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THE PHANTOM THIEF ~紙一重の正義~(幻想怪盗団~罪と正義~改訂版)  作者: 陽菜


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十五章 いつもと違う日常と真なる覚醒

 ハッと目が覚める。そして、スマホを見るとやはり冤罪事件の前日だった。

 しかし、今回はそれより驚いたことがあった。

「『ジョーカー』」

『なんだ?』

「アルターって、現実でも呼び出せるんだね……」

 そう、そのことだ。結局死んでしまったが、あの時なぜアルターを覚醒させることが出来たのか。『ジョーカー』は笑って、

『お前が特別であったというのも理由の一つだな。だが、実はあの時……いや、これはやめておこう』

「なんだよ?そう言われると気になるじゃん」

『大丈夫。シャーロックの言う通り、思い出せれば分かるさ』

 オレの正体も、お前が何者かも、全てが。

 蓮は疑問符を浮かべるが、いずれ意味が分かるだろうとあえて聞き返すことはしなかった。

 それにしても、あと何回繰り返すのだろう。正直、もう疲れた。

 ――だけど、皆と会えなくなるのはもっといや。真実にたどり着けないのは、自分の美学に反する。

「……今度こそ、間違えない」

『あぁ、オレもお前を信じてる』

 さぁ、もう一度始めよう。「幻想怪盗団」の物語を――。



 いつも通り冤罪を被せられ、ファートルで居候することになった。東京に来てスマホを見ると、ゲンソウナビが入っていたがそれをそのままにしてファートルに向かった。

 ――しかし、ここからは「いつも通り」ではなかった。

 ファートルに着くと、藤森が仏頂面で蓮を出迎える……ハズだった。

「ん?あぁ、お前か。遅かったな」

 だが、出迎えた彼はどこか優しそうな――そう、自分の冤罪を知り、守ろうとしてくれた時のような笑顔を浮かべていた。

「……へ?」

 こんなこと初めてで、思わず間抜けな声を出してしまった。それを気にせず、藤森は名前を聞いてきた。

「あ、えっと……成雲 蓮、です……」

「蓮、か。いい名前だな。ほら、こっちだ」

 戸惑いながら、藤森が屋根裏部屋まで案内してくれるのでついて行くと、既に片付けられていた、どころかベッドが市販で売られているものに変わっているし、扇風機もストーブもある。今までの劣悪な環境は何だったんだと言いたいほど、部屋が変わっていた。

「後は自分で片付けろ」

 そう言うが、正直自分で片付けた時と同じであるため片付けるも何もない。やることと言えば必要なものを段ボールの中から取り出し、整理するぐらいだろう。

 下に降りた藤森を不審に思いながら、蓮は自分のものを整理しだした。


 夜、藤森が帰ったのを確認すると『ジョーカー』に話しかける。

「……どう思う?」

『今までのことを考えたら、おかしいと思うな』

 何度かあったのなら、気にしなかっただろう。しかし、こんなことは今回が初めてだ。しかも、前の周では繰り返していることを知られたし、怪盗服に変わったところを見られている。疑うのは当然のことだろう。

「でも、この程度じゃまた「疑う」にとどめておいた方がいいかもな」

『確かに。もしかしたら、今回は「たまたま」そんな周だったというだけかもしれないからな』

 そうするほかないと二人の意見が一致し、とりあえず寝ることにした。


 目が覚めると、牢獄世界にいた。格好を見ると、囚人服だった。

「今は、反逆するつもりはないみたいだな」

「……シャーロック」

 立ち上がり、柵まで近付く。ユリナとマリナが心配そうにこちらを見てきた。最初の頃はもっと雑に扱ってきたと思うのだが。

「……ここでも、アルターを使うことが出来るんですか?」

「そうだな。だが、ここで覚醒させても意味がないだろう」

 あっさり肯定されたが、彼の言う通り今ここで覚醒したところでエネミーがいないのだから意味がない。

「……でも、だからと言って殺す必要はなかったと思いますが?」

 しかし、多少文句は言っておかないといくら蓮でも気が済まない。僅かに怒りを含ませてそう告げると、彼は悪びれず「あのまま行っても真実にたどり着けなかっただろうからな」と答えた。

「……白い髪の女性のこと?」

 何となく、そう思った。時々思い出す白い女性と自分は切っても切れない関係があるハズ。

「そうだ。まぁ、お前の実力なら思い出さなくとも黒幕には辿り着けたと思うがな」

 しかし、それでは間違った道を進んでしまうかもしれない。

 そう言われ、蓮は何も言えなかった。確かに、真実があるのならそれを知るに越したことはない。

「そういうことだ。この周回は面白いことになりそうだ。お前が今度こそ「自由へ更生」することを祈っている」

 その言葉と共に眠気が襲ってきた。


 次の日、学校に行くと長谷もおかしかった。

 校長と話した後、彼女が蓮のもとに来て「何かあったら、すぐに言いなさい」と言ってきたのだ。この頃は厄介者扱いしてくる彼女が、だ。

 ――何か、おかしい。

 しかし、ここでも確信には至らず、首を傾げながらファートルに戻った。


 次の日、学校に向かう途中、いつもの場所で風花に出会う。ここではただ寂しそうに微笑んで狛井の車に乗り込むのだが、

「あ、桜の花びら……」

 なんと、蓮の髪に手を伸ばし、花びらをとったのだ。蓮のことを知っているのならいざ知らず、この時の彼女は親友のことで精一杯のハズ。それなのに……。

 その後、狛井の車が来て風花は乗り込んだ。その様子を見て、考えすぎかと思うことにした。

 良希が来て「あー、クソ!」と悪態をついた後、蓮の方を見て「ほら、行くぞ」と笑って言ってきた。

「……え?」

「何ぼさっとしてんだよ?お前、凛条高校だろ?一緒行こうぜ」

「は、はぁ……まぁ、別に構いませんが……」

 やはり、どこかおかしい。しかし、彼ならあり得るかと蓮は良希について行く。途中、キーワードを言っていたが、どこか故意的に感じた。しかし、それも気のせいと思うことにした。

 そうしてあの城に入って、蓮が覚醒して、ヨッシーを助ける。ヨッシーに出口まで案内してもらい、「ありがとう」と言って出ようとすると「待ってくれ」と呼び止められた。

「くせっ毛。ちょっといいか?」

「別に構いませんが……」

「金髪はそこで待ってろ」

 どうしたのだろう?部屋から出ると、ヨッシーが口を開いた。

「……久しぶりだな、「ジョーカー」」

 コードネームで呼ばれ、蓮は目を見開く。まさか……。

「お前、もしかして……」

「あぁ。ワガハイも繰り返したんだ。お前と同じ方法でな」

 つまりそれは、死んだということで……。

「すまない、お前が望んでいないことは知っていた。だが、お前だけに苦しみを背負ってほしくなかったんだ」

「……ヨッシー」

「それに、ワガハイ誓ったんだ。お前の傍にいようって」

 それを願ったのは、紛れもなく蓮だ。だから何も言えなかった。蓮は謝るが、彼はいいんだと笑った。

「安心しろ。ワガハイもお前と同じように「覚えていない」フリをする」

「……分かった。ボクも、皆の前ではいつものように振る舞う」

 二人だけの約束を結び、部屋に戻った。

「すまない。少し聞きたいことがあってな」

「わーってるよ。行こうぜ」

「分かりました。……ヨッシー、また今度」

 その言葉を残し、蓮と良希は現実に戻った。

 その日の午後はいつも通り過ごしていた。風花の「嘘つき」がなかったこと以外は。

 ――異変が起こったのはファートルに戻ってからだった。

 ファートルの扉を開けて、藤森に「あまり遅刻はするなよ」とだけ言われて上にあがろうとした、その時だった。

「げほっ、げほっ」

 急に苦しくなって、咳込みながらしゃがんだ。口の中に鉄の味が広がって、恐る恐る口を押さえこんでいた手を見ると、そこについていたのは血だった。

「お、おい!大丈夫か!?」

 こんなこと、繰り返して初めてでどうしたらいいか分からなかった。藤森は蓮の背中をさする。

「何があった?お前、どこか具合でも悪いのか?」

「……だ、大丈夫……多分、すぐよくなるでしょう」

 心配する藤森に蓮は笑って誤魔化した。

 ――本当は、分かっていた。ループし続けた身体が弱っていたことぐらい。そして、もうそれに耐えられないほどになった。それだけの話だ。

 藤森は納得していないようだったが、もう一度「大丈夫」と言うと彼は二階まで肩を貸してくれた。

「それじゃあ、俺は帰るが……何かあったら連絡しろよ」

 そう言って、藤森は帰っていった。

『……大丈夫か?蓮』

「……どうだろうね。もう、この身体も限界が来たみたいだし」

 服を着替え、ベッドに転がる。ふかふかで気持ちがいい。

『そうだな。だが、真実を思い出せば、恐らく吐血することはないハズだ』

 なぜそんなことが言えるのだろうか。疑問に思うが、

「それまでは何とか耐えろってことだね」

 なぜかは分からないが、このことに関して詳しくは聞かない方がいいと思った。

『それより、ヨッシーが繰り返したなんてな』

「ボクも驚いた。ボク以外でも繰り返せるんだね」

『いや、恐らくお前の仲間であり協力者だからだ。そうじゃないと説明がつかない』

「あ、そうか。それなら咲中も知っているハズだもんね」

 協力者は繰り返すことが出来る、か……。

『どうした?疑問に思うことでも?』

「いや……気のせいかって」

 一瞬浮かんだ考えを振り払い、目を閉じる。

 『ジョーカー』が目の前にいたので起き上がり、ベッドに座る。『ジョーカー』も近くにあった椅子に座った。

「今回は前の周以上にイレギュラーが多いね」

「そうだな。……お前も、自傷行為がなくなったしな」

「「生きたい」と思えるようになったからね」

 彼の言う通り、蓮は自傷行為をしていない。皆と一緒に「生きたい」と思うようになったからだ。だからと言って今までの傷がなくなったわけではないので、薬はいまだに飲んでいるが。

「それでも、いい方向に向かってる。その様子なら、ちゃんと思い出せるかもな」

 嬉しそうな、寂しそうな、少し複雑な表情が気になった。しかし、そのわけを聞くことが出来なかった。


 再びデザイアに入り、ヨッシーと会って体罰の現場まで向かう。良希がバレー部の顔を覚え、すぐにそこから立ち去ったが、狛井のフェイクに会ってしまう。そこで良希も覚醒し、危機を乗り切る。

 球技大会の日、島田が狛井の放ったスパイクに当たったので保健室に連れて行き、体罰について聞いてみる。いつもならここでは何も話さないのだが、

「……なぁ、聞いて、くれないか?」

「何ですか?」

「ぼく、狛井先生に体罰受けてるんだ。助けてくれ……」

 助けを求める声に蓮は目を見開く。ここで彼が助けを求めるなんて今までなかったからだ。

「……分かった、必ず助けて見せますから」

「ありがとう、成雲……」

 蓮がそう言うと、島田は満足そうに笑った。

 次の日の放課後、渋谷で風花が狛井と電話しているところに出会った。

「……どうしました?春鳴さん」

 尋ねると、彼女は「あ、転校生さん……」と呟き、蓮にすがった。

「お願い、話、聞いて……」

「え?……別に構いませんが……」

 そういえば、いつもなら川口と話していると「犯罪者」と言って引き剥がしてくるのに、今回はそんなことがなかったと思い出す。

 ――まさか、な。

 余計な考えだと振り払って風花の話を聞く。やはり、いつ聞いても狛井のやり方は許せないものだった。

「ありがとう、話、聞いてくれて……あたしだけじゃ、何も出来なかった」

 そう言って風花は席を立つ。時間を見ると、やはり川口を助け出すには遅い時間だった。

「『ジョーカー』って分離することが出来ないの?」

『無茶言うな。……やろうと思えば出来るかもしれないが、「彼」に頼み込まないといけない』

「そうか……」

 誰に頼み込むのかというのは気になるが、そこは聞かないことにした。露骨に残念がる蓮に『ジョーカー』は『そんなにオレと一緒にいたいのか?』とからかってきた。

「当たり前じゃん。……だって、お前はボクの支えなんだから」

 まさかこんな真面目に返されるとは思わなかったので『ジョーカー』は戸惑う。

 ――オレだって、「人間」としてこいつの傍にいたい。

 「以前」と同じように、こいつと共に生きたい。

 ……本当に、頼み込むか。

 『ジョーカー』は一人、そう誓った。


 川口が屋上から飛び降りようとしているところを蓮が止めるが、彼女は狛井にされたことが耐えられなかったのか、体重を前に傾けた。それに耐えられず、蓮も落ちてしまう、が防御の術を使って柔らかい壁を作り、衝撃を和らげる。そして、癒しの力ですぐに川口の心を癒そうとしたが、やはり無理だった。救急隊員に川口を任せ、蓮は良希と合流する。

 狛井に詰め寄るのか、と思ったが、彼は「デザイアに行こうぜ」と言ったので驚きながら頷いた。確かに退学になることがなくなるからゆっくり出来るけれど……それに島田にも頼まれたからいいが、彼は大丈夫なのだろうか?

「あいつのしたことは許せねぇよ。人が死にかけたんだ、迷っている暇はねぇ」

 それが良希の意見だった。……情の深い奴だと思っていたが、冷静に判断も出来るではないか。

 放課後、ヨッシーと合流してデザイアに入る。

「コードネーム、決めようぜ」

 ヨッシーがそう提案したので蓮は頷いた。

「まずリョウキ、お前は」

「俺はマルスでいいぜ」

「え?あ、あぁ。分かった。じゃあヨッシー、お前は……そうだな、テュケーだ」

「それでいい。じゃあ、レンは……」

「ジョーカー、なんてよくね?切り札って意味でよ」

「え?……まぁ、オレは構わないが」

 戸惑いながらもスムーズに決まり、デザイアの中を進んでいく。少し進んだところで風花が捕まったと聞こえてきたのでそちらに向かう。

 風花もアルターを覚醒させて、現実に戻る。そして、明日一気に準備をすませると言ってヨッシーを連れ帰った。

 藤森にバレるが、呆れるどころかむしろ歓迎といった感じだった。

「おー、ベッド、グレードアップしたな」

「藤森さんが用意してくれたらしい」

「扇風機とかストーブもか?」

「あぁ。ベッドはともかく、扇風機とかは買おうと思っていたから丁度よかった」

 そう答えると、「こんなことあったのか?」と聞かれた。

「いや、実は初めてだ。だから正直疑っているというか……」

「何を?」

「言いたいこと、分かるだろう?」

 そこまで言うと、納得したらしくヨッシーは「なるほどな」と頷いた。

「でも、まだそうとは限らないだろ?」

「だから、「疑う」にとどまっている」

 その時、藤森が下からヨッシーと蓮の食事を持ってきた。

「ほら、どうせ食ってないんだろ?」

「へ?……あ、ありがとうございます」

「レン、驚きすぎだぞ」

 ヨッシーがしゃべると藤森が驚いたような目をしたことに気付いた。

「あ、えっと……皿、洗っとけよ」

 それじゃあ、俺は帰ると言って下に降りた。……明らかに動揺していた気がする。その証拠にガラガラガシャン!と大きな物音が聞こえてきた。

「……完全に何かに動揺してるね」

「……そうだな」

 何があったのだろうか?ヨッシーが話した途端あぁなったから……。

 ――まさか、な。

 そんなわけない。何度も考えたことを振り払ってベッドに座った。

 その時、咳込んだ。また鉄の味がしたので手を見てみると、やはり血がついていた。

「おい、大丈夫か!?」

 ヨッシーが近付いて、ネコの手ながらその背を撫でる。蓮は「大丈夫」と笑った。

「何があったんだ?」

「……お前には、話しておくか」

 繰り返しているのなら彼に隠す必要もないと事実を話す。

「じゃあ、この周で最後ということか?」

「恐らくは。……もう五十六回目だからな。よくてあと一、二回いけるかどうか」

 ちなみに、「五十六」は小アルカナの枚数でもある。

「そんなに繰り返してたんだな……」

 一人でずっと繰り返してきて、辛かっただろうとヨッシーは言う。しかし、蓮は笑った。

「他でもない、お前が傍にいてくれたからな。誰に裏切られようとも耐えられた」

 それに、『ジョーカー』も。

 それは言わなかったが。事実、彼と心の住人がいてくれなかったら蓮は二周目以降、一人でどこかに消えていただろう。二人が蓮の心を守ってくれたのだ。

「そうか。それなら、ワガハイも嬉しいぜ」

 そう言って「その血、拭き取らねぇとだよな……」とタオルを持ってきてくれた。蓮はそれを受け取り、手と口を拭いた。

「悪いな」

「別に構わないぜ。……でも、それ良希達に見られたらなんて言うんだよ?」

「持病って言っておく。誤魔化せるか分からないけど……」

「まぁ、それしかないよな……」

 もう寝ようぜ、と言ってヨッシーが丸くなった。蓮もベッドに転がり、「明日は午前中から忙しいぞ。日曜日にはルートを確保しておきたいからな」と言った。

「分かった」

「それから、夕方はどこか行こう。何食べたいとかあるか?」

「ワガハイ、寿司がいい!」

「分かった。再会祝いだ、特別に銀座の寿司屋に行くか」

「よっしゃ!あそこの寿司、一度食べてみたいと思ってたんだよ!」

 財布の中は明日見ることにして、今日は寝ることにした。


 次の日、午前中は敷井のところに行き、薬を買った。その時、敷井の方から取引を持ち出された。昼は良希と共に金井のところに行って武器を買った。金井には「今度、また来てくれ」と言われた。そして夕方、蓮とヨッシーだけで銀座に向かった。

「ほら、何がいい?一応、それなりには持ってきたから何でも好きな物選んでいいぞ」

 ヨッシーにこっそり話しかける。ヨッシーはカバンの中から見て「大トロがいい。それからサーモン」と言ってきたのでそれと蓮も適当に買った。そして藤森達にもお土産にと買う。

 ファートルに帰り、藤森に「少し多いかもしれませんが、よかったら食べてください」と二人分の寿司を渡し、二階に上がる。そして、机の上に寿司を広げた。ヨッシーが近寄ってきて、それを食べる。

「うーん!やっぱ魚はうまいなぁ!」

「それはよかった。……そういや、いとこの兄さんも魚が好きだったな。よくボクに刺身を持ってきてくれてた」

 蓮としては、ちょっとした思い出話のつもりだった。しかし、その言葉を聞いた途端、ヨッシーの動きが止まった。

「どうした?ヨッシー」

「いや……その話、ワガハイ知っている気がする」

「え?ボク、こんな話した?」

 確かにいとこの兄がいたことは話したが、そんな思い出話のようなことはただの一度も話したことがないハズ。

「なんだろうな、この記憶……黒髪の、女の子……それに、着物……?」

 ヨッシーが首を傾げたが、「まぁ、今度でいいよな」と再び寿司を食べ始めた。不思議に思いながら、蓮も食べ始めた。


 次の日、四人で狛井のデザイアを攻略する。宣言通り、一日で終わらせた。

「お疲れ」

 公園でベンチに座っている二人にジュースを買い、渡す。

「あんがと」

「予告状は明日作成したい。良希、任せられるか?」

「任せとけ!」

 妙に張り切っている良希に不安を感じるが、風花が文句を言ってこないので別に構わないだろう。

「じゃあ、詳しい話はまた明日。今日はここで解散しよう」

 そう言ってその場で解散した。蓮とヨッシーは学校に戻り、デザイアに入る。

「そういえば、レン」

「どうした?」

 ヨッシーに話しかけられ、蓮は前を向いたまま尋ねる。

「こんなに早くオタカラを盗んだ場合、改心はどうなるんだ?やっぱり、早まるのか?」

「いや、そんなことはない。狛井の場合、罪を告白するのは決まって五月一日だ」

 確かに疑問になるところだろう。しかし、経験上どんなに早くオタカラを盗んでも同じ日に罪を告白するのだ。どういう原理かは分からない。

「そのかわり、自宅謹慎が長くなるぞ。だから被害者は減っている」

「なるほどな。だから早めに終わらせたのか」

「そういうこと。まぁ、本当に一日で終わるとは思っていなかったけどな」

 良希と風花もまるで使い慣れているかのように戦っていたのだ、だからすぐに終えることが出来た。

「それで、ここに来た理由は?」

「ほら、いただろ?冬木以外の侵入者。あいつは狛井のことも知っているんだ」

 そういえばとヨッシーは思い出す。確かに、フードを被っていた男がいた。

「狛井だけじゃない。白野のことも城幹のことも咲中のことも知っていた。……さすがにりゅうと秋川さんのことは知らなかったみたいだけどな」

「そうなのか?」

「あぁ。そして奴はオレに相当な恨みがあり、何かしらの因縁がある。……得られた情報と言えばそれぐらいだ」

 あの殺気を思い出して悪寒が走った。それ程、蓮にとって恐ろしいものだった。

「じゃあ、お前の関係者か?」

「その可能性が高い……が、誰なのか見当がつかない」

 正直に話すとヨッシーは「確かめようがないもんな……」と頷いた。良希ならこうはいかないだろう。恐らく「なら確かめようぜ。俺、いつでも戦えるぞ」なんて言いだすのではないか。

「……噂をすれば」

 物陰に隠れ、フードを被った男性が通り過ぎるのを見送る。そして、狛井と話し出した。言っていることは前に聞いたものと同じだ。

「なんで、これでお前のことだと分かったんだ?」

「実は、オレも何か忘れているんだ。それさえ思い出せれば何とかなるハズなんだが……」

 そう答えると、ヨッシーが「ワガハイ達、どこか似ているんだな」と笑った。

 現実に戻ると、まだ夕方だった。

「どうする?時間的にはまだ大丈夫だが」

「じゃあ、アザーワールドリィに行きたい」

 ヨッシーがそう言ったので蓮は頷いてアザーワールドリィと入力した。そして、車を出してもらい運転する。

 あの壁のところまで来ると、やはり勝手に開いた。

「はぁ!?なんで勝手に開いたんだよ!?コマイ、まだ改心させてないだろ!?」

「前の周で気付いたんだが、オレがここに来るとそうなるんだ。皆がいる時は多分、他の人達がいるから開かなかっただけで、少人数ならいいみたいだな」

 ヨッシーが驚いて叫び出したので蓮はなだめるように答えた。「マジかよ……」とヨッシーは肩を落とす。今までの苦労は何だったのか。

「地下もそうだったのか?」

「そうだね。最後のところは謎を解かないと入れなかったけど」

「マジかよ……」

 お前、そこに入ったのか?と聞かれたのでちょっとだけ、と答える。

「開けた場所だったな。ただ、一つだけ扉があってそこはどうやっても開かなかった」

 そこに入るといつも以上に身体中が強く痛んだことは話さなかった。そもそも、今の彼にそんな話をしたことがなかったので言わない方がいいだろうと判断したのだ。

 エネミーと戦い、疲れたところで現実に戻る。

「お前、新しい力覚えたな」

「回復量上昇だな。これ、何に使えるんだ?」

「恐らく、回復呪文を使う時その効果があがるものだと思う。ボクは魔力があがれば癒しの力での回復量もあがるからあっても意味ないんだが」

 サポート系の呪文や力を覚えるのはありがたい。それだけ戦術の幅も広がるというものだ。

「これでコマイのフェイクと戦う時も楽になるんじゃないか?」

「そうだな。ボクも攻撃力と防御力が下がる呪文を覚えたし、随分楽になるな」

 それに、鍛えたおかげでステータスもそれなりにあがった。これなら大丈夫だろう。明日良希に予告状を作ってもらえばいいだけだ。

 ファートルに帰ると、藤森が「おかえり」と優しく出迎えてくれた。

「お前、何かに首を突っ込んでいないか?」

 どこか見透かされているような気がするが、蓮は「いいえ、何も」と誤魔化した。

「そうか。……カレー、食べるか?」

 そう聞かれ、頷くと彼はすぐにカレーを渡した。ヨッシーには魚を置く。

「どうだ?ヨッシー、うまいか?」

 蓮がヨッシーに尋ねると、彼は「あぁ!さすがゴシュジン、ワガハイの好みをちゃんと把握してるぜ」と答えた。藤森はそんなヨッシーを撫でた。

 皿を洗い、温泉に向かう。そして帰ると藤森は学校のことについて聞いてきた。

「まぁ、普通ですけど」

「本当か?……何か噂されてるとかないのか?」

 的を射た発言に驚きながら、「大丈夫です」と告げた。

「そうか。……それならいいが」

 今回の藤森はやたら蓮のことを心配するなと思った。確かに怪盗だと知った後はこんな感じだが、まだこの時は知らないハズ。

「それじゃあ、帰るからな。何かあったら連絡してくれ」

 藤森が帰ったのを見送り、二階に上がる。そして、ベッドに転がった。

「だけどよ、お前、時々別人みたいになるよな」

「……なんでだと思う?」

 悪人の笑みを浮かべ、蓮は聞き返した。ヨッシーは「うーん……」とうなった。

「まぁ、答えてやらないけどな」

「なんだよそれ!」

「今はボクだけの秘密にしたいからな」

 『ジョーカー』が心にいることを、誰にも話そうとは思わない。今は、まだ。

「ほら、早く寝よう」

「それ、ワガハイのセリフ!」

 ヨッシーを抱きしめ、蓮は目を閉じた。

 目を開くと『ジョーカー』が目の前にいた。

「やぁ、蓮」

「どうした?『ジョーカー』。なんか機嫌がよさそうだな」

 心なしがかなり笑顔だ。何があったのだろうか?

「いや、お前がオレとの関係を隠しているのが可愛くってな」

「……可愛くないし」

「可愛いさ、ちゃんとオレが気になっているところとかな」

「う……。確かに、そうだけど……」

 そう言われたら弱い。自分と同じ顔なのに。そりゃあ、自分より少し身長が高いし、声も低いし、まさに男性版の「成雲 蓮」だけども。

 ……ボクを見た人達もこんな感じだったのかな?

 『ジョーカー』を見て思う。彼は魔性の男だ。蓮から見てもそう思うのだ、他の人が見たらどうなるだろうか。

「お前も「魔性の女」だけどな」

「……お前に言われると否定出来ない」

 同じ顔の人間に言われて否定出来る人がいるのだろうか。少なくとも、蓮は否定出来なかった。

 その時、『ジョーカー』は蓮の顎をクイッとあげた。そして、顔を近付ける。あ、キスされるなと思った時には唇が重なった後だった。離れると、蓮は顔を赤くさせる。

「いつになっても慣れないな、お前は」

「きゅ、急にやるからだろ!?」

 心臓が跳ねている。彼のやることは心臓に悪い。

「いつもクールなお前がこういったことになると余裕なくなるもんな、本当に可愛い」

「うっさい」

「素直じゃないところもお前らしいな」

 このままでは『ジョーカー』のペースにのまれてしまう。しかし、蓮にはどうすることも出来ない。結局、彼に弱いのだ。

 顔を赤くして恥ずかしかる彼女の肩を『ジョーカー』は抱き寄せた。

「……綺麗だ」

 耳元でそう囁くと、肩が分かりやすく跳ねた。それを見て『ジョーカー』は笑う。

「やはり、お前は耳が弱いんだな」

「やめろ、余計なことはするな」

 そう言われても、説得力はなかった。そのまま現実で起きるまでいじられ続けた。


 予告状を作り、決行日の十八日。ジョーカー達はデザイアに入った。警戒度はマックス。ルートを進み、オタカラのところまで行く。そして、それをジョーカーとマルスが持って王座の間に行く。すると狛井のフェイクがバレーボールを使って王冠を飛ばした。

 狛井との決戦が始まる。ジョーカーはまず攻撃力と防御力を下げる呪文を使った。テュケーが風呪文で攻撃する。マルスも雷呪文を使い、追撃した。ウェヌスも炎呪文で攻撃した。狛井が超強烈スパイクを放ってくるが、ジョーカーが作った壁で防御する。

「終わりだ」

 牢獄世界で引き取ったサポートエネミーのオーディンの呪文「ライトニング」でとどめをさす。元の姿に戻った狛井は醜く命乞いをした。ウェヌスは怒りながらもとどめをささず、ジョーカーが「罪を償え」と言うと彼は現実の彼のもとに戻った。

 デザイアが崩れ始める。走って逃げ、現実に戻った。オタカラを見ると金メダルになっていた。

 金メダルをどうするかは今度決めることにして、この日は解散する。

 次の日、島田に「危険なことをしているわけじゃないよね?」と聞かれ、自分と関わるなと冷たい反応を返す。しかし、それでも彼は引かなかった。

「ちゃんと他人を頼ってほしい。前歴をバラしたぼくが言うことではないと思うけど……」

 最後は俯きながら言われ、蓮は言葉が出なかった。

 島田が自分の席に戻ると、風花が「言いすぎじゃない?島田君の言う通りだよ」と言ってきた。事実だと答え、風花も学校内ではあまり関わらない方がいいと告げると、

「そんなことない!あたしだって好きで蓮と一緒にいるんだから、そんなこと言わないでよ!」

 そう言い返してきたのだ。さすがに驚き、目を見開く。今回はやけに強気だな、とどこかで思った。

「レン、こいつらの言う通りだぜ」

 ヨッシーにも言われたが、何も知らないふりをしないといけないのだ。だから、頼るわけにはいかない。

「あたしのことは気にしないで」

 風花はそう言って笑った。その笑みは蓮のことをよく知っていると言いたげだった。


 ヨッシーとアザーワールドリィで鍛えたりバイトをしたり協力者達と絆を深めたりして、五月一日になった。狛井が罪を告白する。しかし、川口はやはり転校することになったようだ。あんなことがあったのだ、やはり心の傷が深いのだろう。目立った外傷がなかったのが不幸中の幸いだ。

 連休の二日目、ファートルで手伝いをしていると冬木が来た。やはり、どこもおかしいところはない。藤森は蓮が冬木を見ていることに気付いたが、何も言ってこなかった。

 六日、金メダルを売りに行くと金井から紙袋と名刺をもらう。名刺には「金井 順一」と書かれていた。

「また今度おいで」

 優しい声で言われ、蓮は頷く。外に出て、紙袋の中身を見るとやはり本物によく似たモデルガンが入っていた。持ってみると、蓮の手によく馴染んだ。

「へぇ……武器、今まで変えたことなかったけどこれなら使えそう」

 再び紙袋に入れて、今度取引しようと考える。

 しかし、不思議に思ったことがある。見た目は確かに似たようなものだ。しかし、僅かに性能が違うのだ。今まで使ってきたから分かる。これは……蓮のために作られている。だが、この時の金井は蓮が取引を持ち掛けてくるなんて思っていないハズだが……?

「どうした?レン」

「ん?あぁ、ちょっとな」

「というか、武器変えたことねぇってマジか?」

「そうだな。正直、変えなくても強くなっていくから変えようなんて思わなかったんだ。だが、これは状態異常がついてくれている。見た感じ、感電だな。普段はいつもの銃を使って、何かあった時にはこれを使うってことが出来そうだ」

「じゃあ、早速取引だな!」

 その言葉に頷く。もちろんそのつもりだったが……やはり、違和感が拭いきれない。しかし、確信が持てない。

「……それにしても、おかしいな」

「何が?」

「ワガハイだって、違和感に気付かないほど鈍感じゃないぜ?」

「……お前もか」

 頭のいい彼のことだ、きっと蓮と同じことに違和感を持っているのだろう。

「だが、確信が持てないな」

「安心しろ、確信が持てたら言ってやるから」

 この相棒にはもう、出来るだけ隠さないようにしようと思ったのだ、だから何かあったら頼らせてもらう。

「まぁ、皆のことはお前が一番知ってるもんな。頼んだぜ」

「任された」

 蓮は笑ってそう約束した。

 打ち上げの日、食べ過ぎた良希をトイレに連れて行き、エレベーターに乗ろうとすると黒服の男達に押しのかれてしまう。剃髪の男性の声を聞くと、やはり聞き覚えがあるのだが、どこで聞いたのか忘れた。……いや、違う。思い出したくないのだ。思い出したら、怒りがわきでそうで。

 風花のところに戻り、怪盗団を結成しようという話になる。風花も賛成のようだ。リーダーは蓮になり、怪盗団の名前は「リベリオンマスカレード」、次のターゲットは誰にするか話し合う。しかし、その日の内に決まらず、テストが終わった後に決めようということになった。帰る途中、冬木と会った。そこで彼は同じ過ちをする。ヨッシーも分かったようだ。見つめ合い、小さく頷き合う。

 夜、金井のところに向かい、取引をする。いつもより緊張しなかったのは彼から優しい雰囲気が出ていたからだろう。

 ファートルに戻ると、再び血を吐いてしまう。ヨッシーがタオルを持ってきて、その背をさする。

「なんか、酷くなってないか?」

 ヨッシーが心配そうに聞いてくる。蓮は「仕方ないだろ?……正直、ここまで持ったのも奇跡なんだ」と答えた。

「それに、こんなところで負けていられない。乗り切ってやるさ」

「それでこそジョーカーだな」

 不敵な笑みを浮かべる蓮にヨッシーも笑った。

 ――そう、これこそが本当の彼女なのだ。

 決して折れぬ意志を持ち、正義感に燃える少女。絶望と諦めのせいで今まで消えていた、強い力を持つ者。そしてそれを取り戻したのは「希望」が生まれたから。

 ――ここが、ワガハイの居場所だ。

 自分が彼女の希望になるというのなら、彼女から離れないようにしよう。ヨッシーは心の中でそう、誓った。


 テストが終わった次の日、アザーワールドリィに入る。久重を改心させ、白野の名前が出てきた。

 次の日、裕斗に出会う。しかし、少し変わっていた。風花ではなく、蓮の方を見て追いかけてきたのだ。

「よかったら、白野先生の個展を見に来てくれないか?」

 そう言う裕斗はどこか複雑そうだった。皆にチケットを渡し、彼は去っていく。

「……何だったんだ?」

 正直、予想外だった。いつもは風花をモデルにしたいと言うのに……。

 しかし、気にしていても仕方ない。この日はそのまま学校に行く。

 個展に向かう日、裕斗は蓮を見て「一緒にまわろう」と言ってきた。断る理由がないので頷く。個展を回っていると、やはりいつ見てもおかしいと思った。だてに芸術家の血を引き継いでいない。

 その中でひときわ目立つ絵があった。

「この絵、すごいですね……」

 ヨッシーもカバンの中から見ているが、疑問符を浮かべていた。それは楓の木のような、赤い色の自然の絵だったからだ。

「すごい?」

 裕斗が尋ねてくる。

「はい。なんていうか……見た目はおとなしいのに、怒りを感じるんです。「こんな理不尽、やってられない」という……それでいて、少し悲しそうな……そんな雰囲気を感じます」

 正直な感想を言った後、裕斗の方を見ると彼は呆然としていた。

 ――ビンゴ。これは裕斗が描いた絵だ。

 芸術にはどれも、その人の「魂」がこもっているのだ。そう、母が教えてくれた。母親は絵のことに関しては家の中の誰よりも情熱的で、強い想いを込めている。同じぐらいか、それ以上の情熱を持っている彼がこんな仕打ちを受けて耐えられるわけがない。この絵を見る限り、本当に、自殺する直前だっただろう。

「……こんな絵より、もっと素晴らしいものがある」

 あぁ、師匠の絵と称するなら「こんな絵」などと言わないだろう。自分の作品だから、こんなことが言えるのだ。

 そう思いながら蓮は裕斗と個展を見て回った。

 外に出て、良希達と合流すると日本画家の有名人が虐待や盗作しているということが書き込みされていた。

 明日事実確認してみようという話になり、解散する。ファートルに戻ると、蓮はスケッチブックを取り出した。

「どうしたんだ?」

「久しぶりに絵でも描こうかと思ってね」

 蓮はサッサッと鉛筆で描いていく。しばらくして、ヨッシーが絵を覗き込んだ。

 そこに書かれていたのはまさに団らんだった。仲間達がいて、協力者達がいて。皆笑顔だった。しかし、そこに蓮自身が描かれていない。

「なんでお前の姿がないんだよ」

「ちょっとね」

 そう言うとおもむろにメガネを外し、持ってきていた鏡を見た。

「……うん。やっぱり「あいつ」に似ている。瓜二つだ」

「どうした?」

「こっちの話」

 蓮は鏡をしまうと、蓮は自分自身を描いていった。そこに描かれたのは男装姿の蓮……のように見えるのだが、別の人にも見えた。しかし、誰なのかは聞くことが出来なかった。

 次の日、あばら家に向かい、裕斗に書き込みについて確認をする。彼は言葉を詰まらせるが、そんなわけないと震える声で言った。

 いつもなら堂々としているのに。なんでこんなにも弱々しいんだ?

 しかし、「サヤカ」を見てそれを頭の隅に置いてしまう。

 あばら家の前で話をしていると水谷が来て、名刺を渡してきた。その目は「君の情報を楽しみにしている」と言いたげだった。それだけだったら、新聞記者として情報が欲しいんだろうなと思うだけだったろう。だが、あの目は蓮が情報提供をしてくれると知っているものだった。

 様々なところに疑問を感じながら、白野のデザイアに入った。そういえば、今回は前後したなと思った。

 白野が絵や弟子をどんなふうに思っているのかを知ったが、まだ保留だと現実に戻り、解散した。

 次の日、裕斗にモデルをやるという口実であばら家に入れてもらった。そして、裕斗が「今日は駄目だ……」と呟くと良希が事実確認をしてきた。だが、迷惑行為だと警察に連絡しようとはせず、ただ黙っているだけだった。しかし、情報が得られないのは同じなのでそのまま解散することにした。

 次の日、久重と会い、白野を改心させてほしいとお願いされる。それで白野が次のターゲットになった。

 次の日、あの中庭のところまで向かう。金井から貰ったあの銃を使ってみたが、効果はかなりよかった。これなら使えると懐にしまった。

 いつあの中庭の扉をやるかと聞かれ、明日はバイトをしたいと言って土曜日にしてもらった。

 次の日の放課後、バイトに行こうとすると裕斗からチャットが来た。公園に来てほしい、とのことだ。

 すぐに向かうと、そこには既に裕斗の姿があった。

「成雲さん。すまない、来てもらって」

「別に構いませんよ。どうしたんですか?」

 ベンチに座り、裕斗が口を開くのを待つ。やがて、意を決したように彼は口を開いた。

「成雲、さん。おれ、は……」

 言葉を詰まらせる裕斗に蓮は「大丈夫、ゆっくり話して」と優しく言った。それに促されて、彼は続きを話し出す。

「おれは、先生に虐待、されている……盗作、も、本当だ……個展で見た、あの絵、本当は俺が描いたものだ……」

 まるで蓮が聞いてくれることを知っているかのように、裕斗は全てを話した。

「痛い……助けてくれ……」

 蓮は頷き、その背をさする。柔らかな光が満ちて、彼の傷を癒した。ずっとその傷に耐えていたのだろう。身体の傷はいずれ消えるが、心の傷は永遠に消えないのだ。

「大丈夫、ボクは味方だから」

 その言葉を聞いた裕斗は涙を流した。蓮は彼が泣き止むまでその場にいた。

 裕斗をあばら家まで送って行き、蓮はバイトに向かう。ファートルに帰ったのは九時過ぎだった。

 次の日、モデルを引き受けてあばら家まで向かう。そして、あの開かない扉のところに行く。白野が帰ってきたのと同時に鍵が開いた。

 裕斗をその開かずの間に引き入れて、電気をつける。白野が言い訳を並べるが、どれも意味がない。「サヤカ」にかぶせてある布を取り、言い逃れが出来ないようにする。

 そのまま白野が目を逸らした隙にデザイアの中に入った。裕斗も巻き込まれている。リベリオンを召喚し、抱えてもらう。

 着地すると、すぐに脱出しようと言った。白野が待ち伏せしていたが、裕斗が覚醒したことによって切り抜ける。

 ファミレスに行って、裕斗が怪盗団に入りたいと願ったので頷いた。

「明日一日でルートを確保するぞ」

 蓮の言葉に反対する者はいなかった。次のアジトを渋谷の連絡通路にして解散する。

 次の日、アジトに集まり、デザイアに入る。そして、宣言通りルートを確保した。予告状は明日作り、明後日を実行にしようと決めて解散した。

 火曜日、予告状を出しデザイアに入った。オタカラを盗み、脱出しようとするがそれが偽物だと気付いた。白野が来て、本物の「サヤカ」を見せつける。真実を知って、アポロは怒った。

 戦いが始まる。ジョーカーは呪文を唱え、気を引く。マルスは物理呪文で、ウェヌスとテュケーは呪文で追撃する。アポロが刀で斬りつけた。

 黒い液体が吹きかけられるが、壁ではね返す。それが白野に付いたところでジョーカーがサポートエネミーのモトを呼び出し、「フレイム」と唱えた。炎に焼かれ、白野が戻る。

 サヤカに手を伸ばそうとする白野をアポロが刀で制した。それに怯え、彼は命乞いをする。彼は「罪を告白しろ!」と激しい声で告げた。そこで白野が白い男のことについて聞いてきた。そんな奴知らない、と皆で顔を見合わせるとデザイアが崩れ始めた。アポロがサヤカを持って車に乗り込もうとする。

「なぁ、裕斗……ワシぁどうしたらいい?」

「有終の美ぐらい……せめて自分の作品で飾れ」

 ジョーカーの耳にそういう会話が聞こえてきた。

 現実に戻ると、裕斗はサヤカを見て「この絵を見た時の衝動、間違いじゃなかった」と満足そうに呟いた。そして、怪盗団を続けるということも。蓮も、彼に笑いかけた。

 夜、また血を吐いた。まだヨッシー以外の仲間に気付かれていないことが彼女にとっての救いだった。

「おい……今日はバイト行くのやめようぜ?」

「いや……軍資金がな……」

 これからを考えると、そろそろ足りなくなってくる頃だ。アザーワールドリィで鍛錬ついでに稼ぐのもいいが、この状態だと命取りになるだろう。時間がある時にアザーワールドリィに入ろう……と計画立てる。この日は無理やりバイトに行った。

 目を開くと、『ジョーカー』が目の前にいた。しかし、だるくて起き上がれない。

「本当に大丈夫か?辛そうだが……」

 彼に言われるということは、相当酷い状態なのだろう。

「うーん……貧血気味、かな?あんなに血を吐いてたらね……」

 転がったまま、蓮は答える。『ジョーカー』は蓮の手を握りしめた。

「……その苦しみ、変わってやれたらいいのに」

 一時的に変わることは出来る。だが、元に戻ってしまえばまた蓮が苦しむのだ。何も出来ない自分に、無力感を感じた。

「……何思ってるのか、詳しくは知らないけど……」

 蓮が下から見上げるように見てきた。

「ボクはお前にたくさん支えられてる。無力感なんて感じなくていい」

 そう言って笑った。苦しいハズなのに。

「傍にいてくれるだけで、この苦しみも耐えられる」

 だって、それはお前とヨッシーが支えてくれるから。だから、乗り越えられる。

 そう言われてしまっては何も言えなかった。


 改心までの期間はアザーワールドリィで依頼をこなしたり、バイトに行ったり、協力者との絆を深めたりした。夜はヨッシーと共にアザーワールドリィに入り、軍資金集めをする。

 六月に入って蓮は初めて夏服を着た。次の日が改心の日……と緊張しているところで学校内から黄色い声が聞こえてきた。

「おい、あの転校生、肌白くね……?」

「しかも、よく見たら美人だよな……」

 しかし、そんな声を無視して蓮は席に座る。すると、島田が傍に来た。

「ね、ねぇ、成雲」

「どうした?顔が赤いが……」

 それに、どこか目を逸らしている気がする。

「風邪でも引いたか?」

「い、いや。そんなわけじゃ……」

 どこか動揺しているようだ。何があったのだろう。

「病気か?それなら病院に行ってきた方がいいぞ?」

「そういうのじゃ……なぁ、成雲」

「なんだ?」

「スカート、着てくれないかな?それ見ないと、ぼく死ぬかも……」

 ほんのちょっとしたイタズラ心だった。きっと彼女なら「そんなことで死にはしない」などと言うだろうと誰もが思っていた。しかし、

「何!?そんな病気なのか!?なら、今からスカートを買いに……いや、まだ店が開いていないな。そもそも学校指定のものでないといけないよな……。ちょっと待ってろ、今長谷先生に頼んで女子制服着てくる!」

 なんと、馬鹿正直に信じたのだ。蓮はバッと立ち上がり、すぐに職員室に向かった。それを風花と島田だけでなく、他の人達も呆然と見ていた。

「……信じたんだけど……」

「うん……なんか、すごい勢いだったよね……」

「あいつ、本当に女子制服着るつもりか……?」

 蓮がネコを連れてきているのはもう周知の事実と化しているのか、ヨッシーが声をあげても誰も何とも言わなかった。

 数分後、ガラッと教室の扉が開いた。そこには女子制服を着た蓮の姿があった。ご丁寧にさらしも解いている。

「こ、これでいいのか?島田」

 すごく恥ずかしいんだが、と蓮はもじもじとしながら聞いてきた。あまりの美人ぶりに男子は皆、地に伏した。

「な、なんだ!?島田が死ぬかもと言ったから着たんだが……そんなに似合わなかったか!?」

 逆である。むしろ誰よりも似合いすぎて直視出来ないだけである。

「レン、その、本気にしたみたいだが……嘘だからな。スカートを見ないと死ぬとか、そんな病気ないからな?」

「そうなのか?てっきりボクの知らない間にそんな病気が出てきたのかと……」

 ヨッシーが蓮の傍に来てそう言うと、蓮ははてなマークを浮かべていた。……何とかと天才は紙一重、ということか……。

「それならわざわざお前に頼まなくてもいいだろ。他に女子がいるんだからよ」

「それもそうか。じゃあ今から着替えに……は無理だな。さらしを巻くのに時間がかかる。……仕方ない、午前中はこれで受けるか」

「マジか!」

「着替える時間がないんだから当たり前だろ。どうした、そんなに慌てて」

 ヨッシーが慌てるのも仕方のないことだ。なぜなら凛条高校のスカートは膝より少し上までしかない。ズボンなら隠されているので足の白さも気にしないところだが、スカートだとそうはいかないだろう。しかも、彼女は誰もが羨むほど足が長い上に白すぎる。ヨッシーだって男だ、気にするなと言われる方が難しい。この時ほど、彼女の無自覚さを恨んだことがない。

「蓮、蓮。その……下着、つけてる?」

「下着は着てるぞ?」

「そっちじゃなくて……胸の」

「逆に聞くが、急に言われたのにあると思うか?」

 風花との会話を聞いていた全ての人が蓮の方を見た。

 休み時間、「蓮が女子制服着てるって聞いて来たんだけど」と良希が教室に来た。

「やぁ、良希」

「おー。ホントに女子制服着てる。似合ってるぜ」

 ひらひらと手を振ると、彼は二カッとしながら近付いてきた。

「良希はのたうち回らないんだな」

「なんだよ、それ?」

「島田君含む全ての男子がそうなったの」

 風花がかわりに答えると「マジか。まぁ、耐性ないと直視出来ないわな、これ」と言った。

「耐性って……ボクを魔性の女みたく言うな」

 『ジョーカー』に言われるならまだしも、他の人に言われるのは心外だ。自覚持ってくれお前は、と言いたくなる。

「というか、あんたは大丈夫なの?」

「俺は、まぁ、四月にお前が蓮を着せ替え人形にしてもらっていたおかげでそれなりには。というかお前、よくスカート履く気になったな」

「島田が「死ぬかもしれない」って言ったから……」

「それを馬鹿正直に信じたと。お前、そういうところあるよな」

 三人でそんな話をしているとチャイムが鳴った。良希は名残惜しそうにしながら、「じゃあ、俺戻るわ」と自分の教室に戻った。

 昼休み、着替えに行こうとすると風花に「一枚だけ写真撮らせて」と言われたので蓮は頷く。

「それ、どうするつもり?」

「裕斗にも送る」

「あいつ、すぐに食いつきそうだな」

 笑って、蓮は着替えに行った。

 明日洗って返すと長谷に伝えて教室に戻ってきた。

「それ見てると、蓮って本当にもったいないことしてるって思う」

「急になんだ?」

「そんなに美人なのに、隠してるからさ。ほら、「能ある鷹は爪を隠す」みたいな?」

「多分、使い方間違ってるぞ」

 チャットを見ると、やはり裕斗が食いついていた。「ぜひ現物を見てみたい」と返って来ていた。もちろん、今後着るつもりはないが。

 次の日の金曜日、個展が終了すると同時に白野が記者会見を開いた。それを見て、怪盗達は喜ぶ。打ち上げは明後日しようという話になり、解散する。

 起きると、『ジョーカー』が笑って目の前にいた。

「……えっと、『ジョーカー』さん?何怒っているんですか?」

 思わず敬語になってしまう。それほどに彼は怒っていた。

「昨日、他人にスカート姿見せたよな?」

「……はい」

「じゃあ、オレにも見せるべきだよな?」

 パチンと手袋越しとは思えないほど綺麗になった音と同時に蓮の姿が昨日着た女子制服姿になる。

「へぇ、これはいいな……」

「勝手に服着替えさせるのやめて。お願いだから」

 蓮は顔を真っ赤にしながら言った。『ジョーカー』は笑い、蓮を押し倒す。

「もっとオレを楽しませてくれるよな?」

 ニコリ。その擬音が聞こえてきそうな程綺麗な笑みだ。恐らく、着せ替え人形にされる。そう思ったが、逃げられない。なぜならここは蓮の心の中、どこに行こうがどうせ行き止まりになってしまう。

 腹をくくるしかない。そう思って蓮は着せ替え人形になった。


 打ち上げの日、前歴のことを話すと皆が怒った。改心させようにも誰だか分からないし、一度ついてレッテルは簡単には剥がせないと話すと、自分達が正しいと思う正義を貫くべきだと言ってくれた。

 次の日の放課後、もみじがあとをつけてきた。しかし、それは監視というよりは「仕方なく」やっているように思えた。

 次の日、裕斗がバイトを教えてくれ、と言ってきた。

「バイト?」

「あぁ。俺もバイトをして、怪盗団に尽くしたいんだ」

「……お前の場合、まずは自分の生活を何とかしろ」

 しかし、やる気になっているので蓮はバイトを紹介した。この時の蓮のバイトは花屋、コンビニ、牛丼屋、そしてカジノの非常勤ギャンブラーだった。水谷と取引した後はバーにもバイトに行く予定だ。

 ギャンブラーをやるようになったのには原因がある。五月頃だっただろうか、見た目を褒められ、しかも頭がいいと聞くなり、いいバイトがあると言われたのだ。軍資金不足だし、やるだけやってみよう……そう思ってしまったのが運の尽きだった。なんと、カジノに連れて行かれたのだ。それでギャンブラーのノウハウについていろいろ教えられ、断るわけにもいかず、現在のようになっている。しかも、意外と型にはまっているのだ。蓮が来た時は大盛り上がりになるらしいし、やめてしまったら迷惑になるだろうと思って引きずっている。お人好しもここまで来るともはや病気を疑われるレベルだろう。両親が聞いたら失神しそうである。だが、今バレたらやばいというのも事実なわけで、いつ辞めようか……そう思いながら過ごしている。ちなみに、そのことを知っているのはヨッシーだけだ。

『地味に給料がいいのも悩んでいる理由だよな』

「そうだね……はぁ、ちゃんと聞くんだった……」

 犯罪に巻き込まれていないことが不幸中の幸いだろう。いや、カジノの時点で犯罪か?今度仲間になったもみじに相談しよう……そう心に誓うのだった。

 次の日、久しぶりにピアノを弾こうと長谷に頼み込む。ヨッシーは何か知っているから楽しみにしているようだ。放課後、音楽室に行ってピアノを弾き始めた。

「信じている あなたのことを そうやって私とあなたは夜空に飛んでいくのでしょう」

「あぁ あなたに出会ってなかったら私はどうなっていたのか 舞い遊ぶ蝶のように彷徨っていただけではないのか」

 そんな言葉が歌詞の中にあった。自分自身のことを歌っていると、蓮は思った。

 ――ヨッシーと『ジョーカー』に会っていなかったら、自分はどうなっていたのか。

 きっと、壊れていた。壊れて、元に戻れないぐらいになっていただろう。誰も信用出来ず、誰にも頼ることが出来ず。きっと、そうなっていた。

 だからこそ、蓮は二人を大切に思っているのだ。この出会いがなければ、蓮は一人どこかに行っていただろうから。

 歌い終わると、ヨッシーが「やっぱりいつ聞いてもいい歌声だな」と笑った。

「それにしても、お前はそれを誰に向けて歌ってるんだ?」

「何が?」

「ワガハイにも向けられている気がするが、他にもいるような気がするんだよ。……もしかして、ワガハイも知らない恋人の存在を想って、とか?」

「……どうだと思う?」

 確かに、ヨッシーだけではなく『ジョーカー』にも歌っていた。それをまさか悟られるとは。彼もなかなか見る目がある。

 しかし、『ジョーカー』のことに関しては秘密にしているので意味深に告げるだけにとどめた。ヨッシーは「うー……そういったことは教えてくれねぇよな」とうなった。

「てか、リョウキも聞いたと思うけどよ……恋人っていんのかよ?」

 あんなにモテて、全く相手にしないなんておかしい。きっと、誰か想い人がいるのだ。ヨッシーはそう思った。

「どうだと思う?」

「そうやってはぐらかして……!話すまで聞き続けるからな!」

「分かった分かった、お前にだけは話してやるから。……恋人、いるよ」

 あっさりと明かされた恋人の存在にヨッシーの興味がわいた。

「どんな奴だ?」

「そうだね……ボクの意思を汲み取ってくれて、意地悪で強引だけどちゃんとボクのことを考えてくれてて……ボクにはもったいないぐらいの、完璧な男だよ」

 あまりにも幸せそうな顔をする彼女を見て、本当にその人が好きなのだと思い知らされた。それに、完璧すぎる彼女に「完璧な男」と言わせる人がどんな人なのか気になった。

「会えるのか?」

「どうだろう……?強く望めば、いずれ会えるんじゃない?」

 蓮はほとんど無意識の内に答えていた。言ってから、なんでそう思ったのか考えた。

 ――だって、あいつは……。


 次の日、もみじに呼び出されて生徒会室に向かった。そして、録音を聞かされ、さらに良希から電話がかかってきたのでアジトに連れて行った。

 そして、もみじから依頼を受け、明日情報収集をしようという話になる。蓮は夜、一人で渋谷を歩き回っていたが、前のように勧誘はなかった。やはり、夜だと動きにくいのかもしれない。それに、学生を狙うという手口を考えるとやはり昼間がいいのだろう。周囲を見てみても、高校生らしい人影はあまり見かけない。

(……やば……)

 テレビ局の人がいたのですぐに身を隠す。こんなところで身元がバレてたまるか。

 通り過ぎたのを確認すると、すぐにファートルに戻った。

「はぁ……本当に面倒だな……有名というのも」

「名家の令嬢が東京に来て、しかも夜出歩いてるってなったら即刻ニュースになるぞ」

「やばい……そんなリスク考えてなかった……」

 確かに、見つかったらすぐテレビに取り上げられてしまう。今まで気付かれなかったのは恐らくメガネのおかげだろう。メガネの力、偉大なり。

「まぁ、今日はもう寝ようぜ」

 そう言われ、蓮はベッドに転がる。しかし、眠気が一向に襲ってこないのでヨッシーに話しかける。

「……なぁ」

「どうした?レン」

「最近さ、お母様の様子がおかしい気がするんだ」

「あぁ、虐待しているっていう、母親か?」

 ヨッシーの確認に蓮は頷く。

「そう。ずっと気のせいですませていたんだけど……やっぱり気になって。それに、「力」っていうアルカナでもあるんだ。一応、協力者の一人な」

「意味は?」

「文字通り、「力を司る者」。それから、勇気、名誉、寛大って意味がある」

 占いをする場合、正位置では「力量の大きさ、強固な意志、理性、自制……」など、逆位置では「甘え、引っ込み思案、無気力、人任せ、優柔不断、権威を振るう、卑下」とされている。

「それでな。意味を調べていくとほとんどの人は最初、逆位置になってるんだよ。敷井さんは「死神」、水谷さんは「悪魔」、島田は「塔」だから正位置な」

 ちなみに、「塔」の場合正位置でも逆位置でも悪い意味にしかならないらしいが、一説によれば「逆位置の方がいい」というものがあるらしい。だからここでは正位置にしたのだ。

「それが、ボクと関わることで正位置、もしくは逆位置になっていく……お母様も、関わっていけばそうなるのかな?」

「……そうかもしれないな」

 しかし、どう関われと言うのだろうか。母親相手に正直、恐怖しかないのだが。

「そう思うなら、電話でもしてみろよ。絵のこととか、学校のこととか、いろいろ話せること、あるだろ?」

「……そう、だね……」

 先入観を捨てて、やればいい。苦手意識はあってもきっと話を聞いてくれるだろうとヨッシーは言ってくれる。

『ヨッシーの言う通りだぞ。もしかしたら成雲 広子はお前が思っているような奴じゃないかもしれない』

「……そうだね」

 話していると眠気が襲ってきた。ヨッシーも同じらしい、「寝るぞ」と言われ、目を閉じた。


 次の日、情報を集め、もみじを勧誘から守る。そして、明日集まろうということで話がまとまり、解散する。

 夜、母親の電話番号を見つけ、深呼吸する。

「なんでそんなに緊張するんだよ?」

「自分から母親に電話することなんて、初めてでな……緊張するんだ」

「お前の家族、どんなんだよ……」

 しかし、ヨッシーは焦らせることはせず、見守っていた。三十分ぐらい経った時、覚悟を決めてようやく電話をかける。

『……もしもし』

「あ、もしもし。蓮です……」

『あら、蓮。珍しいわね、あなたから電話をかけてくるなんて』

「その……白野、さんのことについて聞きたくて」

『あぁ、私の元師匠の……いいわよ』

 あっさり頷かれ、蓮は驚く。

「いいんですか?その……逮捕、されてるのに……」

『盗作や虐待で?そんなの気にしないわよ。……でも、そうね。確かに昔はそんな人じゃなかったわ。私にもよくしてくれたし……高校生ながらあなたを妊娠したって聞いた時も、自分のことのように喜んでくれたわ。だから、変わったとしたらその後。でも、あなたを連れて会いに行った時はそんなところ全く見せなかったし……』

「……えっと、夏木 裕斗、覚えてます?」

『夏木君?覚えてるわよ、あなたと遊んでくれた子よね』

「彼と、会って……やっぱり彼もあのあばら家にはいられないから学校の寮に入るって」

『そう……でも、仕方ないんじゃない?あんなこと、あった後なんだし。それにしてもよくそんなこと知ってるわね?』

「偶然、知り合って……それで彼のことを思い出したんですけど、友達になって」

『まぁ、あなたの交友関係には口をはさむつもりはないけど。でも、悪い友達とは付き合わないようにね』

 ここまで話してみて、蓮は疑問に思う。

 ――お母様、こんなに話しやすい人だっけ?

 もっとこう……何も言わせないという威圧を感じていたハズなのだが。それとも、電話越しだからだろうか?本当にこの人が自分に虐待していたのだろうか……。そんな疑問さえ出てくる。

『それじゃあ、夜も遅いし早く寝なさい』

「あ、はい。分かりました」

 電話が切れると、蓮は一気に力を抜く。なんか、身構えていた自分が馬鹿みたいだった。

「どうだった?お前の母親」

「うん……なんていうか、普通のお母さんって感じ」

「そうか……じゃあ、お前を虐待してたのも、何か訳ありなのかもしれないな……」

「……そうかも」

 だとしたら、何なのだろうか。いくら考えても分からなかった。


 次の日、カラオケボックスに集まるがやはり情報という情報は得られず、水谷を頼ることにした。

 夜、良希と一緒に新宿に来る。バーまで来ると良希はこの辺を見て回ってくるからと言って別れた。

 水谷から情報を得て、取引をした。

「そう言えば、アトーンメントって知ってる?」

 不意に聞かれ、蓮は首を傾げる。彼からいつも名前が出てくるが、いったい誰なのだろう?

「俺が裏の情報を手に入れる時に頼っている情報屋だよ。その子の情報は正確だから、君にも教えてあげる」

 そう言って、彼はアトーンメントとやらの連絡先を渡してくれた。

バーから出て、良希と合流しようとすると早坂に呼び止められた。取引すると、彼女は「お願いします」と笑顔で言った。それは楽しみにしていると言いたげだった。

 良希と合流すると、いつもの如く彼はおかまの人に襲われる。しかしどうすることも出来ないのでそのまま去った。

 次の日、良希に怒られながらも城幹の名前を入力する。すると反応したのでどこを何と思っているのかという話になった。

 そうしてキーワードを当てて、デザイアに入る。被害者に話を聞いて、空を見上げると銀行が浮いていた。

 デザイアの中に入れないということで現実に戻り、どうするか明日考えることにする。

「はぁ……とうとう明日か……いつもひやひやするんだよな……」

 帰り道、ヨッシーと話す。

「そういや、モミジが無茶するんだったな。確かに、あれはひやってしたぜ……しかもお前、急に手下を倒すからな。あれ、見た時は怖かったぞ……」

「最初の頃はしていない。前歴があるからな……」

 それに、今はある程度平気になったが「人間恐怖症」でもあったため、そんな余裕がなかった。

「あと、ストーカーか」

「そういやそうだな。明日は気を付けた方がいいな」

 そんな話をしながら、ファートルに戻る。今日はやけに店が繁盛していた。しかも、敷井までいる。

「あぁ、悪い、蓮。ちょっと手伝ってくれないか?」

 藤森に頼まれ、蓮は頷く。ヨッシーが何か話すたびに藤森と敷井がビクッと肩を震わせているのは気のせいだろう、きっと。

 皿洗いをして、客が帰った後サンドイッチを出してもらい、それを食べる。食べ終わるとケーキが出された。

「お前が作ったレシピ通りに作ってみたんだ。食べてみてくれ」

 そう言われたので食べてみる。

「……おいしいです」

「よかった。立案者にまずいって言われたらどうしようかって思ってたんだ」

 ほのかなコーヒーの香りにほんのり甘いクリーム。……自分でレシピを作ったとはいえ、ここまでおいしかっただろうか?

「あー、その……最近物騒だから、気を付けろよ」

 藤森から出た言葉に蓮はビクッとなる。なぜか、ストーカーのことまで見透かされているような気がしたからだ。

「じゃあ、俺は帰る。鍵、閉めとけよ」

 そう言って、藤森は帰った。

「……なんか、ゴシュジンはお前がストーカー被害に遭ってるってこと、知っている雰囲気だったな……」

「お前も感じたか。じゃあ、気のせいじゃないかもな……」

 蓮の中の疑問が確信に変わりつつあった。しかし、そちらがその気ならこちらも気付いてないふりをしてやろう。


 次の日、皆で集まっているともみじが来た。風花と良希に散々に言われ、もみじは「城幹に会わせてあげる」と言ってその場を走り去った。それを追いかけ、城幹と対峙する。

 前と同じように手下達を押さえつけようとすると、

「成雲さん、私は大丈夫だから」

 もみじに止められた。まるで何をしようとしているか分かっているような口調だ。

 そうしてもみじを城幹のところから助け出す。

「あなたが助け出してくれると信じてたわ」

 その言葉で今までの疑問が確信に変わった。だが、この場では気付かないふりをする。

 城幹のデザイアに入り、もみじが覚醒した後に現実に戻った。そして、帰ろうとすると、

「蓮、送って行こう」

「え?どうした、急に」

「不自然な動きの男がいる。今は一人での行動は慎んだ方がいいぞ」

 確かに、今も例のストーカー男がいたが……裕斗が気付くとは思っていなかった。しかし、気付かれてしまったのならと言葉に甘え、ファートルまで送ってもらった。

「……ヨッシー、確信に変わったぞ」

「分かった」

 裕斗が帰った後、二階でそんな話をする。何が、を言わなくても伝わった。

「でも、気付いていないふりでいいと思う。あちらもその気みたいだしな」

「了解。いつ明かすんだ?」

「計画の後でいいんじゃないか?」

 話し合っていると、眠気が襲ってくる。「寝ていいぞ。お前、普段から寝不足気味だからな」と言われたので、頷いて目を閉じた。

 次の日、攻略が始まる。一日で終わらせると、現実に戻ってもみじが「軍資金、どうしてるの?」と聞いてきたので正直に答えた。

「それで、もみじ。相談なんだが……」

 解散した後、もみじだけをその場に残してギャンブラーの件を話す。

「あなた、そんなこともやってるの?」

「地味に給料がよかったんだ。まさかそんなことだとは思わなくて……ボクもやめたいとは思っているんだが……下手してやめたら迷惑かかるし……」

「そんなこと考えない。すぐにやめるの」

 その場で電話をかけされられて、ギャンブラーの仕事はやめることになった。やはり、もみじに相談してよかったと思う。

 予告状を出そうという土曜日、もみじに封筒を渡された。

「……なんだ?これ」

「バイト、始めたの。怪盗団のためになるんじゃないかって思って」

 その言葉に蓮は驚いた。

「怪盗団のため?それなら、ボクが稼いで……」

 別に皆がやる必要はない。だが、

「いいの。あなたもたまには自分のためにバイト代を使いなさい」

「実は、俺も持ってきた」

 裕斗も封筒を取り出し、蓮に渡してきた。中身を見ると、裕斗の方は五千円、もみじの方は一万五千円入っていた。

「いいよ、こんなに受け取れない」

 特に裕斗は生活を切り詰めているのだ。そんな人から受け取れない。そう言うのだが、

「蓮、自分のために使っていないだろう。俺達も協力するから、たまには自由に過ごしてくれ」

「そうよ。忙しいんでしょ?それならむしろ頼ってほしいわ」

「……そこまで言うのなら、分かった。受け取るよ」

 そう言って、蓮は怪盗団用の財布の中にそれを入れる。それを見て、風花が「じゃあ、あたしもモデルで稼いだお金、いくらか持ってくるよ」と言い、良希も「俺も、バイトしてみようかな……」と呟いた。

「良希はまず勉強から始めようか。時間出来るなら、個別授業、いくらでも出来るぞ?」

「いや、あの……指をパキパキ鳴らしながら言わないでください……」

 ニッコリと擬音が出てきそうな程素晴らしい笑顔に良希は震える。こういった時の蓮は本気だと知っているからだ。

「よし、なら明日、城幹のオタカラを盗んだ後勉強会を開こう」

「嫌だわ!なんで疲れてんのに勉強しなきゃならねぇんだよ!」

 自由時間を何のために使ってんだ、と良希は喚く。そんなに嫌なのか、勉強が。それなら仕方ないと一応やめる。

 そうして予告状をもみじに任せ、解散した。

 次の日、皆でアジトに集まった。

「ショータイム!」

 蓮のその掛け声と共に、城幹のデザイアに入った。

 オタカラのところまで向かうと、そこに城幹のフェイクがいた。

 戦いが始まった。城幹が風を起こしたので、リベリオンに抱えてもらって空に飛ぶ。そして、城幹に銃弾を撃った。

 すると、あの巨大な鉄球が現れた。ミサイルを撃ってくるが、呪文を使ってすぐに爆発させる。

「壊れろ!」

 そう言って、エヌルタの物理呪文「オフェンス」で鉄球を壊す。金塊と共になだれ落ちてくる城幹に罪を告白しろと言うと、彼はこの世界を利用している人の話をした。そうして彼は消え、デザイアが崩れ始める。金塊を荷台に詰め込み、走らせる。……だが、いつも忘れるのだ。

「って、道ねぇし!」

 このデザイアが、空に浮いているということを。

 現実に戻り、ここでは目立つということでファートルに集まった。アタッシュケースの中身を見ると、子供銀行の札束が入っていた。しかし、アタッシュケース自体はいいものなのでこれは売ろうということになった。

 次の日、もみじから城幹が秋川達の手で逮捕されたことを聞いた。これでよかったのだと思う。

 せっかく仲間達からもらった休暇だからと放課後、映画館に向かう。今回は恋愛系だった。

「お前って雑食だよな。何でも見るって言うか」

「特に好きなジャンルってものがないからな」

 心の中で『ジョーカー』とリベリオンも『やはり、お前は変わらないな』と笑った。

「それで、これからどうする?」

「時間も遅いし、今日はファミレスで食べて行っていいんじゃないか?」

 それもそうかと蓮は近くのファミレスに向かう。そして、ハンバーグ定食を頼んだ。

「ヨッシーも食べるよな?」

「あぁ、さすがに腹すいたぜ……」

 料理が来たので、蓮はヨッシーに半分ずつ分けながら食べる。

 ファートルに戻ると、藤森は既にいなかった。温泉に行こうと思っているとまた血を吐く。

「またか……大丈夫かよ?」

「でも、これで最後だと思うとなんかやる気出ない?」

 絶対に負けてられないと闘志が燃え上がる。少なくとも、蓮はそうなのだが。

「……お前の感性って、時々分かんねぇぜ」

 ヨッシーは首を傾げながらそう言ってきた。だが、人間とは案外そんなものだと思う。

 今回はシャワーを浴びて、ベッドに横になる。

「おやすみ」

「おやすみ、レン」

 そう言って、二人は眠りについた。


 六月三十日、城幹の手下達も逮捕されていったとニュースでやっていた。打ち上げは花火大会に行こうという話になった。

「蓮も浴衣、着ようね」

「でも、ボク持ってきてないぞ?」

「大丈夫、あたしが準備したから!」

 用意周到だな……と思いつつ蓮は「仕方ない」と頷く。

 七月二日、勉強会を開き、良希と風花に勉強を教えた。

 次の日、開原が学校に来る。放課後、カウンセリングを受けて、ファートルに帰った。

 それからテストがあり、打ち上げの日の九日。ファートルに来た風花に浴衣を着せられた。白い浴衣で柄は朝顔だった。

「へぇ……この柄にしたんだ」

「朝顔のこと?この柄がどうしたの?」

「朝顔の柄は、「固い絆」、「愛情」という意味があるんだ。浴衣の柄も意味を知ると奥深いから知っておくのもいいかもしれないぞ」

「そうなんだ……じゃあ、今度調べてみる!」

 そうしている内に浴衣に着替え終わった。ヨッシーの入ったカバンを持って、電車に乗る。渋谷に向かっている間に誕生日の話になった。

「蓮って、誕生日いつなの?」

「ボク?ボクは八月十五日だ。そういう風花は?」

「もう過ぎたけど、五月十二日だよ。いいなぁ、夏休み中じゃん」

「どうせ祝ってもらえないんだから、誕生日なんてあっても意味ないよ」

 蓮が思わずそう言うと、風花は「祝ってもらえない?」と聞いてきた。

「うち、そういった習慣がなくってね。せいぜい「誕生日おめでとう」と言ってもらうぐらいだ」

「そうなんだ……」

 そういえば、最初の頃は自分の誕生日の日にりゅうのオタカラを盗んだなと思い出した。誕生日などどうでもよかったから、すっかり忘れていた。

 渋谷駅に着くと、既に良希と裕斗、それからもみじが来ていた。

「おぉ……蓮、きれいだぞ」

「よく似合ってるわ」

「ぜひ描かせてくれ」

「あー……裕斗のスイッチが入っちゃったな……」

 蓮が裕斗の様子を見て呆れたような、愛おしいような目を向ける。本当にこいつは、変わらない……きっと大人になっても変わらないのだろうなと思う。

 そうして花火を見に行ったが、雨が降り出してしまう。コンビニで雨宿りしているとファンに詰め寄られる。そこから逃げ、今日は解散することにした。

 風花と一緒にファートルに戻り、着替える。そして温泉に行き、浴衣を洗う。

「なんか、こんなの初めてだね」

「そうだな。……こんなことなら、家から浴衣持ってくればよかったな」

 実家にはたくさんの浴衣がある。それを持ってくればよかったと思った。

「蓮の実家ってどんな感じなの?」

「まぁ、世間一般的に言うお屋敷みたいな感じって言ったら分かる?」

 イメージを伝えると、風花は目を輝かせた。

「やっぱり、お嬢様だからそんな豪華な家に住んでるんだね……写真ある?」

「一応、あるにはあるけど」

「見せて!」

「ワガハイも見てみたい!」

 二人に言われ、蓮は家の写真を見せる。そこに写っているのは絵に描いたような大きな屋敷だった。

「うっわ。なんか掟とか厳しそう……」

「よく分かったな。結構厳しかったぞ。高校生になってから門限とかはなくなったけど」

「将来はこの家引き継ぐんだろ?まさにお嬢様じゃねぇか」

「うーん……でも、本当に引き継ぐべきか悩んでるっていうのが本当のところ」

 ずっと疑問に思っていた。このままでいいのかと。昔の自分ならどうでもいいと一蹴していたところだったが、今の自分はそう言えない。保護観察期間が終わっても皆と過ごしていきたい……そう思うから。

 肩書きと、絆……どちらに従うべきだろうかと蓮は悩んでいた。

 乾燥機までかけて、風花が帰った後ヨッシーが口を開いた。

「ワガハイ、無責任なことは言えねぇけど……お前の好きにしていいと思うぞ」

「ボクの、好きに……」

「あぁ。だって、お前の人生はお前だけのものだろ?何を信じようが、何をやろうが、お前の自由なんだ。少なくとも、ワガハイはそう思うぞ」

「ヨッシー……うん。そうだね」

 蓮は優しく笑った。それを見られるだけで、ヨッシーは嬉しかった。


 七月十二日、ハッカー集団アヌビスが怪盗団に挑戦状を送ってきた。皆で集まり、話し合いをする。

 土曜日、りゅうと会った。そこで少し話をして、帰る。祝日の月曜日に再び呼び出され、自分を改心してほしいと頼んできた。蓮は頷き、ファートルに戻る。

 夜、ナビに海野 りゅうと入力すると反応があった。蓮の予想が正しかったなら、ないと思っていたのだが。やはり、アルターを覚醒させていないからだろうか。

 まぁ、あったならあったで改心させて罪の意識から解放してやるだけだと蓮は眠りについた。


 ――罪の意識に苛まれているのは、もしかしたら自分の方かもしれない。

 黒い髪の男性を抱えて、白い髪の女性(自分自身)は泣いていた。彼の左胸は血に染まっていた。

 男性の顔が見えそうだった。しかし、どうしても分からない。……いや、知りたくないだけかもしれない。この人のことを思い出したら、もう後戻りが出来ない気がして……。

 かすんで見えなかったその人が見えようとしたその時、『ジョーカー』が蓮を起こした。

「……『ジョーカー』?」

「大丈夫か?うなされてたぞ」

 頬に触れてみると、濡れていた。それで自分が寝ながら泣いていたことに気付いた。

「悪い夢でも見たか?」

「悪い、夢?……そんなのじゃない気がする」

 悲しいような懐かしいような、それでいて愛おしいような、そんな夢だったと思う。

 『ジョーカー』は黙ったまま、蓮を抱きしめた。


 島田にアヌビスの情報を集めてもらい、終業式の日にそれをもらう。次の日の金曜日、りゅうのデザイアに入る。しかし、罠が発動し、一筋縄ではいかないと明日以降に攻略をすることになった。

 次の日、武器や薬の調達をし、皆を集める。

「はい、これ。カスタマイズしているからいつもの武器より強くなってるハズだよ」

「ありがとう。……蓮ってこういうこともしているのね」

「一応、それなりに詳しいからな」

 何度もループしていると、どの武器にどんな効果をつければいいか分かってくる。

「大変よね……私達も出来ることがあったらするから、教えてね」

「大丈夫、資金を入れてくれるだけで充分だから」

 実際、そのおかげでバイトの量も減ったし、自由な時間が増えた。それだけで十分だ。

「そう?それならいいけど……」

「それより、早くデザイアに入ろう。早くりゅうを助けてやりたい」

 そう言うと皆頷き、デザイアの中に入った。

 なぜかいつもいるエネミーはいなかったが、謎解きはあった。それを解くと、オタカラまでの扉の前が開く。そこでりゅうのフェイクに本人に開けてもらえと言われたので現実に戻った。

 実行は七月三十一日にしようということで話はまとまり、解散する。蓮はヨッシーと共にアザーワールドリィに入った。今回は協力者達に依頼されたターゲットを改心させに行くのだ。

 そうして改心させ、まだ行けそうだったので鍛えたり宝箱があったのでそれを開けたりした。

「はぁ……ワガハイも共犯になっちまったな……」

「でも、これで協力者達が助かるんだ。いいだろ?」

 ファートルに帰る途中、ヨッシーがため息をついた。蓮は笑いながらそう言うと、急にしゃがみ込んだ。

「げほっげほっ」

 ポタポタと血が地面に落ちる。運が悪いことに、ファートルまでは遠かった。まさか外で血を吐くなんて思っていなかったので対策もしていない。どうしようか悩んでいると、

「おい!大丈夫か、蓮!」

 後ろから良希が駆けつけてきた。なんでこんないいタイミングで……とも思ったが、今はそれどころじゃない。

「血ぃ吐いてんじゃねぇか!ほら、ベンチに座れ!」

 良希が蓮の脇に腕を入れ、ベンチに座らせた。そして、近くのコンビニでタオル買ってくるとその場を去る。

 頭がくらくらしてきたので横になる。ヨッシーが心配そうに見てきた。

「大丈夫か?レン……」

「ちょっとくらくらする……血、吐きすぎたかも……」

 心なしか焦点が合っていない気もする。相当やばいようだ。

 良希がタオルと飲み物を持って帰ってきた。

「ほら、起き上がれるか?」

「あぁ……」

 身を起こすと、良希はタオルを渡す。それで拭くと今度は飲み物を渡してきた。彼にしては気を利かし麦茶のようだ。

「今日は送ってくから、おとなしく寝とけ。明日、ファートルに来るからな」

「悪いな……何から何まで」

 申し訳ない気持ちになっていると、彼は「いいって!たまには俺らを頼れよ」と笑った。

 ファートルまで送ってもらい、蓮はベッドに転がる。そのまま眠りについた。

 次の日、良希達が朝から来た。どうやら他の人達にも連絡していたらしい。

「ごめん、朝から迷惑かけて……」

「ううん、いいの。それより、いつから血を吐くようになったの?」

「えっと……四月から……」

 正直に答えると「本当?そんな最初から無理させてたの……」と風花が申し訳なさそうな顔をした。

「そんな顔しないでくれ。ボクが勝手にやってるだけなんだから」

 そんな顔をさせたいために黙っていたわけではないのだ。心配かけたくなかったから、黙っていただけ。

「そうかもしれないけど……蓮、いろいろやってるでしょ?やっぱり頼ってよ。身体、ちゃんと休めて」

「でも……ボクしか出来ないこともあるし……」

「まぁ、確かに何もかも蓮に頼りっぱなしだもんね……」

 武器と薬の調達も潜入道具の作成も蓮がやっていた。バイトの量を少なくしているとはいえ、まだ蓮の負担は大きい。だが、何も出来ないのも事実で。

「今は大丈夫だから、心配しないで。あれ、発作的なものだから」

 今度から外でも対処出来るようにしないとと思いながら今日は帰るように皆に告げた。


 そんなことがあったが、三十一日、無事に決行することが出来た。りゅうに直接予告状を渡し、デザイアの中に入る。すると、りゅうの母親が化け物になった姿が現れた。

 戦っていると、りゅうが来た。化け物の攻撃からりゅうを守るために自身を盾にしながら、りゅうに問いかける。それでりゅうはアルターを覚醒させ、化け物を倒すために協力してくれた。

 倒すと、本当の母親の姿が現れ、りゅうにお礼を言う。そして、りゅうは一人現実に戻った。デザイアが崩れ始め、慌てて脱出する。

 もみじとヨッシーと一緒にりゅうのところに行くと、彼は家の前で寝ていた。藤森に伝え、その日は解散になる。

 次の日、りゅうが起きてきた。いつもギリギリに起きてくるので驚いたが、アヌビスを倒すのは指定された期限の日にしてくれと頼んだ。そちらの方が黒幕も油断するだろうと思ったのだ。

 ある日、朝から約束もしていないのにりゅうを含む仲間達が来た。

「どうした?今日は集まる日じゃなかったと思うが……」

「蓮――誕生日おめでとう!」

 クラッカーを鳴らされ、蓮はキョトンとする。そして、スマホで日付を確認する。……八月十五日、確かに自分の誕生日だ。

「蓮、ケーキ買ってきたぞ。それからこれ、誕生日プレゼントだ」

「あたしも、どうせならおしゃれしてほしいなって思って服を買ってきた」

「俺は何せ金がないからな……絵を描いてきた」

「私はシャーペンを買ってきたわ。実用的でいいんじゃないかって」

「ぼ、僕は何も準備出来なかったけど……」

「えっと……ちょっと待て。なんで知ってる?確かに風花とヨッシーには言った覚えがあるが」

 それに、誕生日を祝う習慣がないとも言ったハズだ。それなのになぜ?

「蓮にはいつもお世話になってるからさ。こういう時ぐらいしか、日頃のお礼とか出来ないでしょ?」

「だから、皆で蓮にプレゼントを贈ろうという話になったんだ。りゅうは昨日聞いたから準備が出来なかったみたいだ」

 別に、わざわざ祝ってもらわなくていいのに。そう言ったが、「たまにはそういう立場になってみろって」と言われた。蓮も、せっかく祝ってくれたのだからと受け取っておくことにした。ケーキを皆で食べて、話をする。正直に言って、意外と楽しかった。

 夕方になり、皆が帰る。

「楽しかったな」

「そうだね。初めて、誕生日を祝われたよ」

 ――蓮、生まれてきてくれてありがとう。蓮のおかげで今こうやって幸せに過ごせてる。

 母親にも言われたことのない言葉だ。どんなプレゼントよりも、その言葉が嬉しかった。なぜこんなに心が温かくなるのか。

 ――きっと、白い髪の女性の蔑まれた記憶があるからだ。

 白い髪の女性の、人々から疎まれた記憶。それがあるから。誰も彼女を必要とせず、もうやってられないと思っていたその時、白い髪の女性は一人の男性に出会った。その人に言われた台詞と同じだったからかもしれない。

 理由は分からないが、とにかく嬉しかった。それだけは確かだった。


 夜、目覚めると『ジョーカー』が笑って「誕生日おめでとう」と言ってきた。

「ん。ありがとう」

 蓮が素直にお礼を言うと「それにしても、お前はあいつと同じ日に誕生日なんだな」と言ってきた。

「あいつ?」

「冬木だ。あいつもお前と同じ日に誕生日なんだぞ」

「なぜそれを知っている?」

 その質問には笑うだけだった。やはり、自分と冬木には何か秘密があるのだろう。

「こんなもので悪いが」

 『ジョーカー』は蓮の頭の上に何かを乗せた。触ってみると、それは花冠だった。

「これ……」

「兄貴が作ってくれたろ?覚えてるか?」

「……もちろん」

 優しい記憶だ。誕生日のたびにこれを作ってくれた。あの時は、器用な兄だと思ったものだ。

 頭に乗っているものは兄が作ってくれたものより少し歪なものだった。『ジョーカー』が自らの手で作ってくれたのだろう。

「嬉しいよ、まさかお前から貰うとは思ってなかった」

「お前が自分を大事にするようになったからな。その記念でもある」

 そして、耳元に顔を寄せ、

「ハッピーバースデー、蓮」

 そう言ってくれた。蓮は嬉しさのあまり『ジョーカー』に抱きついた。


 二十二日、りゅうがアヌビスを撃退してくれる。その後彼はすぐに寝たが、大丈夫だろうとファートルに戻った。

 次の日、皆で集まり、結果を見て喜んだ。そして打ち上げを三十一日にしようと風花が言い出し、海に行こうと良希が言った。りゅうはこの日までにトレーニングしていたから人前に出てもある程度大丈夫になっている。

 時間がある時に風花と一緒に水着を買いに行き、三十一日になった。りゅうを連れて渋谷駅に来た。大勢の人の前ではまだ慣れないのか、蓮の後ろに隠れている。

 皆が集まり、海に向かう。蓮は水着に着替え、すぐにヨッシーのもとに向かった。

「お、今回は上着着ないんだな」

「一応、持ってきてるけどね」

 それに、着なくても自傷行為はなくなったし、虐待の痕も見えないから大丈夫と判断したのだ。

 初めて見たその姿はスタイルがよく、肌が白くてまさに美女だった。モデル体型とも言えるだろう。これは確かに、男達がナンパしたくなる気持ちも分かる。

 しかし、ヨッシーには「蓮の相棒」という特等席があるのでそんなことしようとは思わなかった。蓮が膝にヨッシーを乗せていると、男達が言い寄ってきた。しかし、裕斗が来てくれたので事なきを得る。

「すまないな、裕斗」

「いや、いいさ。それより、その格好……素晴らしいな、モデルになってほしい程だ」

 裕斗がいつも通り指で枠を作り、蓮をその中に入れた。

 その後、皆が集まり、海で遊んだ。りゅうも怪盗団に入ることになり、コードネームを「ヘルメス」にした。


 九月四日、新学期が始まり、智樹と会う。取引をし、ファートルに帰った。

「そういや、ワガハイこの後どうしたらいいんだ?」

「あぁ、えっと……一応、出ていってくれないか?ほのかがアルターを覚醒させるために必要だと思うから」

 修学旅行の前の日、ヨッシーに問われたので少し考え、そう頼む。ヨッシーは「分かった」と頷いた。

 修学旅行では二日目の夜に風花と良希が蓮と島田の部屋に来た。

「うわ!なんで来てんだよ!」

 島田が驚いたような声をあげる。二人は「同じ部屋の人が恋人連れ込んだから部屋にいられない」と言ってきた。

「そうか、それなら仕方ないな」

 しかし、ベッドは二つである。もう一人はソファで寝られるとして、あと一人は床で寝ることが確定している。

「春鳴と成雲はベッドで寝るとして……どっちがソファで寝る?」

「あぁ、ボクはソファでいい」

 島田が女性達を優先してベッドに寝かせようとしたので蓮がそう申し出る。別に床でもいいのだが、この二人が許しそうにない。

「じゃあ、どっちがベッドで寝るかじゃんけんで決めようぜ!」

 良希が島田に勝負を仕掛けた。しかし、そうなると言い出しっぺが負けるのは定番なわけで。

「クッソー!俺が床かよ!」

「公平な勝負だ、諦めろ」

 蓮はソファに転がり、天井を見上げた。

 最終日、皆に誘われるが蓮は無視して一人で過ごすことにした。

 ――いや、正確には一人ではない。

「『ジョーカー』。どこか行きたい場所はあるか?」

『じゃあ、浜辺に行きたい』

 浜辺に行くと、屋台がたくさんあった。

『ガーリックシュリンプというものを食べてみたい』

「入れ替わるか?」

 蓮が目を閉じ、意識を集中させると心にたゆたう感覚になった。入れ替わったのだ。

 ガーリックシュリンプを買い、『ジョーカー』は蓮の身体で食べる。

「おいしいな」

『だろうね。同時に一緒に味わえないのが残念だ』

 一緒の味を、同じように味わいたいと何度願ったか。

「きっと、その願いも叶うさ」

『お前が言うとそうなる気がするからすごいよな』

 『ジョーカー』は半分食べると、蓮と入れ替わった。蓮が残りを食べる。

 夕方、ベンチに座っていると皆が来た。もう遊べる時間は少ないが、あとの時間は皆と過ごした。


 日曜日、ヨッシーが出ていく。しかし、絶対に戻ってくると知っているのでそこまで精神的に来なかった。

 咲中のデザイアに入ったりアザーワールドリィに行ったりして説得するふりをした。二十五日、ヨッシーが戻ってくる。そして二十七日から攻略を始めようとなった。

 期限が開始し、一日でルートを確保した。そろそろステータス的にきつい頃だろうとオタカラを盗むのは十月三日にしてアザーワールドリィで鍛えることにした。

 そうして血を吐きながらもアザーワールドリィで十分に鍛えた。例の誰のものか分からないデザイアにも入る。そして、オタカラを盗む日、蓮の「ショータイム!」の言葉と共にデザイアに入った。

 咲中のところまで来ると、ロボットを召喚した。しかし、ジョーカーの呪文で全て薙ぎ払う。最後にはバアルの風呪文「アネモス」でロボットを倒した。

 ジョーカーが咲中に聞くことがあるから先に行ってほしいと言うと、皆は残ると首を振った。別にいいかと思い、ジョーカーは銃を突きつける。

「質問に答えろ、いいな?」

 そうやって聞こうとすると、気配を感じた。すぐに咲中の前に立ち、壁をはる。それと同時に銃弾が跳ね返った。

「……こざかしい……!」

 フードを被った男がナイフを持ってジョーカーに襲い掛かる。ジョーカーも同じようにナイフを持ち、対抗する。

「早くオタカラを盗め!」

 叫ぶと、テュケーは頷きオタカラを持った。その瞬間、デザイアが崩れ始める。咲中も、元の自分の心の中に戻ったようだ。これ以上やっても無駄だと悟ったのか、男は立ち去っていく。ジョーカー達も車に乗り、すぐに脱出した。

 咲中のオタカラはプラモデルだった。しかも古いもの。ほのか曰く、咲中はプラモデルが好きで集めていたそうだ。

 これで廃人化の心配もないだろう。少なくとも、蓮はそう思っていた。

 ――しかし、事態は予想外の方向へ進んだ。

 咲中が会見を開く日、確かに咲中は廃人にならなかった。しかし、その後のニュースで凛条高校の校長が不審死したというニュースが流れた。しかも、校長室には予告状があったという。

「なんで……!私達、校長に予告状を出してない!」

「誰が出したんだよ!」

 皆がパニックになる中、蓮だけが冷静に考えていた。

 つまり、校長も黒幕と繋がっていたと……。

 他人の命を何とも思っていないような所業、やはり許せるものではなかった。

 しかし、日に日に怪盗団の支持率は下がっていった。人殺し集団だの精神崩壊事件の実行犯だのいわれのないことを書き込まれる。それで皆の雰囲気も暗くなっていく。

 いつまでも暗いままだと士気もあがらないだろうからとリーダーが皆を集め、アザーワールドリィに入った。ジョーカーが運転しているが、いつものジョーカーの運転技術ならエネミーに不意打ちをくらわせることが出来たハズだった。

 しかし、その日のジョーカーは事故を起こし、運悪くエネミーに見つかってしまう。逆に先制を取られてしまい、アポロが怪我をする。

「アポロ!?待ってろ、今……!」

 責任を感じているのか、ジョーカーが近付こうとするが膝をついてしまう。テュケーが近付くと、肩が僅かに震えていることに気付いた。これでは戦うことは出来ないだろう。

「ジョーカーの様子がおかしい!ワガハイとアテナでジョーカーを近くの安全地帯に連れて行く!」

 テュケーが言うと、アテナはジョーカーを車に乗せ、近くの安全地帯へ向かった。

 ジョーカーの指示のない戦闘は大変なものだった。普段どれ程彼女が先読みして指示を出していたかよく分かった。

「ジョーカーがすごいって改めて思うね……」

「そうだ、ジョーカー……!」

 皆で安全地帯に向かうと、ジョーカーがソファで横になっていた。目元は腕でおおわれている。

「おい、大丈夫か?」

「あぁ……大丈夫……」

 ジョーカーの口元は笑ったが、それがやせ我慢だということは一目瞭然だった。大丈夫なら、そんなに顔が真っ白なわけがない。

「どうしたんだよ!?」

「……実は、異世界に入ると身体が痛くなるんだ。普段は気にならない程度だったんだが……っ……!」

 不意に顔を歪ませたジョーカーに、これはただ事ではないと全員が思った。

「ワガハイから説明する。ジョーカーは前から幻想世界に入ると全身に痛みが走っていたみたいなんだ。今日はそれが一段と酷かったらしくてな、事故を起こした時には半分以上意識が飛んでいたらしい」

 ヨッシーが伝えると、他の人達は口元を覆った。

「マジか……そんな中こいつ運転してたのかよ」

「大丈夫だと思ったんだ。……悪かった、オレの判断ミスだ」

 目元を覆ったまま、ジョーカーは謝る。息は切れていて、顔色もさっきより酷い。

「ジョーカー、あまり話さない方がいい。今日は引き上げるぞ、この状態で続けるのは危険だ」

「……分かった。でも、一つだけ聞かせてくれ」

「なんだ?」

「皆に、この症状はないよな?」

 その言葉に、全員が頷いた。それを見ていたジョーカーは「よかった……」と笑みをこぼした。

 何が「よかった」なのだろう。自分は苦しんでいるのに。そう思いながら、アポロは気を失ったジョーカーを背負う。怪盗団の中では二番目に背が高い彼女だが、軽く感じた。

(やはり、女性なんだな……)

 自分とは体格が違う。こんな小さい肩で、全てを背負っているのだ。家のこと、前歴のこと、協力者達のこと、そして怪盗団のこと――その細い身で抱えるには重すぎる荷を、彼女は一人で背負っている。

 現実に戻るが、蓮が目覚める様子がない。近くのカラオケボックスで休ませようとカラオケ店に向かう。

 蓮が目覚めたのはカラオケボックスに入って十分後だった。

「う……ん……」

「大丈夫か?」

 裕斗の顔が上にあり、蓮は驚いた。跳ね起きて彼の顎にクリーンヒットしなかった自分を褒めてほしい。

 ゆっくり起き上がると、カラオケボックスであることが分かった。痛みはある程度引いている。

「大丈夫?蓮」

「あぁ……すまなかった。まさかあそこまで酷くなるとは思わなかった」

 自分の管理の甘さを恨んでいると、風花が「いいよ、そんなの」と笑った。

「でも、せめて言ってほしかったな。そうじゃないと私達も何も出来ないし。だから頼って」

「……ごめん」

「そこは、ごめんじゃなくて「ありがとう」と言うべきところよ」

 もみじに言われ、蓮は疑問符を浮かべる。

「そうやって謝られても困るものなのよ、こっちは。だから、感謝される方がいいの」

「……そんなものなの?」

「そう。確かに悪いことをやったのなら謝るべきだけど、今回のは不可抗力でしょ?だから仕方ないの。そんなことで怒るほど、私だって鬼じゃないわ」

 蓮は俯いた後、小さく「……ありがとう」と呟いた。

「じゃあ、蓮も目覚めたことだしカラオケしちゃおう!」

 風花の言葉に全員が笑って賛成した。


 目の前に『ジョーカー』が立っている。

「……なぁ」

 前から感じていた違和感を彼に投げかける。

「お前、本当は「ボク」じゃないんだろ?」

「……なぜ、そう思う?」

 彼は挑戦的な笑みを浮かべた。

「何となくだ。……いや、何となく、というわけでもないな。だって、普通「自分自身」なら男になるか?もちろんボクは「男」として過ごしてきたから、考えられることではあるが……「自分自身」なのに雰囲気が他の人に分かりやすく変わるか?最初は男と女で変わってくるものだろうと考えたが、よくよく考えれば「ボク自身」である限り、そう雰囲気が変わるわけがないだろ」

 多重人格者なら、まだ分かる。だが蓮は決して「多重人格」ではない。だって、その定義に当てはまらないのだ。なら、なぜ雰囲気が変わるのか?答えは簡単。本当は「別人」だからだ。

「……そうだな。確かに、オレは「お前」じゃない」

「じゃあ、何者だ?」

「それに答えることは出来ない。それはお前が自分で見つけて初めて意味を見出せるものだ」

 肝心なところを言わないのが彼らしい。

 ――だが、彼が確かに大切な人であったことだけは分かった。


 学園祭の日、一緒に回っているといつもの事件が起きる。男達と対峙していると良希達が来た。それをちらりと見つめる。

 ――たまには頼って。

 不意に、その言葉を思い出す。

「……えっと、助けて、くれ……?」

 なぜに疑問形。

 良希と裕斗はそう思ったが、せっかく頼ってくれたのだ。ここは自分達の出番だと二人が前に出る。

「はっ!男のくせに意気地ねぇ!」

 男の内の一人が蓮に対してそう言ってきたが、

「言っとくが、こいつ女だぞ」

 良希がそう言ったので男達は驚く。蓮はウィッグを外し、長い髪を見せた。

 その後、先生達が来て男達が連れて行かれる。それを見届けた後、裕斗が「よく俺達を頼ってくれたな」と笑った。

「お前達がずっと言っていたからな。頼れって」

 そうやって見せた笑みにその場にいた人達皆が衝撃を受けた。

「あいつ、あんな風に笑うこと出来るんだな……」

「美人すぎねぇ?メガネ外してほしい……」

「本当にナイフとか持ってんの?」

 そんな周囲の言葉など聞く気もない蓮は良希達と一緒にどこかに行った。

 次の日、冬木が取引を持ち掛けてくる。体育教官室で解散した後、蓮はヨッシーと話す。

「……ここからか」

「うん。……りゅうには言わないとだな」

 あの作戦をやるためにはどうしてもりゅうの力が必要だ。

「……でも、どうする気だ?」

「正直に話す。それしか協力してもらう方法がない」

 そう言うと、「やっぱりだよな……」とヨッシーは伏せた。蓮は「大丈夫、絶対協力してくれるから」と笑った。

 ファートルに戻り、藤森がりゅうに渡した予告状を見せる。蓮が事情を話し、藤森は皆を庇うことを約束する。

 皆が帰った後、蓮はりゅうに個人的なチャットを送る。

『明日、時間ある?皆が来る前に話がしたい』

『大丈夫、どうしたの?』

『ここでは言えないことだ。協力してほしいことがある』

『分かった。詳しいことは明日聞くね』

 そう送って蓮はベッドに横になった。

 次の日、約束通り皆が来る前にりゅうが屋根裏部屋に来た。事情を話し、協力してほしいと頼むと彼は「分かった、じゃあスマホを貸して」と言われたのでスマホを渡す。そして、自作の録音アプリを入れて言葉を録音する。

「これでよしっと。……確か、幻想世界でも使えたんだよね」

「あぁ。そこは前の周回で確認済みだ」

「じゃあ、後はこれを遠隔で操作するだけから」

 話している内に裕斗と冬木以外の人達が集まった。夕方、二人も来て秋川を改心させてほしいと冬木が言ってきた。それを了承し、解散する。

 次の日、秋川のデザイアに入った。途中まで進み、現実に帰る。

「成雲さん、キミ、銃を使い分けてるんだね」

 帰り道、冬木に話しかけられる。

「あぁ、普段は最初から持っている銃を使っているんだが、状態異常をつけたい時はある人から貰った方を使っているな」

 金井のことは伏せる。何かあったら蓮も責任が持てない。

「そうなんだ。ならオレの武器も調達してくれる?」

「別に構わないぞ。お前の奴はボクとほとんど同じものだしな」

 違いと言えば蓮より少し大きいところだろうか。これならあったハズだ。

 皆を別れて、りゅうと一緒にファートルに戻る。

 ルートを確保したのは十一月五日だった。冬木に武器を渡し、二十五日にオタカラを盗もうということになり、解散する。

 十日の金曜日、開原が学校を去る日に蓮は保健室で彼と共に昼食を食べた。保健室から出る直前、彼の瞳の色が変わったような気がした。

 そうして決行日、ジョーカーはいつも以上に緊張しながらデザイアに入った。

 秋川のフェイクをスノーマンの氷呪文「リオート」で倒し、オタカラを盗む。するとヘルメスが「警察が入ってきた!」と慌てたように言ってきた。ジョーカーは自分が囮になると言って皆を逃がす。

 いつも通り捕まり、尋問を受ける。秋川が入ってきて、事件の全てを聞いてきた。校長のことに関しては自分達がやったわけではないので分からないと言ったが。

 その時、女性の声が聞こえてきた。

『これは極めて理不尽なゲーム……勝機はほぼ無いに等しいでしょう。けれど、この声が届いているのなら、まだ可能性は残っている……あなたは、囚われの運命……心さえ牢獄に繋がれた、哀れな少女……解放されるには、この世界を変えるしかない……どうか、仲間達との絆を大切にし、世界を……救って……』

 そうだ、ここで負けてられない。必ず勝たなければ。

 そうして秋川と取引をして、彼女は一度外に出る。十分くらい経っただろうか、再び扉が開き、そこに立っていたのは秋川。今回も成功したようだ。

 秋川の車に乗ってファートルに戻ると、藤森がホッとしたような顔をした。怪盗団の人達も二階から降りてきた。ニュースを見ると、蓮が自殺したと報道されていた。

 りゅうと藤森が蓮の様子を看ることになり、この日は解散しようと皆が帰った。


 次の日、協力者達も皆やって来た。そこで蓮はため息をつき、「皆に聞きたいことがあるけど」と一言前置きをして、

「皆、繰り返しているんだろ?」

 そう聞いた。やけに確信している口調だ。

「それに、ワガハイの声も聞こえてんだろ?ワガハイ達、知ってるんだぜ?」

 ヨッシーの言葉も相まって、皆が白状する。

「……なんで気付いた?」

 裕斗が問いかけると再びため息をついて答えた。

「最初は気のせいですませようと思ってた。だが、ヨッシーが繰り返していると聞いて、お前達もそうなんじゃないかって疑った」

「それって良希のせいじゃないの!?最初に会う人ってあたしか良希でしょ!?」

 風花がそう聞いてくるが、

「いや、むしろ良希は分からなかった。こいつならやりかねないからな。確信したのはもみじの時だ、普段のもみじなら城幹と接触した後、謝ってくる。だが、今回は「信じてた」と言った。つまり、ボクが助けに来ると分かっていたということだ」

 そう言うと、もう隠す必要がなくなったと思ったのか、晃が「ヨッシーだっけ?蓮さんとよくしゃべるよね!」とヨッシーを撫でた。

 その時、後ろから気配を感じた。振り返ると同時に蓮は怪盗服にかわる。そこにいたのはシャーロックとユリナ、マリナだった。

「ほう……今回はすぐに怪盗服にかわったか」

 シャーロックは笑い、エネミーを召喚する。蓮はエンリルの水呪文「ヒュドール」でそれを倒す。

 次は今の蓮でも倒せるか分からないほど強いエネミーが現れた。呪文を唱えたり、ナイフで斬りつけたり、銃弾を撃ったりするのだが、徐々に体力と気力が尽きていく。

 いよいよ体力が尽き、膝が崩れる。

 ――諦めないと、いけないのか?

 悔しさに拳を握りしめた、その時。

『諦めるのですか?』

 蓮の心の中から、リベリオンでも『ジョーカー』でもない、女の人の声が聞こえてきた。

『皆を守ろうとは思わないのですか?このままではあなたも皆も死んでしまいます。それとも、今まであなたがやって来たことは間違っていたのですか?』

「え……?」

 思い出したのは今まで改心させてきた悪人達、蓮を冤罪に追い込んだ男。そして、被害に遭っていた人達。蓮はゆらりと立ち上がった。

「……そんなわけない。確かに、ボクのやって来たことは、法律的には間違っていたのかもしれない。でも、ボクのやって来たことは間違っていない!」

 その言葉と共に、頭が割れるほど痛みだした。

「うっ……!」

 頭を抱え、その痛みに耐える。目元が熱くなっていった。

 前を見ると、一瞬だけ白い髪の女性が現れた。それと同時に全ての記憶が流れ込む。

「そうだ、思い出した……「私」がいかにして、この世界を守ったのかを」

 蓮は仮面に触れる。いつものあの仮面ではない、羽の形をした仮面を。

 両手でそれを掴んで、力を込めて剥がす。すると風が巻き起こり、光が蓮を包み込んだ。光から出てきたのは白い髪に青い瞳、白い長そでのワンピースに白い手袋、それから白い羽を生やした、まるで別人になったかのような姿になった蓮。長い髪は高く一つ結びにされている。そんな彼女の後ろには白い衣を着た天使の姿。

「ほぅ……」

 シャーロックは興味深そうに彼女を見た。

『私の名はミカエル。人々を守る者よ、あなたは何を求めますか?』

 蓮の後ろにいた天使――ミカエルが蓮に尋ねた。彼女はミカエルを見て、言った。

「……力が欲しい。皆を守れるだけの力が」

『いいでしょう。存分にその力を振るいなさい』

 その言葉にあわせ、蓮はエネミーに向かい合う。

「ルミエール!」

 呪文を唱えると、光がエネミーを包み込む。悲鳴をあげながら、エネミーは消えていった。シャーロックはさらにエネミーを召喚する。蓮が後ろに飛びのくと、足のついた場所から光が出現し、怪盗団のメンバーも怪盗服になった。

「よし!これで戦える!」

 りゅうがアルターに乗りながらそう言った。蓮は皆に向かって笑い、仲間達と共に戦う。数十体エネミーを倒した後、

「もういい」

 シャーロックの言葉にエネミーの動きが止まる。そして、蓮に話しかけた。

「思い出したか。成雲 蓮……いや、「レンカ・ピースガーディアン」」

「……はい」

 蓮が頷くと、シャーロックは笑う。

「ならば、お前がやるべきことも、その役目も思い出したな?」

「えぇ。ボクの役目は「人々を守り、悪人を懲らしめること」、それから「人々の痛みを癒すこと」……そして、「悪神から世界を救うこと」、ですよね?」

「その通り。そのためにお前は「幻想世界」で人々に望まれた、光から生まれた「守り神」……ちゃんと思い出したようだな」

 シャーロックの言葉に全員が驚く。

「レン、どういう意味だ?」

 代表してヨッシーが聞く。蓮は「聞いた通りだよ」と答えた。

「ボクは二千年前に生まれた「守り神」で、幻想世界の王女だ。……この姿は、二千年前の姿だよ」

「信じられない……」

 風花が呟く。蓮は「でも、事実だよ」と答えた。

「二千年前も、同じように悪い大人達を改心させてきたんだ。ある時、悪神ユミフラデスが世界を破壊しようとした。だから一人の従者と共にボクは戦ったけど、一度は負け、二度目は相打ちになった。ボクはユミフラデスを封印するために自ら生贄になったんだ。でも、それも長くは持たないと分かっていたから、再び生を受け、今度こそユミフラデスの計画を止めないといけなかったんだ」

「だからレンカは「成雲 蓮」として生を受けた。彼女には愛する人との間に子供が五人いたが、その長男が成雲家の先祖だ。成雲家に女が生まれなかったのは、私が呪いをかけたからだ。レンカ以外の女子に期待をかけられたら困るからな」

 シャーロックが蓮に続いて話した。シャーロックの後ろからユリナとマリナが顔を出す。

「ユリナ、マリナ」

 蓮が優しく名前を呼ぶと、二人は「……お母さん」と泣きながら抱きついてきた。その様子を見て、二人がレンカの子供であるとすぐに分かった。

「この子達は、レンカが牢屋に閉じ込められた後母親を探して来た子達だ。レンカの双子の娘で長子と二子だ」

 二千年ぶりの親子の再会、ということだ。蓮は困った顔をしながら「ごめんね、置いて行ったりして」と二人の頭を撫でる。

「レンカ、これを受け取るがいい」

 シャーロックは蓮を呼ぶ。蓮は彼に向き合い、光に包まれたカードを受け取る。

「これは……」

「「世界」のアルカナだ。お前の真のアルカナでもある。始まりであり、終わりである……それがお前だったのだ。それから、一つのサポートエネミーも渡した。存分に使うがいい」

「なるほど……なら、受け取っておきます」

 握ると、それは蓮の中に入っていった。力が湧いてくる気がする。

「では、そろそろ私は戻らなければならないが……」

「この子達は後で送って行きます」

 蓮がそう言うと、シャーロックは「分かった」と頷いた。シャーロックが帰ると同時に全員の格好が戻った。しかし、蓮の姿が少し変わっていた。

「お前、それ……!」

「あぁ、瞳の色?それとも髪の色?どっちもミカエルを覚醒させたからだよ」

 蓮の瞳は右が黒色、左が青色になっており、長い髪の色も下半分が白色になっていた。しかし、当の本人は特に驚いた様子もなくかつての娘を撫でていた。むしろ、これが当たり前と言いたげだ。

「もっと魅力的になったな。男装姿もいいが、その姿もいい。今度モデルになってくれ」

 裕斗が指で作った枠に蓮を入れる。敷井は「研究のしがいがありそうね」と笑い、水谷も「ネタが増えたよ」と言った。

 そんな中、島田が蓮の名前を呼んだ。

「どうした?島田」

 しかし、彼は緊張していて言葉を発せなかった。あまりにも美しく、眩しいと思ったからだ。

 蓮が優しく微笑む。「ゆっくりでいいよ」と言っているようだった。島田は深呼吸し、そして声を発する。

「ぼく、君のことが好きなんだ」

 時が止まったような気がした。周りからは「人の前で告白なんて大胆だね」とか「蓮、どうするんだ?」とか言った声が聞こえてきた。

「……ごめん、その気持ちは嬉しい」

 そんな中、蓮は断った。それでも島田は満足げだった。

 ――蓮の爆弾発言がなければ。

「でも、ボク他に好きな人がいるんだ」

 沈黙が流れた。そして、「えぇー!」と驚きの声があがる。

「これ、大スクープだよ!「成雲家の令嬢、恋人出来る」的な!」

「で、でも、占いに恋人の存在なんて出てないですよ!?」

「あー、えっと、そいつはなんていうか……」

 蓮が弁解しようとしたその時、ファートルの扉が開いた。そちらを見ると、全員が動きを止めた。

 ――そこにいたのは、男装姿の蓮と瓜二つの男だった。

「は?は!?どうなってんの!?」

 良希が蓮を見るが、当の本人もどうなっているのか分からないという顔をしていた。そして、

「なんでお前、ここにいるの!?」

 我に返ったようにそう叫んだ。しかし、その男は蓮の言葉も気にせず「どうも」と言った。

「蓮の兄の愛良と言います。よろしく」

「いや、違うから!ボクに兄なんていとこの兄さん以外いないから!」

 何言ってるんだと蓮は愛良と名乗った男を睨む。すると彼は蓮に近付き、その腰を抱く。

「そうだな、きょうだいだったらお前の「恋人」なんて務められないよな」

「……え?蓮の恋人?」

 皆がキョトンとする。蓮はややこしいことになったと頭を抱えた。

「……あー、ちょっと待って。ごちゃごちゃしてきた。お前、愛良、でいいんだよな?」

「あぁ」

 愛良が頷くと、蓮は彼の腕から逃れ「あいら、あいら、あいら……」と何度もその名を呟く。そして「覚えた」と言い、

「愛良」

 慈しみ深く、はっきりとした意志で彼の名を呼んだ。

「おい、そろそろ教えてくれ。レン、こいつは何者なんだ?」

 ヨッシーが呆れたように聞いてきた。しかし、蓮は「愛良については、ボクもなんて言えばいいか分からないんだ」と困ったような顔をした。

「名前、気に入ってくれたようでよかった」

「最初はなんで愛良?って思ったけどね」

 愛良は笑い、ネタ明かしした。

「仕方ないだろ?『ジョーカー』なんてどう考えても日本人とは思えない名前、こちらでは使えないからな」

「………………はぁ!?」

 蓮とユリナ、マリナ以外の全員が驚きの声をあげる。

「ジョーカー!?お前、ジョーカーだったのか!?」

「言っておくが、幻想世界で活動していたわけじゃない。あれはオレを指針とした蓮だ」

「時々入れ替わったりすることもあったけどな」

「えっと、つまり心の中に住んでいたってこと?」

 りゅうが確認すると、愛良は「その通りだ」と頷いた。そうなると疑問が残る。

「どうやって出てきたの?」

「それはボクも気になってた。どうしてだ?お前は二千年前にボクが、殺しちゃって……心の中で過ごせるようにって……」

「これに関してはお前にも責任があるぞ、蓮」

「え?ボク?」

 蓮はキョトンとする。愛良は腕を組み、

「お前がオレと一緒にいたいって望んだから、オレがシャーロックに頼んできたんだ。「トリックスターにはお前も必要だろう」とシャーロックは言ってたぞ」

 なるほど、確かにそれは蓮にも責任がある。

 ――「レンカ」として覚醒した。だからこそ、彼を求めた。それを自覚していたから。

「でも、お前はいいのか?その……ボク、お前を愛していたのに殺したんだぞ……?」

 蓮が不安げに聞く。

 そう、レンカはかつてこの世界を守るために彼を……ジョーカーを殺した。それからずっと罪の意識に囚われていた。だからこそ、心の中に彼の魂を取り込んだ。

 責められてもいいと思った。愛しているのに、殺してしまったから。最悪の決断を、あの時してしまったから。

 愛良は笑い、蓮を抱きしめた。

「当然だろ?オレはお前が好きなんだ。……殺されても、ずっと愛していた」

 蓮は顔を上げる。愛良と目が合った。確かに怒っているわけではないようだ。全てを許す……そんな意志が感じられた。

「……ふふ、ばかな男だね。でも、ボクも好きだよ。殺した後も、ずっと愛してた」

 思わず笑ってしまう。でも、この気持ちに嘘をつくことは出来ない。

「お父さん、ずるい!」

「私達だって、お母さんに構ってほしい」

 ユリナとマリナが下からそう言ってきた。家族団らん……まさにそんな雰囲気だ。

「って、今はそれどころじゃない」

 蓮が慌てて離れると、尋問された時の怪我が治っていることに気付いた。

「あれ?痛くない……」

 どこを動かしても、全く痛くなかった。

「オレが癒しの力を使ったからな」

 それに気付いた愛良が自慢げに胸を張った。

「え?でも、お前、癒しの力使えなかったよな?……あ、まさか」

「勘がいいな。お前の思ってる通りだよ、お前と一体になったから使えるようになった」

 なるほど、これは予想外だった。でも、考えられる事態ではあっただろう。あの時はそこまで考えが至らなかったが。

「でも、お前ほど性能がいいわけではない。オレの場合、回復が出来るだけ……まぁ、言ってしまえば劣化版だ」

「ボクと同じだったら、それこそやばいよ」

 「癒しの力」は成雲家の中でも伝説の能力と言われていた力だ。なぜなら今までそれを持って生まれてきた人がいなかったから。だから昔の人が作った伝説の能力だろうとずっと言われてきた。

 ――なぜならこの「癒しの力」こそ、人の心を変える、いわば「改心」を行うことが出来る唯一の能力だから。しかし、それには代償がいる。

 そしてそれは蓮が生まれたことによって伝説から本当だったということが分かった。

「それで、どうすんの?」

 良希が遮って聞いてきたので蓮は「詳しい話は明日したいが……」とヨッシーを見た。

「その前に、ヨッシーの正体を思い出さないといけないよな」

 多分、今なら思い出せる。そう言って、蓮は「ヨッシー……ヨシ……よし……」とブツブツ呟いた。そして、何かを思い出したように蓮は乗り出した。

「お前、もしかして……成雲 義明じゃないか?ボクの、いとこの兄の」

 その言葉を聞いて、ヨッシーはキョトンとした後、彼の身体が光った。そして、人の姿になる。黒髪に青目の、蓮と同い年ぐらいか一つ年上であろう男性だった。

「そうだ、思い出した。俺は蓮を助けようとして囮になって……そこでシャーロックが俺を黒ネコの姿にしたんだ。目覚めた時は牢屋の中で……そこから幻想世界を彷徨って自分の本当の姿を探してた」

 語られる真実に彼が本当に、兄であることを知った。偽物ではない、本物の、ずっと会いたかった兄。

 皆の頭の容量がパンクしそうになったところで蓮は詳しい話は明日しようと切り上げる。

「そういや、愛良。お前、名字どうするの?どうせ学校に行く、とか言い出すだろ?」

 そう言うと、彼は「よく分かったな」と笑った。彼の考えていることは何となく分かるようになっている。

 ちなみに、成雲はなしと先に告げた。

「なんでだ?」

「きょうだいと勘違いされるのが面倒だ。それに、恋人なら苗字が違う方が都合いいだろ」

 なるほど、と頷かれ、彼は考えた後、

「じゃあ、雨宮はどうだ?成雲家の分家の」

「まぁ、いいんじゃないか?じゃあ、お前の名前は「雨宮 愛良」だな」

 さて、と蓮は考えこむ。

「それから、寝る場所どうする?」

「蓮の隣は……」

「狭い、却下」

 愛良の提案を即座に断った蓮だったが、絶対に折れないという瞳に見つめられる。

「…………えっと、藤森さん」

「なんだ?」

「今度、ベッド買ってきていいですか?その、ダブルベッド」

「お前の部屋だから、別に構わないが……」

 結局、その瞳に負けてしまう。明日にでも買ってこよう……。

「あぁ、あと愛良と兄さんにもスマホが必要か……さすがにそれは怪盗団の資金から出そう」

「いいのか?」

「連絡手段ないと困るからな、必要経費だ」

 そうやって考えていくと、あることに思い至る。

「あ、そういえば服、あったっけ……」

 パーカーは二着ある、ハズ。何せ同じ顔の人間が二人いるのだ、警察に顔を見られたら終わりだ。

「ちょっと待ってて」

 二階に行き、段ボールの中を確認する。ちゃんとパーカーを入れていた。下に持っていき、愛良に渡す。

「一応、似たような身長だから着れると思う。二階に上がって着てみて」

 蓮がそう言うと彼は「分かった」と頷き、二階に上がった。数分後、パーカーを着た愛良が降りてきた。

「ぴったりだぞ」

「よかった。でも、一応服も買っとくか」

 同じような身長だが、彼用の服も必要だろう。明日の予定を頭の中で組み込み、今度こそ解散した。その場に残ったのは藤森とりゅうと義明、愛良、そして双子だった。

「さて……ユリナとマリナは……」

 二人を見ると、ウトウトしていた。この状態ではシャーロックのもとに帰せないだろう。

「仕方ない……明日送って行くか」

 蓮がソファに座り、二人を呼ぶ。二人は蓮の膝に頭を乗せ、眠り始めた。

「本当にこの二人は、お前のことが好きだな」

 愛良がそれを見守っている。見ていて思うが、この二人はお似合いだと思った。

「そういえば、前恋人のこと話してたよね?それってもしかして……」

「もちろん、愛良のことだよ」

 義明が思い出したように聞くと、蓮は頷いた。愛良は「そういえばそんな話もしてたな」と思い出した。

「愛良も聞いてたの?」

「蓮の心の中からな。まぁ、これからよろしく。兄貴」

 愛良が笑うと、義明も「うん。よろしく」と笑った。

 りゅうと藤森が帰ると、蓮と愛良は双子を抱え、三人で二階に上がった。二人をベッドに寝かせると、どこで寝るかという話になった。

「ボク、別に床でも構わないけど」

「駄目。俺が下のソファで寝るから蓮と愛良はどうするか話しなよ」

 義明はそう言って下に降りた。少し話して、蓮はベッドで双子と、愛良はソファで寝ることになった。

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