47 誕生日パーティー
「カイル、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます、フィオナ」
あれから一週間後、フィオナはリリアーン侯爵邸を訪れてカイルの誕生日を祝っていた。
高位貴族であれば普通盛大なパーティーを開いて誕生日を祝うものだが、彼はそのようなことをせず、身内のみでの会を開いた。
パーティーには彼の両親である侯爵夫妻、兄夫婦や従兄弟、近しい友人たちが参加していた。
「セレナイト公女がウチの息子と結婚してくれるなんてとっても嬉しいわ」
「私こそ、カイルさんのような素敵な方と婚約できて光栄です」
フィオナに話しかけたのは彼の母親である侯爵夫人だった。カイルはどちらかというと、侯爵よりも彼女に似ている。
夫人の後ろにいた侯爵は、笑顔で彼女の肩を抱きしめた。結婚してから三十年近く経っているとは思えないほど、仲の良い夫婦だった。
「カイル、セレナイト公女を大切にしろよ」
「ええ、わかっています」
カイルは父親の言葉に頷いた。
「私からのプレゼントです。喜んでくれるかはわかりませんが……」
「ありがとうございます」
フィオナはカイルにプレゼントの小さな箱を手渡した。
中には剣の刺繍入りのハンカチが入っている。彼女が丹精込めて作ったものだ。
剣はリリアーン侯爵家の象徴である。
プレゼントを受け取ったカイルは嬉しそうに笑った。
(やっぱり、作ってきてよかったわ)
その後、カイルは一度別の招待客の元へ行き、フィオナは彼の母親と二人きりになった。
「セレナイト公女……いえ、フィオナさんと呼んでも?」
「もちろんです、夫人」
侯爵夫人は見た目だけではなく、穏やかで優しいところまでカイルにそっくりだった。
「あなたのような人が息子の妻になってくれてとっても嬉しいわ。息子はずっと前の恋人を忘れられずにいたから……」
「……」
カイルの昔の恋人。
彼が深く愛していたという……
例えるなら、フィオナにとってのアロイスのような存在だろう。
そんな相手にこっぴどく振られるだなんて、彼がどれだけ辛かったか想像もつかない。
(私には、その痛みがよくわかるわ……私だって報われない恋をずっとしていたのだから)
そう簡単に忘れることのできる思いではないだろう。
しかし、彼は彼なりに辛い過去を乗り越えて一歩踏み出そうとしているのだ。
そんなカイルに、フィオナまでもが影響されていた。
自分もいつまでもアロイスを想い続けていないで変わらなければいけない。
彼と一緒にいると、不思議とそう思えてくる。
「どうか、息子をよろしくね――フィオナさん」
「え、ええ……」
フィオナは遠くで知人と話すカイルを見ながら頷いた。




