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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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epilogue. 一抹の不安と平和への願い

 一週間が過ぎた。


 あれから毎日、俺はコーソ村を訪れている。

 俺、リリウ、フィンネやマルセラ姉さんが護衛役となって、ナコタの男性たちをここまで連れてきているんだ。


 目的はもちろん、村の復興。


 集落のダメージは、まだ目立つ。

 けれど、作業は着実に進んでいる。

 とりあえず、雨風がしのげる簡単な家屋は完成したし、キルムーリの方々の傷も癒えてきているようだ。


 ドムタノンをはじめとするトスロたちは、派遣された王国兵に引き渡した。

 しかるべき刑を受けるだろう。


 そんなこんなで、俺は現在コーソ村。

 リリウたち女性陣はナコタに残っていて、今日はイェルクさんといっしょだった。


「……何で俺まで駆り出されるかねぇ」


 コーソ村についてから、彼はずっと不満そうだ。


「文句を言わないでください。俺たちがいないと、ナコタのみなさんが安全に森を進めないんですから」


 クレマンスさんとカデフさんは、あの日から交流を再会した。

 ナナンザさんを含め、作業の休憩中に会話をしているのを、もう何回も目撃している。


 他の方々も、それぞれのペースでコミュニケーションをとっているようだ。

 中には人間と関わるのを強く嫌うキルムーリもいるみたいだけど、それはそれで仕方がない。

 強要することじゃないんだ。


 それでも、ナコタとコーソが近づいたことは疑いない。


 焦らなくていい。

 一歩一歩で十分だ。

 今までの常識が、そう簡単に変わるわけがないんだから。


「お前とリリウたちでいいじゃねーか」

「イェルクさん、旅立つ様子もなく、ずっとナコタ村に居座ってますよね?」


 そう。

 何やかんや、彼はずっとウチにいる。


「まぁ、牧師の情け。追い出すことはしません。それでも『働かざる者、食うべからず』です。やることはやってもらいますからね」


 この人は、トスロたちを王国兵に引き渡すときも、まったく手伝ってくれなかった。

 俺は、宮仕え連中と関わりたくないんだ――とか言って雲隠れしてたし。


「へいへい。先輩扱いが荒い後輩だな、まったく」

「だいたいイェルクさん、この村に来たがってたはずでしょ?」


 思い返せば、当初はそれを目的に俺を訪ねてきたはずだ。

 先日の一件でも、半ば強引に同行を認めることになったし。


「……ああ、それは、もういいんだ」


 どこか空返事のイェルクさん。


「(ここに、それらしいものはなさそうだからな、何も)」

「ん、何です?」

「独り言だ、独り言」


 イェルクさんが話題を変える。


「ところで、この前の妙な魔族の話だが」

「はい、ムーボのことですね」


 ドムタノンたちをけしかけ、コーソ村を襲撃させた、事実上の張本人。

 俺は道すがら、牧師であるイェルクさんに、一連のことを報告していたんだ。


「凶暴な魔族ってやつは、いつ、どんな場所にもいる。目的不明のおかしなことを考えているのだって、そりゃ当然いるだろう」

「ええ」

「だが、こういうのには、時期やタイミングみたいなものがある。上手く説明できないが、目に見えない流れのようなものが重なることがな」


 いまいち要点がつかめない俺に、イェルクさんは続ける。


「お前の姉がケルギジェを討って、もう五年が過ぎた。この数年、この国に大きな混乱は訪れていない。わかるか?」

「平和な時代だと、そういうことですよね?」

「バカか、お前は。こちら側の感覚だけで考えてたら、何もわからねーだろーが」

「は、はぁ」

「ケルギジェを最後に、もう悪しき魔族はいなくなったのか? この国から、根こそぎ全部? そうじゃねーだろ」


 そこで俺は、イェルクさんの言わんとすることが理解できた。


「五年だ、五年。はた迷惑な野心を抱く魔族たちが、しびれを切らせるには十分な時間だぜ」

「……動き出すということですか? 次のケルギジェを狙う、凶暴な魔族たちが」

「ケルギジェどころじゃねーだろうさ。黒翼の魔将――いや、やつすら成し得なかったこの国の支配を、今この瞬間も、どこぞの魔族が狙っているかもしれないってことだ」


 ドムタノンと同じような野望を、また別の魔族も?


「この村を襲ってきたやろうは、単なるお山の大将だったようだが、皆が皆そうとは限らない。厄介なのが出てきたら、また揺れるぞ、この国は」

「……まさか、そんな」


 と返しつつも、俺は否定することができない。

 イェルクさんの指摘は、確かに的を射ていた。


「お前の話からして、そのムーボって魔族は、それほど強い魔族じゃなさそうだ。だが、そういうやつが血の気の多い連中をそそのかして、何らかの目的を達成しようとしている可能性もある」


 確かに、ムーボには何か思惑があるように感じられた。


「国の支配に興味がなくとも、力ある者は、力を試したくなる――人間でも、魔族でもな」

「……それは、眠っている野獣を、無理やり叩き起こすようなものですよ?」

「武力や魔力の低い魔族は、誰もが平和主義者だと?」

「…………」

「まぁ、あくまで可能性の話だけどな」


 そこで、クレマンスさんの声。


「イェルクさん、ちょっと手を貸してくれ」

「……じゃあ、お前に追い出されないように、ちょっくら仕事をしてくるか」


 頭をかきながら、イェルクさんは去っていった。


 姉さんがもたらした平和が、崩されようとしている?

 この国で、また――。


『カッタくん』

「お、おお、ウダロ」


 呼びかけられて、俺は我に返った。


『今の人、カッタくんと同じ牧師なんだよね?』


 うなずく俺。


 ウダロの傷は、だいぶ癒えた。

 一昨日から、彼も作業に参加している。


『あの日、父さんに、いろいろ聞いてたんだけど、何か調べてるの?』

「えっ?」


 あの日って、先日の襲撃されたときってことだよな。

 いつの間に。


『村にほこらや石碑はないか、とか、村の歴史を記した古い書物はないか、とか――そんな感じのこと』


 祠、石碑、古い書物。

 そんなもの、どうして?


 俺は、作業の輪に加わるイェルクさんを見る。

 村のみんなの前では、人当たりのいい社交的な男性。

 牧師として、対魔族のスペシャリストとして、なかなかに鋭い視点を持っている。


 悪人ではない。

 とりあえず現状では、これが俺の判断。


 しかし、何を考えているのか、まったくわからない。


 コーソ村へ強い関心を持っていたのは間違いない。

 だが今は、それを失っているようだ。


 いったい、あの人は何を――。


『……カッタくん?』


 心配そうにこちらをながめるウダロに、俺は軽く首を振る。


 コーソ村は守られた。

 誰も命を落とすことなく、こうやって復興にはげんでいる。


 だけど俺の心には、なぜか一抹の不安が残った。


 だから願わずにはいられない。


 この国の平和が、これからもずっと続いていきますようにと――。

 第3章へ続く。

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