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マジュウ・コラージュ  作者: 若庭葉
急──コラージュ編
39/46

鵺退治④

「ハハハ、『噛ませ役』の間違いだろう。それに、すでにマジュウ化を保(、)て(、)て(、)い(、)な(、)い(、)じゃないか。そんな状態で私に叶うとでも?」

「……まあ、無理でしょうね」


 答えつつ、彼は宰をその場に下ろす。確かに、背中の翅や腰に生えた節足、それから腕の鎌などは、ところどころ欠けたり、消えかかったりしていた。

 少年が不安げに二人を見比べる中、北郷は一歩前に踏み出す。


「だが、時間さえ稼げればそれでいい。あのトンデモ探偵が来るまでの時間を」

「ナルホド、困ったら敵に頼るってわけか。そう言うところが小(、)物(、)だと言うんだがねぇ。──しかし、ちょうどいい。宰くんに私の武器を紹介していたところなんだ。彼(、)の(、)餌(、)になってくれ」


 空鳥はペンライトをしまうと、徐に右手を掲げた。

 するとそれに呼応するように、木乃伊の双眸の奥に妖しい光が灯る。まさに、「起動」の合図と言った風に。


「“マジュウ・コラージュ”……」


 静かに呟かれた声が、ハッキリと地下空間に響いた。

 ──直後、彼の頭上の空間が揺らめき、まっすぐに切(、)れ(、)目(、)ができたかと思うと、そこから何かが現れた。

 それは、包(、)帯(、)を(、)グ(、)ル(、)グ(、)ル(、)巻(、)き(、)に(、)し(、)た(、)十(、)本(、)の(、)指(、)であり、内側から見えない扉をこじ開けるように、空間に爪を立てる。

 間もなく、宙は強引に切り裂かれ、濃(、)密(、)な(、)霧(、)に満たされた向こう側から、異次元の主(ぬし)が飛び出して来た。

 瞠若する宰の瞳の先に降り立ったのは、蚕蛾の怪物。

「アンノウン」こと──白い髪の少女のお面を着けたマジュウは、細い脚を伸ばし悠然と立ち上がった。


「な──なんで……⁉︎ あ、あのマジュウは──シルキーちゃんのマジュウは、僕だったんじゃ⁉︎」

「……違います」答えたのは、碧花だった。「あれは、本物の高(、)村(、)暁(、)太(、)郎(、)が(、)マ(、)ジ(、)ュ(、)ウ(、)化(、)し(、)た(、)姿(、)でした……。そして、彼の死体が空鳥様の物となって以降は、『曰(、)く(、)』の(、)力(、)の(、)化(、)身(、)と(、)な(、)っ(、)た(、)のです」


 彼女が言い終えると、木乃伊の持ち主はやれやれと肩を竦めた。


「説明したかったのに、先に言われてしまったよ。──彼女の言葉どおりだ。例のライターで言うところの炎の刃が、このマジュウなわけだね。……そして、あの日、君にはこのマジュウが貼(、)り(、)付(、)け(、)ら(、)れ(、)て(、)い(、)た(、)。謂わば、コ(、)ラ(、)ー(、)ジ(、)ュ(、)されていたんだよ。無論、敬紫様や朔を食い尽くしたのも彼。よかったね、人食いじゃなくて」

「…………」宰は答えず、蚕マジュウの姿を見つめた。

「それにしても、私も驚いたよ。あのコワモテの警部が、こんな子供向けアニメのヒロインを象った姿になるなんて。どうやら、亡(、)く(、)な(、)っ(、)た(、)娘(、)の(、)影(、)響(、)らしいんだがね。……よほど彼女のことが忘れられなかったんだろう。──ほら、北郷くんが言っていた話さ。『十五年前に霧の中で亡くなった』って」

「…………」

「最愛の娘を失った彼の中には、マジュウに対する物と同じくらい、皇木への憎(、)悪(、)が渦巻いていた。──つまり、『何(、)故(、)娘(、)を(、)助(、)け(、)て(、)く(、)れ(、)な(、)か(、)っ(、)た(、)ん(、)だ(、)』と言う、どうしようもない感情さ。

 そして、私はそれを、ある種の復讐心にまで育て上げてあげた。結果、思惑どおり、警部は私に協力してくれた……。──もっとも、その娘の死も、私(、)が(、)仕(、)組(、)ん(、)だ(、)コ(、)ト(、)なんだケドネ」

「あ、あなたは、いったいどこまで……!」


 激しい憤慨の為か、彼は顔を青褪めさせた。

 すると、彼の前にいた北郷が、


「碧花さん。宰様を頼みますよ」

「……はい。お任せください」


 短いやり取りを終えた彼は、「曰く」の化身に飛びかかった。右腕にのみ残った鎌で斬撃を放つ北郷に対し、アンノウンは飛び退いてこれを躱す。

 その間に、「宰様はこちらへ!」と、碧花が少年の手を取る。


「で、でも」

「今は私たちに従ってください! あなただけは、なんとしても護らなければならないのです!」


 彼女は宰を連れトンネルの方へ走り出した。

 が、そこに辿り着くよりも先に。


「……残念。逃がしはしないよ」


 木乃伊の瞳が再び光り──直後、地面を蹴り付けた空鳥は、一瞬にして二人の前に立ち塞がった。驚異的な跳躍力を発揮した彼の背中には、巨(、)大(、)な(、)蚕(、)の(、)翅(、)が。


「コラージュにはこう言う使い方もあるんだよ」


 その姿を見た碧花はとっさに宰を庇うように立った──が、途端に白い翅が高速でしなり、彼女の体を吹き飛ばしてしまう。


「碧花さん!」


 マジュウの相手をしながら、北郷が叫んだ。

 地面に転がった碧花はどうにか体を起こしかけたが、少年との距離は遠く、それどころかすぐに立上れないようだ。


「糞っ、よくも彼女を!」


 怒りを露わにした彼は敵を蹴り飛ばし、空鳥 へと攻撃を転じようとした。

 が、しかし、そうするよりも先に、背後から新(、)た(、)な(、)マ(、)ジ(、)ュ(、)ウ(、)が現れ、組みつかれてしまう。いつの間にか、「二体目」が召喚されていたのだ。


「……さて。これで君を護る者はいなくなった。高村警部の木乃伊も見せたし、私的にはもうここに用はない。──おとなしく付いて来てくれるかい?」


 彼は手を差し出した。

 正体を持たぬ怪物の姿を、少年は精一杯睨み付ける。


「い、いせません宰様! お逃げください! その男は、あなたを他の黒巫女の家系に売(、)り(、)渡(、)す(、)つもりです!」


 口の端に血を滲ませた碧花が叫ぶ。

「さあ」と、空鳥はさらに掌(てのひら)を前に出した。


「……僕は……僕は……」

「ん? なんだい? 言いたいとこがあるのなら言ってごらん?」

「僕は──僕は!」


 眦を決した宰は左袖の中に手を入れ、そこから燎(、)子(、)の(、)ラ(、)イ(、)タ(、)ー(、)を取り出した。


「僕は、あなたには付いて行きません! でも、逃げるつもりもない! 僕はもう──誰かに護られるのも、利用されるのも、嫌なんだ!」


 叫んだ彼は蓋を開け、ホイールを回転させる。火花が迸り、瞬時に螺旋状に渦巻く炎の刃が現れた。

「曰く」の力を引き出したのだ。


「あなたと戦います! 今、ここで! そして、死んで行った人たちの無念を晴らす!」

「ハハハ、オモシロイじゃないか。……そう言うのを何と呼ぶか知ってるかい? ──『思い上がり』さ」


 相手が言い終えるよりも先に、宰は左手を添えて炎の剣を振り上げ、雄叫びと共に斬りかかった。

 が、しかし、蚕の翅が素早く動き、容易く受け止められてしまう。

 と、すぐさまもう一方──左側の鱗翅が少年の顔を殴り付けた。

 あえなく転がされた宰は、血反吐を漏らしつつフラフラと立ち上がる。


「宰様! 無茶です!」

「そうです! あなたの敵う相手ではありません!」


 碧花と北郷の言葉には取り合わず、彼は再び強敵に挑んだ。

 が、今度は刃を振り下ろす間もなく吹き飛ばされた。

 少年はすぐさま立ち上がり、得物を振るう──そして、即座に打ち据えられる。何度も、何度も、何度も何度も何度も──ひたすらそれが繰り返された。彼の攻撃はいっこう相手に届かず、悪戯に痛め付けられて行くばかりだ。

 やがて倒れ込んだ拍子に、宰はとうとう武器を放り出してしまった。

 炎の刃は地面に落ちた途端に消え去り、剣はただのライターに戻る。


「くっ……!」


 彼は懸命に手を伸ばしたが、その指先が触れる前に、男の手がそれを拾い上げた。


「勇気だけは認めてあげてもいいかな。しかし、簡単に武器を放してしまうようではまだまだだ」


 偉そうに言った空鳥は、何を思ったかホイールを親指で弾いた。

 すると、あろうことか先ほどと同じ──いや、それ以上の勢いで、燃え狂う刃がそこに顕現したではないか!


「な、んで……⁉︎ 何故、あなたも『曰く』を……!」

「私にも繋(、)が(、)り(、)があるからさ。……と言っても、皇木ではなく今(、)の(、)持(、)ち(、)主(、)と(、)の(、)、だけどね」

「……え?」

「君には関係ない話だよ。そんなことより、今はお仕置きの時間だ。父親の武器で折檻してあげよう」


 彼は容赦なく腕を振り上げた。

 宰は匍匐の姿勢から、喉を逸らしてその様子を見つめる。

 が、すぐに一度目を伏せると、


「……『苦しい時こそ笑顔が大事』……『しょっぱい涙もペロリと舐めちゃえ』」

「は? ──なんだい?」

「……シルキーちゃんなら、まだ諦めない……! シルキーちゃんは、どんな逆境にだって、あのアホみたいな笑顔で立ち向かうんだ!」


 青タンや擦り傷を拵えた顔で懸命に笑みを浮かべた。

 それを見下ろした空鳥は、暫時無機的な表情を見せ、


「……………………あっっっっっっそ」


 何の感情も込めずに言い放ち、右腕を動かした。


「「宰様!」」


 少年は、決して目を逸らさなかった。迫り来る炎の斬撃から。

 ──すると、その時。

 ビュンッと風を斬るを音と共に、ある白(、)い(、)物(、)体(、)が飛来した。

 その何かは急激に変化(カーブ)しつつ、得物を握る空鳥の手に食らい付く。


「──⁉︎」


 痛烈に指を弾かれた空鳥は、さすがに予想外の奇襲(こうげき)だったらしく、ライターを落としてしまった。

 剣から燃え狂う刃を奪った弾丸は、何の変哲もないシ(、)ャ(、)ト(、)ル(、)──


「……ナルホド。右と左とでは、本当に変化が違うのですね」


 たいして感心している風でもない声で、彼(、)女(、)は呟いた。

 舞台上にいた者たちは、みなトンネルのある方へと喫驚した顔を向ける。

 ──果たして。

 そこには何故か黒(、)巫(、)女(、)の(、)装(、)束(、)を身に纏った篝燎子──と、その後ろにデコボコ姉妹が立っていた。

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