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THE PHANTOM THIEF ~紙一重の正義~(幻想怪盗団~罪と正義~改訂版)  作者: 陽菜


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八章 憤怒のピラミッドと母の自殺の真実

 次の日、武器を強化しようとミリタリーショップに来ていた。

「なぁ、それに手を加えることは出来ないのか?」

 ヨッシーがそう言ってくるが、今はあまり手を加えない方がいいだろう。蓮は特に変えなくてもいいし、今日はもういい。

「後は薬だな。潜入は明日にするか……」

 時計を見れば、もう三時過ぎ。今から皆を集めるには時間が遅い。

「ジムにでも行くか……」

 少しは身体を鍛えたい。薬は夜買いに行けばいい。

 昼はジムにそのまま行って、夜は敷井診療所で薬を買った。

「なぁ、レン」

 ヨッシーが話しかけてきたので「なんだ?」と反応した。

「お前、疲れてないか?」

「疲れてる?……まぁ、言われてみればちょっと辛いかも」

 意識しないと分からないが、確かに少しきついところがある。

「やっぱりな。最近人によく関わっているんだ、ちょっと休んだ方がいいんじゃないか?」

「でも、デザイア……」

 蓮が渋るとヨッシーはため息をついた。

「期限はまだあるんだ。ちょっとぐらい休んだって平気だろ?」

「まぁ、お前がそう言うなら……」

 確かに期限は、アヌビスに予告された通りなら八月二十一日……その前に改心させればいいわけだからまだ時間はある。少しくらい身体を休めてもいいだろう。

「それなら、明日はちょっと休んで明後日潜入するか」

 たまにはファートルでゆっくりしてもいいかと思い、蓮は頷いた。


 次の日は、ファートルで本を読んだりゲームをしたりした。

「お前、ゲームとか意外と出来るんだな」

「説明書を読めばある程度は出来るよ」

 蓮がやったのは古いゲームだったのだが、説明さえ受ければ大体出来るのだ。

「……なぁ、聞いていいか?」

「何が?」

 ヨッシーが聞きにくそうに尋ねてくる。

「お前、なんでそんなに人間が嫌いなんだ?言ってしまえば同じもんだろ?」

 まさかそれを聞かれるとは思っていなかった蓮は、やっていたゲーム機のコントローラーを落としてしまう。

「お前、前に言っていたよな。地元のことを話したら、多分怒るって」

「……そんなことも言ってたな」

 確か、ヨッシーがここに来て間もない頃だ。

「もしかしたら、それも関係してるんじゃないかって思ってよ。だからその……教えてくれないか?」

 彼の真意が分からず、蓮はヨッシーを見つめる。ゲーム画面には「ゲームオーバー」の文字が出ているが、気にする余裕はない。

「話せる範囲でいいんだ。お前の痛み、少しでも知りたいんだよ……」

 蓮は俯き、話すべきか悩んだ。言えば、彼のことだから怒るだろう。でも、どうしても知りたいというのなら。

「……分かった、教えるよ」

 蓮は重たい口を開いた。虐待や化け物と呼ばれていたことは伏せたが、地元ではどんな感じだったのか話すと彼はため息をついた。

「そりゃあ、人間不信にもなるよな……お前、それをよく一人で抱えてきたな」

「怒らないのか?」

「怒ってるよ!当たり前だろ!?」

 フ―!と毛を立たせ、ヨッシーは答えた。怒っているのはもちろん蓮にではなく、その地元の人達にだ。

「ワガハイがついてやれていたら守ってやれるのに……」

「大丈夫だって。お前は本当に心配性だな」

 やっぱり、ヨッシーは優しい。優しいから、他人である蓮をここまで心配してくれるのだろう。

「あれ?ワガハイ……」

「どうした?」

 しかし、彼は顔を傾げたので何かあったのかと聞いた。

「いや、何か思い出しそうになったんだよ。だが、何なのか分からなくて……」

「そうなのか?お前、もしかしてボクの関係者だったとか?」

 あり得る話だ。誰なのかまでは分からないが、それなら感動の再会というものだ。

(でも、そんな都合のいい話なんてないか)

 心の中で笑う。そんな虫のいい話、漫画とかゲームでない限りあるわけない。

 でも、確かに彼の声はどこかで聞いたことがある気がするのも事実だ。まるで……。

(まるで……なんだ?)

 蓮も一瞬何かを思い出しそうになったが、その一瞬が曇って分からなくなった。


 それから、蓮は皆を集め作戦会議を行った。

「今回のデザイアはちょっと特殊だ。気をつけていきたい」

「何しろ相手の方から盗めと言われているからな。どんな罠があるか……」

「ようは罠に気をつけろってことだろ?任せろって!」

「お前が一番心配なんだ……」

 良希がドヤ顔で言うものだから思わずツッコんだ。正直、何をしでかすか分からいのが良希だ。

「なんで俺だけ……」

「お前が変なことをよくするからだろ……」

 はぁ、とため息をつきながら蓮はスマホを準備する。

「それじゃあ、行くか」

 その声に頷き、皆で藤森の家の前に来た。そして、ナビを起動する。

「いつ見ても素晴らしいピラミッドだ」

 アポロが感嘆の声を漏らす。やはり芸術家、こういったものに興味を持つのだろう。

 中に入るが、前の時とは違い道は塞がれていた。

 何か仕掛けを解かないと入れないようなので外から探そうということになり、外に出ようとするとりゅうのフェイクが呼び止めた。

「もう帰るの?」

「りゅう。いや、外から入り口があるか探そうと思ったんだ」

 ジョーカーが答えると、彼は「それなら、盗賊から取り返してほしいものがある」と言った。

「取り返してほしいもの?」

「外に行けば盗賊しかいないから、すぐに分かる」

 何のことか分からないが、とりあえず街に行けとのこと。街と言えば近くには一つしかないからすぐに分かった。車で向かい、街で降りるとエネミーだらけだった。

「ここから盗賊を探すの?」

「わかんなくね?」

 ウェヌスとマルスがガックリと肩を落とす。

「多分、他のエネミーとは違うんだと思うぞ?」

 ジョーカーはそう言って、近くのエネミーから見えないように姿を隠す。

「どうする?経験を積みたいなら仕掛けるけど?」

 尋ねると、アテナが「そうね、私はちょっと戦ってみたいわ」と答えた。それならと後ろを向いた隙に飛び乗り、仮面を外す。現れたのは鳥のようなエネミーが三体。

「銃撃が弱点だ!」

 ジョーカーの言葉にテュケーとアポロが撃ち落とす。

「ま、待ってくれ!」

 エネミーが命乞いをしてくる。ジョーカーが「何か出せ」と言うと、エネミーはお金を落としていった。

「ま、こんなものか」

 それを拾うと、先に進んでいった。エネミーを倒しながら歩いていると、開けた場所に出た。そこには今までと違う姿のエネミーがいた。こいつがフェイクの言っていた盗賊だろう。

「お前達も、あのピラミッドの財宝が欲しいのかい?」

「財宝?どうでもいい、そんなの」

「へぇ……この地図があれば、すぐに辿り着けるのにさ」

 地図……つまりそれを取り返してほしいということだろうか。確かに盗賊に墓を荒らされるなら、まだ善意ある怪盗に奪い返してもらいたいだろう。

「悪いが、主に取り戻してほしいと言われているんだ。力ずくでも奪わせてもらうよ」

「ふん、出来るならな!」

 盗賊は先程のエネミーとは違う鳥の姿になった。しかし、銃撃が弱点なのは変わらず。

「行くぞ!」

 リーダーの掛け声に全員が動き出す。ジョーカーが銃弾を撃ち、怯んだところにマルスとアポロが物理で、テュケーとウェヌスとアテナが呪文で追撃する。しかしそれで倒し切れず、エネミーは疾風を起こす。しかし、城幹の時のようにずっとは続かず、すぐにおさまった。再び銃で撃ち落とし、同じように攻撃をするとエネミーは地図を落として消えていった。

「これがあのピラミッドの地図か……」

 これで用事は済んだのでジョーカー達は車でりゅうがいるピラミッドに戻った。

 入口のところにりゅうはいた。

「取り返してきたけど、これであってる?」

 ジョーカーが尋ねると、りゅうは「そうだよ」と答え、

「それ、君達にあげる」

 と言った。

「これ、大事な物だから取り返してほしいんじゃなかったの?」

 アテナが聞き返すと、彼は「ここの見取り図だから。君達に必要でしょ?」と答えた。確かに地図があれば助かるのだが。

「それじゃあ、待ってる」

 そう言ってりゅうは消えていった。中に入ると大きな穴があった。ところどころに足場がある程度だ。

「どうする?道、ここしかなさそうだけど」

 ジョーカーが聞くと、「それなら今度にしないか?」とアポロが提案した。

「まぁ、あまり急ぎすぎるのも駄目か。地図を見る限り道のりは他のデザイアよりかなり短いし、少しゆっくりでもいいな」

 ピラミッドの外に出ると、ナビを止めた。ファートルに戻ると、蓮は飲み物を用意する。

「明日用事ある人はいるか?」

 蓮が聞くと風花が「ごめん、しばらくモデルの仕事があるんだ」と言った。

「仕方ないよ、仕事はさ。ちなみに、それっていつまで?」

「金曜日まで……あ、でも途中で抜けてくることも出来るよ?」

「いや、怪しまれそうだ。こっちの方は別に構わないから」

 時間はまだあるのだ。慌てて攻略して何かあったら困る。

「分かった。あ、それなら蓮、水曜日用事ある?」

「特にないけど。何なら一人で潜入してもいいし」

「やめて。あなた、本気でしそうだから」

 もみじに止められる。『リベリオンマスカレード』の掟は全会一致なので、別に本気でしようとしているわけではないのだが。

「冗談だよ」

「お前の場合、冗談には聞こえねぇんだよ……表情一つ変えねぇしよ」

「悪かったな」

 自覚がある分、それを言われてしまってはぐうの音も出ない。

「いや、多分本気じゃなかったぞ」

 ヨッシーを除いて。

「お前分かんのかよ?」

「何言ってんだ。こいつ、意外と表情豊かだぜ?」

「そんなのじゃないだろ」

 無表情はいつものことだ、表情豊かと言われるほど変えていない。

「確かに、笑った時は美しかったな」

「おま、こいつが笑ったとこ見たことあんのかよ!?」

 裕斗が言っているのは、彼が出ていく時のことだろう。確かに笑った覚えがある。時々笑っていても僅かだから皆気付かないのだが。

「いいな、俺ら見たことないぞ」

「うんうん、あたしも見たい」

「私も興味あるわね」

 キラキラと目を輝かせて見つめられる。そんなに見られても、急に笑うことは出来ないのだが。

「メガネも外しなよ」

「あ、ちょっと……!」

 風花が蓮の伊達メガネを取ると、蓮は慌てたように手を伸ばす。

「その、困るっていうか……!」

「うわっ……同性なのにドキッてしちゃった……」

 彼女が何を言っているのか分からない。とにかくメガネを返してほしい。

「お前、メガネは外しても大丈夫じゃなかったのかよ?」

「実際にとられるのは違うんだよ……!」

 恥ずかしさで顔を真っ赤にさせる。それはあまりに煽情的すぎて。

「う、うわぁ……なんというか……」

「やはり美人の恥じらう様は絵になるな」

「美人じゃないし……」

 どうやら全員満足したようだ。どこに満足する要素があるのか蓮には分からなかったが、メガネを返してもらい、それをかける。

「なんか、これあると安心感が……」

「お前、数か月ですっかりなじんだのか?地元戻った時どうすんだよ……?」

「その時はその時」

 やはりメガネがあると安心する。素顔が見られないという安心感からだろうか。自分は本当に人間が苦手だ。

「とりあえず、今日は解散するか。作戦も考えたいしな」

 冷静になった蓮の言葉に全員が頷き、その日は解散となった。


 夜、蓮はソファに座っていた。ヨッシーは既に眠っている。いつものように正義や攻略について悩んでいると、

「……?」

 ふと、不自然に声が聞こえてくることに気付いた。外からではない、これは……。

「だれ……?」

 ――お前はリーダーだろう?正義について悩んでいる暇はあるのか?

 ――この場所を守るためには強くなきゃダメ。あなたにしか出来ないんだから。

 ――全て失うことが怖いくせに。だから今まで得ようとしなかったんでしょ?

 クスクスと笑い声が聞こえてくる。それは幻聴だったが、その時の蓮にはそこまで考えが至らなかった。

 ――どうせなら、死んでしまえばいいのに。

 ――君はただの人形なんだから素直に言うこと聞いとけばいいのにね。

 ――生きていても仕方のない人間。なんでそんなあんたが生きてるの?

「いや……」

 耳を塞いでも、聞こえてくるそれは蓮の心を確実に蝕んでいた。


 さすがに異常を感じた蓮はヨッシーをファートルに残して敷井のところに向かった。

「あら、どうしたの?」

「実は……」

 蓮は敷井に昨日あったことを話す。すると彼女は「幻聴ね」と単刀直入に言った。

「幻聴……」

「ストレスが原因なんじゃない?最近調子が良くないとか」

「まぁ、それは確かにありますけど……」

 昨日、デザイアに入った時に感じたことだ。戦っている時も本調子ではなかった。

「……本当は大きい病院にかかりなさい、と言いたいところなんだけど」

「それだけは断じて嫌です」

 メガネをかけているとはいえ、成雲家の人間だと知られたら好奇の目で見られるのは目に見えている。なぜ分かっているのに、そんなところに行かないといけないのか。

「そうよね……はぁ、じゃあ薬、出しとくから。でも、これで効くとは限らないよ」

「すみません……」

「いいよ、いつもごひいきしてくれてるし。あと、腕も見せてもらえる?またやっているのなら手当てもしないといけないし」

 蓮は腕を見せ、消毒液をつけて包帯を巻いてもらう。駄目だと分かっているのだが、どうしてもやってしまうのだ。

「お大事に。……本当に自分の身体を大事にしなさいよ」

 敷井はそう言って蓮を見送った。

 家に帰り、チャットを見ると良希から来ていた。学校でトレーニングがしたいそうだ。

『すぐ行く』

 そう送り、蓮はジャージを持って学校に向かった。


 ジャージに着替え、ヨッシーを連れて蓮は良希と合流する。

「ここ、陸上部の練習場所だったんだ」

 中庭に行くと、彼はそう言った。狛井に奪われた居場所はかなり大きいもののようだ。

 一緒に走っていると何人かが良希のところに来た。

「お前、なんでここにいんだよ?」

「まさか、戻りたいとか言うんじゃないだろうな」

 話し方からして陸上部のメンバーだった人達だろうか。

「んなこと言わねぇよ。ただ、ちょっと体力が必要になってよ」

 良希はバツが悪そうに答えた。狛井が仕掛けたこととはいえ、彼のせいで陸上部の居場所がなくなってしまったことを後悔しているのかもしれない。

「喧嘩はやめてください」

 とりあえず間に入ると、陸上部の人達は舌打ちをして立ち去っていった。

「さっきの奴らは?」

 確認のために聞くと、彼は「陸上部の連中だよ」と答えた。

「あんな反応になるよな……皆を裏切ったってのに」

 彼の気持ちは分からなくもない。でも、蓮には何も言うことは出来ないのだ。

「早く練習に戻ろうぜ」

「そうだな」

 かける言葉も見つからず、蓮はただ頷いた。

「じゃあ、またなんかあったら連絡するわ」

 良希はそう言って帰っていった。


 ファートルに戻ると、長谷から連絡があった。

『あのさ、今から家に行ってもいい?』

「いいですけど、どうしたんですか?」

 答えはなく、ただ『分かったわ、すぐに行くね』と返事が来た。

「誰か来るのか?」

 藤森に聞かれたので蓮は頷く。すると「じゃあ、戸締りはちゃんとしといてくれよ、俺はもう帰る」と言われた。

 数分すると、長谷が来た。家が近いというのは本当のことらしい。

「どうしたんですか?先生。夏休みの宿題ならもう終わっていますよ」

「いや、そんなのじゃなくて……」

 カウンター席に座らせ、コーヒーを淹れる。

「えっと、なんか話があるんですか?」

 コーヒーを前に出し、お礼を言われるがそれ以外は何も言葉を発さない彼女を心配する。

「どこか思い詰めた顔しているな……」

 ヨッシーに言われ、蓮は小さく頷く。何かあったのだろうか?

 コーヒーを一口飲むと長谷はようやく口を開いた。

「あのさ、君の前歴のことなんだけど……」

「はい。どうしたんですか」

 前歴がどうしたのだろう?彼女に伝わっているのは援交を迫って、受け入れてくれなかったから殴ったというもののハズだが。

「本当に君、人を殴ったりしたの?君の態度を見ているとどうしてもそう思えなくて……」

「あぁ、そんなこと……」

 今更評価が変わることなどないのだから、気にしなくてもいいのに。

「そんなことって……私は真剣に聞いてるのに」

「実際今更ですから。……それに、真実を話したところで信じてもらえるとは思っていないですし」

 仲間達ですら本当に信じてもらえているか疑わしいところなのに。

「でも、どうしても知りたいの。君のこと」

「……それなら、仕方ないですね」

 ため息をつき、蓮は話し始める。話し終えると、彼女は俯いた。

「そんな……じゃあ、濡れ衣だったってことなの?」

「信じるかは先生次第ですよ」

 まぁどうせ、信じてもらえないだろうと思っていたのだが。

「酷いじゃない。私、そんな子を邪険に扱っていたの……?」

 蓮は何とも言わなかった。弁解する理由もない。

「ごめんなさい、あなたのこと、ちゃんと知りもしないで……」

「仕方ないんじゃないですか?前歴ある人が冤罪なんてそうそうないことですし」

 世の中そんなに甘くないということを、蓮は身を持って知っている。正義だと思ってやったことがこの結果をもたらしたのだから。

 ――お前の行ったことは、くだらない正義だ。

 どこからかそんな声が聞こえてきた気がした。

「……あのさ、君、無理してない?」

「え?急にどうしたんですか?」

 まさか、また顔に出ていたのだろうか?最近時々あるのだ、表情が表に出て指摘されてしまうことが。

 しかし、そうではなかったらしい。

「いや、君よく動いているみたいだったからどうなんだろうって」

「あぁ、そういうこと……大丈夫ですよ」

 今のところは、という言葉は喉の奥にしまっておく。

「そう……いや、勉強を教えるって言っても君、頭いいから意味ないんじゃないかなって……」

「そんなことないですよ。良希に勉強を教える時とかすごく役に立ちます」

 蓮は天性の秀才ゆえ勉強が苦手な人に対する教え方を知らない。出来る限りでやってきているが、良希ほどになるとどうしようもない。教師だからこそ、そういったことを学べるというものだ。

「君、結局風谷君を関わっているのね……でも君だからいいのかもね」

 どういう意味か、蓮はよく分からなかった。

「それじゃあ、また」

 長谷はそう言って帰っていった。片付けをし、蓮は二階にあがると温泉に行くために着替えを準備した。

 温泉に行き、湯船に浸かると蓮は幻聴のことについて考える。

 ――今までは、こんなことなかった。

 何が負担になっているのだろうか?学校?家のこと?前歴?それとも怪盗団?……もう、分からない。

 ――今はただ、疲れているだけだろう……。

 そう思うことにした。

 しかし、ファートルに戻り、ヨッシーに隠れて薬を飲んでも治る気配はなかった。

「どうした?レン」

 ヨッシーが心配そうに見てくるので、蓮は「何でもない」と答えた。

(こういう日は寝るに限る)

 ヨッシーも「それならもう寝ようぜ」と言ったので横になり、声が静まるのを待った。


 水曜日の午前、風花に言われていたので渋谷に向かった。

「ヤッホー、こうして過ごすの久しぶり」

 どうやら仕事の休憩につき合ってほしかったようだ。

「あ、クレープ!クリームましまし!食べちゃ駄目かな?」

「この後も撮影なんだろ?やめておけ」

「うぅ……そうだよね……」

 風花は甘い物が食べたいようだ、そういったものに釣られている。

 ――まぁ、食べたい気持ちは分かるけどな。

 しかし、文字通り身体が重要な仕事だ、それで何かあったら困る。

「…………」

「どうした?」

 少し元気がないように見えた蓮は彼女に尋ねる。すると「あ、ううん!何でもない」と言われた。

「話なら聞くぞ。飲み物ぐらいなら飲んでもいいだろうしな」

 絶対に何かあると悟った蓮は誘う。すると風花は「……じゃあ、久しぶりにカフェ行こ?」と小さな声で告げた。


「あのさ、あいのことなんだけど」

 いつかの時と同じように風花はココアを、蓮はコーヒーを頼み、来るのを待っていると風花が口を開いた。

「川口さん?何かあったんですか?」

「うん……今ね、リハビリに励んでるの」

「そうか……頑張ってたか?」

 蓮が聞くと、風花は「うん……」と頷いた。

「すっごく頑張ってた。きつそうだったんだ」

「どう思った?」

「あたしも頑張んないとって思ったよ。だけど……」

「だけど?」

 先を促すように告げると、風花は黙った後、

「あんなことがなければ、あいはあそこまで苦労しなくてよかったのにな、とか、狛井さえいなければあいが引っ越すこともなかったのに、とか……いろいろ考えちゃって……。あたし、やっぱりあいがあんな目に遭わせた狛井が許せないの」

「当然の感情じゃないか?親友なんだろ?」

 蓮が答えてやると、風花は「そうだね」と言った。

「ありがとう、話聞いてくれて。これだけだから」

「そうか。辛いことがあればいつでも言ってくれよ。相談には乗るから」

 そう言うと、風花は「うん。頼りにしてるよ、リーダー」と笑った。

「それじゃあ、あたしは戻るね」

 そう言って風花は仕事に戻っていった。


 昼は何もすることがなかったので牛丼屋でバイトをしていた。すると良希が入店してくる。

「お、蓮。お前ここでバイトしてたのか?」

「うん。そうだよ、他にも掛け持ちしているけどね」

 そう答えると裕斗と同じように「大丈夫なのか?それ」と聞かれた。

「大丈夫、時々呼ばれる以外は自由に決められるし」

「そうなのか?まぁとりあえず牛丼大盛りで」

 注文を受けたので蓮はすぐに準備する。

「お、早いな。慣れてるのか?」

「まぁな、時間が空いてる時はバイトしてるし」

「マジか……俺もしてみようかな……?」

「出来るのか?」

 バイトしている良希……想像出来ない。そもそも集中するまでに時間かかる奴だ、単純な作業は苦手だろう。

「俺だって出来る!多分」

「多分かよ」

「成雲さん、こっち来てくれる?」

「あ、はい。じゃあ、また後で」

 先輩に呼ばれ、蓮はそちらに向かう。

 帰る時間になり、店を出る。

「今日はこの後どうすんだ?」

 ヨッシーに聞かれ、蓮は考え込む。

「うーん……早坂さんのところに行こうかな?」

 検証につき合うと言っていながらまだやっていなかったことを思い出し、そう言った。


 早坂のところに行くと、先客がいた。どうやら恋人のことで困っているようだ。

「このままだと、運気が下がってしまうんです。こういう時、成雲さんならどうします?」

 早坂に聞かれ、蓮は考える。こういう時は……。

「その恋人、もしかしたら怪盗に盗まれるかもな?」

「ちょっとふざけないでください!そんなことで……!」

 早坂が怒ったように言ってくるが、

「怪盗……そうだ、彼女はぼくが幸せにする!ありがとう!」

「え、えぇ?」

 その人は笑顔で去っていった。早坂はまさかと思い、すぐにあの客を占う。するとまた変わっていたようだ。

「やっぱり、成雲さんは超能力者か何かでしょう?」

「だから違いますって」

「いいえ、そうに決まってます。成雲家の人間は不思議な力を使えると聞きますもん」

 あ、気付いていたんだな……と思いながら蓮は否定する。

「うぅ……超能力でないというのなら何だというのでしょうか……それに、確かにそんな力があったら私の運命も……」

「どうしたんですか?」

「い、いえ!何でもありません!」

 何かあると思うのだが。今は話してくれなさそうだなと思い、蓮は深く追求しなかった。

「それじゃあ、また」

 早坂はそう言って店じまいをした。用事がないので蓮はそのまま帰っていった。


 次の日、裕斗に誘われ駅前広場に来た。

「今日はどうしたんだ?」

「あぁ、実は人の心について考えてみたくてな」

「人の心……」

 なるほど、それは確かに深い。しかしどうやってそれを観察すると言うのだろうか?少し考えて、蓮はひらめく。

「あ、アザーワールドリィとか?」

「いいな、行ってみようじゃないか」

 あそこは大衆の認知が具現化した、人の心と言っても過言ではないだろう。そこでなら何かつかめるかもと思った蓮が提案すると、彼はすぐに頷いた。

 アザーワールドリィに行くと、彼は早速スケッチを始めた。

「おい」

「…………」

「おい、裕斗?」

「…………」

「おーい……」

 どうやら完全集中モードに入ったようだ。仕方ないと蓮は周囲のエネミーを倒していった。

 数分後、満足いく絵が完成したらしい。現実に戻ろうと言われたのですぐに帰った。

「付き合ってくれてありがとう、下絵は完成したから今度見せる」

 自分で提案していてなんだが、あそこでいい絵が完成するとは思えず、なんだか嫌な予感がする。しかし、嬉しそうにしているのでとりあえず楽しみにすることにした。


 夜、久しぶりに水谷のところに行って情報を提供した。

「久しぶり」

「すみませんね、時間がなかなか取れなくて」

 バーのカウンター席に座り、怪盗団の情報と成雲家に関することを話す。

「へぇ、じゃあ本当は、成雲の一族は地元からあまり出ちゃいけないんだ」

「はい。仕事とか、勘当でもされない限りはそうですね」

「じゃあ、君は勘当されたの?」

「いえ、ボクはいろいろあって……」

 本当は勘当されていてもおかしくはないが、そうではない。両親に信じてもらっているからだろう。蓮としては勘当してほしかったものだが。

「ふぅん……まぁいいや。ありがとう」

 水谷は満足そうだ。成雲家のことについてはほとんど知られていないから話を聞くことが出来て嬉しいのだろう。

「それじゃ、気を付けて帰ってよ」

 蓮が席から立つと、彼にそう言われた。


 誰とも過ごす予定はなかったので家で本を読んでいると下から藤森が「友達が来てるぞ」と言われた。誰だろうと思い下に行くと、良希と裕斗だった。

「やぁ、蓮。一緒にDVDでも見ないか?」

「まぁ、暇だったからいいけど」

 裕斗がDVDを持ってきたようだ。DVDプレイヤーはあるので別に構わないのだが、もしなかったらどうするつもりだったのだろう?

 彼が持ってきたのは意外にもアクション系のものだった。どうやら人の動きの勉強をしたかったらしい。古いやつだったが、良希にも楽しんでもらえてよかったと思う。

 DVDを見終わると、良希はゲームを見つけた。

「うお、これも古いな……お前こんなのやってんのかよ……」

「別にいいだろ?ボクもあんまりやんないし」

 実際、この間初めてやったのだ。意外と楽しかったからよかったが、これは藤森の趣味だったのだろうか?

「やってみていいか?」

「いいよ」

 ゲームを繋げ、やらせる。難しいらしく、随分と苦戦していたが十分もすると慣れたようでかなりスムーズに出来ていた。

「おぉ、すごいな……」

「お前もすごかったけどな、五分もかからない内に操作方法とかすぐ覚えてたし」

 ヨッシーがベッドの上から声をかける。昼寝しているとばかり思っていたのに。

「後で俺にもやらせてくれないか?」

 裕斗も興味を持ったらしく、そう申し出た。男子はこういうものに興味を持つものだろうか?蓮は何にも興味を持てないので分からない。

 こうして昼間は二人と遊んだ。


 夜、寝ようとするとヨッシーがバッと飛び起きた。

「どうした?ヨッシー」

 こんなことは初めてだったので聞くと、彼は「なんでもねぇよ」と言った後、

「なぁ、レン。もし、ワガハイがバケモノだったらどうする?」

 と聞いてきた。急にどうしたのだろう?

「別に構わないよ、バケモノでも。それに、ボクの方が……」

 化け物だ。そう言いかけて、やめた。こんなことを言って、彼が慰められるわけがない。今の彼は迷子のようなものだ。

「ワガハイが気にする!お前達を傷つけるようなバケモノなら、ワガハイここにいられないかもしれない……」

 彼のその心配は、蓮にはよく分かった。蓮自身も、同じだったから。

 ――だからこそ、なんて声をかければいいかよく分からなかった。

「……大丈夫、お前の居場所はここだ」

 だから、それだけは伝えた。彼にはどこにも居場所がないわけではない。「蓮の隣」という場所があるのだ。彼だけの、特等席が。それを、分かってほしい。

「レン……あぁ、そうだな。ありがとよ、そう言ってくれて」

 ヨッシーはお礼を言って笑った。しかし、その笑みは少し無理をしているようだった。

「ほら、明日も早いしもう寝ようぜ」

 いつもの発言をするヨッシーからは、先程の迷子の子供のような雰囲気は感じられなかった。


 久しぶりに全員が集まり、会議をしていた。

「どうする?地図によれば今日中にでもルートは確保できそうだけど」

 しかし、この先かなり苦戦することもあり得る。どうするか聞いてみると、

「それなら、デザイア攻略は今度にして今日は鍛える方がいいんじゃないかしら?」

 もみじがそう意見した。今後のことも考え、そうしようと決めた怪盗達はアザーワールドリィに入る。

「今回の依頼は……五件か」

 アポロが確認する。日に日に依頼が来ているのでどれが重要か分からなくなるのだ。

「よし、じゃあ行くぜ」

 マルスがやけに張り切っている。怪盗稼業をやっているとはいえまだ本業は学生、ちゃんと宿題をやったのだろうか。

(いや、この様子だとやってないな……)

 下手をすれば一つも手につけていないかもしれない。今度勉強会でも開くか……と思いながらジョーカーは車を運転し始める。

 車内では夏休みの過ごし方について話し合いをしていた。

「ねぇ、皆は夏休みどう過ごしてたの?」

 始まりはアテナだった。全員は少し考えた後、

「俺はずっと遊んでんな。それでいつも最後の日まで宿題が終わんねぇ」

「あたしはモデルの仕事が大体入っているね。何もない日はあいと出かけてた」

「俺は引きこもっていることが多いな。絵を描いている」

「オレは宿題を全部終わらせた後バイト三昧だな。家にいたくなかったし」

「マルスとウェヌスはともかく、二人は偏りすぎてない……?」

 だって事実だ。怪盗稼業をしてなければ今頃バイトしていることだろう。

「マルスは予想通りだったな、ワガハイならちゃんと終わらせるぞ」

「あぁ!?んだとネコ!」

 また喧嘩を始めようとしているので、ジョーカーは慌ててアテナに話を振る。

「アテナは?どんな過ごし方をしてたんだ?」

「私は……勉強ばかりしてたわね……後は本を読んだり」

「人のこと言えない気が……」

 進学を目指しているようなので当たり前の過ごし方かもしれないが。

「私、友達とあんまり遊ばないからね。両親いないし……」

「そうだったのか?」

 それは初耳だ。どうやらここにいる人達は全員訳ありの家庭らしい。

「そういえば、リーダーも謎よね」

「そうだな、家族について聞いたことがない」

 バックミラー越しに見られていることが分かる。これは言い逃れが出来ない。

「……うちはまぁ、普通だよ。まぁ、いろいろ訳ありだけど……」

 だから差し支えがない程度に答える。少なくとも、ここにいる人達よりは恵まれているハズだ。誰かが亡くなっているということはないし。

「その「訳あり」が聞きたいんだが?」

「それ、ワガハイにも話したがらないんだよ。ただ、地元でも酷い扱いされていたみたいだぞ」

「そうなの?」

 テュケーの言葉にアテナが食いついた。

「テュケー、それは言わないでくれよ……」

 と言ってももう手遅れだが。

「随分奇異な目で見られていたみたいだぞ。不思議な力のせいで」

「聞いてんのかネコ」

「ネコじゃねぇ!」

 少しイラ立ちながら言う。紳士なら秘密を言わないのが普通ではないか。そう思うのはジョーカーだけだろうか?

「そうだったの?でも結構役に立つじゃん」

「そうそう。それで俺達、助かってるしよ」

「そう言ってくれるのはお前達だけだぞ……」

 やはり、彼らは優しい。アポロやアテナは何も言わないが、少し寂しそうな顔をしているのが分かった。だからこそ言いたくなかったのに。

「だってリーダーの力は「特別」だもんね!」

 特別……。

 そう、自分は「特別」だから皆に頼られているのだ。もし力不足になってしまったら……この居場所も失ってしまうかもしれない。

 ジョーカーの心に黒い影が落ちた。しかし、それに気付かないふりをする。

 他の人達はそんな彼女に気付かず、ターゲットを改心させ、体力と気力がなくなるまでアザーワールドリィで鍛えた。


 夜、藤森に頼まれ店番をしていると再びあの男がやって来た。

「……すみません、今日はもう閉店なんです」

 偶然にも藤森はいなかったのでそう言って追い出す。彼は何者なのだろうか?

 数十分後、藤森が戻ってきた。

「すまねぇな、任せちまって。……ところで、あの男がまた来たのか?」

「はい。よく分かりましたね」

 蓮がそう言うと彼は「少し不機嫌そうだったからな」と笑った。確かにあの男が来て不機嫌になっていたけれど、表に出るほどだったのか。

「安心しろ、お前には関係ねぇ。今日みたいに追い払ってくれたらいいんだ……って言っても、事情を知らねぇとあれか」

 どうやらあの男のことについて話してくれる気になったらしい。蓮も随分信用されたものだ。

「あいつはな、りゅうのおじなんだよ。ただ、裕美が死んでからりゅうを引き取ってたんだが、酷い扱いをされていてな。見てられなかったから高い金を払ってりゅうを引き取ったんだ」

「そうだったんだ……」

 裕美とはりゅうの母親のことだろう。親戚からも酷い扱いをされるとは、幼いのに……。それがどこか自分と重なり、蓮は憤りを感じる。

「でも、納得してないみたいで、まだ金が欲しいみたいでよ。あぁやって突っかかってくるんだ」

 このままではりゅうにまで影響を起こしかねない。その前に何とかしてやりたいところだ。

「……あの、そのおじの名前は?」

「ん?海野 たけしだが……」

 家族の中に首を突っ込む気はなかったが、こうなっては仕方ない。こういう時こそ怪盗の出番だ。

(でも、今回は皆に言うわけにはいかないな……)

 ルール違反だが、この依頼は一人でやろうと蓮は心に決めた。彼との絆が深まった気がする。

「じゃあ、早く寝ろよ」

 藤森はそう言い、家に帰っていった。


 次の日、ジョーカー達はデザイアに入っていた。

「やっぱり複雑だな……」

 前に大玉が転がってきたところは大きな壁で塞がれている。この先にオタカラがあるというのに。

 近くに扉があったのでそこに入ると、早速エネミーがいた。

「戦うぞ」

 倒さないと進めそうにないのでそのエネミーの仮面をはがす。出てきたのは天秤を持った犬のような姿。エジプト神話に出てくる神、アヌビスだ。

「あの天秤が厄介そうだな……」

 あれで罪状をはかるという。確か、冥界の神ではなかったか。ハッカーの名前は恐らくここから取られたのではないだろうか?

 思った通り、天秤が偏ったと思ったら光呪文がジョーカーに飛んできた。

「うわっ!?」

 急な攻撃に避けられず、ジョーカーは怯んですぐには動けなかった。続けて天秤が反対に偏り、闇呪文が飛んでくる。だが、闇呪文には耐性があったのでどうということはなかった。

「ジョーカー、大丈夫か!?」

 テュケーがすぐに回復呪文を唱えようとするのを手で制する。怯んだと言っても、そこまで怪我もしていないから、今は倒すのが先決だ。

「……っ!テュケーは風呪文を!マルスは物理で攻撃しろ!」

 手前にいる二人に指示を出す。ジョーカーは二人が攻撃をしている内に体勢を整え、サポートエネミーとしてオニを召喚し、物理攻撃を与える。するとアポロが新たな呪文を唱えた。

「オフェンス!」

 彼のその呪文も物理攻撃のようだ。かなり強いその呪文にジョーカーも驚く。

「すごいな……!よし、このまま行くぞ!」

 戦況はこちらが有利になった。ジョーカーが怯んだ時はどうなるかと思ったが、その心配はいらないようだ。

 それぞれに指示を出し、エネミーを倒す頃には皆息が上がっていた。

「意外と強かったな……」

「この先もこんなのが続くのかよ……」

 マルスがガクッとうなだれる。

「……いや、その心配は必要ないみたいだぞ」

 しかし、その先にあるものを見てジョーカーは答えた。彼女の言う通り、その先にはエネミーの姿はなく、かわりに何かのパネルがあった。

「これ……パズルか?」

 それを見たアポロが呟いた。触ってみると、確かにそのようだ。

「オレに任せろ」

 こういったものは得意だ。淡々と並べていくと、それが完成する。

「これって……」

「子供が泣いてる……?お葬式の時のかな?」

 するとそれが消えて別のパズルが出てきた。それも並べ替えるとまた別のパズルが出てくる。それぞれ目の前で子供の目の前で女性が車に飛び込んでいるところと子供が女性に甘えているところだった。

「これ……りゅうの記憶かな?」

 ウェヌスがそう言うと同時にジョーカーの頭に映像が流れてきた。

「これ……!」

「どうしたの?」

 思わず声に出し、アテナに心配される。ジョーカーは「い、いや……何でもないよ」と答えるが、彼女は納得していないようだった。

 ――過去を見る能力。

 成雲家に伝わる能力の一つだ。そして今まさにその力に目覚めたらしい。今見たのはりゅうの中学時代――母親と過ごしていた時のことだった。

 ――母親の死の真実は……。

 それは、今は言わない方がいいと判断したのだ。皆を混乱させてしまうから。

 それと同時にどこかから大きな音が聞こえてきたので戻ると、壁で塞がれていた道が開いていた。

「開いたみたいだな」

 しかし、その先には進めなかった。この先にオタカラはあるというのに。

 すると、りゅうのフェイクが現れた。

「来たんだね」

「りゅう、ここからはどうやって開ければいい?」

 ジョーカーが聞くと、彼は「本人の意志で入れてもらえばいい」と答えた。

「入れて……?もしかして、現実の本人の部屋に入れてもらえばいいってこと?」

「そうだよ。大丈夫、君なら出来るハズ……」

 そう言ってりゅうは消えていった。現実で本人の部屋に入れてもらう……少し難関かもしれない。ジョーカーも部屋には入れてもらったことはないのだ。

 ――でも、今ならもしかしたら……。

「とりあえず、戻るか」

 ここで悩んでいても仕方ない。現実に戻っていつ予告状を出すかという話になる。

「どうする?」

「……もう少し鍛えた方がよさそうだな。予想より強かった」

「そうね、慌てても仕方ないし」

 話し合いの末、決行は八月十五日にしようということになった。

「それじゃあ、その間に準備しよう」

 そう言ってその日は解散した。


 夜、ヨッシーが心配そうに蓮を見た。

「なぁ、本当に大丈夫か?」

「どうした?最近ボクの心配してるよな」

 何だろうか?すると彼は蓮の膝に乗っかった。

「お前、無理してるだろ」

「何のことだ?」

 本当に心当たりがない。ヨッシーはそれを見てため息をつく。

「はぁ……まぁいい。ワガハイがちゃんと見てれば……」

「本当に何のこと?」

「何でもねぇよ。ほら、早く寝ようぜ」

 いつもの発言に頷き、蓮はベッドに転がった。


 次の日から五日間はアザーワールドリィに潜入し、鍛えた。今回は地上ではなく地下鉄の方を進んでいる。

「まさかここまで馴染むとは思ってなかったよな」

 マルスが言うと、ウェヌスが「ほんとそれ!最初はまさか怪盗やるなんて思ってなかったもん」と答えた。

「それに関しては同感だな。だが、それで救われた人もいる」

「そうね。少なくともここにいる人達は……」

 アテナがそこまで言って、ジョーカーとテュケーを見る。

「……そういえば、リーダーとテュケーは怪盗やって救われてるの?」

 そんなことを考えたことがなかったジョーカーは考え込む。

「……うーん。よく分からないな。改心させてきた奴は、オレ自身とは直接関係なかったことだし」

「ワガハイもだな」

 居場所があるというだけでも十分かもしれないが、皆のように直接的に怪盗団に救われたというものはない。

「いや、関係あっただろ……特に城幹ん時……」

「あれぐらいすぐに用意出来る。名家の令嬢なめるな」

 あんなのは脅しにもならない。

「マジかよ……お前、案外神経図太いよな……」

「悪いか?」

 言われなくても自覚はある。だがそれがどうしたというのだろう?

「でも、それぐらいがいいかもね。その方がリーダーらしいし」

 ウェヌスがフォローするように告げた。アポロもそれに同意する。

「確かにな。ジョーカーはその方がいい」

「それは褒められているのか?」

 本人達は自覚ないだろうが、明らかに褒めていない。それはジョーカーも分かった。

「……まぁいいけど」

 しかしこの少女、そう言ったことにあまり興味がない。自分がどう見えていようがどうでもいいのだ。

 なんだかんだと言いながら、先に進んでいく。こちらもそれなりに広いようだ。

「アザーワールドリィって不思議だよな……」

 進めるだけ進み、あの開かない壁にぶつかる。エネミーを倒しながら来た道を戻っているとジョーカーがそう言ってきた。

「ここって王女とかいるのかな?」

「いるか?こんな薄暗い場所に」

 マルスが答えるが、ここもある意味国なのだ、いてもおかしくはない。

「テュケーはそこのところ分からないの?」

「ワガハイ、そこまで分かんねぇよ」

 異世界に住んでいたネコも分からないらしい。残念だ。

 ――…………はここの――です。

 ジョーカーの耳に誰かの声が響いた気がした。


 それから皆、用事があるとかでなかなか時間が取れずにいた。蓮自身も夏休み中ということもあり、バイト先から連絡が何度も来ていたのだ。しかもそれに加え、協力者との関わりもやっていた。だから特別暇というわけでもなく。

 そんなこんなでもう決行の二日前になってしまった。

「どうする?最後にもう一度アザーワールドリィに行くか?」

 蓮の提案に皆が頷いた。

「いいな、身体もなまってたし」

「あたしも」

「俺も感覚を取り戻したい」

「私も同感よ」

「ワガハイもだ」

「なら、まずはターゲットの確認だ」

 例のサイトから名前のあるターゲットの確認し、全会一致した後アザーワールドリィに入る。

 ターゲットを改心させた後、もう戻ろうかという話になる。

「さすがに今の段階で疲れていると困るからな。いい案だと思うぜ」

 テュケーも賛成した。マルスはまだ戦い足りないようだが、

「お前、夏休みの宿題はどうした?」

 と、ジョーカーが聞くと彼はそっぽを向いた。この反応だと明らかにやっていない。

「はぁ……」

 ため息をつくと彼は「だって忙しかっただろ!?」と開き直った。

「忙しかったって、そこまで忙しくもなかったぞ。攻略自体は二日で終わったしな」

「なんだ、マルスはまだ終わっていないのか?俺はもう終わらせたぞ」

「私もよ。でも、この調子だと勉強会を開いた方がよさそうね」

 バックミラー越しに見てみると、ウェヌスも終わっていないという顔をしている。本気で考えた方がよさそうだ。

 テュケーがその様子を寂しそうに見ていた。


 夜、それが気になった蓮は悩みごとがあるのかと聞いた。

「急にどうしたんだ?お前……」

「いや、どこか寂しそうな雰囲気だったから……」

 何か悩んでいるのならと思ったのだが、彼は「特にないぞ」と言った。もう少し聞こうとしたが、丁度チャットが来た。見ると裕斗からだった。

『突然で悪いが、明日泊まっていいか?』

『別に構わないが、どうした?』

『明後日決行だろう?それで明日、予告状の下書きを見てほしいんだ』

『それなら泊まらなくても……ベッドもないし』

『俺が泊まりたい。どうせなら君の絵も描きたいんだ』

『まぁ、そこまで言うなら』

『ありがとう。それじゃあ、また明日』

『また明日』

 送り終えると、ヨッシーが「誰からだった?」と聞いてきた。

「裕斗からだ。明日泊まりに来るって」

「あいつ本当にここ好きだな……」

 話していると確かに悩みがあるようには見えなかった。彼の心の悲鳴を見落としてしまったのだ。


 次の日、皆で集まり最後の確認をする。

「明日はオタカラを盗む日だ。準備は出来てるよな?」

 薬も武器も新調したばかりだ、あとは予告状を準備すればいいだけだと思っている。

「予告状を見せて、その場で行くのよね?」

「そうだな。今回はそっちの方が手っ取り早い」

 しかし、今回は何が起こるか分からない。念には念を入れて出来る準備はしていきたい。

「……そういえば、蓮の武器は変わっているのか?」

 裕斗がそのことに気付き、尋ねる。それに蓮が答えると「不思議なこともあるものだな」と呟いた。異世界がある時点で不思議も何もないと思うのだが。

「じゃあ、今日は解散するか」

 話すことは話したと思った蓮は片付けを始める。もう夕方だ。

「あれ?裕斗は帰んねぇの?」

 席を立とうとしない裕斗に良希が聞くと、彼は「あぁ、今日はここに泊まるんだ」と言った。

「お前、変なことすんじゃねぇぞ……」

「大丈夫だ、ワガハイがいるからな」

 変なこととは何だろう?蓮と裕斗は疑問符を浮かべながら皆を見送った。

「そいつは泊まるのか?」

 藤森が聞いてきたので裕斗は「はい、突然で悪いのですが」と言った。

「そうか、まぁその……そういったことでないのであればいいんだ」

「何のことですか?」

「いや、分かっていないのならいい」

 一体何なのだろう。鈍感な二人は全く分からなかった。

「お前ら、鈍感すぎんだろ……」

 ヨッシーの呟きは二人に聞こえてこなかった。


 夜、予告状を完成させ裕斗が絵を描いていた。蓮は本を読んでいる。

「……なぁ、楽しいか?」

 ヨッシーが蓮に話しかけた。蓮は「何が?」とその状態のまま聞いた。

「会話もないだろ?せっかく裕斗が泊まりに来てるのに」

「会話って、あれで出来ると思うか?」

 チラッと目を裕斗に向ける。あの表情は話しかけても聞いていない顔だ。

「……出来ないな」

「しかも、ボクも描かれているから動けない。正直、明日に向けてもう寝たいところなんだが……」

 いつもの幻聴に苛まれながら、蓮は答える。幻聴が聞こえているのにそれを表に出さないところが蓮らしい。

「一応声をかけてみるか。おーい、ユウト」

「…………」

「おーい」

「…………」

「聞いてねぇな、これ……」

「言っただろ?こうなると裕斗は聞こえていないんだよ」

 はぁ……とため息をつくと蓮は本を閉じる。

「あ、蓮……!待ってくれ、まだ……!」

「もう寝るぞ。時間を見ろ」

 既に十二時を過ぎている。これ以上時間が経てば明日に影響があるかもしれない。

「お、もうこんな時間か……」

 まさか、いつもこんな時間まで絵を描いているのだろうか?だとしたらすごいことだが、あまり褒められたものではない。蓮は人のことが言えないが。

「さすがにこれ以上は明日に響くな……俺も寝よう」

「そうしようか」

 蓮はベッドに、裕斗はソファに横になる。ヨッシーは蓮の横で丸くなった。

「おやすみ」

 裕斗にそう言われ、蓮も「おやすみ、裕斗」と言って目を閉じた。


 次の日、全員が蓮の部屋に来た。

「よし、集まったな」

「今から行こうか」

 藤森に怪しまれないように「遊びに行ってきます」と言って外に出た。そして藤森の家に入り、りゅうの部屋に行く。

「りゅう、いる?」

「……蓮さん?」

 部屋の中からりゅうの声が聞こえてきた。

「ここ、開けてもらえないかしら?」

 もみじが言っても何も返事がない。やはり、まだ蓮にしか話せないようだ。

「オタカラを盗むためにはここを開けてもらわないといけないんだ。駄目か?」

「……急に言われても、心の準備が出来てない」

「盗聴してるんでしょ?なら、会話聞いてると思うんだけど」

 自分でそう言っていたハズだが。

「最近は盗聴してないもん。蓮さんのプライベートをいつも聞いてるわけじゃないし」

「あ、そうなの?」

 というより、前は聞いてたのか……。特に何もないし、聞かれて困ることもないので別に構わないが。

「蓮さん、よくにゃんこと話してるよね?」

 ……いや、一つだけあった。

「あ、えっと……それは……」

「会話してるの?」

「え、えっと……そ、そうそう!ボク、ネコが好きでね。しかも成雲家は動物と話せる力があるから声が聞こえるんだ!」

 慌ててそう言うと、伝えるとりゅうは「そうなの?」とすぐに信じた。純粋だ。

「おぉ……蓮が珍しく動揺してるぞ……」

 皆が珍しいものを見たと言いたげな表情をする。その後ヨッシーが「いや、ワガハイネコじゃねぇし!」とツッコミを入れた。

「あ、こら!鳴くな!」

「今、にゃんこがいた?」

「あ、えっと、彼女のペットなの!ねぇ、蓮?」

 風花が慌てたように蓮に聞く。蓮は「そうだよ、ボクのペットなんだ」と答えるとまたヨッシーが「誰がペットだ!」と叫んだ。

「よく鳴くにゃんこだね」

 りゅうが部屋の中で笑ったのが分かった。すると、ドアが開く。

「中に入ろう」

 そうして中に入ると、辺りには紙が散らかっていた。研究についてのことばかりで、まるで研究者みたいな部屋だ。

 それで、肝心のりゅうはと言うと……。

「どこに行ったんだろ……?」

「……蓮さん」

「押し入れの中?」

 ガタ、と押し入れの中から声が聞こえてきた。あくまで引きこもるつもりらしい。蓮の前では普通に出てきたというのに。

「これじゃああの部屋に入れたとしてもどこかで足止めをくらうぞ」

「りゅう、お願いだから出てきて。君が招き入れないとオタカラを盗むことが出来ないから」

 蓮が必死に頼み込むと、押し入れの中で息をのむ音が聞こえた。そして、バン!と押し入れの中からりゅうが出てきた。

「さ、さぁ盗め!」

「……あ、えっと……今ここで盗むんじゃなくて……」

「あ、そうなの……?」

 ガックリとした後にまた押し入れの中に戻る。

「あ、戻った」

「……あのさ、蓮さん」

 押し入れの中からりゅうが聞いてくる。

「どうやって異世界に行くの?」

「あぁ、スマホの赤い目のアプリのナビを使って……」

「赤い、目……」

「うん。名前と場所と、その場所をどう思っているかを入力すれば入れる。ってまさか、持っていないよね?」

 気になって尋ねると、一瞬の間の後に「ううん、持ってない……」と答えた。少し気になるが、聞かないことにした。

「それじゃあ、多分認識も変わっただろうし行こうか」

 蓮がその場に残り、あとの人達は部屋から出た。りゅうに呼びかけ、外に出てもらう。

「はい、これ」

「これは……」

「予告状」

「えっと……海野 りゅうは大罪を犯した……」

 ちゃんと読んだことを確認し、蓮も部屋から出て皆と合流した。

「じゃあ、行くぞ」

 リーダーの掛け声に皆が頷いた。


 開かなかった部屋の前まで来ると、そこが開いた。

「よし、ここからは何があるか分からない。警戒していくぞ」

 ジョーカーの言葉に皆が頷き、先に進んでいく。しかし、特に罠はなく、すんなりオタカラのところまで行くことが出来た。

 しかし、肝心のオタカラは棺の中にあるようだった。開けることが出来ず、どうするべきか悩んでいると、頭上から轟くような音が聞こえてきた。と、同時に空が突き抜ける。つまり、外に何かがいるということだ。

 上を見ると、藍色のショートカットのスフィンクスのような姿の女性が白い翼を生やし、空を飛んでいた。そのバケモノは「わざわいが来るぞ!」と叫んでいる。

「わざわい……?」

 どういう意味だろうか?すると、急に攻撃が飛んできた。

「うわっ!?」

 マルスがしりもちをついてしまう。そこにバケモノがさらに叩き込む。

「大丈夫か!?テュケー、回復を!」

「了解!」

 ジョーカーが指示を出す。空を飛んでいるから近接攻撃は無理だ、だとすると銃と呪文が主力になる。

 しかし、銃を使っても呪文を放っても攻撃が当たっているような感じがしない。

「くそっ!テュケー、どうしたらいい?」

「ワガハイにも分からない……」

 このままでは体力と気力が奪われていくばかりだ。どうしようかと悩んでいると、思わぬ侵入者がやって来た。

「ここは……?」

「りゅう……!?」

 そう、デザイアの主だ。しかも、フェイクではない。

「なんでここに……!?」

 まさか、巻き込んでしまったのか?いや、遠くで起動させたからそれはあり得ない。だとすると、やはりナビを持っていたのだろうか?とにかく危険だ、早く避難させないと。そう思ってジョーカーは彼に近付いた。

 すると、彼はしゃがみ込んで苦しみだした。バケモノも、「お前が私を殺した!」と叫んでいる。つまり、あのバケモノは母親の姿が歪んだものということか。

 不意にバケモノの攻撃がりゅうに飛んでくる。しかし、それが彼にあたることはなかった。

 コーヒーの匂いと暖かい何かを感じて、りゅうは顔を上げる。そこには庇ったジョーカーの姿。背中から血が流れている。

「蓮さん……?」

「……っ!ねぇ、りゅう。よく思い出して。本当に君がお母さんを殺したの?」

 痛みを耐えるように顔を歪ませながら、ジョーカーは彼に尋ねた。

「僕が、お母さんを……殺したんだよ……?」

「違う。君はお母さんを殺してなんかいない。あれは誰かが仕組んだことなんだ」

 あの時見た光景を思い出す。あの時の彼の母は、明らかに様子がおかしかった。そう、まるで「廃人になってしまった」かのように……。そこで悟ったのだ。これは、育児ノイローゼなんかじゃない。完全な、そして絶対に足のつかない「殺人」だと。

「ゆっくりでいい、思い出してみて。お母さんはあんなひどいこと言ったことがあった?」

「……ない。わがまま言った時は怒られたけど、優しかった」

「じゃあ、あのお母さんは?君に見せられたって言う遺書は?」

 ジョーカーが聞くと、彼はハッとした顔をする。

「真っ赤な偽物だ。お母さんは、あんなこと絶対に言わない」

「君は大人に利用されてただけなんだよ」

 そう言うと、彼は覚悟を決めたように立ち上がった。

「そう……僕は最初から気付いてた。でも、目を逸らし続けてた……怖くて、逃げていたんだ……でも、もう逃げたりしない!」

 すると、彼は頭を抱え出した。まさか、彼も……。

『そう、お前は最初から知っていた。知っていながら怯えてた。そんな弱い自分とは、今日でお別れだ。禁断の英知は開かれた、さぁ、皆を救え!』

 顔を上げると、彼の目元には白い仮面がついていた。それをはがすと、上から飛行物体が彼を掴んで持ち上げた。

「りゅう!?」

「大丈夫!」

 その中に入ったようで、彼の声が聞こえてきた。

「皆、手伝って!あいつをやっつけるから!」

 そう言うと同時にバリスタが現れる。どうやら彼が用意したらしい。彼曰く、自分のデザイアだから自由に出来るとのこと。ジョーカーは頷くと、バケモノの方に向いた。

「アテナはバリスタで奴を撃ち落としてくれ!後は呪文を唱えるぞ!落ちてきたら物理で攻撃しよう!りゅうはアテナに指示を出してくれ!」

 ジョーカーが指示をすると、アテナは「了解!」と言ってバリスタの方に向かった。あとは呪文を唱える。

「よし、撃てぇ!」

 りゅうの掛け声と同時にアテナがバリスタを放つ。するとバケモノは撃ち落とされ、無防備状態になる。そこに物理攻撃を打ち込み、最後に包囲する。

「この忌み子めぇ!死ねぇ!」

「なんと言われようと……僕は生きる!」

 彼の宣言と共にジョーカーは銃でバケモノを撃ち抜いた。ガラガラと地面に落ちていく。

 りゅうがアルターから出てくると、「あれ?僕、こんな格好してたっけ?」と自分の服装を見ていた。彼の服装はサイバースーツだった。白い仮面をつけている。

「へぇ、りゅうもアルター使いだったんだ……」

 今更ながらに実感する。まさかデザイア持ちでもアルター使いになることがあるとは。

「そういえば、蓮さんって瞳青かったっけ?」

「え?いや、オレは灰色だけど……」

 正確には灰色っぽい黒だが。仮面の上からだと遠くて見えないらしい。

「そうだよね?じゃあ、気のせいだったかな?なんか、青くなってたんだよね」

「そうなの?」

 そんなこと初めて言われた。するとアテナが「そうそう、確かに青くなってたわね」と告げた。

「そうだったのか……知らなかった」

「あなた、時々目が青くなるのよね。特にアルターを覚醒させる時。自覚あるのかと思ってたわ」

 青くなる……どこかで聞いたことある現象だ。確か、成雲家はある条件を満たせば瞳が青くなるとかなんとか。生まれつきの人もいるらしいが。

「それじゃあ、僕は帰るね」

「あ、ちょっと」

 すたすたとりゅうは帰って行ってしまう。アポロが「マイペースだな」と言うが、彼にだけは言われたくない。

「……オレ達も、オタカラをもらって帰るか」

 そう言ってオタカラのところに向かうと、棺が開いていた。しかし、その中には何もなかった。オタカラはりゅう自身、ということだろう。

 と、同時にデザイアが崩れていく。テュケーは慌てて車を出し、アテナが運転した。

 そのまま必死に運転していると、急にしりもちをついた。どうやら現実に戻ってきたらしい。蓮はすぐに立ち上がり、前を見るとファートルだった。背中が痛む。そういえば怪我を癒していなかった。

「あ、そうだ。りゅうは……!」

 蓮が言うと、もみじが「大丈夫かしら?」と周りを見渡す。もしかしたら家の中かもしれない。

「皆は先に部屋行ってて。ヨッシーともみじは一緒に来て」

 痛みに耐えながら蓮は皆に告げ、ヨッシーともみじを連れて藤森の家に行くと玄関前にりゅうは座っていた。

「りゅう、大丈夫?」

 しかし、いくら呼びかけても返事がない。寝ているだけのようだが、このままではまずいとりゅうの部屋まで抱え、ベッドに寝かせる。

「どうしようかしら……」

「藤森さんに言おうか……」

「そうだな……」

 すぐに藤森を呼びに行き、りゅうの状態を見せる。申し訳ないことをしたなと思っていると、

「またか……」

 と藤森が呟いたので驚いて彼を見た。

「時々こうなるんだよ。同年代より体力がないせいだろうな」

 こうなったら一時目覚めないんだ、と藤森は頭をかきながらファートルに戻っていった。

「……とりあえず、ボク達も戻るか」

 このことを皆に言わないと、と思いながら蓮達もファートルへ戻った。そして、皆に告げた上で別の手も考えようという話もした。

「じゃあ、解散すっか」

 良希の言葉に全員頷き、解散した。


 夜、ヨッシーに怪我の手当てをしてもらっていると、「成功してるといいな」と話しかけられる。

「そうだな。今はりゅうだけが頼みだし……」

「あぁ。決められた日までに目覚めればいいけどな」

 今は待つしかない。だが、もし目覚めなかった時のことも考えないといけないのは確かだ。

「まぁ、今後のことは明日以降にしようぜ」

「……そうだね」

 不安に駆られながらも、そうするしかないと頷く。ヨッシーがあくびをしたので、「寝たいなら先に寝てていいぞ」と言うと「そうさせてもらうぜ」と言ってベッドの上に丸くなった。

 ヨッシーが寝たことを確認すると蓮は耳を塞ぐ。ずっと、幻聴が聞こえてくるのだ。

 ――これを皆に知られるわけにはいかない。

 最近はロクに眠れないことも多い。元々あまり寝ない方だが、ここまで酷いのは初めてだ。

「……でも、ボクは強くないといけない」

 ボソッと呟いた言葉は誰にも届かなかった。

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