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20 ぼっちですが、何か?

 それから数日後。

 瘴魔の森に向かう為に、シエル達はまず冒険者ギルドを訪れた。


 この世界の場合、冒険者ギルドと神殿は提携をとっており強く結び付いている。

 この世界の最大の問題が穢れであり、冒険者への依頼も大半が穢れ絡みになる為、自然と協力し合う形になるのだ。


 ――まぁ、提携も何も、冒険者ギルドのトップと神殿のトップが同一人物なのですが。

 これは映画館(神界)で得た情報なのでお口チャック。世間一般的には普通に別々の組織です。


 ともかく、穢れ関連の依頼も一手に引き受ける冒険者ギルドは、当然この国の瘴魔の森の監督役も担っている。

 なので、瘴魔の森に入る際も、その都度冒険者ギルドに日時と目的、同行者等を登録してから入るのだ。

 これは登山者登録と似たような制度だ。入った者が無事に帰還してるかの確認と、帰って来ない者が出た場合の救出、そして森で問題を起こす者が居た場合、可及的速やかに対処する為である。


 昔、森でとある犯罪が行われ、それが原因で大規模な魔物暴走(スタンピード)が発生した事があった為、この措置は徹底される。

 違反者は見つかり次第厳罰に処されるので面倒臭くてもきっちりやるべきだ。面倒以外にデメリットは無いし。


「はい、登録が完了しました。未成年者が同行してるので、帰還予定時刻は厳守してください」

「はい!」

「心得てます」


 ギルド職員の言葉に、エリクは緊張気味に、ライフェルトは真面目くさって頷く。

 そんな二人に、職員はフッと表情を緩めた。


「こちらとしては、シエルくんがようやく同行者を連れて来てくれて助かるよ。いつも一人で森に入るから心配してたんだ」


 ちなみにこちらの職員さんはトムテと言い、シエルが懇意にしている職員だ。

 なんだか妙に縁があってギルド関係ではお世話になっている。


「いつも……?」

「やはり、一人でですが……」

「そう。いくら危険が低いからって、小さい子一人で度々森に入られるのはねぇ。それを止める規定も無くて」

「ああ、好き好んで一人で穢れ溜まりに入ろうなんて人、普通いませんからね」

「そうなんですよ」

「フェルさん、トムテさん、おしゃべりはその辺にしてくれます?」


 何やら唐突に打ち解け話し出した二人。

 話の内容がよろしくない方向だった事もあり、シエルは無理矢理遮った。

 ちなみに、共に冒険者活動をする事になったので、ライフェルトをフェルと呼ぶ事になった。


 穢れ溜まりでの仕事は基本的に命がけ。降り掛かる危険は身分になど関係無いし、そんなものに拘っていたら助かるものも助からなくなる場所。

 なので穢れ溜まりに入る時は、身分は置いて行くと言うルールが原則としてあるのだ。

 ……まぁ、それをきっちり守ってる人は少ないかも知れないけど。


 そんな、“今は対等な立場ですよ”と示す意味、ついでに、咄嗟の時「ライフェルト」と「フェル」なら呼び易い「フェル」の方が良いだろう、と言う話になったのだ。

 ライフェルトの方もシエルを呼び捨てにする事になった。


「ああ、ごめんね。つい」

「ほら、さっさと行――」

「あっ、シエル君!」


 ともかくもう行こう……と思ったら第三者の声が。

 声のした方へ振り向くと、バタバタと小走りで寄って来る白衣の男性が。


「ラケルさん、こんにちは」

「うん、こんにちは……うん? ひょっとして、そちらは同行者?」


 男――冒険者ギルドの専属薬師ラケルは、近付いてからシエルが一人ではないと気付いたようだった。


「うん、今日は友達と一緒なんだ」

「始めまして、ライフェルトと申します」

「エリクです。よろしく」

「友達……! シエル君が、友達を……!!」


 ラケルは両手で口を覆いつつも、驚愕と感激、何より喜びを全身で訴えている。

 何ですか、その“ボッチの子供が初めて友達を家に連れて来た時の親御さん”みたいなリアクション。思い当たる事しかないんですが。

 トムテさんと頷きあって慈愛の眼差し向けるのもやめていただけませんかね。


「そうか……そうか……」

「すみませんが用が無いならもう行きますよ」


 シエルは冷ややかさを前面的に押し出して話を終わらせようとする。

 しかしラケルは何も気に留めず、にこやかに話を続けた。


「ああ、ちょっと不足してる素材があるから、森に行くなら多目に採取して欲しかったんだ。頼まれてくれる?」

「ああ、それくらいなら――」

「失礼、少しいいですか?」


 いつもの事に、いつも通り頷こうとしたシエルに、ライフェルトが待ったをかけた。

 あ、しまった。今日はパーティー行動なんだから、二人にもどうするか相談すべきだった。


「それは、普通に掲示板に貼る依頼では? なぜシエル個人に話を?」


 あれ、そっち?


「ああ、シエル君は薬学も身に着けていて、必要な部位や適した保存も詳しくて品質が良いんだよ。今日頼みたい薬草は、人によっては使えない状態で届く事が多くてね。出来ればシエル君に頼みたいんだよ」

「へぇ、シエルは薬学も覚えてるんだ。凄いね」

「ふふん、簡単な傷薬くらいなら作れるよ」


 エリク達との訓練だと、二人がシエルに怪我させないように細心の注意を払うので出番がないが、一応自作の傷薬を常備しているのだ。


「シエル君も“道”の依頼に行くの? だったら見つけるのはそう難しくない筈だよ」

「道?」

「あれ、知らない? 国の主導で、祭壇への道の整備を始めたんだよ」

「へぇ」


 祭壇とは、サルトリ大禍山脈の麓に建てられた、穢れを管理する為の施設。

 アルセルス王家も、元はヨーコに任命されてこの祭壇の管理を委託された一族だ。王家は代々、この祭壇を通して山脈に集められた穢れが暴走しないように勤めていた。


 けれど百五十年程前、なんかトラブルがあって管理が中断。その後もなんやかんやあって祭壇に足を運べないうちに、祭壇へ続く道が森に呑まれてしまった。

 道が無くなったせいで更に到達が困難になり、これまで祭壇は放置されてしまった。


 放置されたままでは何も良い事はない。

 やっと動いてくれたのか、とシエルは安堵した。が……。


「新しい聖魔法使い様の発案だとかで、高位貴族が資金提供してるらしくて報酬良いんだよ」

「! へぇ……」


 あいつかよ。

 発案者がプリムラ、と言うだけで計画に不安を覚えてしまう。やろうとしてる事自体は大賛成なのに……。


 同時に気になったのはエリクの反応。

 エリクは今シエルの背後に居る。振り返ったらラケル達の関心を引いてしまうかも知れないと踏み止まったが、どんな顔をしてるか。

 ちなみにライフェルトは「知っています。大事業ですね」とさらりと返している。流石です。


「ラケル、今日は森初心者の子が居るから奥へ行ったり時間が掛かるような依頼は受けないそうだよ」


 と、トムテ。

 そうだった。ラケルが欲しい薬草次第では断らなきゃいけないんだった。危ねえ、いつもの癖で何も聞かずに引き受ける所だった。フェルさんありがとう。


「そうだったのか。ごめんごめん、だったら依頼は無しで」

「そう? ごめんねー」


 どうやら奥に行かないと無い奴だったようだ。ホントに危ねえ(汗)


「あの、おれなら大丈夫だから、仕事受けても」

「いや、瘴魔の森に関しては、慎重に過ぎるくらいでちょうど良いんだ。今日の主目的はエリクの慣らし。採取依頼はそのついでで出来る範囲にすべきだよ」

「そーそー、のんびりやろう」


 自分のせいでシエルの仕事を奪ってしまったとでも思ったのだろう、エリクは申し訳無さそうに言うが、別に生活に困窮してる訳でもない。のんびりで良いというのは本心だ。


 話を切り上げて冒険者ギルドを出た。

 門へ向かいながら適当におしゃべりしていたが、エリクの様子がおかしい。


「エリク? どうかした?」


 やはりプリムラの話題は地雷だったか。

 思いながら、そっと聞いてみる。あれからエリクはプリムラに関して気にした素振りを見せないが、見せないだけで思う所はあるだろう。

 そんなシエルに、エリクは躊躇いがちに言う。


「いや、その……シエル、ずっと、一人、って……」


 あれ、そっち? (本日二回目)


「え? うん、そうだけど」

「……一緒に行く、友達、は……」

「ああ、うん、いないんだ、ホントに」


 あっけらかんと言うシエル。

 そんなシエルに、エリクは愕然とし、密かに気を張っていたライフェルトも言葉を失った。

 え、そんな……?


「ほら俺、いつも図書館居るじゃん? 本好きだからそうしてるんだけど、普通は本ばかりって嫌みたいで。冒険者も、一応孤児院の年の近い子で目指してるの居るけど、気が合わないし。前にも言ったけど、団体行動苦手だから一人の方が楽だし」

「そんなこと……いつもおれの相手してくれるじゃないか」

「三人くらいなら、まぁ平気。勉強会とかは、団体行動とは違うし」

「…………」


 シエルの言葉に、沈痛な顔をするエリク。

 いや、そんな顔をされるような事ではないんだけど。つか、ホントは友達居るんだよね。蜘蛛とか蛇とかで、紹介出来ないから居ないって言っただけで。


 尚、団体行動が苦手なのは前世からだ。

 病気で人との付き合い方を覚え損ねた結果か、生来のものか。本人としては後者だと思っている。

 何せ一人で居る事をそんなに苦痛に感じていなかったから。漫画や小説を読むようになって初めて“普通は一人切りをつらく感じるものだ”と知ったくらい。そうでなければ、前世での一生はもっと苦痛に満ちたものになっていたのではないだろうか。


「でも」


 ふと前世を反芻したシエルの耳に、ライフェルトの言葉が入り込む。


「今は、僕とエリクは友達、なんだよね?」

「! そうだよシエル! これからはおれ達が一緒に行くから!」

「あ、うん」


 唐突にやる気を出すエリク。いや、うん、友達が居ないって、この年頃の子には大問題だってのは理解出来るんですが……。

 戸惑うシエルにライフェルトは顔を近付けてそっと囁いた。


「さっきの、社交辞令でも、友達って紹介してくれて、嬉しかったよ」


 それだけ言って、元の位置に戻るライフェルト。

 ああ、はい、お見通しですか。シエルがまだ壁作ってるの察した上で付き合ってくれてる、と。

 ……………。

 なんだろう、この、頭上がらなくなる感じ……。

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