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閑話 そして悪夢は裸足で逃げた

すみません! 更新まだまだかかります!

の詫び閑話。

 ルルソティールに遺跡まで送って貰い、シエルはようやく長い一日を終え眠りに着いた。


 が、その一日はもうちょっとだけ続きがあった。

 シエルが布団に入り、寝息を立て始めて、更にしばらくした頃。


 すっかり寝入っていた意識が浮上する。

 半分……いや、三分の二ほどまだ夢の中のシエルの耳に、うめき声が届く。

 声は直ぐ隣――ライフェルトか。


 まだ眠りながらもそう把握したシエルは、思考する前に体が動いた。もそもそと起き出し、瞼が半分も上がらないまま、ふらふらしながら隣のベッドへ向かう。

 カーテンを退かすと、ほぼ閉じた状態の目にもなんとかライフェルトの姿が見えた。


 ライフェルトは苦悶の表情を浮かべ、うなされていた。


 無理もない。ライフェルトは今日、死を間近に感じ、その上半分腐った死体に取りつかれ己の肉を噛じられると言う恐怖体験をしたのである。

 最初の眠りはどちらかと言うと気絶だし、体が回復に専念せざるを得ない状態だった為静かに眠っていた。


 ここに来てうなされているのはある程度回復した証拠だろう。ここは安全だと安心が生まれた結果、精神的な問題に取り組む段になったのだ。


 まあそんな考察は後になってからの事。

 シエルはライフェルトが苦しんでいるのを認めると、うとうとしながらライフェルトの頭を抱えるようにし、ぽん…ぽん…と頭を撫でる。


「らいりょぶ……こあくにゃいりょ……」(大丈夫、怖くないよ)


 言いながら、ぽむ…ぽむ…と頭を撫でるシエル。

 次第に眠りの比重が増えて来て、……かくっ、と頭が落ちベッドのパイプに頭突きを――しかけ、直前で止められる。


 九割眠っていたシエルはそれには気付かなかったが、ふわりと体が持ち上げられ、ライフェルトの横に寝かされては流石に疑問に思う。


「……?」


 ぼやっとした頭をやや持ち上げると、エリクの顔を見つけた。

 視線に気付いたエリクはふわりと笑い、小声で言う。


「おれもいるよ」


 そうか、エリクもいるのか。

 シエルは何かに納得し、安心して今度こそ眠りに着いた。






 すよすよと寝息を立てるシエルを、ライフェルトの布団に入れたエリクは、少し間を置いてその反対側に潜り込んだ。


 ライフェルトがうなされた時、先に起き出したのはエリクだった。

 シエルと違い、しっかりと起きたエリクは苦しむライフェルトを前に、どうすればいいのかと途方に暮れた。程なくシエルが動き出した気配にホッとしたものの、ほぼ寝たままなシエルにガクッと肩の力が抜けた。目の前のエリクにも気付いていないようだった。


 そんな状態なのに、ライフェルトを宥めようとするシエルに、エリクは『ああ、好きだなぁ』としみじみ思う。

 立ったまま寝落ちそうなシエルをライフェルトの横に寝かせ、なんとなく自分も布団に潜り込んでしまった。なんだか楽しい。


 ふと、気配を感じて目を向ければディランがそっと覗いていた。


(もう大丈夫です)


(そのようですね)


 小声で囁き合う。

 引っ込んだディランに戻って寝るのだろうと思ったら、何やら気配が左右に移動している。

 そして戻って来たディランは毛布を抱えており、シエルとエリクを丁寧に包んだ。


 備え付けの毛布は一人用で、シエルとエリクははみ出していたのだ。これでは冷えてしまうと毛布を取って来たのである。

 自身が頑丈ゆえにそこに気付かなかったエリク。ディランが居なければシエルに風邪を引かせていたかも知れない。エリクは悄然とした。


 更にディランは、音を立てないよう気を付けながら、シエル側にベッドの柵を立てた。

 そうだ、狭いのだから落ちないよう対策も必要だった。よく気が付くものだ。っていうか柵なんてあったんだ。エリクはそれさえ気付かなかった。


(すみません)


(お構いなく。ゆっくりお休みください)


(うん、おやすみなさい)


 今度こそディランの気配が離れて行く。

 エリクは気が利かない自分に落ち込みながらも、元が健康な事と疲れから速やかに眠りに落ちた。






 シエルが予想した通り、ディランは夜通し起きていた。

 ディランは従者であり同時に護衛でもある。シエルの様子から、ここは安全なのだろうとは思うのだが、ろくに知らぬ場所で無防備に眠る事は職務的にも性格的にも出来なかった。


 ディランは覚醒作用のある薬を服用していた。訓練では猛獣の出る山に一人放り出され、数日過ごした事もあるのだ。ただの徹夜くらい問題無い。


 案の定、シエルは夜半に外出した。

 行き先は気になったが、夜の瘴魔の森を一人で彷徨くなど自殺行為以外の何物でもない為断念した。


 そして帰って来て眠って、また起き出して。

 ……明日はシエルは起きて来ないだろう。ゆっくり寝かせておこう。


 自分のベッドに戻る前に、ついでにミハイルの様子も覗いた。

 ミハイルは何も気が付いて無い様子で熟睡していた。

 案外神経が太いらしいと、ディランは少し感心した。






……………………………………………………

………………………………

………………

………


 ライフェルトは走っていた。


 怖い。

 恐ろしいものが追い掛けてくる。

 それが何なのかは分からない。ただ恐ろしいのだと、捕まってはいけないと、それだけははっきりしている。


 恐怖に突き動かされ、必死に足を動かす。

 けれど水の中を掻き分けているかのように、あるいは重しでも着けられているかのように、ライフェルトの足は鈍い。


 もっと走れる筈なのに。

 もっと速く走りたいのに体が言う事を聞いてくれない。

 泣きたいような気持ちでライフェルトは必死に走り続ける。


 そうやって頑張って走っていたのに、とうとう追い付かれてしまう。

 恐ろしいものが肩に、腕に、足に触れる。ライフェルトは恐怖と絶望に襲われる。

 と、そこに。


「ミャアアアァァァァァァ!」


 場違いに可愛いらしい声が恐怖を引き裂いた。

 見れば、青灰色の子猫が目の前に居た。

 手の平で包めてしまいそうな、小さな小さな、ポワポワの毛並みの愛らしい子猫。


「シャーッ! シャーッ!」


 子猫はライフェルトの周りをぴょんこぴょんこと跳ね回りながら恐ろしいものに威嚇する。

 こんな愛らしい子猫の威嚇はいっそ微笑ましいくらいだ。けれど恐ろしいものは慌てたようにライフェルトから離れて行く。


「キャンキャン!」


 また響いた可愛いらしい声に振り返れば、ころころとした赤毛の子犬が恐ろしいものに吠えている。

 愛くるしいばかりの子猫と子犬の奮闘に、恐ろしいものは逃げて行った。


 恐ろしいものの逃走を見届けた子猫はふすっと鼻を鳴らし、ちんまりした胸をぐっと反らせ、得意気に言った。


「ミャアミャア!」


 もう大丈夫、怖くないよ!

 どうしてか言ってる事が分かった。


「キャワン!」


 おれもいるよ!

 丸っこい顔をキリリと引き締め、子犬も鳴く(言う)


 子猫と子犬があまりに可愛いくて、尊くて、頼もしくて。

 ライフェルトはその場に崩れ落ちてしまった。


…………………………………………

……………………………

…………

……






 意識が覚醒するのを感じ、ライフェルトは名残り惜しくて眠りに戻りたくなった。

 最初は怖い夢だった。けれど途中から可愛い子猫と子犬が出て来て、その子達に構われてとても幸せな夢になった。


 起きたくないなぁ。

 寝起きの良いライフェルトにしては珍しく体の反応に逆らっていたが、程なく異変に気付く。


 変な所が重い。身動きが取れない。訝しく思い目を開けると。

 そこには幸せな夢の続きが待っていた。


 ライフェルトの右手側にはシエルが居て、なんでかライフェルトの頭を抱えるような体勢ですよよと寝ている。


 左手側にはエリクが居て、こちらは大人しく寄り添うような体勢だった。


 数秒ほど固まったライフェルトだが、直ぐに察した。

 昨夜、何があったのかを、自分がどんな状態だったのかを。

 そして、あんな夢を見た、その理由を。


「〜〜〜〜っ」


 嬉しくて。

 幸せで。

 くすぐったくて。

 胸がほこほこと、温かくなって。


 悪夢の気配など、跡形もなく吹き飛んでしまった。

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