白と黒の少女
魔法灯が煌煌と照らす不夜の町。夜でも日中と変わらず、多くの人々が街に繰り出す。その中でも町一番のストリートはこの日もごった返していた。
その群衆の中をするするっとすり抜けていく一つの影。誰にも触れることもなく、気づかれることもなく、細い人と人の隙間を抜けていく。
その影は一軒の宿に入っていく。
廊下を照らす光にその影は露になる。真っ黒な外套を深くかぶった15歳くらいの少女。外套の下にはベルトにナイフを隠し持ち、急所を魔物の皮で補強した動きやすさを重視した防具を身に纏っていた。暗殺者が好みそうな装備だ。その下は黒色の肌が少し、見え隠れしていた。
少女は彼女に割り与えられた部屋の扉を開いた。
「クロ~、一人にしないでよ~。」
少女、クロが扉を開けた瞬間、誰かに飛びつかれた。クロもびっくりして体が硬直してしまい、彼女を受け止めきれず、尻もちをついた。
飛びついてきた人もまた、クロと同じくらいの少女だった。クロとは対照的な白色の部屋着で、真っ白な肌を覆い隠していた。白雪の髪の毛には寝癖がついていた。
その少女は今にも泣きそうな顔で、クロを強く抱きしめていた。
「起きたらクロがいなくていなくて、寂しかったの。ボクを一人にしないでっていったよね。」
シロはクロの胸に顔を埋めて、泣きだした。クロは困った顔を浮かべて、そっと優しくシロの頭を撫でる。
しばらく撫でていると、その手に気づいて泣くのをやめて、えへへっ、と笑顔に変わっていた。
「シロ…重い。そろそろ…おりて。」
シロが満足したところでクロが声をかけると、「ご、ごめんね。」といって、シロは起き上がった。
クロも立ち上がると、外套についた埃を払い、扉を閉めた。
「ねぇ、クロ。一人でどこ行ってたの?」
自分のベッドに腰掛けたシロが、部屋着に着替えているクロに聞いた。その口調はまだ少しすねていた。
「酒場。シロ…起こしたけど…起きなかった。」
クロが指摘すると、シロはうっ、と言って頬を俯く。着替え終わったクロも自分のベッドに座る。
「き、今日助けた人が言ってたっけ?」
「ん。私たち…噂になってる。」
「へ?なんで?」
「私たち…色々助けた。」
「だって…、困っている人助けたいもん。」
「ん、私もそう。だけど、まずいことに…なりそう。」
「どーゆーこと?」
「王様…私たちに会いたい…らしい。」
「それの何がまずいの?」
「私たちの力…求めている…らしい。」
「?」
シロは小首を傾げた。
「私たちの力…自分のために…使わせたいと…考えている。」
クロは言葉を選びながら、シロに伝わるように伝える。
「…昔みたいに。」
その言葉にシロの表情が強張る。その顔を見て、クロは優しく微笑む。
「だから、明日…この町でよう。」
シロは小さくうなずく。その体は、小さく震えていた。クロは彼女の隣に座り、優しく抱き着く。
「だいじょうぶ。…私が守る。」
クロが優しく頭をなでる。シロは暗い思い出が奥底に消えるまで、身体を預けた。
「ねぇ、おばさん。近くの町で面白いところはない?」
次の日、宿を出る前にシロは宿のおばさんに聞いた。
「そうねぇ、東の街道を行くと、クレディアという小さな村があって、そこの花畑はすごくきれいだね。ちょうど今、見ごろだと思うわ。」
「おばさん、行ったことあるの?」
「一度だけだね。若いころ、まだ旦那と結婚する前に、連れて行ってくれてね。すごく想い出に残っているわ。」
宿のおばさんはすごく懐かしむ表情で答えた。
「おばさん、ありがとう。じゃ、そろそろ行くね。」
「おや、もう行くのかい?寂しくなるね。いい旅を続けてね。」
シロはクロの手を引っ張るようにして、宿を後にした。
シロとクロは石畳で舗装された街道を歩いていた。
クロの服装は夜外に出ていた時と同じ服を着ていた。
対してシロの服装は純白な外套を纏っていた。その外套の下には、聖職者の服のような白が基調の、金や緑の装飾が施された服を着ていた。そしてクロと同じリュックを背負い、白金の美しい錫杖を持っていた。
二人は手をつなぎ、何の会話もなく道を進んでいた。
「シロ、何か…聞こえない?」
突然、耳をひくひくさせ、クロが話しかけた。
「ボクは何も聞こえないよ。」
シロは目を閉じ、耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。
「ううん、やっぱり…聞こえる。」
クロはシロの手をつないだまま、音が聞こえた街道の先に向かって走り出した。
少し走ると、シロの耳にも音が聞こえてきた。
グギャグギャ、という不愉快な声と、剣が交わるような音だ。
「クロ、あれ見て。」
街道の先、そこに一台の馬車が止まっていた。引く馬を失った馬車をゴブリンの群れが取り囲んでいた。三人の護衛の冒険者が馬車守っているが、防戦一方で、全員が怪我を負っていた。
「クロ、助けよう。」
「ん。」
二人は全速力で駆け出した。
明日も同じ時間に投稿します。




