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他に愛する人のいる彼の元を去ったら、何故か彼が追いかけてきます  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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88/88

88 スティンガー公子

イザークの突然の辞退の知らせに、人々は驚きを隠せなかった。

フィオナの横にいた兄キースも、イザークの辞退に困惑していた。



「イザーク殿下が辞退するだなんて……一体どういうつもりなんだ!?途中で試合を投げ出すような人ではないだろう」



一方、フィオナは驚きながらも安心していた。

イザークが辞退することで、試合の結果は確定したからだ。



「でも、これでアロイスは自動的に勝ち上がる……決勝に出場できるわ」

「何という強運の持ち主……」



アロイス対イザークの試合は、アロイスの不戦勝ということで決着がついた。

イザークを相手に、流石のアロイスでも負けるかもしれないと僅かに思っていた自分が情けない。



(彼は運も持ち合わせているのよ!ただ強いだけの男じゃないんだから!)



イザークが突然辞退した理由はわからないが、運が良い。



「兄さん、アロイスはきっと優勝できるわよ。利き腕が使えないなんてそんなの関係ないわ」

「ここまで来たら……たしかにそう思えてくるな」



フィオナはアロイスの勝利を信じ、準決勝の試合を見届けた。



***



イザークが辞退したことにより、アロイスの勝利は確定し、彼は自動的に決勝へ上がった。

そして、ちょうどもう一つの試合も決着がつきそうだった。



一人の男が模擬刀を手に、ものすごいスピードで攻撃を仕掛けている。

他の参加者たちよりも少し年齢が高いであろう、その男は少々手荒な方法で相手と向き合っていた。



(何、あの人……どこかで見たことがある……?)



アロイスやイザークと同じ、剣術大会に出場するのは初めての人物だった。

しかし、フィオナは闘技場で戦っている彼に見覚えがあった。きっと今世ではない、前世のどこかで会ったことがあるような……。



彼の正体を知ったのは、対戦相手が攻撃に倒れた後だった。



「勝者――アレン・スティンガー!」



スティンガーという誰もが知る姓に、フィオナはようやく思い出すことができた。



――アレン・スティンガー。

皇帝の最側近スティンガー公爵閣下の長男であり、次期公爵。

スティンガー公爵家はアロイスの生まれたフェンダル公爵家と同等の力を持ち、セレナイトとフロランティアを合わせた四大公爵家の中でも突出していた。



現皇帝が即位してからはさらなる権力を得て、今やフェンダル公爵家をも凌ぐ名門となっている。

長男アレン・スティンガーは父親によく似て、残酷で目的のためなら手段を厭わないことで有名だった。



(私ったら、スティンガー公爵令息の名前を見落としていただなんて)



優勝候補はイザークとアロイスの二択と言われていたせいか、彼女はトーナメント表に記載されているスティンガーの名前に気付かなかったのだ。

準決勝で勝ったのはアロイスとアレンの二人。



つまり、決勝戦では二人がぶつかることとなる。

イザークに勝ったという安心感から一転、フィオナは猛烈な不安に襲われた。



(マズいわね……相手がスティンガー家の人間なら……どんな手を使ってくるかわからないわ!)



――スティンガー公爵家。

帝国で一番とも言える名家であると共に、帝国で一番残忍な一族とも言われていた。




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