表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
祈りの道は村を越える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
142/192

第135話 白い立ち石

 低い屋根の北側から、石道はまっすぐ伸びていた。


 草は短い。左右に低い石が並び、中央に白い線が続いている。村の祠道ほど整ってはいない。けれど、今までの北側の道より、ずっと迷いが少なかった。灯り場で分かれ、止め石で落ち着き、受け場で渡され、低い屋根の下を抜けた灯りは、ここから先で細くまっすぐになっている。


 ミオは低い屋根の北側で透明な板を開いた。


[NORTH STONE PATH]

――――――――――

起点:低い屋根の北側

石道:継続

中央:白い線

左右:低い石

前方:白い立ち物

供物:不要

水:不要

――――――――――


「今日は、あれを見る」

「白い立ち物ですね」


 リタが北を見た。


 遠くに、白いものが立っている。柱にも見える。細い石にも見える。光そのものにも見える。昨日は距離があって判別できなかったが、今日は石道がそこへ向かっている。


 白狐さんは屋根の縁に立ち、耳を北へ向けていた。


「悪い場所ではありません」

「じゃあ、行こう」

「はい」


 神官は今日は小祠までだった。


 北の受け場より先は、まだ村の手順に入っていない。ミオ、白狐さん、リタだけで進む。供物は持っていない。水袋はリタが持っているが、飲むためのものだ。置くためでも、流すためでもない。


 白狐さんが先に歩き出した。


 石道は歩きやすかった。


 草の下から石を探す必要がない。足を置く場所が続いている。左右の低い石はところどころ欠けているが、道の幅は保たれている。ミオが少し速く歩いても、白狐さんは止めなかった。


 リタが後ろからついてくる。


「速い道ではないのに、進みやすいですね」

「うん。足元がはっきりしてる」

「見届ける道、でしたよね」

「たぶん、そう」


 道は古い。草も土も乗っている。けれど、ここは通るために作られている。灯りだけではなく、人も歩く。白狐さんの言った「見届ける道」という言葉が、足元で分かる気がした。


[STONE PATH WALK]

――――――――――

歩行:安定

中央線:維持

左右石:断続

前方反応:接近

干渉:低

――――――――――


「近い」

「見えてきました」


 リタが声を落とした。


 白い立ち物は、柱ではなかった。


 細長い石が一本、地面に刺さっている。上が少し開き、二股のようになっていた。その間に、小さな白い輪が浮いている。輪は石に触れていない。石の上で、薄く静かに揺れていた。


 白狐さんは石道の端に座った。


「ここで、待っていたのだと思います」

「誰が?」

「灯りを持たない人です」


 ミオは立ち石の周りを回った。


 中央の白い線は、立ち石の根元を抜けて、さらに北へ続いている。ただし、ここだけ線が少し持ち上がり、白い輪の下をくぐるように見えた。道は地面にある。けれど、灯りだけが一度、上を通る。


 ミオは透明な板をかざした。


[WHITE STANDING STONE]

――――――――――

白い立ち石:確認

上部:白い輪

接続:北の石道

南北:往復反応あり

前方:低い影

供物:不要

水:不要

――――――――――


「往復反応」

「戻ってくる灯り……」


 リタがつぶやいた。


 白狐さんは北を見たままだった。


「少し、思い出しました」

「何を?」

「朝ではありません。夕方です」

「夕方?」

「誰かがここに立って、北を見ていました。灯りが戻ってくるのを待っていたのだと思います」


 立ち石の根元には、薄い擦れ跡があった。


 南側にもある。


 北側にもある。


 片道ではない。ここを挟んで、何度も行き来している。灯りを北へ送る道であり、北から戻る灯りを見る道でもある。


 リタが白い輪を見上げた。


「入口の輪に似ています」

「うん。でも、地面じゃない」

「見上げる場所なのですね」

「ここで確認したんだと思う。来たか、戻ったか」


 白い輪は揺れ続けている。


 強くはない。小祠の灯りのように温かくもない。灯り場のように流れもしない。ただ、そこに浮いている。通ったものを覚えているような光だった。


 ミオは北を見る。


 立ち石の向こうに、低い影がある。


 遠いが、これまでの小祠や低い屋根とは違う。横に長い。道の終わりというより、何かの外縁に見えた。石道はそこへ向かっている。白い線も、細くはあるが切れていない。


[NORTH BEYOND STONE]

――――――――――

白い立ち石:通過確認

北側:石道継続

前方:低い影

距離:中

種別:未確定

――――――――――


「まだ続いてる」

「はい」


 リタの声は小さかった。


 もう驚きだけでは追いつかない。北の道は、次々に場所を出してくる。けれど、今回は違った。白い立ち石は、ただの途中の道具ではない。ここで誰かが待っていた。その気配がある。


 白狐さんの耳が、北へぴんと立った。


「音がしました」

「音?」

「戸を開ける音です」

「戸?」


 ミオには何も聞こえなかった。


 風と、草と、リタの息だけだ。けれど、白狐さんは北を見たまま動かない。


「遠いです。まだ、ここではありません」

「低い影の方?」

「はい」


 ミオは北の低い影を見た。


 戸がある場所。


 小祠でも、灯り場でも、受け場でもない。誰かが出入りする場所かもしれない。村の北に、人が灯りを運び、受け渡し、見届け、戻る灯りを待っていた道がある。その先に、戸の音がする。


 透明な板に、短い表示が走る。


[NORTH DISTANT RESPONSE]

――――――――――

前方:低い影

反応:音

内容:戸を開ける音

位置:未確定

接続:北の石道

――――――――――


「戸を開ける音」

「誰かが、いるのでしょうか」


 リタが言った。


「分からない」

「でも、戸がある」

「うん」


 ミオは立ち石と、その先の低い影を見比べた。


 白い輪が浮いている。


 その下を灯りが通る。


 石道はさらに北へ伸びる。


 遠くで、白狐さんだけが聞いた戸の音がある。


 ミオは北の低い影を見た。


「低い影の手前まで見る」


 白狐さんは立ち上がった。


 白い立ち石の横を抜ける。


 輪は変わらず、頭の上で淡く浮いている。足元の白い線は一度だけ明るくなり、すぐに細く戻った。拒まれた感じはない。むしろ、通ったことを確かめられたようだった。


 立ち石の先は、少し下っていた。


 道の左右の石が低くなり、草が短くなる。北の低い影は、近づくほど横へ長く見えた。屋根ではない。壁でもない。いくつもの低い石が並び、その奥に、黒い隙間が見える。


 リタが息をのむ。


「あれ、入口では」

「かも」


 ミオは透明な板を開いた。


[LOW NORTHERN SHADOW]

――――――――――

前方:低い石列

奥:黒い隙間

石道:接続

白い線:継続

音反応:微弱

――――――――――


「黒い隙間」

「戸の音は、あそこから?」


 白狐さんは答えなかった。


 代わりに、耳を伏せた。


 怖がっているのではない。聞いている。風の奥、草の奥、低い石列の奥を。ミオも息を止めた。


 今度は、聞こえた。


 かすかに。


 木が擦れるような音。


 古い戸が、少しだけ動く音。


 リタがミオの袖をつかんだ。


「今の」

「聞こえた」

「はい」


 白狐さんが低く言った。


「開いています」

「戸が?」

「少しだけ」


 低い石列の奥で、黒い隙間がゆっくり白を返した。


 灯りではない。


 外から入った光でもない。


 内側に、何かがある。


 ミオの透明な板が一瞬だけ乱れた。文字が出かけて、消える。RENではない。MIOでもない。祠道の表示でもない。短い、読めない線だけが板の端に残った。


 白狐さんが一歩、前へ出る。


 ミオも続いた。


 低い石列の前で、白い線は止まっていない。


 黒い隙間の下へ、まっすぐ入っている。


[LOW STONE ROW]

――――――――――

低い石列:確認

黒い隙間:あり

白い線:内部へ続く

戸の音:確認

内部反応:未読

――――――――――


 白狐さんは黒い隙間を見たまま、言った。


「ここです」

「何が?」

「戻る灯りが、入っていった場所です」


 ミオは黒い隙間の奥を見た。


 そこに何があるのかは、まだ分からない。


 ただ、北の道はここへ来ていた。


 小祠の奥から始まった道は、灯り場を越え、止め石を越え、受け場を越え、低い屋根の下を抜け、白い立ち石を通り、低い石列の黒い隙間まで届いた。


 その奥で、もう一度、戸が鳴った。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ