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19 神内の子

 ライフェルトはあっという間に馴染んだ。

 二回目の訓練の時にはもう、そこに居るのが当たり前になっているし、勉強会でもライフェルトが間に入ってからエリクの学習速度がギュインと上がった。マジで。

 ……まさか幼稚園児にものを教えるレベルでちょうど良かったとか。流石に予想外ですわ。


 そうして交流の進む中、スイート・ムーンのお姉様方から二人の学園での様子を聞いたりもする。

 どうやら二人は学園でも一緒に居る事が多いらしい。

 と言うか、エリクが相変わらず孤立してるのでライフェルトが気を使ってちょくちょく顔を出しているようだ。


 エリクはプリムラから離れたのになぜ、と思ったら、そこは平民クラスの弊害。

 平民クラスでは上の事情を理解しておらず、噂を真に受けている為にプリムラから離れたからといって態度を変えたりしなかったのだ。一部は理解しているが、クラスの大勢がそんな感じなので迂闊に友好的な態度を取れないのだとか。「そんな認識変えてやるぜ!」みたいな勇の者は居ないらしい。残念。






「シエルくんは普段、何してるの?」


 訓練や勉強の後の休息時間に、ライフェルトはそう聞いて来た。

 シエルは噛り付いていたクッキーに似た焼き菓子を咀嚼しながら少し考えて言った。


「んー、冒険者やってる、かな?」

「え? 学校は?」


 エリクが驚いたような顔で言う。

 シエルは頭がよく知識も豊富だ、より上の学園に行く為にどこかの学校に通ってるだろうと、当然のように思っていた。

 ライフェルトも意外だったようだ。


「シエルくんは冒険者になりたいの? だとしても、その頭脳で学校に行かないのはもったいないよ」

「どーも。でも、俺はあちこち旅したいんだ。勉強なら図書館で足りてるし、今は冒険者になる準備を――」

「旅って、シエル、ここを出てくの!?」


 ガタッと席を立ち、エリクがシエルの言葉を遮って言う。


「……うん、成人したら、冒険者ギルドに正式登録して、旅が出来る用意が整ったら、そうするつもり」

「そんな……」


 シエルはありのままに将来設計を話した。すると、エリクは衝撃を受けた、と言う顔をする。

 まぁ、想像出来た事だ。


「直ぐに、じゃないよ? 十五の誕生日まで半年以上あるし、正式登録してから旅に出る用意が整うまで、数ヶ月くらいは掛かるだろうし」


 だいたい一年後くらいの話になる。そのくらい経てば、エリクの環境も安定してるだろう。もし、その頃になってもまだ周囲から排斥されてるなら、冒険に誘って連れ出してしまう事も考えている。

 混乱させそうだから、まだ言わないけど。


「……」

「ねぇ、シエルくん。冒険者になるのは良いけど、もう数年くらい先じゃダメ?」

「? どゆこと?」

「学園に通って、色々な技術や知識を身に付けてからでも良いんじゃないかなって。それに、学園に通いながらでも冒険者活動は出来るよ? 学園に通いながら、少しずつ冒険者等級(ランク)を上げて行く方が効率良いよ」

「! それいい!」


 ライフェルトの言葉に、エリクが食い付く。そうなったら、一緒に学園通えるもんね。

 しかし、エリクはともかく、なんでライフェルトが引き留めに来るのだろう? 単純にもったいないだけ?

 ライフェルトはシエルの学力を既に知っている。十四でこれだけ出来る子が学問の道に行かないのは、惜しくはあるだろう。


「……んー」

「乗り気じゃない? 何か気掛かりでもあるの?」

「気掛かりって言うか……俺、学校って場所が嫌いなんだよね」

「「え」」

「ついでに言うと、人が大勢居るのも、団体行動も苦手で」

「い、いや、そんな事は」

「三人くらいだったら平気なんだよ。でも学園行ったら何十人と行動するんでしょ? 無理。知識とかだったら図書館で足りてるし、技術はそれこそ、冒険者しながら身に付ければいいしさ」


 学校と言うか、教育機関と言うものに若干トラウマがあるのだ。前世で。

 更に今生で通った学校でも割と嫌な思いをしたので、学園に行く気は全く無い。十になったら入れる冒険者養成学校に一年通ったのが最後だ。


 ライフェルトは困った顔で沈黙した。

 ライフェルトは【共感】や【洞察】を持っている。言葉にしなかった、学校への拒否感を汲み取ったのかも知れない。


 そして、食い下がるだろうかと思われたエリクは。


「そう……。残念だけど、嫌なら仕方ないね」


 ……。ええと、そんな、納得したと笑みを浮かべようとして悲しいあまり失敗してるみたいな顔されても。


「えっと、あの、直ぐじゃないよ? 多分一年後くらいだよ?」

「一年……。一年後にはシエルは、居ない、ん……う、うぅ……」


 泣かれたーーー!?

 シエルはオロオロしながら、なんとかエリクを宥めようとした。


 シエルは心底、エリクの様子にうろたえている。

 それでも、シエルは「王都に残る」とも「帰って来る」とも言わなかった。

 そんなシエルを、ライフェルトは静かに観察していた。




 そんな事があった後も、訓練&勉強会は普通に続いている。

 エリクも次に会った時は普通だった。まぁ、時々、ふっと寂しそうな目で見られたりするけど……。

 そんなある日。


「ねぇシエルくん、冒険者活動してるって事は、瘴魔の森にも入ってるの?」

「うん」

「ええっ!?」


 ライフェルトの問いにあっさり頷くシエル。それを見て驚きの声を上げるエリク。

 瘴魔の森とは、王都の東に広がるサルトリ大禍山脈の麓に広がる森の総称だ。

 当たり前だが、凄く危険。エリクが驚くの無理はない――訳ではなく。


「そんな! 危険だよ、あんな所に行くなんて!」

「「エリク……」」

「え? 何?」


 揃ってなんとも言えない顔をする二人に、戸惑うエリク。

 こいつ……最近勉強捗ってると思ったら、基本的な事が抜けてやがる。


「あのね、エリク。穢れは確かに危険で恐ろしものだけど、その影響を受けない者もいる。教わったよね」

「聖魔法使い、でしょう?」

「他には?」

「他? ありましたっけ?」

「…………」


 ライフェルトは頭痛い、と言うようにこめかみを揉んだ。

 ライフェルトさん頑張って。


「正解は、子供。より正確に言えば、祝福の儀を受けていない子供」

「……え?」

「あれ、本気で知らない? なんで?」

「ああ……。そう言えば、ジャイン領は珍しく穢れ溜まりの無い領だったっけ……」

「そんな所あるの?」

「あるんだ、これが」

「あのー、二人とも何の話?」

「「…………」」


 シエルとライフェルトは一度顔を見合わせた。

 そしてライフェルトはコホン、と咳払いをして言った。


「あのねエリク。穢れは、子供には効かないんだよ」

「きかない?」

「そう。七歳までの子供は、穢れの影響を一切受けないんだ。大抵は子供の頃に穢れ溜まりに連れていかれてその辺りを覚えるんだけど、ジャイン領では無かったんだね」

「子供を穢れ溜まりに連れてくの? なんで?」

「穢れ溜まりの中にしかない、穢れを浄化出来る霊草や霊石を採る為だよ」

「えっと、霊草とかって、聖魔法使いか、祝福(ギフト)で【採取】を授かった人じゃないとダメなんじゃあ……」

「そう。そしてもう一つが子供なんだ。祝福の儀を受ける前の子を、『神内(かみうち)の子』って言って、色々特殊なんだよ」

「かみうちのこ……?」


 その後も説明をしたが、ピンと来ないらしいエリク。


「う〜ん、これは実際に見せた方が早いね。――あのね、シエルくん。学園で、秋頃に一年生を瘴魔の森に連れて行って穢れ耐性を確認する行事があるんだよ。それに向けて、エリクを穢れに慣れさせようと思って、この話をしたんだ」

「そんなのがあるんだ。でもいいの? 耐性みるなら、訓練した後より前の方が良いんじゃないの?」

「いや、ほとんどの貴族は事前に子供に訓練させるから、それは大して意味無いんだ」

「あー……」

「それに、耐性低くても訓練によって耐性が付く者も居る。これは将来的に、どんな職に着くか……穢れ関連の職に着けるのかを見極める為のものだから、訓練の結果でも、耐性が着いたならそれで良いんだよ」

「なるほど了解」


 それで、瘴魔の森初心者のエリクの安全性を確保する為に、神内の子(シエル)の同行を望んだのだ。


「良いよ、みんなで森に行こう」

「ありがとう、シエルくん」

「え、ホントに? シエルも?」


 シエルが危険では、と渋るエリクを宥め、三人で瘴魔の森に行く事が決まった。

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