表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
9/63

第008話 対象不備05

 初めて彼と契りを結んでから3ヶ月目、アルはなんの前触れもなく死んでしまった。


 その日は肌寒く、いつもより早くに目覚めると隣で眠っていた彼は呼吸をしておらず冷たくなっていた。どうにか呼び戻そうと浜辺で彼を助けたときと同じように処置を施したが、なんの効果もなかった。


 私は火葬場の煙突から立ち上る煙を目で追いながら、ぼんやりと立ち尽くしていた。


「あー、なんだ。大丈夫か」

「心配どうも」

「相変わらずだな。まぁ、無理もないかもしれないが」

「そうね」

「なにかあればウチの嫁さんに言ってくれ、出来る限り力になるからよ」


 と言うだけ言って生後1ヶ月ほどの赤ん坊を抱きかかえたユールはエリナの元へと戻っていった。


 窯から灰となった棺とともにアルの遺骨が搬出される。高温で焼かれた遺体は骨もほぼ灰となっていた。その中から埋葬用の櫃へと納める遺骨を探す。強固に燃え残った遺骨ほど強く魂が宿っているとされ、それを墓へと納めることになっている。

 私は彼と親交のあった人たちに見守られながら灰の中から拳大の固形物を3つ儀式用の大きな木匙ですくい上げる。3つの固形物はいびつな形をしていて大きさからいっても人間のどの部位にも当てはまらなかったが、それを見た街の住人は肋骨の一部であることをよく知っていた。


 昔から稀に彼と同じようにしてなんの前触れもなく唐突に死を迎える人たちが居て彼らには共通点があった。それは水難に遭い溺死しかけたところをどうにか蘇生したということといびつに肥大化した肋骨を持つことだった。それ故か、そうして亡くなった者たちは海へと連れていかれるはずだった命が数年の時を経て改めて連れていかれているのだと信じられていたが、それは迷信でしかない。事象には原因となり得るものが必ずある。私は目を凝らして固形物を見ると微弱ながら治癒魔術が常駐発動しているのがわかり、それを目にして理解した。


 アルを死なせる原因をつくったのは私なのだと。


 彼は転生特典の異能こそ持っていなかったが転生者だった。故に異能を享受した際に強力な魔法力を宿せる受容器が前もって肉体に付与されていて強化効果のある魔術の影響を受けやすく、長期間に渡って効果を受け続けられた。

 それがこの結果を招いた。胸骨圧迫によって折れた3本の肋骨に施された治療師の治癒魔術は骨折が完治しても作用し続け、過剰な治癒力で肋骨の一部を肥大化させ心臓と肺を圧迫して彼を死に追いやった。

 過去の事例も肉体に魔術を保持させやすい体質の者たちの末路だったのだろう。事前にこのことを知っていれば対処法もあったかもしれないが今更どうすることも出来ない。


 櫃への納骨を済ませて残った遺灰は参列者の手によって岬から海へと散骨され、参列者へ謝辞を述べて葬儀を終える。全ての人たちを見送って私は彼の肋骨が納められた櫃を抱えて岬にひとり立ち尽くす。


「対象の死亡を確認。転送は不要」


 潮風にかき消される程度の声量で任務完了の報告をして屋敷へと戻る。裏手の菜園から数種の草花を採取して立ち上がろうとしたところに声をかけられ、どきりとした。


「エルちゃん、アルくんさがしにいくの?」

「うん、そうだよ」

「アルくん、ずるいね。ひとりであそびにいって」

「うん、だから見つけたら怒らなきゃね」

「うん」

「それでね、ユウナにひとつお願いがあるんだけどいいかな」

「なぁに?」

「みんなをびっくりさせたいから私がアルを探しに行ったことは内緒にしてね」

「うん」

「ありがと。これは、お礼」


 かぶっていた麦わら帽子をユウナにかぶせてあげる。数年前にアルがプレゼントしてくれた物だけれど、もう私には不要なものだった。


「いいの?」

「うん、あげる」

「やった。これでユウナもエルちゃんになれるね」

「大事にしてね」

「うん、ありがとエルちゃん」


 元気な声で御礼を述べてユウナはぱたぱたと自宅の方へと駆けて行った。


 日が暮れるまでに準備を整えて私は櫃を抱えて岬へと向かう。両親の墓標に黙祷を捧げてから真新しい墓標の元へと足を運ぶ。その墓標に背を預けるようにして地べたに腰を下ろして抱えていた櫃を開く。櫃の中には白い粉に塗れたナイフが1本だけ収まっていた。それを右手に取り、左手で心臓付近の肋骨の位置を探る。左手の指先で探り当てた肋骨の隙間を抜けるようにナイフの刃を水平にして心臓の正面へと刃先を突き付ける。その位置から下がらないように維持したまま、左手で柄頭を思い切り押し込む。鋭い痛みが一瞬襲ってくるが、歯を食いしばってどうにか耐えた。

 ナイフを心臓に突き立ててから次第に呼吸は浅くなる。血流に乗ってナイフに塗布していた毒物が全身に巡ったのか末端から痺れが広がっていく。意識は徐々に黒く塗りつぶされ、最後にはふつりと潰えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ&最新話下部の評価欄などでぽちぽちっと応援していただけるとうれしいです。


小説家になろう 勝手にランキング
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ