冒険者とゴブリン
襲われている冒険者の視点です。
「くそっ、数が多すぎる。」
俺は思わず声をだした。剣はとっくに血と油でなまくらに。身体のいたるところが鈍く痛む。
「ちょっと、どうするの。このっ!」
仲間のキャディが声を荒げていた。魔法使いである彼女も、ゴブリンの距離が近すぎるせいで魔法を使えず、近づいてくるゴブリンを手にもった杖で殴りつけていた。
「お、俺を置いていくつもりではないだろうな。」
馬車の中にいる俺たちの依頼人である商人が、震え声で叫んでいる。
「黙っていてくれ。」
俺は声を荒げる。
その間にも、ゴブリンはニタニタ顔で攻撃してくる。身体を引きずるように躱し、一撃を見舞う。だが、鋭さを失った俺の攻撃は、簡単に躱されてしまった。
素早く周囲を確認する。
俺の一番の気がかりは、一番前で身体を張っているデリーだ。彼の周りには5匹のゴブリンが集っていた。そいつらはケタケタと笑いながら、彼を甚振っていた。ずっと嬲られ続けいているデリーはふらついていて、今にも倒れそうだ。
(どうすれば…。)
俺は躱すことに専念して考える。
商人を置いて逃げても、この手負いの状態では逃げ切れない。
かといってこのまま戦っていても、じり貧である。
最後には俺たちは嬲り殺されるだけ。
こうなったら、
「おい、依頼人。俺らが引き付けている間に逃げろ。」
「ニール⁉何言ってるの?」
俺の言葉にキャディが驚きの声を上げる。
だが俺はその言葉を無視する。
「このままでは全員がやられるだけだ。」
「に、荷物を置いて行けっていうのか?」
「そんなこと言ってる場合か!!」
俺は商人の言葉にイラつく。
「つべこべ言わず逃げろ。」
俺は、馬車の帳の中から一向に出てこない商人に怒鳴りつける。
とその時、遠くになにか影が見えた。
「…新手か。」
俺は死期を悟る。
影の正体は骸の軍隊。奴ら、ゴブリン呪術師もどこかにいるのか。
「ギギッ!」
「まずっ!」
一瞬目を離した隙に、一匹が眼前に迫っていた。俺は避けることができず、ゴブリンの一撃を頭に受けてしまった。
視界が眩み、意識が朦朧とする。徐々に意識が遠ざかる中、最後に見えたのはゴブリンどもにスケルトンが襲い掛かっている光景だった。
明日も投稿します。