2-3 Jチームからの招待状
俺はゆっくり座れるところを探して、辺りを見回した。
「あっ」
目線の先には、またもJチームの一人が椅子に座って寝ていた。
ゆっくりするかーっと思っていたのに、またJチームに関わるのか? っと思ったけど、あの人ならゆっくりできそうかも。
っと言う事で、俺はその人の隣の席へ座った。
「……すぅ……すぅ」
その人は俺が隣に座った事も気にせずに、眠り続けている。
彼女はフローラ・ハワード。25歳。
両親共にアメリカ人で、出身と育ちが日本であり、日本人だ。両親と共に日本で暮らし、西条プロジェクトに勤めている。
コードネームはママ。みんなからお母さんのように慕われている人だ。
主な担当はドライバーだ。
アースカーからエアカー、戦闘機、船も潜水艇だって、その道のプロ顔負けの操縦をこなすものすごい人だ。
ただあまりにもスゴイ操縦のせいで、トラウマを作っている人もいるけれど……。
「……すぅ……ふみゅ」
なんかすっかり寝ちゃってるな。
ちゃんと起きるのか? こんな油断しきってると簡単に襲えるな。なんか考えると不安になってくるな……。
なんたって美人だし、プロポーションだって出てる所はちゃんと出た、良い体しているものなぁ。大人としての魅力が漂う人だ……。
心配だな……。何かあったらちゃんと起きるのだろうか……。
ちょっと声を掛けてみるか。
「あのー……」
「ふみゃ? あ、はいー、なんでしょうか?」
起きたーっ! 案外あっさり起きるものだったんだな……。
重たそうな目を薄く見開いて、あくびをしている。
「あ、えっと……。どうも、白雪 佐助です」
起きるとは思ってなかったから、何を話すか考えてなかったから、取りあえず自己紹介しよう。
「あら? 白雪さんですか? いつも娘たちがお世話になっています」
そう言って深々とお辞儀する。俺もつられてお辞儀した。
「今日はあの白雪さんとついに話をするんだって、みんな楽しみにしていましたよ。ワタシも楽しみにしていました」
「そうですか。さっきほとんどの子たちと話しました。後話してないのは……。七姫とシマリスちゃんか」
「そうなのですか? シマリスちゃんなら、きっとお部屋の方でゲームをしてるかもしれないわねぇ。大人ばかりのパーティーじゃ、つまらないでしょうし」
「そうですね。一通り見て回ってきましたが、会場には居ませんでしたし」
後はあの七姫なのだけれど見かけてはいる。
そら主催の娘なのだから、かなり目立って居ている。父と一緒にお偉い方と会談して回っていて忙しそうだった。まぁアレもお嬢様である事の仕事だからな。
俺のような者が声を掛けるタイミングが無かったので、まだ話をしていない。
まぁメイドちゃんが言ってた通りなら後々出会えるだろうから、別に無理して会わなくてもいいのだが……。
「そうだ。シマリスちゃんの様子も気になるし、一緒に行きませんか?」
「え? 良いんですか?」
「えぇ、そのうちみんなで集まって会議をしないといけませんし、その前にお話ししていた方が、何かと早く会議も進むと思いますし」
こちらですと促され、フローラさんの後に着いて行く。
なんだか足元がふら付いて歩いているが、大丈夫だろうか?
「あの、大丈夫ですか? 足元がふら付いてますし。さっき寝ていたのも体調が悪くて寝ていたのでは?」
「あー、大丈夫ですよ。ワタシってお酒に弱くって。飲んじゃうとすぐに眠たくなっちゃって。普段飲まないのですけど、今日は両親の会社の祝いと言う事もあって、みんなで飲みっ……、いたっ!」
ぐらっ!
「あっ!? っと!」
フローラさんが変な方向に体重を掛け過ぎたのか、右足をぐきっとひねった。バランスを失ったフローラさんを慌てて後ろから抱いて支えて上げた。
「あ、あらら……。すみません。えっと……」
うわぁ、いい匂いがする。香水と違うこう、優しい香りがしている。ちょっとラッキーな役得を堪能し、そんな気持ちを察せられないように、すぐに紳士に対応する。
「大丈夫ですか? 足首とかひねってません?」
「それは大丈夫です。ありがとうございます」
「おい、白雪……」
「ん? げっ!」
俺たちの前に居たのはヤイバだった。
この状況、はたから見れば俺がフローラさんに後ろから抱き着いたにしか見えないのだが。
「うっ! これは! そのなっ! これはだな! 不可抗力で!」
「一部始終を見ていたからうろたえるな。取りあえずそこの椅子に運ぼう。そのままじゃ歩けないだろ」
ヤイバが指さした壁越しに置かれた赤紫のベルベット長椅子。俺はフローラさんの手を取り、ヤイバももう片方の腕を取りながら、フローラさんをそこまで運んで座らせた。
「ごめんなさい。普段使ってない靴だからか、バランスがとりにくいわぁ……。足先が痛い」
「フローラさんはいつもスポーツシューズですね」
たくさんの写真を撮ってきたけれど、フローラさんが履いている靴はいつもそれだった。
「運転をする時に一番良い靴なのよねぇ。今日はお酒も飲んじゃうし、運転はしないからと思って初めて使ってみたのだけれど……」
「初めてでカカトが10センチもあるのは危ないですよ。無理をしないで短めのパンプスなどにすればよかったのでは?」
「それはぁ……」
顔を赤くして俺の事を見てくる。
「その……、やっと白雪さんと会えると思ったら、張り切っちゃって……」
「え?」
「あ、でも会えるって言っても、既に会ってますよね。だったらこれって意味はなかったかしら……」
「ごほんっ! んっんー……」
ヤイバが咳払いをして注目を集める。
「それでママ。足首の方は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫よ。そんな思いっきりひねる前に、体を倒したのもあって。白雪さんがしっかり受け止めてくれたから、受け身を取る必要もなかったですし。衣装も汚れなくてすみました。ありがとうございます」
「いえいえ。どういたしまして」
受け身を取るつもりでいたのか。まぁ今までのJチームの戦いを見ると、みんな格闘戦になった時もしっかり戦えているな。柔道の心得もあるのだろう。
「あっ、そうだ。ヤイバちゃん。一緒にシマリスちゃんの様子を見に行かない?」
「ん? 別に構わないが。もう歩いて平気なのか? 先に医務室に行ってシップを張っておいた方がいいのでは? 明日に支障が出たら大変だぞ」
「シップくらいならシマリスちゃんの部屋にある救急セットにもあるわ。だから行きましょう」
「またそのハイヒールを履いて歩いても大丈夫かな? またくじいたりしませんか?」
「あっ、んー。それもそうですねぇ……」
「俺の腕を貸しましょうか? 支えになりながら行きましょう」
「えっ、それは……」
フローラさんが嬉しそうな顔をしてるが、困ったように俺の事をチラチラと見てくる。
「オマエはママにセクハラする気だな? 私が腕を貸す。それで行こう」
「もう、ヤイバちゃんったら……。無粋なんだから……」
フローラさんが口をとがらせて残念に言う。
「別に善意でやろうとしただけなんだけどな」
っと言っているが、実際の所は良い匂いで柔らかかったフローラさんに引っ付いてほしいと思っていたがな。
そしてパーティー会場を離れた通路を進み、警備員が守る扉の前までやってきた。フローラさんが警備員に挨拶して、壁に設置されたヘッドスキャンが作動する。
機械から緑色の光線が出て、フローラさんの顔を上から流れるように降りていく。
これもクロムテクノロジーが使われていて、表面だけでなく内部までスキャンしている。
つまりは歯型から頭蓋骨の形までも読み取り、本人確認をするセキュリティーだ。顔の表面だけを変装しても内側でばれる上に、頭蓋骨の大きさを変える事は絶対に不可能だ。
扉が開いて、俺たちは先に進む。
そしていくつかある廊下の扉の一つ、『NONOHARA MAO』と書かれたネームプレートの前に辿り着いた。
フローラさんがチャイムを押した。
「シマリスちゃん。ママよ」
そう言うと扉の鍵がカチャって開く音がした。
ヤイバが扉を開けて支え、先に入ってと進められた。
「お邪魔します」
部屋の中に入ると建物と同じで西洋風な造りをしていて、まるで高級ホテルの様な部屋。
っと言うイメージを覆す、壁のあちらこちちにキャラクターのポスターが貼られていたり、人形だとかがアンティークタンスの上に飾られていたり、テーブルの上に漫画が散らばっていたりしている。一目見て子供部屋と分かるな。
後は何も入っていない鳥かごが置いてあるな。アレはアレなんだろうな……。
「あーっ! お兄さんだっ!」
ソファーで横になって携帯ゲームをしていたシマリスちゃんが、起き上がってこちらを見た。
「やぁ、こんばんは。白雪 佐助だよ。現場じゃ裏方にいるから、こうして対面することは初めてだね」
「そうだねぇ。お兄さん、今回はよろしくっ!」
プラプラと床に届かない足を振りながら、敬礼をしてくる。俺もそれに答えて敬礼を返す。
この女の子がカルちゃんにハッキングした天才ハッカーのシマリスちゃんだ。名前は野乃原 真桜。まだ12歳の女の子だ。
クロム人ではなくて、本当に日本人の女の子ってところが驚くところだ。
彼女のハッカー技術は世界中の情報機関がスカウトする程の腕前で、あのクロム人でさえ絶賛するほどだからな。
なので普通とは違う、結構大変な日常を送っていた。
ある機関が誘拐とも言える行いでシマリスちゃんを拉致し、強制的に働かせたり、テロの集団に捕まって危険な目にもあっている。
そんな酷い事が多かった為に、まだシマリスちゃんが居なかったJチームに保護された。
今ではセキュリティーが安全な西条家に住んでいる。
それがきっかけで自分の能力は、Jチームだけにしか使わない事にして協力している。
まだ幼いので現場では戦いの前線には出ておらず、全て安全な後方での支援が多い。
写真を撮ろうとするとハデに戦う場面がよく売れるのと、シマリスちゃんが何処に居るかもわからないので、どうしてもこの子とは会う事が無い。
「ねっ、ねっ、今度からわたしも撮ってよぉ。お姉ちゃんたちみたいにカッコよく、美しく。わたしだけ撮られてないのって、なんか不公平だよぉ」
ソファーから降りて、こちらに近寄ってくる。
「いいの撮っても? あんまり撮られるの好きじゃないと思ったんだけど」
テレビカメラの前で、もうこんなの出たくないと泣き喚いていたことがあった。
「昔は嫌な事ばかりあって、ふてくされていたんだけどねぇ。でも今は違うよ。わたしもみんなみたいに活躍して頑張ってるぞーってところを書いてほしいんだよぉ。お兄さんの記事ってお姉ちゃんたちの事ばっかで、わたしの事は全然載ってないじゃん。わたしも書いてー。ねぇ、お願いー」
腕を掴まれてブンブンと振り回されて、願いを強請られる。
「わかったわかった。今度はしっかり書くから。その代り、色々と周りをウロチョロしたり、写真撮ったりするからな。それでもいいんだな?」
「いいよぉ。やった。それじゃ今度、あの服着て行こう♪」
シマリスちゃんはご機嫌に手を上げて喜んでいた。
「ふふっ、早速仲良くなって。シマリスちゃん。白雪さんにあったら、物申すんだーってずっと言ってたんですよ」
ヤイバが救急箱を持ってきて、フローラさんがその中からシップを出して右足首に張っていた。っと、スカートの中が見えそうだったので慌てて首をシマリスちゃんに戻す。
「うん、やっと叶ったよ。お兄さん。今度のお仕事、一緒に頑張ろうね」
「え? 一緒に?」
「聞いていませんか? まぁ聞いていませんね。外でこんな話するのは、絶対に秘密にしていますし。だから、めっ! ですよ。シマリスちゃん」
「あ、ごめんなさい。つい……」
「あー、じゃぁ話さない方がいいですか?」
「後少しすればわかる。そろそろ七姫も接待が終わる頃だろう」
今まで俺の情報網に引っかからないのに、こうして行動を起こしているって事は、相当な事を秘密にしてきているんだろうな。こんなところで話す事じゃないだろう。
「ね、ねっ! お兄さん。あのカメラ持ってきてないの? わたし、いつも持ってるあのカメラ見てみたいんだ。クロム人も納得するスゴイカメラなんでしょ。すっごい気になってるんだけど」
「今は持ってきてないな。さすがにパーティー会場に持ってきたら怒られると思って」
「そうなんだぁ……。残念。今度また会えたら見てもいい?」
「いいよ。見せてあげるね。普通は見せないけど、シマリスちゃんには特別だぞ」
俺は片目をつぶってウインクする。
「わぁ、ありがとう! お兄さんは優しいね♪」
よしよし。こうして点数稼ぎしておけば、写真撮る時にいい感じに撮れるからな。
あの難攻不落のヤイバだって、いつかは落として見せるぞっ!
「あの、ちょっといいですか?」
「え? なんですか?」
フローラさんに声を掛けられて、俺はそっちを向いた。
ガシッ!
「へっ?」
「えっ!」「なっ!」
フローラさんは俺の顔を両手でしっかりと掴み、そして自分の顔を俺へと近づけていく。
ツヤのある赤いぷっくりした唇。フローラさんが付けている香水の香りがふわりと漂って来る。透き通った外国人特有の蒼い瞳が、俺の目を逃さす見つめてくる。
「あ、あわわっ! ママがお兄さんとキスするぅーっ!」
「なななななっ! オマエっ! 不純だぞっ! 離れろっ! 離れてくれっ!」




