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他に愛する人のいる彼の元を去ったら、何故か彼が追いかけてきます  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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30/52

30 皇族たちの入場

その声と共に、大階段からたくさんの皇子と皇女たちが下りてきた。



オランジュ帝国には現在五人の皇子と七人の王女がいる。

一番上の皇太子殿下は二十六歳、末の第七皇女殿下はまだ五歳だ。



(さすがにまだ幼い皇子たちは参加してないみたいね……)



夜に開かれたパーティーには成人済みの皇族のみの参加のようだ。

夜会用の華やかなドレスで着飾った皇女たちはとても美しく、そんな彼女たちをエスコートしている皇子たちも輝いていた。



(あら、もしかしてあれが令嬢たちが騒いでた第三皇子殿下かしら?本当に綺麗だわ!)



その中でも第三皇子殿下は一際目立っていた。

お茶会で令嬢たちが話題に上げるのも頷ける美貌である。



そして、皇女たちの列の中にはフィオナの兄キースが近いうちに婚約を結ぶこととなる第四皇女殿下の姿もあった。



(あれって、お兄様の奥さんになる人よね……?)



フィオナは戸惑いを隠せなかった。

皇女たちの中で、彼女だけが誰からのエスコートも受けていなかったからだ。

そんな彼女の姿に、周囲はクスクスと笑いながら言った。



「あら、第四皇女殿下ったら……いつ見ても憐れね」

「第四皇女様が誰にもエスコートされていないのはいつものことでしょう?今に始まったことじゃないわ」

「それもそうね」



それに加え、一人だけ地味なドレスを着ている。

弱々しく視線を伏せて歩くその姿は、とてもじゃないが傲慢で我儘な皇女には見えなかった。



(人は見かけによらないってやつかしら……でもそれにしても変だわ……)



階段を下りた皇子と皇女たちは、そのまま皇族用の椅子に座った。

大階段の下には、皇族たちが座るスペースが用意されている。

最も上座にある真ん中の二つは皇帝陛下と皇后陛下が座るための席だ。



皇后陛下の席に関しては、三十年誰一人座っていないが。



「――皇妃殿下のご入場です!」



皇子たちの入場を終え、次に下りてきたのは皇妃殿下だった。

皇帝は多くの女性と関係を持っていたが、その中でも皇妃として皇宮へ上がれるのはほんの一握りだ。



皇帝と体の関係を持った女性たちの中で、気に入られた者だけが皇妃となれる。

皇妃という地位にいる者は現在セレシアを含めて三人だけなので、確率で言うとかなり低いだろう。



階段を下りたのは第一皇妃と第二皇妃の二人だけだった。



(やっぱり、セレシアは今回も欠席するようね)



第一皇妃殿下は赤い髪を持つ妖艶な女性だ。

それに対して第二皇妃は清楚な黒髪の穏やかな雰囲気を醸し出す女性である。



二人は見た目こそ正反対だったが、どちらも陛下に長い間気に入られていたという共通点があった。

かつて陛下の寵愛を独占していた第一皇妃と、その後に割って入るようにやってきた第二皇妃。



席に着いた二人は顔を見合わせて微笑んだ。



第一皇妃と第二皇妃は仲が良いように見えるものの、それは表面上に過ぎない。

噂によると、第一皇妃は突然陛下の関心を第二皇妃に奪われて内心怒り心頭なのだという。



第一皇妃は最も陛下の傍にいるにもかかわらず、皇女しか産むことができなかった。

彼女より遅くやってきた第二皇妃は皇子を産んだ。

平和そうに見える二人だが、皇宮内では熾烈な争いを繰り広げていると聞いている。



そう考えると、体の関係無く皇妃となったセレシアは異質だった。



「――帝国の若き太陽、皇太子殿下のご入場です!」



次に入場してきたのは噂の男、皇太子イザークだった。

母親譲りの青い髪に、皇家の象徴でもある金色の瞳を持ち合わせた背の高い美しい男が階段を下りた。

その姿は、若き頃の皇帝陛下によく似ているのだという。



「……」



階段の途中で立ち止まったイザークは、目を細めて貴族たちを見下ろした。

その鋭い視線は恐ろしく、彼らは慌てて目を逸らした。



会場が一瞬にして静まり返った瞬間だった。

皇太子について噂話の一つでもすれば、首が飛んでしまいそうである。



皇太子イザークは誰もが認める暴君であり、手の付けられない権力者だった。

元はといえば彼の性格の歪みは、両親の無関心さが原因ではあるが。



「――帝国の太陽、皇帝陛下が到着されました!」

「……!」



その一声で人々は顔を上げ、再び大階段に視線を向けた。

フィオナが階段を見上げると、皇帝の証である赤いマントを羽織った初老の男性が下りてくる最中だった。



(前世で最後に見た姿と変わらないわね……)



オランジュ帝国の最高権力者――皇帝陛下だ。

六十近い今でもまだまだ現役で、毎日のように女遊びを繰り返している。



何も言わずに歩いてきた皇帝陛下は上座の片方にドサッと腰を下ろし、足を組んだ。



「皆の者、今日はよくぞ集まってくれた」



その声は異様なほど低く、威厳に満ち溢れていた。やはり長年人の上に立ってきた者は違う、とフィオナは感じた。



「ここ一年、何の災いもなく再びこの日を迎えることができて嬉しく思う。今日は皇族たちが集まり、我の跡を継ぐこととなる皇太子もいる。オランジュ帝国の未来は明るいだろう」

「おっしゃる通りでございます、陛下」



その声に真っ先に反応したのはこの国の宰相・フロランティア公爵だった。

たしか彼は皇太子の派閥の者だったはずだ。



(前世では皇太子が皇帝になったあと、たしかフロランティア公爵の娘が皇后になったわね……)



そして、その後は血に飢えた皇太子によって皇子と皇女たちは全員――



「――今日は久々の舞踏会だ、楽しんでいってくれ」



陛下のその一言で、パーティーが幕を開けた。





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