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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
古い祠は、空への線を隠している

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第48話 尾根の祠が、次の祠を呼んだ

 第二小祠の先で、白石道はさらに細くなった。


 でも、消えてはいない。


 草の間に、ぽう、ぽう、と小さな光が続いている。星祠から来た光は、尾根上小祠を通り、第二小祠を越え、さらに空の下へ伸びていた。


 リタは木札を抱え直しながら、半分あきらめた顔をしていた。


「ミオ様」

「はい」

「札、今の時点で三枚増えます」

「帰ってからまとめましょう」

「まとめ札ですね」

「はい」

「名前が雑です」

「でも分かりやすいです」

「否定できません」


 ラウが前で笑った。


「まとめ札、いいじゃないか。道が増えるたびに一本ずつ立ててたら、札の森になるぞ」

「それはそれで迷います」

 ベンがまじめに言った。

「札で迷うのは嫌ですね」

「祠道なのに、札道になります」

「リタさんが倒れます」

「もう少しで倒れます」


 白狐は第二小祠の風鳴り片を見ていた。


 割れた薄い石片は、小さな枝にかけられている。風が通るたびに、ち、と短く鳴る。星祠のちりん、尾根上小祠のち、第二小祠のさらに細い音。


 大きな音ではない。


 でも、つながっている。


 神官さんが第二小祠の前で短く祈る。


「小さき祠よ。道を受け、次へ送れ。歩く者が驕らず、恐れすぎず、足元を見て進めるように」


 白石道が、少しだけ明るくなった。


[OUTER SHRINE CHAIN]

――――――――――

星祠:中継安定

尾根上小祠:仮復帰

第二小祠:仮復帰

外縁祠道:延伸

次反応:第三小祠候補

道音:接続

――――――――――


「第三小祠候補、出ています」

「本当に三つ目か」

 ラウが前を見る。

「はい」

「今日は速いな」

「はい。速いです」

「悪くない」

「私も、悪くないと思います」


 ミオは透明な板を握り直した。


 今までは、何かを見つけると、それを守るために止まっていた。壊さないため、村に説明するため、意味を整えるため。それは間違っていない。


 でも、道には道の勢いがある。


 星祠が開いた外縁祠道は、止まっているものではなかった。小祠を一つ起こすと、次が呼ぶ。次を起こすと、さらに先が光る。


 今日は、その流れに乗る日だ。


 白狐がミオを見た。


「ミオ」

「はい」

「進むのはよいです。ただ、道に急かされすぎてはいけません」

「はい。足元は見ます」

「気持ちもです」

「……はい」


 白狐の声は静かだった。


 止めているのではない。


 一緒に進むために、少しだけ手綱を引いている。


 ミオはうなずいて、前を向いた。


 尾根道は、さらに空へ近づいていく。


 右手の森が低くなり、左手には遠い村の畑が見えた。川が細く光り、祈り橋跡のあたりだけ水面が少し明るい。リュミナ村は、いつの間にか見下ろす場所になっていた。


 リタがぽつりと言う。


「村、あんなに小さいんですね」

「上から見ると、そう見えますね」

「でも、道が全部あそこにつながってる」

「はい」


 リュミナ村から、入口祈り場へ。


 森へ。


 川へ。


 第三標識へ。


 星祠へ。


 そして今、この尾根へ。


 村は小さい。


 でも、小さいだけではない。


 つながり始めている。


 ベンが足元の白石を見ながら言った。


「ここの石、少し新しいです」

「新しい?」

「ええと、古いんですけど、傷み方が違います。星祠の近くより、風で削れてます」

「風が強いから?」

「たぶん。水じゃなくて風で削れた石です」

「風の道なんですね」

「そうかもしれません」


 白狐が少しだけ目を細めた。


「風で祈りを送る道です」

「それ、村の人に伝わりやすそうです」

「では、そう伝えましょう」

「はい」


 ラウが長い棒を止めた。


「見えた」

「三つ目ですか」

「ああ。今度は少し広い」


 尾根の先に、石のまとまりがあった。


 さっきまでの小祠より大きい。けれど星祠ほどではない。低い石柱が二本、片方は倒れ、もう片方は斜めに立っている。中央には丸い平石。周囲には白い道石が半円に並んでいた。


 風鳴り石らしい薄片は、草に混じっていくつか散っている。


 ミオは透明な板をかざした。


[THIRD SMALL SHRINE]

――――――――――

第三小祠候補:確認

祠場:中規模

星石:二基

風鳴り片:複数破損

白石半円:接続待ち

状態:低出力復帰可能

注意:連鎖反応あり

――――――――――


「連鎖反応あり」

 ミオは小さく読んだ。


 リタがすぐ反応した。


「連鎖、ですか」

「はい」

「また次が出るやつですか」

「たぶん」

「札が」

「リタさん」

「はい」

「今日は札をあきらめましょう」

「言いましたね」

「言いました」

「分かりました。記録は頭と木札一枚にします」

「木札一枚は残るんですね」

「そこは譲れません」


 ラウが第三小祠の周囲を回る。


「足場は悪くない。ただ、こっちの石が浮いてる」

「白石ですか」

「たぶん」

「ベンさん」

「見ます」


 ベンはすぐしゃがみ、浮いた白石の隙間をのぞき込んだ。


「下に空洞があります」

「まずいですか」

「踏むと割れるかもしれません。支えを入れます」

「お願いします」


 神官さんは丸い平石の前に立った。


「ここは、休む場所にも見えるな」

「祠兼、風待ち場みたいです」

「風待ち場」

「風が来るのを待って、音を次へ送る場所かもしれません」


 神官さんは静かにうなずいた。


「よい名だ。風待ちの小祠、と伝えれば分かりやすい」


 白狐が中央の丸い平石を見た。


「ここは、音を重ねる場所です」

「音を重ねる?」

「はい。星祠、尾根上小祠、第二小祠。その音を受けて、ここで少し強くする」

「中継器みたいな」

「ミオの言葉では、そうかもしれません」

「あ、村には言いません」

「それがよいです」


 ミオは板を見る。


 星石は二基。


 一つは半分露出している。もう一つは草の根元に沈んでいる。風鳴り片は複数あるが、割れている。白石半円は接続待ち。


「ここ、起こせば道が一気に伸びるかもしれません」

「やろうぜ」

 ラウがすぐ言った。

「早いですね」

「ここまで来たら、起こさない方が気持ち悪いだろ」

「それは、分かります」


 白狐がミオを見る。


「ここは、少しだけ強く反応します」

「危ないですか」

「危ないというより、驚きます」

「驚く方ですか」

「はい。たぶん」


 リタが木札を胸に抱えた。


「驚く準備、します」

「それ、どうするんですか」

「両足を開きます」

「正しいです」


 ミオは少し笑った。


 作業はすぐ始まった。


 ラウが浮いた白石の周りを押さえ、ベンが平たい支え石を差し込む。リタが草を払って風鳴り片を集める。神官さんは丸い平石に麦と塩を置く。白狐は割れた風鳴り石を一枚ずつ確認していた。


「白狐さん、使えるのありますか」

「二枚。三枚目は、音がにごります」

「にごる?」

「鳴りますが、祠が嫌がる音です」

「そんなの分かるんですか」

「はい」

「すごい」

「神獣ですので」

「今日の神獣感、かなりあります」

「いつもです」


 ミオとベンは星石を戻す。


 一つ目は早かった。


 こつ。


 溝に入る。


 ぽう。


 弱い光。


 二つ目は少し難しい。根が絡んでいる。土も固い。ベンが細い棒で根をずらし、ミオが板で位置を見る。


「もう少し右です」

「ミオ様から見て?」

「ベンさんから見て」

「助かります」

「左右問題、学びました」


 ラウが笑った。


「成長してるな」

「左右で成長したくなかったです」


 二つ目の星石が動いた。


 こつん。


 淡い光が出る。


 第三小祠の白石半円に、光が回った。


[THIRD SMALL SHRINE]

――――――――――

星石:二基点灯

白石半円:接続

風鳴り片:二枚使用可能

連鎖反応:待機

必要:祈り/風通し

――――――――――


「次、風です」


 白狐が二枚の風鳴り片を、低い枝のような石突起にかけた。


 片方は少し欠けている。もう片方は薄く、光に透ける。風が来れば鳴る。


 神官さんが丸い平石の前で祈る。


「風待ちの小祠よ。星祠より来た音を受け、尾根の道へ返せ。遠くへ行く者が、帰る音を忘れぬように。ここで、道の声を重ねたまえ」


 風が止まった。


 一瞬、尾根の上が静かになった。


 草も、布も、白狐の毛も動かない。


 リタが息を止める。


 ラウも黙る。


 ベンは支え石に手を添えたまま、動かない。


 ミオは透明な板を握った。


 待つ。


 ただ待つ。


 でも、戻るための待ちではない。


 次へ進むための待ちだ。


 白狐の耳が動いた。


「来ます」


 尾根の下から、風が上がってきた。


 草がさわっと流れる。


 白石道が、星祠の方から順に光る。


 ちりん。


 遠くの星祠。


 ち。


 尾根上小祠。


 ち。


 第二小祠。


 そして、第三小祠の風鳴り石が揺れた。


 ちり。


 小さい。


 でも、今までより少し長い音だった。


 もう一枚が続く。


 りん。


 二つの音が重なった。


 第三小祠の白石半円が、一気に光った。


 ミオの透明な板に、ログが走る。


[OUTER SHRINE CHAIN]

――――――――――

星祠:中継安定

尾根上小祠:仮復帰

第二小祠:仮復帰

第三小祠:仮復帰

外縁祠道:延伸

連鎖反応:成立

――――――――――


 その瞬間、尾根の先で、白い光が三つ続けて灯った。


 ぽう。


 ぽう。


 ぽう。


 道が伸びた。


 第三小祠の先で、草の下の白石が次々に浮かび上がる。尾根の曲がり角を越え、少し高い場所へ向かう線が出る。


 そして、その先。


 遠くに、低く大きな台座のような影が見えた。


 リタが小さく声を上げた。


「え、あれ……何ですか」

「祠じゃないな」

 ラウが言った。

「大きい」


 ベンが目を細める。


「丸い台、みたいです」

「台?」


 ミオは板を向けた。


 表示が一度乱れた。


 それから、見慣れない文字が浮かぶ。


[DISTANT NODE TRACE]

――――――――――

外縁祠道:延伸

小祠群:三基仮復帰

遠方構造:検出

形状:円形台座

分類:未確定

候補:星見台

――――――――――


「星見台……」


 ミオはその言葉を読む。


 白狐が、ぴたりと動きを止めた。


「白狐さん?」

「……見えました」

「星見台ですか」

「名前は、分かりません。でも、あれは」


 白狐はそこまで言って、言葉を切った。


 いつもの丁寧な声が、少しだけ揺れていた。


「あれは、私に近いです」


 ミオは白狐を見た。


 白狐は、遠くの台座を見つめている。


 怖がっているようにも、懐かしがっているようにも見えた。


 神官さんが静かに言う。


「星を見る台か」

「はい。たぶん、星祠より先の、大きな場所です」

「今日、そこまで行くか」


 ミオはすぐに答えなかった。


 行きたい。


 今すぐ行きたい。


 でも、第三小祠まで三つの仮復帰をつないだ。帰りの道も見なければいけない。日も少し進んでいる。


 ここで無理をすれば、せっかくの速さが雑になる。


 ミオは透明な板を見る。


[OUTER SHRINE ROAD STATUS]

――――――――――

小祠一:仮復帰

小祠二:仮復帰

小祠三:仮復帰

道接続:星見台候補方向へ延伸

帰路:安定

推奨:星見台候補を視認記録

――――――――――


「星見台までは、今日は行きません」

 ミオは言った。

「でも、見える場所まで進んで、記録します」

「半分じゃなくて?」

 リタが聞いた。

「これは本当に記録までです」

「信じます」

「ありがとうございます」


 ラウは尾根の先を見た。


「見える場所なら、あそこだな。曲がり角の手前」

「行けますか」

「行ける。足元も悪くない」


 白狐が静かにうなずく。


「私も、そこまでは行きたいです」

「はい」


 ミオたちは第三小祠を離れ、さらに少しだけ進んだ。


 白石道は明るくなっている。


 さっきまで草の下に隠れていた道が、三つの小祠をつないだことで、一段はっきりした。足元の白石が続き、風が抜けるたびに、背後の祠が順に鳴る。


 ちりん。


 ち。


 ち。


 ちり。


 尾根の道が、音でつながっている。


 曲がり角の手前に立つと、遠くの台座が見えた。


 丸い。


 低い。


 周囲に石が並んでいる。


 中央は少しくぼんでいるように見える。そこへ空の光が落ちている。祠というより、空を見るために作られた場所。


 星見台。


 その言葉が、ミオの中で落ち着いた。


 リタは木札ではなく、布の端に簡単な印をつけ始めた。


「何してるんですか」

「木札じゃ無理です」

「え」

「地図がいります」

「早いですね」

「さすがに、いります。小祠三つと星見台候補は、木札だけじゃ無理です」

「確かに」


 ベンも台座を見ていた。


「あれ、石の並びが星祠と違います」

「分かります?」

「遠いので少しだけ。でも、丸いです。星石がたくさんあるかも」

「たくさん」

「はい」


 白狐は黙っていた。


 ミオはその横に立つ。


「白狐さん」

「はい」

「あそこ、行きましょう。次に」

「はい」

「怖いですか」

「怖いです」

「でも、行きたい?」

「はい」


 白狐は遠くの星見台を見つめたまま、ゆっくり言った。


「あそこは、私を呼んでいます」


 ミオは透明な板をかざした。


[OUTER SHRINE CHAIN RECORD]

――――――――――

星祠:接続

小祠一:仮復帰

小祠二:仮復帰

小祠三:仮復帰

外縁祠道:星見台候補方向へ延伸

星見台候補:視認

次作業:星見台到達/低出力確認

――――――――――


「記録しました」

「戻るか」

 ラウが言う。

「はい。戻ります」

「今日は早かったな」

「はい」

「でも、かなり進んだ」

「かなり」


 リタが布の端を握りしめている。


「ミオ様」

「はい」

「これ、木札じゃ足りません」

「地図帳、作りましょう」

「はい。絶対いります」


 神官さんは、遠くの星見台へ頭を下げた。


「星を見る台よ。今日はここより名を受け取る。次は、祈りを持って向かおう」


 風が通る。


 背後の三つの小祠が、順に鳴った。


 ち。


 ち。


 ちり。


 そして、遠くの星見台の方で、まだないはずの音が、ほんの少しだけ返った気がした。


 ミオは聞き間違いかと思った。


 でも、白狐の耳が動いた。


「今」

「はい」

「鳴りましたね」

「……はい」


 星見台は、まだ起こしていない。


 まだ遠い。


 でも、外縁祠道の先で、たしかに反応した。


 ミオは胸の奥が熱くなるのを感じた。


 今日は、一つ進んで戻る日ではなかった。


 星祠の先へ入り、小祠を三つ起こし、道を尾根の先まで伸ばし、星見台を見つけた。


 道はもう、村の近くで終わっていない。


 空の下を走っている。


 ミオは白狐と並んで、もう一度だけ星見台を見た。


「次は、あそこです」

「はい」


 白狐は静かに答えた。


「次は、あそこへ行きましょう」

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