鵺退治②
「よかった! 無事だったんですね!」
「まあ、なんとかね。このとおり、酷い有様だが。──とにかく、君は黒巫女になる必要なんてない。さあ、私と一緒に行こう」
そう言って、彼は大きな手を差し伸べた。
宰は元気よく「はい!」と答え、籐椅子から立ち上がる。
「お、お待ちください!」朱美は、慌てて少年の体に装束に縋り付いた。「我々は、もうあなたに頼るより他りません! あなただけが、たった一つの希望なのです! どうか、今一度お考え直しください!」
「で、でも──僕は、やっぱり黒巫女には……」
「このとおりですから! どうか、後生ですから! 私たち一族を見捨てないでくださいませ!」
「あ、朱美さん……」
稚児のように顔をクシャクシャにさせ、必死に懇願する姿は、ある種の憐れみを感じさせた。少年は沈んだ面持ちで彼女を、見下ろす。
──すると、彼の背後から。
音もなく腕が伸びて来た。
突き出されたその手は一丁の拳銃を握っており、黒い筒の先端を、斜め上から朱美の顳顬に突き付ける。
「──え?」
見開かれた彼女の目が動き、囁くような距離にいる死神を見たのと、ほぼ同時に──
引き金が引かれた。
──ドンッ。
銃声が鳴り響いた直後、朱美の頭の二箇所から、血と肉片が噴き出した。
その瞬間を唖然と目の当たりにしていた宰の顔に、わずかに赤い飛沫がかかる。
黒い白衣を掴んでいた手から力が抜け、朱美は少年の足元に崩折れた。
──途端にドンッ、ドンッ、ドンッと三発の弾丸が放たれ、彼女が床に倒れた時には、その頭はグズグズになっていた。頭蓋骨は無惨に砕かれ、血ミドロの髪の間から、掻き混ぜられた中身が覗く……。
「……………………な」
──ほどなくして、拳銃を握った手が引っ込められた時、宰はようやく後ろを振り返った。
「な──ん、で…………? ──どうして、こんな……⁉︎」
尋ねられた高村は、ワザとらしく考え込むように頬を掻き、
「うーん、どうしてと聞かれてもなぁ……。強いて言うなら──鬱陶しかったから?」
答えた彼に、悪びれる様子はいっさいなく、それどころかその仄暗い瞳の奥には、嘲笑いさえ仄めかしていた。




