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特攻娘Jチーム  作者: 加熱扇風機
第一話 特攻娘Jチーム
8/18

3-1 suicide attack

 今日もいつも通りに定時帰宅。


 研究所と缶詰工場を繋ぐ唯一の通路にある検問所で、預けた私物を全部返してもらう。


「兵器の方はどんだけ開発が進んだよ?」


 検問所の監視員が、内部機密の重要な情報を軽くおしゃべりする気分で聞き出そうとする。


 だがまぁコイツはここで出会ったオレの一番の友人だ。よく飲みに行く時にもあーだこーだ、オレの愚痴をちゃんと聞いてくれる良いヤツだ。


「それがさっぱりだ。こんなのじゃ1年経とうが永遠に開発は無理だぜ」


「だろうな……。ここを通る研究者全員、いつも落胆した顔で帰って行くからよ。もうダメなんじゃないかって思ってるんだが。最近はCAAのヤツが紛れ込んだじゃんか。もうこの基地も終わりだな」


「そうだな。オレももうこの仕事辞めようかと思ってる。捕まったら金の為に働いたのに、元もこうもないからな」


「なぁ、前に言った話、乗ってくれるか?」


「あぁ、そうだな。バーを開業して働くってのも、悪くないかもな」


「そうか! もう場所も何処にしようか決まったんだよ」


「それは次に飲みに行った時に話をしようぜ。ここで長い事駄弁ってたら、怒られるからな」


「あぁ、そうだな。それじゃまたな」


 オレは社員カードを返してもらい、地下研究施設から出た。


 エレベーターで地上に上り、業務終了した缶詰工場を抜けて表に出た。


 普通の研究員なら、施設内の居住区で暮らして毎日仕事をしているが、オレは自宅が近いのでこうして通勤が出来る。


 身分の方もそこらのヘボ研究員と違って、そこそこ持っているからこそだな。待遇が違う。


 後の仕事は下っ端の奴らに任せて、オレは自宅に戻ってから、行きつけのスナックを遊び周る。今日も一日ご苦労様って事だ。


 オレはエアカーに乗って自宅までのルートを選択して、椅子にもたれ掛けてしばしの休息を取ろう。オレの夜は長いんだ。今のうちに少し寝ておこう。


 ……なんだか今日はいつもより寝つきが早く感じる。その微睡の速さに、いつになく幸せを感じながら眠って行った。





 人気の無い廃工場に一台のエアカーが降り立った。


 Jチームと自衛隊がそれを取り囲み、銃を向けて近寄って行く。中に見える人物は、実に幸せそうに眠りこけていた。


 自衛隊の一人が手に持ったタブレットを操作する。そしてあっという間にドアが開いた。


 今のエアカー全てがリモコン式で開くようになっている。もちろん鍵を差し込んで開閉できるのも付いている。でもリモコンキーがあんな簡単に開けられると、鍵を差し込む形式の方が良いのか、わからないな。鍵式も結局は盗難が多かったようだし……。


 ガスマスクを付けた自衛隊が、中の男を引きずり出した。


 これだけの事をされても起きない彼は、睡眠ガスをタップリ吸っていて、いくら叩こうが耳元で叫ぼうが、しばらく起きることもない。


 この人の車内部に、昨日からJチームが睡眠ガスを発生させる装置を仕掛けて置いたようだ。


 そして自衛隊が彼の持ち物や衣服が手際よく取られていく。


 俺はその隣で剥ぎ取った物を自身に身に着けていく。


 今の俺の姿は、その彼と全く一緒の姿形をしていた。


 これは七姫の変装技術を使い、顔から体つき、体重までをもそっくりそのままに造り上げた物だ。


 七姫でなら変声機を使って、男性にも変装は可能ではある。


 しかし問題は身長差が余りにもあると、胴や腕、足の長さのバランスがどうしても調整が出来ない為、彼の様な長身にはそっくり化ける事ができない。


 その為に彼と身長が似ている俺が選ばれたと言う訳だった。


 この事にCAAが俺を使わないで、それに見合うアメリカ軍の兵士や自衛隊を使えばいいと言っていたな。


 けれど七姫は、そのような人たちが見た目だけそっくりになっても、絶対に上手くは行かないと言い切り、俺を押して行って今に至っている。


 俺は彼の靴から下着以外何もかもを着ていく。


「よーし、完ぺきだな。見た目そっくり、真宗(しんしゅう) (さこ)だな」


 顔も衣服も、そのぽっちゃりした体系も長身も、そっくりそのままだ。


「後は昨日一夜漬けで覚えたコイツのプロフィールと口調、仕草までを知り合い相手にどこまで通じるか、俺の技量って所か」


 昨日は朝までずっと、七姫の演技指導が続いた。七姫は思っていたよりも呑み込みが早くてすごいと言ってくれてたな。


「アナタなら大丈夫ですわ。ワタクシが納得いく仕上がりになりましたもの。さすがですわね」


「ははっ、ありがと。それじゃ、行ってくるよ。じゃなくて、行って来るぜ」


 オレは車に乗った。


「お気をつけて」


「頑張ってね! 応援しているわ」


「ご武運を」


「ファイトだよぉ」


「いつもワタクシたちが居ますわ。安心して、落ち着いて行動してくださいね」


 Jチームに見送られながら、オレのエアカーは元の基地へと飛んで行った。





 地下施設へのエレベーターを降り、長い通路を抜けていく。


 その先に検問所があった。それを見た瞬間、一気に緊張しだした。


 俺は鼻から静かに息を吸い、口からゆっくりと吐き出す。


 足取り、表情、目線。全てに集中し、そしてそれを自然と出していく。


 オレになるんだ。オレはオレなんだ。誰でもない。


 検問所に居る監視員がいぶかしめにオレの事を見ている。そりゃそうだ。さっき帰ったばっかなのに、戻ってきてしまったんだからな。


 オレは苦笑いしながらも、困った表情をして検問所の受付の前に立った。


「どうした? 何か忘れ物か?」


「忘れ物どころじゃない。やり忘れた仕事があったんだ。マジでヤベェ事をした」


 不安そうな表情で、焦った表情をする。


「マジで? それはヤバいな」


「頼むっ! また内緒で居れてくれっ!」


 オレは2か月前にも同じ失敗をしていた。


 この施設は管理がとても厳しく、こうして自宅通勤していく人物は全て、決められた時間に出社と退勤しないと、すぐにその人物が捜査される。


 この問題を起こすと、事と次第によっては抹殺されてしまう。


 なのでオレはこの友人の監視員の(はじめ)に頼みに頼んで、前に出社記録をオフにした状態でこっそり入れてもらった。


「前は成功したけど、今はちょっとな……。ほら、CAAが入ってきただろ。アレで警戒レベルが前よりずいぶん高くなってっちまってんだよ」


「そんな……。あぁ、どうしよう。あの仕事をしてないとバレたら、オレは……。絶対に殺される! マジでヤバいんだよ! あぁーっ! くそっ! 全部アイツがあの時に別の仕事を持ってくるからだ! すっかりそっちに気を取られて……。チキショウ! アイツが全部悪いんだ! あっ、アイツ……、まさかオレを殺して自分がのし上がろうって思ってワザと……」


 ぐちぐちと文句をその場で話し始める。


 東も困った顔をして、パソコンの方をちょこちょこといじっている。


「に、逃げないとヤバい! 東、オレは一足早いが逃げる事にするぜ。もしかしたらもう……、オマエとも会えないかもしれないな。バーを一緒に開業しようって言っていただろ。やっぱオレには無理だったんだ……」


「まぁマテよ。ちょっとマテ……」


 東は歯噛みしながらパソコンと対面していく。


 その間オレは、手を掛けたテーブルに人差し指の爪先でカンカンカンと打ち鳴らし、苛立ちを見せている。


「……わかった。居れてやれそうだ。今回も幸い、オマエの顔を知る人物は既に退勤てるぜ。既に居住区に移動して、研究施設には入ってない。今なら行けるだろ」


「マジか! よかった! 本当によかった! ありがとうっ!」


「もう今回限りにしてくれよ。オレだってバレたらどうなるか分からないんだから。何があっても、オレが居れたなんて絶対に言うなよ」


「わかってるぜ。今度はオレが全額奢りにするぜ。マジで恩に着るっ!」


 オレは持って居る物を全て東に預けていく。ここは衣服以外の私物の持ち込みは、一切禁止だからな。


「……よし、もう通っていいぜ。監視カメラの映像を録画した物にすり替えた」


「サンキュッ! 命の恩人だよマジで!」


「あぁ、退勤時間が分かってる奴らに見つかるなよな」


 オレは金属探知機のゲートをくぐり、何事もなく通る。そして研究施設内で使用する携帯タブレットや、ボールペンとかの色々な物を受け取る。


 検問所を離れ、オレは人目を気にしながら、廊下をどんどん進んでいった。


 ……ふぅ。なんとかなったな。


 七姫がプロフィーリングした通り、東との様々な会話パターンの芝居を練習したかいがあったな。


 俺は入手したタブレットを操作してみた。


 ……ダメだ。初期起動に暗証番号が必要か。こればかりは分かっていない。まぁこれは後で片付けよう。


 まずは安全な場所に移動しなくては。オレは既に考えてある場所を探して廊下を進んでいく。


 っと、目の前の通路から、武器を所持した兵士が2名歩いてきた。


 大丈夫だ。普通にしていればバレはしない。


 その距離が近づいていく中、あちらの一人がこちらに首を向けている。


 このパターンは知り合い事が多い。目線だけこちらに向いてすれ違う時は、知らない人、または社内でよく見るが話しをした事の無い人物と言うパターンだ。


 オレは声は出さずに表情だけで挨拶する。いつものオレの挨拶の仕方だからだ。


「今日は残業か?」


 あちらが声を掛けてきた。


「あぁ、今日中の仕事が終わらなかったからな。退勤時間延長してまでやらなきゃいけないとか、あーやってられねぇ」


「ご苦労様」


「あぁ、そっちもな。早く帰りたいぜ」


 何事もなくすれ違う。……怪しまれる雰囲気はなかったな。上手くいったか。


 そしてその先にトイレの入り口を見つけた。周りに誰も居ないのを確認し、俺は女子トイレの方へ入った。ここが俺の目的地だ。


 中には誰も居る気配はない。大丈夫そうだ。


 トイレに入ると開きっぱなしの個室トイレが6つ並んでいる。そのうちの一番奥の方に俺は入った。


 男子トイレだと個室の数も少ない上に、もし沢山の人が来て満席になった場合、いつまでも入ってると怪しまれるからな。


 なので個室の数が多い女性トイレにしたのだ。

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