2-2 Jチームからの招待状
そしてパーティーが行われる会場へと辿り着く。外見はフランスの建築様式を取り入れた大豪邸で、4万1000平方フィートもあると言う事で、とてもでかい。そして家を取り巻いている庭なんかも1万8000坪もあるとかで、あの東京ドームの敷地面積よりも広いらしい。
建築費は約700億と東京スカイツリーを上回る総額を叩き出した。世界の大豪邸トップ10の中に新たに刻まれた有名な豪邸だ。
そしてここがJチームのリーダー、七姫の自宅その物であるのだ……。
彼女の本当の名前は西条 七海。17歳。
父はクロム人がやってくる前は、室町時代から続く名家の大貿易商の社長をしていた。
しかしクロムテクノロジーをいち早く取り入れ、財産をすべてなげうって始めた新事業で大成功をおさめた。
誰もがエアカーや宇宙船の開発事業に乗り出す中で、西条氏は深海へ向けての技術を求めた。
エアカーは今やデフレ期に入り、何千と言うエアカー産業会社が倒産か、合併の道を辿り、縮小化されつつある中で、深海プロジェクトを進めた西条氏の会社は、安定を保っていた。
そして2020年に大きな展開を迎えた。日本海近辺の深海にて、大量のレアアースを数々発見した。その資源は約300兆円にもなると言われている。
これらの資源はエアカーや宇宙船開発に必要なのもあるが、クロム人にとっても記録媒体や情報処理の演算にも必要な資源である為、クロム人からも資源の提供の代わりに、まだ人間には教えていない技術を授かった。
ここ6年間で世界に名を轟かす有名な株式会社西条深海プロジェクトは、世界各国の政治と社会にも影響力を与える程の存在へと上り詰めた。
そんな大富豪の娘だからこそ、色々と好き勝手やらかしても、警察も裁判所もその圧力に屈するのでお手上げである。
まぁそれだけでなく、理に適った行いをしているので、人々からの人気も高く、ヒーローとして扱われているので、余りJチームの事を悪く攻めると大勢のファンからの非難を受けて、肩身の狭い事になる。
そんな天と地の差がある存在から、このパーティーの招待状を受け取るなんてな。それを周りに言うだけでものすごい事なのだが、カルちゃんの一件もあるので、秘密にしてやってきた。
俺は受付であの招待状を出した。
手荷物検査なんかがみんな行われていたが、なんか俺はVIP扱いだったのか、そのまま通してくれた。
手荷物検査で隠しカメラに引っかかるかなと思っていたが、拍子抜けした。
隠しカメラを使って、色々と撮ってもいいのだろうか? 俺はパーティー会場に入った。
中はそれはもう豪華な大広間がそこにはあった。映画で見たようなシャンデリアがキラキラ。テーブルの上の花飾りは眩い限りに咲き誇り、中央には室内であるのに噴水が拭きあがっている。
「すっげ……」
予想はしていたけど俺の予想は超えたその内装に、ちょっと度肝をぬかしている。
そして案内板を頼りに、パーティーが行われる会場へ歩き出した。
今回のパーティーの主催内容は、大貿易商をしていた時の方の初代社長、西条家にとってはご先祖様の誕生日を祝う催しだ。
顔ぶれは西条プロジェクトのお偉い方の顔もあるし、今でも続いている西条貿易会社の人たちもいるな。
別にそれ程詳しくはないけれど、ちょいちょいと俺の顔見知りの人たちもいるのだ。
Jチームを追う中で、七姫の行動を教えてくれる様に買収や協力してくれる人たちが、しっかりと紛れ込んでいる。
少し試すかな。
俺はその人たちの横を通り過ぎるが、完全に無視される。
それでいい。もし無視しないで声でもかけたら縁を切る事にしている。その為のチェックを入れた。
もうその人と繋がりがあるとバレた時点で、その人は使えなくなるからな。
「失礼します。白雪 佐助さん」
って、誰だ話しかけてきたヤツは? もうこれで情報提供料は払わないからな。
俺は声を掛けられた方に振り向いた。
「……あっ!」
「ルイノハマです。こうして話すのは、初めましてですね」
俺の目の前に居たのは、Jチームのメンバーの一人、メイドちゃんと言われる人がそこに立っていた。
そしてこの人はクロム人だ。
人間と変わらない外見をしているが、カチューシャから伸びた2本の尖った機械部分がある。何かのアンテナになっていると言われているな。まだ誰もその部分が何かは知らない。
「初めまして。白雪 佐助です。今日はご招待いただき、誠にありがとうございます」
「そんなおかたくならなくても、よろしいですよ」
メイドちゃんは優しく微笑んで対応してくれる。その微笑に、俺は癒される。
Jチームにはファンクラブはもちろん設立されている。そしてこのメイドちゃんはJチームの中でも一番人気がある。
その風貌とメイドとしての萌え要素に、機械としての洗練された美しすぎる戦い方などで、色んな方面で人気を集めている。
そしてJチームの戦闘ステータスでは、メイドちゃんは群を抜いて強い。
俺もメイドちゃんの戦い方には、惚れ惚れする所があるからなぁ。こうして話しかけられるなんて、なんか嬉しいな。
「西条家主催のパーティーにお越しいただき、ありがとうございます。しばらくの間ですが、ごゆるりとパーティーを楽しんでください」
「あ、はい。ありがとうございます」
しばらく? っと言う部分が気になったが、まぁやっぱ俺のような者が呼ばれた事には、しっかり意味があるからな。
普通なら会社関係の人たちの集まりのパーティーの中に、Jチームの追っかけが誘われているのはおかしいからな。
「後程、白雪様にはご用事で再びお声かけます。よろしくお願いします」
「わかりました。それじゃその間は、色々と楽しませてもらいますね」
メイドちゃんはにっこりと笑いながら、浅くお辞儀するとその場を去って行った。
おー……。あのJチームとついに会話が出来たぞ。
Jチームを追い掛けて1年が経つ。近くに居ながら写真しか撮る事しかできなかった。最初の頃はウザっと言う目で見られながらも、ひたすら追い続けた。完ぺきにストーカーだったな。
最近じゃこちらに向かってしっかりポーズまで取ってくれるようにもなったりと、俺の写真に写ってくれるようにもなってくれた。
次第に俺たちとの間も、身近になってきたんだなぁ……。
パーティー会場に入ると、社交パーティーがそこでは行われていた。
俺はドリンクを運ぶ人のオボンからカクテルグラスをもらって、その中身を飲んだ。なんのカクテルか知らないが美味しいな。食事の方もこれまた豪勢だ。
せっかく来たんだから、食べて飲んでいくかな。
俺はアスパラに生ハムが巻かれ、銀の爪楊枝みたいなものに刺さった物に手を取って、それを食べる。うん、めっちゃ美味しい!
俺はそうしてしばらくの間、美味しい食事と飲み物を堪能した。
ははっ、食うと飲むしかやる事がないや。隠し撮りと言っても、撮ってもしょうがない人ばかりだし、話し相手になりそうな人も見つからない。
今一人になってる女性とでも世間話でもするか? Jチームに関する情報がアレバ聞き出したいな。俺はそう思ってターゲットを探して周りを見渡す。
ん? アレは……。
タキシードやドレスを着ている中に浮いた、一際目立つ和風の衣装を着ている人を見つけた。
髪を頭の上で結い、そのうなじが見えている。俺はあの部分にぐっとくる。色っぽいよねぇ。
いつもの服装と格好が違うが、俺はその人物の後姿だけでもわかった。
俺はドリンクを二つ持って、その人に近づいた。
こんにちは。そう声を掛けようと思った瞬間、その女性がこちらに急に振り返った。
「なんだ。あのカメラマンか」
「あ、ど、ども」
和服美人と言うのは、この娘の様な事を言うんだろうなって言う程の美人だった。
蒼色の着物に、白いウサギが飛び交っている模様をしている。
まだ18歳なのにこんな姿をしていると、凄く大人びているな。
彼女の名前は剱持 佳織。Jチームの一人で、コードネームはヤイバと言われている。
彼女は南海流剣道場の師範の娘で、その刀捌きの腕に関しては天下一品だ。
機動力を活かした素早い立ち回りで、敵はあっと言う間にその場に倒れていく。
Jチームの中でタイマンの戦いでは誰よりも強い。戦国乙女と言った少女だ。
「何か様か? まさか写真を撮らせてくれと言うのではないな?」
「あ、あはは、違いますよ。せっかくこうして近くにいるのですから、お話しようかなーって」
このヤイバは写真に滅多に撮れないレアな子なんだよな。
かなり恥ずかしがり屋な性格の子だ。写真に撮る瞬間、そんな動かなくてもいいと言うくらいに動いて、被写体が完全にブレた写真ばかりが撮れてしまう。そしてあっという間に逃げられてしまう。
「そのブローチだな。それで写真を撮っているのだろう?」
そう言って指さされたのは、俺の胸元のポケットに付いた、銀細工のブローチだ。銀杏の形をしていて、ちょいちょい宝石が散りばめられている。
「だったら見てみる? ちゃんと本物のブローチだけど」
そう言って俺はブローチを取って、それをヤイバに渡して見せた。
渡された瞬間、いぶかしめな表情をした。裏表を一回見ただけで、すぐに返した。
「自信満々に渡されたら、私の勘違いに間違いないな。なら、何処に隠しているか……」
そう言って俺の頭から靴までじっくり観察されていく。
はははっ、もう君はそのカメラを一番最初に目にしていると思うぞ。わからないかね。
俺はどやっと見せつけていく。
「……むぅ」
悔しそうに歯噛みしている。どうやら見つけられなかったようだな。
「いいか。この私の姿を絶対に記事には載せるなよ。載せたら七姫に言いつけて、会社ごと潰して、その写真を抹消するからな」
「わかったわかった。これは俺の大切なコレクションにするよ」
「おかずにもするなっ!」
ひゅんっ!
ヤイバが一瞬腕を目の前で振った。と思ったら、俺の蝶ネクタイがはらりと落ちた。
どっから切れる物を出した? 全く目に留まらなかったぞ。
「次はオマエの首が飛ぶぞ」
「わ、わかった。消去しておくから。絶対に」
「ふんっ! 全く、なんでコイツと一緒に仕事しなきゃ……ぶつぶつ……」
ヤイバは機嫌悪そうに愚痴を言いながら、その場から立ち去って行ってしまった。
変な騒ぎを起こしたので、周りの人たちがこちらを冷たい目で見ている。
この場にいるのも気まずくなったので、ちょっと外の方に行くか。
階段を上がり、2階のオープンテラスへと出た。
余り人はおらず、春の暖かな陽気な風が穏やかに吹き流れる。居心地もよく、パーティー会場で演奏される音楽もここでは静かで、安心できる空間だった。
少し酔いを醒ますか。




