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特攻娘Jチーム  作者: 加熱扇風機
第一話 特攻娘Jチーム
3/18

2-1 Jチームからの招待状

 俺は自社のサテライトイレブンへ戻った。


 主に日本各地で起こる事件をまとめた内容のスクープ雑誌を販売している。


 カメラマン兼ジャーナリストとしてここに勤めている。


 俺の仕事は事件がある場所に行き、そこで情報を得てくる事だ。


 そして得た情報を会社に持って帰り、それを報告して終了だ。


 まぁ俺は文才が無いので、そっちの方はパートナーである赤城(あかぎ)へと伝えて、全てを任せている。彼の書く文章は、見ていても分かりやすく、そして面白くて人気がとても高い。


 その赤城のディスクへ俺は向かった。


「よう、調子はどうだ?」


「おー、佐助。暇だ。なんか情報をくれ」


「もうアレだけの仕事を片付けちまったのか? 相変わらず仕事が早いな」


「ビックニュースなら丁寧な仕事で時間をかけてやるさ。でも今の所、ちょいちょちとした事件しかないだろ。泥棒、万引き、犯人が分かってるような勢いの殺人。有り触れた人の記憶に残るようなインパクト無い事件を真剣に書いた所で、読者が硬すぎるー。熱くなりすぎー。とか思うじゃん。だから手を抜いてやるもんなんだよ。これくらいの物は」


「まぁこっちは文才がないから何も言えないけどな。オマエの書いた記事はそれでウケが良くて、売り上げが伸びてきているんだものな」


「佐助の写真のお蔭でもあるんだぜ。あんな迫力ある写真がなきゃ、俺の記事だってインパクトが弱いっての。で、戻ってきたってことはなんか撮ってきたんだろ。見せろよぉ」


 俺はカメラに入っていたSDカードを渡した。


 今日撮った分の写真が、赤城のパソコンの中へ転送されていく。


「ふーん……。スリの瞬間に、女子高生のスカートの中を盗撮、暴走車、後は風景写真大量っと。またかぁ。今日も収穫が今一だな。使えそうなのは盗撮だな。痴漢を叩きまくって読者を煽るか。でもこの暴走車の写真も中々いいな。これも使ってみるかな」


「そんなしょっちゅう大きな事件が起こっていたら、大変だっての。確かに俺たちにとっては、事件は食い扶ちだけど、平和な方が何よりだよ」


「いっそ風景写真の雑誌にでも作るか? 俺は佐助の風景写真は好きだけどな」


 赤城はデスクトップに俺が撮った風景写真を背景によくしてくれている。なのでちょいちょい撮ってきてやってるんだよな。


「そんな暇そうにしてるんなら、Jチームの情報とか探してくれよ。そろそろ行動を起こしてもおかしくない時期だからな。オマエの暇そうにしてるのと同じで、あっちもずっと大人しくしてるような、青春真っ盛りなお嬢様じゃないんだからさ」


「暇だから調べたけど、何もなかったぜ。んー、まぁ行動を起こしてもおかしくはないと、俺も思ってるから、色々と調べたんだぜ。でも収穫がないわ。どうしたんだろうな?」


「誰かが病気か怪我でもしたかな? しばらく活動停止しているのか……」


「そうなると俺たちもおまんまの食い上げじゃねぇかよ。俺たちはJチームが売りでやってきてるんだぜ。はぁ……、なぁ佐助。俺たちも事件があったらその場に行って、写真とか情報を集めようぜ」


 この話は赤城とパートナーを組んでからずっと続いているやり取りだ。


「嫌だ。俺は誰でも撮れそうな物を撮る気はない。他社の奴ら既に事件に群がり、その情報をさも自分たちの方が面白いんだと、あれこれの解釈を付け加えていくのが気に食わない。俺は、俺でしかできない情報を掴んで、みんなに見てもらいたいんだ」


「はぁ……。まぁ俺たちのニュースは確かに他社や社内の他の奴らにはマネできないトップスクープとして、人気があるけどさ。ノルマ達成が遅くても社長がまだそれで許してくれているけど、飽きられたら終わりなんだぜ」


「だからこその一発逆転のJチームじゃないか。神出鬼没。そして人をあっと驚かす出来事をやり遂げる。他の記者があの子たちに関わろうとすると、まるで霧のように居なくなる。誰もが知りたい彼女たちの出来事なのに、俺以外だれもそれを掴むことが叶わない。俺でなければいけないんだ。俺は追い続けるぞ。何がなんでもJチームを」


「ある意味ストーカーだぜ。そのうち入浴中を隠し撮りなんてすんなよな」


「するか! しかしホント音沙汰がないな……。俺のJチーム専用の情報網にも、何も引っかからないんだからな……」


 俺はスマートフォンを取り出した。


 細かい事でも何でもいいから、Jチームのメンバーたちに何かあるのなら連絡を入れてくれるようにしている。


 ちょいちょい彼女たちの私生活の行動の情報は入るが、その情報の中からJチームとしての活動を始める行動が見られないんだよな。


「あんまりJチームばっかり追ってると、社長もいい加減他の方にも目を向けろって言いにくるぞ」


「あぁ、わかってる。ただ一つ言わせてくれ。何もない事の裏には何かがあるんだ。この音沙汰の無い状況にも、何かが起こっているものなんだよ」


「ふーん。まぁ情報集めの分野じゃ俺は佐助には全くかなわないからな。そっちの方は任せるよ。取りあえず俺は暇だ。もういっそのこと、ちょっとした物でもいいから数多くくれ」


「この仕事中毒者め。たまには彼女とか作る為に合コンにでも行ってろ」


「んな所いくかよ。俺はカルちゃんを狙ってるんだからさ」


「何か呼びましたか?」


「へ? あっ! なっ!? カルちゃんっ!」


 デスクワークはそれぞれ頭ちょっとある高さの壁で仕切られていて、その壁の向こうから首を出してこちらを覗き込む女性が居た。


 女性と言っても、彼女の顔を見れば一目散に分かるが、目が人間の瞳と違ってカメラのレンズの中のようになっていて、頬の端っこには繋ぎ目がある。


 彼女はクロム人のヒューマン型だ。けど一つ違う所は足がなく、スカートのように広がった腰元から、フワフワと宙を浮かんでいる状態で居る。


 なのでこれくらいの高さの壁は、浮かんでしまえば頭から覗き込める。


「御用はなんですか? お茶ですか?」


「え、い、いや。なんでもないんだ。ごめんね」


「ん?」


 カルちゃんは首をひねって何だろって表情したけど、俺の方を見て、パッと顔をほころばせた。


「やっと帰ってきてたのですね。実は佐助さんに直接渡してほしいと言う手紙を預かってます。すぐにそっちに行きますね」


 頭がひょいっと隠れた。自分のディスクの方に置いてあるその手紙を取りに行ってるだろう。


「……はぁ。バ、バレたか? カルちゃんに俺の気持ちが」


「もう告ってしまえよ。でないと、いつまでもこのままだぞ」


「うるさいな。地球人とクロム人の恋愛は難しいんだぞ。他の例も見ても色々とあるしさ……」


 まぁ確かにな。


 クロム人が一般人と交流を深めてから12年間。


 人間とクロム人が結婚した事例はまだ4件しかない。


 色々と言われている事の中に、生物として繁殖行動の問題が事が大きく取り上げられている。


 人間にはDNAがある。そのDNAを男女で分け合い、そして子供が生まれてくるのだが。


 クロム人にはDNAがなかった。DNAとは違う組織構造を持って居て、クロム人たちにとってはこれをパーテルと言っている。


 そしてクロム人たちの繁殖行動は、そのパーテルの入った体の一部を切り離し、他のクロム人も同じく切り離した体の一部と結合し、交じり合う。


 そしてその合わさった体が成長していき、子供が生まれていくと言う物だった。


 人間とクロム人とでは、繁殖行動自体の違いがあり、そして子供を作るにしても組織的な構造の違いから子供は作れない。


 こういった問題もあり、人間とクロム人たちの間で恋愛や結婚の議論は、今でも険しく行われている。


 そしてその中でも結婚は4件しかない。こうした赤城のような恋愛としてまでの物は、世界中どこにでもよく見受けられるが、結局同じ種族に落ち着く方が圧倒的に多い。


 人間とクロム人の他にも、同性愛とか色々と昔からよく問題があったけど、恋愛と言うものはホント、難しいものだな。


「俺はカルちゃんが好きだけど……。それを言ってカルちゃんが迷惑になり、色々とあると傷つきそうで怖いんだよ」


「まぁーなぁ……」


「取りあえずまだ保留だ。絶対にカルちゃんには言うんじゃないぞ。他の奴らにもだぞ」


「だったらあんまり大きな声で言わない方が良いぞ。いくら仕切られた所と言っても、さっきみたいに結構筒抜けなんだからさ」


「うぉっと……」


 まぁ社内の人間なら既に誰でもこの事実は知ってるんだけどな。今のようにでかい声でいつもカルちゃんの事で俺と話をするから。


 もしかするとカルちゃん自身も、このことは知ってるんじゃないかな……。


「お待たせしました。ついでにお茶の方も入れてきたので、ちょっと遅れてしまいました」


 話の終わりにタイミングよく、カルちゃんが赤城のデスクワークに入ってくる。


 手に持つおぼんには、コップの上に蓋が付いているのが乗っている。


 カルちゃんがおぼんの横に付いたスイッチを押すと、コップを手に取って赤城へ手渡してくれる。


「ありがとう。カルちゃん」


「どういたしまして」


 おぼんはスイッチを押すと接着して離れない。これは俺が使ってるフックショットと同じ原理だそうだ。


 後はコップについた蓋もボタンを押せば簡単に外れる。


 落として中身を床にこぼす心配がない、便利な道具だ。


 むかしはこれでよくこけて、お茶をこぼしてドジっ娘キャラなんて言う流行があったけど、もうこの道具があるので大丈夫だな。いや……、もしかすると接着し忘れちゃった、てへっ☆なんて言うドジをしてキャラを作るのかもしれない。 遅すべきドジっ娘キャラ……。


「それでこちらが手紙です。差出人は二十歳以下の女性と言う事以外は不明なんです。ここにやってきて直接手渡してきたんです。そして佐助さんに直接渡そうとしていたようですが、居ないので帰ろうとしていたのですけど、私が責任もってお渡ししますと言うと、しばらく考えた後にやっと渡してくれました」


「ふーん……、その人の姿は分かる?」


 俺は手紙を開けながら、カルちゃんに質問をする。


「はい、ちゃんと覚えていますよ。赤城さん、パソコンお借りしていいですか?」


「どうぞ」


 そう言うとカルちゃんは、パソコンに繋がれたUSBのハブを手に取って、左の二の腕の人工皮膚のフタを開けると、USB同士で結合する。


 しばらくするとパソコン画面に、カルちゃんが直接見た映像が流れ出す。


 そこには手紙を渡しに来た女性が映し出されている。


「この人です」


「ん? んー、わからん。誰だろうなこれ?」


「ふふっ、はははははっ!」


「佐助?」


「どうしたんですか?」


 俺はその女性の姿を見て大笑いした。


「くくっ、ご、ごめんっ! あまりにもおかしくて、ついね。この手紙の主は、あのJチームのリーダー、七姫(ななひめ)から直々のパーティー招待状だ。そしてその画面に映っている人こそ、七姫だ」


「嘘っ!? 変装の名人って言うけど、本物が来たって言うのか? ここにっ?」


 俺は読んだ手紙を赤城に渡した。


「俺の目にはごまかされないぞ。いくつもの七姫の変装を見てきたんだ。その目と目の幅、首の細さ、肩幅、指の長さから細さ、手首の太さ。全く彼女と一緒だ。そんな細かい所まで全て変装する事もあるけど、これくらいの変装でも手間は掛かるものだからな。今回の変装はお出かけ用と言ったものだな」


「わざわざ七姫がここまで手紙を渡しにって……。しかもパーティーの招待状を佐助にって、一体なんなんだよ?」


「ま、アレだけJチームの事を追い掛け回して食い物にしてる俺だからな。パーティーにでも呼んで、そこで直接愚痴を言われるかだろうな」


 面白い。まさかこんな事をあっちから仕掛けてくるなんてな。


「でも行ってやるよ。アレだけ近くにも居ながら、Jチームとは一度も会話したことないからな。今までこちらは追って、撮るだけでってのも味気ないと思ってたから、会話が出来るとしたら楽しみだ」


「大丈夫か? 消されたりしないだろうか」


「Jチームは正義の味方だ。そこまではしないと思うが、キツイお灸はすえられるだろうな。それでも俺はこの仕事を辞めたりしないから安心してくれ」


 俺は赤城から手紙を返してもらった。


「カメラを持っていくと怒られるだろうが、んな事しったこっちゃない。こっちはプロなんだ。隠しカメラを持って行くぞ。カルちゃん、いくつか装備を持ってくから、許可書をお願い」


「わかりました。気を付けて行ってきてくださいね。え? アレ? アレレっ?」


 カルちゃんがUSBを外そうとした時、頭がフラフラとし始めた。そして倒れそうになる。


「どうしたんだ?」


 俺たちは慌ててカルちゃんの体を支えてあげた。


「あぅー……。びっくりしました。なんか今、私の情報内部にハッキングされたようです」


「ハッキング? 大丈夫か?」


「はい、えーっと……。あっ! さっきの映像が無くなってます!」


「え?」


 それを聞いて赤城のパソコンを見た。そのパソコンの画面にはさっきまで流れていた七姫の映像が無くなっていた。


「どうしましょう。ごめんなさい。せっかくの映像が……」


「いや、いいんだ。別に有ろうが無かろうが問題はなかったし。しかしハッキングか……」


「後、私の中に新しく追加された物なのですけど。勝手に侵入しちゃってごめんね。シマリスより。っと言うメッセージが残ってます」


「あぁ、シマリスちゃんの仕業か」


 シマリスちゃんはJチームのメンバーで、機械分野に長けた存在だ。


 未だ多くの人間の学者やプログラマーがクロム人のクロムコンピューターの仕組みを理解できない中で唯一、人間として仕組みを理解した日本人の女の子が居る。


 コードネームをシマリス。みんなからはシマリスちゃんとして呼ばれている。


「ここまですると言う事は、どうやら七姫がここに直々に来たことを隠したいようだな」


「そうですねぇ。なるべくこの事は、社内にも漏らさないようにしますね」


「そうしておいた方がいいだろう。さてと、パーティーは明日の18時か」


 Jチームと初めて直接対面出来るかもしれないこの機会。一体どんな事が起こるやら。


 ついに彼女たちと直接話し合いができると思うと、高鳴る興奮を抑えきれず、その日はなかなか眠りにつけなかった。

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