51 運命の出会い
「セ、セレナイト公子!?」
マイラは驚いたように彼とリラを交互に見つめた。
驚きを隠せなかったのはリラも同じだった。
(セレナイト公子様が、私にダンスを……!?)
キースは二十代後半になっても婚約者すらいなければ、女の影が一切ないことで有名だった。
そんな彼が、一人の女性に踊りを申し込んだのだ。
しかも虐げられた妾腹の第四皇女に。周囲はザワついた。
マイラと自分を間違えているのではないかと疑ったが、彼の手はしっかりとこちらへ差し出されている。
キースはマイラではなくリラをダンスに誘っているのだと、彼女が理解するまでかなり時間がかかった。
「あ、ありがとうございます……喜んで」
リラは頬を薄っすらと染めながら、彼の手に自分の手を重ねた。
キースは口元に笑みを浮かべて彼女の手をギュッと握った。
会場に音楽が流れ、二人はリズムに合わせて踊り出した。
「あら、意外と絵になるじゃない」
リラには平民ながらも皇帝に見初められた母親譲りの美貌があった。
マイラが彼女を虐めていたのも、自分より美しい姉に対する嫉妬心のようなものからだった。
そしてキースもまた、アロイスほどではないが容姿端麗だった。
そんな二人が並ぶと、とてもお似合いだった。
相思相愛の恋人だと言われても疑わないほど、二人は穏やかな表情で互いを見つめ合っていた。
「あの……助けてくれてありがとうございます……」
「気にしないでくれ、見ていて不快だっただけだ」
キースは顔をしわくちゃにしてこちらを見つめるマイラを一瞥しながらそう言った。
さっきから異母妹の視線が痛い。
しかし、今はそんなこと大して気にならなかった。
リラは至近距離にいるキースの整った顔を見上げた。
(冷たい人だと思っていたけれど……)
案外優しい人なのだろうか。
この日から、キースはリラにとって密かに気になる存在となった。
***
「キース様に手紙を送ったら返事が来たわ!」
「あらあら、第四皇女様はそんな当たり前のことで喜ばれるのですね」
いつもと違ってウキウキした様子のリラに、侍女が笑みを零した。
「当たり前のこと?私は手紙なんて送っても返ってきたことは一度もなかったわ」
「その方たちが異常なのです。気にする必要はありません」
リラは卑しい血筋を半分持つ虐げられた皇女だった。
そのため、彼女と関わりを持ちたいと思う貴族は少ない。
たいていの貴族は面倒事に巻き込まれたくないからか、彼女の手紙に返事すらしてこなかった。
そんなリラにとって、キースは初めて親切にしてくれた相手だった。
(キース様はやっぱり、とっても優しい人だわ……)
リラの中でキースへの恋心が募っていった。
そして、それはキースも同じだった。
彼はリラを一目見たあのときから気になっていたのだ。
美しい容姿に加え、どこか儚い印象の第四皇女。
その日初めて見た彼女は、彼が聞いていた噂とはずいぶん違った。
気付けば、助けに入っていた。
自分でも驚いた。女性にまるで関心が無かったはずの彼が、一人の女をここまで気にかけるとは。
それからというもの、二人は周囲に内緒で手紙のやり取りやお茶会をするようになった。




