなくちゃね。その時に、本気で戦お。ギリギリのせめぎ合い。死と血に燃えるような死合いを……ね」その時の表情は誰かに見せるようなものではなく、恍惚とした表情に期待な眼差しが瞳を煌めかせている。
その言葉の節々に見える歪みは、自分にはとても理解し難い。
試合か。
多分、彼女が望んでいるのは死合い。
食欲に満ちているのだろう。その瞳には、自分は一体何に見えているのか。そんな不安を抱かせる疑念は頭の片隅に追いやり、今日の体魔祭に意識を向けさせる。それのことを考えないように。
まだ、土曜日。
次回は明日の夜な夜な。




