72 一方その頃 〜プリムラ視点、その他〜
すみませんストックが尽きました!
この話で一旦更新ストップします。なるべく早く再開したいと思いますが、リアルがごたついているので遅くなる可能性が高いです。
どうか気長にお待ちくださいませ。m(_ _)m
「どうして」
ボスッ
「どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうして」
ボスッボスッボスッボスッボスッ
「どうしてよおぉぉっ!!」
バフンッ
クッションをサンドバッグのように殴りつけていたプリムラは、最後クッションを壁に向かって投げた。
はーっ、はーっ、と息が荒げるのは運動のせいではなく、精神的なものだ。
プリムラは今日、魔物暴走に巻き込まれ、潰走し、そのまま神殿まで連れ帰られた。
途中まではストーリー通りだった。
ヒーロー達と森に分け入り、そこでトラブルが発生し、ピンチになる。
最初の誤算はプリムラ自身。現れた醜い猪のような魔物に体が動かず、逃げてしまった。
それでも森の外に着いてから落ち着き、今度こそ立ち向かおうと思った。幸いミハイル達メインヒーローがまだ現場に居る。
一度は逃げてしまうも、勇気を振り絞って危険に立ち向かう。ストーリーとは若干異なるが、それもまた悪くないストーリーだ。
そう戻ろうとしたのに、誰も賛同してくれず、どうにか森の入口まで引っ張ってったものの、直ぐに魔物に囲まれ身動きが取れなくなり、また回収され獣車に押し込められて強制帰還。
なんでよ。そこは「プリムラ様の崇高な御心に感服しました」とか言って協力する所じゃないの?
それでもヒロインたる自分が居なくては魔物暴走は収束しない。いずれどうにも成らなくなって助けを乞いに来るだろう。
そう思って待って居れば、あっさりと鎮圧の報が届いた。
どうして? ヒロインが不在なのにイベントが終わるなんてある?
ミハイル達の安否はまだ分かっていないが、この調子ではあっさり戻って来そうだ。
「……なんで」
ギリギリと歯を食いしばる。
イライラは収まらないが、ただ苛立っていても始まらない。考えろ。何が起きてる? どうすればいい?
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」
プリムラは深呼吸を繰り返し、机に向かった。
そして改めて記憶を整理する。
ここはweb小説『聖なる乙女は夜明けを連れて』の世界だ。この小説はそれなりに人気はあったが書籍化する事はなく、多くの素人小説の一つで終わった作品だ。
けれどプリムラはこの小説が大好きだった。
物語の主人公プリムラは、田舎の貧乏貴族の令嬢だ。貴族令嬢にも関わらず、領民に混じって畑を耕すような生活をしていたプリムラ。
けれど十五の時、神託により聖女に選ばれ、王都暮らしを余儀なくされる。
王都ではご都合主義よろしくイケメンと出会いまくり、トラブルに直面しながらイケメン達との仲を深めて行く。
よくある設定、ありふれた展開。似たような作品は山のようにあった。その中でなぜ『聖なる乙女は夜明けを連れて』がこれほど刺さったのかは、『彼女』自身にも分からない。
ただこの小説は『彼女』の宝物となり、完結して何年も経ち、歳を取っても思い出したように読み返していた。
それほどに思い入れていたからだろう。死後、『彼女』の元に女神が現れた。
「『さくさくはな』さんね? 私は『恋する乙女大好き』よ」
黄金そのもののような金髪にアメジストのような瞳の、神々しい美女の発した言葉に、『彼女』はしばしフリーズした。
だってそうだろう。厳かに『妾は異郷の神――』とか言うのが似合いそうな美女がいきなりネット上の名前を出して来たのだ。雰囲気ぶち壊しである。
しかしこの邂逅は嬉しいものだった。『恋する乙女大好き』さんは、『彼女』と同じ『聖なる乙女は夜明けを連れて』のファンで、ネット上で何度も感想を語り合った同士なのだ。
月日が経ち、多くのファンが『オトヨア』の話をしなくなる中、『恋する乙女大好き』さんは折りに触れ、『オトヨア』の話題で盛り上がってくれた。
密かに親友と思っていた相手なのだ。
何度オフ会に誘っても応じてくれず、向こうは会いたいと思ってくれていないのか……と落ち込んでいたが、まさか異世界の神とは。
やっと会えた喜びに、またひとしきり『オトヨア』について語り合い、落ち着いてから『恋する乙女大好き』さん――女神は言った。
「あのね、私、『聖なる乙女は夜明けを連れて』の世界を再現してみたの」
そして『彼女』に言ったのだ、「貴女、プリムラになってみない?」と。
異世界転生だ! しかもプリムラになれるなんて、幸せが約束されたようなものじゃない!
『彼女』は喜んで承諾した。
そして女神の「楽しんでね」という言葉に送られ、プリムラとしてこの世に産まれ落ちたのだ。
そしてプリムラとして育ち、ストーリー通りに王都に来てから違和感がどんどん強まって行く。
ジャイン領に居た頃はストーリー通りだったのに、一人しか居ない筈の聖女は何人も居るし、ミハイルもライフェルトも婚約していなかった。神は女神一人だけの筈なのに何人も居る。
ストーリー通りなのはエリクとフィリップくらいのものだ。ディランやネストは接点が少なくてよく分からないが、記憶にあるより接触して来ないのは確かだ。
「どうして……」
女神は確かに言ったのだ、小説の世界を再現したと。プリムラとしての人生を楽しんでと。
何よ、全然再現出来てないじゃない!
それとやっぱり他にも転生者が居るの? そいつが物語を改竄したの?
ありそうなのはミハイルの婚約者で悪役令嬢のソフィアだけど、アグノスとか言う聖女も怪しい。なんたって魔物暴走を解決するって言うヒロインの功績を横取りしたし。
分からない。
何も分からない。
「どうしよう……」
私は、どうすればいいの……?
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
暗がりに、膝を抱えた何者かがポツンと座っている。
以前は幾つものディスプレイで照らされていた空間も、今は一つしか着いておらず、細やかな範囲を照らすのみ。
そのただ一つのディスプレイに映っているのは、癇癪を起こしクッションを殴りつけるプリムラだ。
今、見れるのは……干渉出来るのは、プリムラのみ。他の人間への干渉は制限されてしまった。
失敗した。やってしまった。
激しく後悔する。元々、創世神の推し殿に干渉する気などなかったのに。
頑張って用意した物語の舞台の近くに、推し殿が産まれてしまった時は少し不安に思ったがそれだけだった。
推し殿とプリムラ達は年齢も違うし行動範囲もそう被らない。すれ違うくらいはあるだろうが、それだけならば問題ない。
筈だった。
どうしてか推し殿はエリクに関心を持ち、エリクへの干渉を解除された上にライフェルトにまで手出し出来なくされてしまった。
文句を言いたかったが、そもそも自分のしている事は規約違反ギリギリのグレー行為。下手に苦情を言う事も出来ない。
だからせめて、とミハイルと接触される事だけは防ごう、そう意気込んだのが間違いだった。
少し森へ行く時間を遅らせられればそれで良かったのに、推し殿はムキになって森へ向かおうとし、自分もついムキになり、やり過ぎてしまった。
その結果がコレ。
もう、物語を紡ぐ事は出来ない。
こんな事なら、小説を再現しようだなんて思わなければ良かった。
これでは、ただ『聖なる乙女は夜明けを連れて』を汚しただけではないか……。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
美しい花々に彩られた美しい庭園。
その中心で、優雅に紅茶を飲みながら下界を鑑賞する神が居た。
「んもう、プリムラちゃんったら、またそんな事に拘っちゃって。そんな事より恋を楽しめばいいのに」
不満そうにため息をつくのは、女性の姿の美しい神。うねる金髪に鮮やかな紫の目。『さくさくはな』をプリムラに仕立て上げた張本神、【花と恋の神】だ。
プリムラにはがっかりだ。せっかく環境を整えてあげたのに、物語の流れに拘ってばかりで恋をしようともしない。
人選をミスった。けれど彼女によって齎された現状はそう悪くない。プリムラが引っ掻き回した結果、恋のトラブルがあちこちで起きた。思わぬ副産物だった。
それに良い人材を何人か見つけた。
まずエリク。恋した少女の為に尽くし、傷付いてもなお少女を想う姿は神の胸を打った。
今は創世神の愛し子によってプリムラと引き離されているが、彼は変わらずプリムラを想っている。
期待大。
ミハイルも良い。彼の想い人はプリムラではないが、プリムラによって長年想い続け結ばれると信じて疑っていなかった相手と強制的に切り離されてしまった。
王族としての役目と受け入れようと思いながらも、元婚約者候補への想いを抱え続けるミハイル。
良い。
周囲によって切り裂かれる二人。
なんて素敵なの!
惜しむらくは少女の方にそこまでの熱意は無く、あっさりと現実を受け入れ次の相手を探し始めた所か。
全く、プリムラと言い、年頃の乙女ならもっと恋に生きなさいよ。
「うふ。まあいいわ、ここからどうなるのかしら〜♪」
物語もシエルの介入も、この神にとってはどうでもいい事。
むしろ、それによって起こる波乱を楽しみにしていた。
正確には、それによる恋の騒動を。




