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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
外縁祠群と星見台の先

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第65話 小祠一が、輪の地図に入った

 小祠を見つけた次の日、入口祠の前には小さな作業台が出されていた。


 作業台の上には、リタの祠地図が広げられている。入口祠。環祠。星見台。小祠候補。昨日まで点線だった枝道の先に、リタは小さな丸を描いていた。


 小祠一。

 まだ眠る。

 返事あり。


 その文字は少し小さく、でも前より迷いが少なかった。


「今日は、この小祠一を正式に地図へ入れる」

「正式に、ですか」

「うん。起こしきるんじゃなくて、祠地図にちゃんと登録する」

「登録と起動は違うのですね」

「違う。登録は、場所とつながりを認めてもらうだけ。起動は、中の機能を動かすところまで行く」

「では、今日は登録だけ」

「そう。そこ大事」


 ミオは透明板を祠地図の上にかざした。


 板越しに見ると、リタの描いた薄い線の上に、さらに細い光が重なる。入口祠から環祠へ。環祠から星見台へ。環祠から小祠一へ。


 まだ、輪ではない。


 けれど、ただの点でもない。


 白狐は作業台の横に座っていた。今日も暗い穴の話はしていない。ミオも聞かない。聞けば気になる。気になれば触りたくなる。だから、今は小祠一だけを見る。


「白狐さん、今日も暗い穴は触らない」

「はい。今の発言は、とてもよいです」

「そんなに?」

「とてもです」

「白狐さんがそこまで言うと、逆に怖いんだけど」

「怖がるくらいで、ちょうどよいです」


 白狐の声は静かだった。


 ミオは透明板の端を指で軽く叩いた。


[SHRINE MAP:UPDATE MODE]

――――――――――

対象:小祠一

状態:睡眠

枝道:確認済

地図リンク:仮受理

登録処理:未完了

――――――――――


「登録処理、未完了。やっぱり、村側の地図にも正式に入れる必要がある」

「昨日の地図では足りなかったのですか」

「仮だったからね。たぶん、祠側も『見つけたのは分かった』くらいで止めてる」

「祠が、確認待ちをしているのですね」

「うん。そんな感じ」


 リタが筆を持ち、少し緊張した顔で地図を見ていた。


「私、線を濃くしていいんですか」

「いきなり全部濃くしない。枝道の確認できたところだけ。小祠一までの道は、昨日歩いた分だけ」

「はい。歩いた分だけ」

「あと、曲がったところは曲がったまま。きれいに直しすぎない」

「え、直さないんですか」

「直しすぎると、現地と合わなくなる」

「なるほど……」


 リタは筆先を地図に置いた。


 入口祠から環祠までは、少し濃い線。環祠から小祠一までは、点線をなぞるように、細く、でも昨日よりはっきりした線。


 途中で白石を見つけた場所には、小さな点。


 ベンが横から小石を置く。


「ここ、昨日光った石」

「うん。そこ」

「ここは虫がいたところ」

「虫はいらない」

「でも、道から外れた場所の印になるかも」

「……それは少しだけあり」

「虫印?」

「虫印はやめよう」

「じゃあ、外れそうになった場所」

「それなら書いていい」


 リタが地図の端に、小さく「外れやすい草」と書いた。


 ミオは笑いそうになったが、止めなかった。


 地図はきれいなだけでは役に立たない。実際に歩いた人が、ここで迷いそうになった、ここで石を見つけた、ここは草が深かった、と残す方がいい。


 ベンの虫も、少しだけ役に立った。


 少しだけ。


 神官は入口祠の前で、麦と水を用意していた。今日はそれに、小祠一の前にあった古い小石と同じくらいの大きさの白い小石も添える。ベンが選んだ石だ。


「この石でいい?」

「形が丸くて、置きやすそう」

「転がらない?」

「たぶん」

「たぶんは危ない」

「じゃあ、置いてみて転がらなかった石」

「それならよし」


 ミオがうなずくと、ベンは少し得意げに石を小皿に置いた。


 白狐がその皿を見た。


「供物ではなく、印の石ですね」

「うん。祠に食べてもらうものじゃなくて、場所を忘れないための石」

「よいと思います」

「アブラアゲじゃなくても?」

「アブラアゲは別格です。ですが、印の石には印の石の役目があります」


 白狐は真面目だった。


 ベンが小声でリタに言った。


「アブラアゲは別格なんだ」

「うん。たぶん神獣様の中で」

「地図に書く?」

「書きません」


 ミオは聞こえたけれど、聞こえないふりをした。


 神官が入口祠へ手を合わせる。


「本日、環祠から伸びる小祠一を、祠地図へ加えます。まだ眠る祠を、眠るものとして迎え、道を忘れぬよう記します」


 村人たちが静かに頭を下げた。


 ミオは透明板を祠地図へかざした。リタの線、ベンの小石、神官の言葉、村人の視線。全部が、板の奥で薄い層になって重なる。


 コードだけではない。


 祠は、こういうものを見ている。


 たぶん。


[MANUAL MAP:SYNC]


 表示が出た。


 リタが息を止める。


 地図の上で、小祠一の丸がぽうっと光った。


 次に、環祠から小祠一へ伸びる線が、ゆっくり明るくなる。


 ほんの短い線だ。


 でも、昨日よりはっきりしている。


 村人たちの間から、ほう、と声が漏れた。


「光った」

「小祠まで」

「昨日の道だ」


 ミオは透明板の表示を読んだ。


[SMALL SHRINE 01:REGISTERED]

[BRANCH PATH:ACCEPTED]


「小祠一、登録。枝道、受理」

「受け取られたんですね」

「うん。受け取られた」


 リタが筆を持ったまま、目を潤ませていた。


「私の線、曲がってましたけど」

「曲がった道だから、それで合ってた」

「よかったです」

「むしろ、ちゃんと曲がってたから通ったのかも」

「じゃあ、曲がりも大事ですね」

「大事」


 ベンが小さくうなずいた。


「虫の場所も?」

「虫は、少しだけ」

「少しだけ大事」

「そう」


 ミオは笑った。


 その時、入口祠の石が淡く光った。


 ぽう。


 白石道の入口が、昨日より長く光る。入口祠から村の外へ。白石道の石が一つ、二つ、三つ、四つ。前よりも先まで、光が続く。


 そして、遠くの方で、もう一度だけ返事があった。


 ぽう。


 小祠一の方角だった。


 村人たちが声を上げた。


「今の、小祠か」

「外の祠が返した」

「道が、向こうまでつながったのか」


 全部はつながっていない。


 ミオには分かる。


 光は途中で止まっている。枝道の全部が見えたわけではない。小祠一も、眠ったままだ。起動ではない。完全復旧でもない。


 でも、村人たちには十分だった。


 入口祠で地図を更新したら、外の小祠が返事をした。


 それは、分かりやすく気持ちいい。


 ミオも、素直にうれしかった。


「白狐さん、今のは」

「はい。よい反応です」

「よかった」

「ただし、起こしきってはいません」

「分かってる。今日は登録だけ」

「はい。今のミオは、よいです」


 また、少しほめられた。


 ミオは変な顔にならないように、透明板を見た。


[SHRINE MAP:UPDATED]

――――――――――

入口祠:登録済

環祠:登録済

星見台:弱応答

小祠一:登録済

枝道:受理

輪形成:一部進行

暗号化スロット:未解析

――――――――――


 暗号化スロット。


 ミオの目がそこで止まった。


 暗い穴のことだ。


 白狐も気づいたらしい。尾の先が、少しだけ動いた。


 ミオはその行を開かなかった。


 透明板の表示を、そこで閉じる。


「今は見ない」

「はい」


 白狐の返事は短かった。


 ミオは村人たちの方へ向き直った。


「小祠一は、地図に入りました。まだ眠っています。でも、入口祠と環祠と小祠一は、互いに場所を覚えました」

「場所を覚えた……」

「次に行く時、道が分かりやすくなると思います。祠道も、少しずつ戻ります」


 神官が言葉を継ぐ。


「無理に起こすのではありません。見つけ、記し、礼を置き、道として迎える。それを重ねていきます」


 村人たちはうなずいた。


 強い歓声ではない。


 けれど、顔が明るい。


 昨日まで、村の外の祠はただの古いものだった。今日は、地図に入った場所になった。次に行ける場所になった。


 それだけで、村の外側が少し広がる。


 リタは地図帳を閉じず、光が消えたあともずっと見ていた。


「この地図、増えていくんですね」

「うん。少しずつ」

「全部つながったら、輪になるんですか」

「たぶん」

「輪になったら、何が起きますか」

「まだ分からない」


 ミオは正直に言った。


 リタは怖がるかと思ったが、少し考えてからうなずいた。


「分からないなら、薄く描きます」

「それでいい」

「分かったら、少し濃くします」

「それがいい」


 白狐が静かに言った。


「よい地図の作り方です」


 リタは照れたように地図帳を抱えた。


 ベンは小石袋をのぞき込みながら言う。


「次の小祠にも石、いる?」

「いると思う」

「じゃあ、丸い石、集めておく」

「星石と混ぜないでね」

「混ぜない。たぶん」

「たぶんは危ない」

「じゃあ、袋を分ける」


 ベンは真剣にうなずいた。


 ミオはその様子を見て、少し安心した。


 この村は、ちゃんと役目を増やしていく。水を運ぶ人、札を扱う人、豆を育てる人、地図を描く人、石を選ぶ人。大きな魔法ではない。けれど、誰かの手がひとつ加わるたびに、村の外側が少し戻っていく。


 白石道の光は、もう消えている。


 でも、リタの地図には線が残った。


 小祠一の丸も、残った。


 ミオの透明板にも、同じ点が残っている。


 眠っている。

 でも、登録済み。


 それは、昨日よりずっと前進だった。


 白狐は入口祠の方を見て、それから遠くの小祠一の方角を見た。


「輪は、まだ細いです」

「うん」

「ですが、切れてはいません」

「それ、大事だね」


 ミオは祠地図を見た。


 入口祠。

 環祠。

 星見台。

 小祠一。


 まだ輪とは呼べない。


 でも、点はもう、ばらばらではなかった。


 小さな線が一本、確かに増えた。

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