第023話 精神侵食10
「それにしても殻命の祖が街を離れてなかったのは幸いだったな」
「新たな転生者が来るのを予知で知ってたってのもあるんでしょうけど。最悪、あんたんとこの血筋を利用するつもりだったんじゃないかしら」
「異能を持った魂の器足り得た転生者の肉体を遺伝的に受け継いだ人間を使っての交配か。あたしの身体も乗っ取られてた可能性もあるのか」
「ショータが来てなかったら一番の候補だったんじゃないの」
「気色悪りぃこと言うなよ」
「ロジィ、準備」
私の左腕は肘まで変貌していた。目を凝らすと遠くに魔法力を捉える。隣を走るロジィもショータの姿を目視にて捉えたようで躊躇いなく魔杖筒を構えると魔砲を逃走する彼の足元へと連続して放つ。
「街中でいきなり子どもに向けてぶっ放すとか、あんた正気? あとでなに言われても知らないわよ」
「お咎めは覚悟の上だっての。それにこれで邪魔な通行人は退けられただろ」
「視線は私らに釘付けだけどね」
「それは向こうも同じだ。ま、こっちの視線はお前さんの左腕が独り占めだろうがな」
「あとで私に全部押し付ける気じゃないでしょうね」
「んなことしねーよ。んじゃ、魔導車取りに行くぞ」
「ここまでやっといて、このまま追わないの?」
「あの野郎は絶対に街の外に逃げる。そのときになって足がないんじゃ、面倒だからな」
「根拠は?」
「あの野郎の血筋がねーことと発症者の数。あとはお前さんの元同僚ってことだな」
「それが今追わないこととなんの関係があるのか、さっぱりなんだけど」
「推測にはなっちまうが野郎は一度乗り捨てた身体には再度戻ることは出来ねーんじゃねーかな。じゃなきゃ、あの野郎がひーじーさんと同じように子を成してなきゃ変だろ。身体の予備を用意するなら自分の子の方が手っ取り早いだろうしな。でも、それは出来なかった。転生早々に身体を乗り捨てたはいいが戻ることが出来なくなっちまったんじゃねーかな。ま、子を成す相手が見つからなかっただけかも知れねーが」
「確かに言われてみればそうね」
「それを踏まえた上で発症者の数を考えてみると、やたらと乗り換えてるのは妙ではある。おそらく乗っ取り後、四半日程度で変性型殻化症が発症してまともに肉体を制御出来なくなるんじゃねーかな。それに加えて発症者が成した子にも野郎の魂に対する抗体みたいなものが出来てるんだと思う。乗っ取ってる人間の大半は高年齢層の女性で男性の発症者の方は年齢にかなりのばらつきがあった。あとはそうだな。うちの血筋に発症者がほぼいなかったのも根拠のひとつだ」
「そこまでは納得したけど、街の外に逃げる根拠にはならないんじゃない?」
「そこなんだがな。野郎は、お前さんがどんな手段を使ってでも殺しに来ると思ってるはずだ。元々やってた仕事だけにな。だから身体を何度乗り換えても無駄だと悟って、万全を期すためにショータの身体を乗っ取ったんだろ。確実にあたしらを殺すためにな。そしてそれを成すためにあたしらを荒野に誘い出すはず。街の外にゃ野郎の造った鎧蟲が大量に生息してんだからな」
「そういうことね。わかったわ、先に倉庫に向かいましょう」
郊外の倉庫へと向かった私たちは手間取りながら魔導車へと乗り込む。普段とは違って私は助手席から乗り込みロジィは運転性へと腰を下ろす。私は座席に腰を落ち着けられぬまま車は急発進した。
「ちょっと危ないじゃない」
「悪りぃな。道案内よろしく」
「まったくもう。とりあえず直進して。荒野に出たら私の案内がなくてもすぐ見つかると思うわ」
「OK。んじゃ、かっ飛ばすぜ」
「ほどほどにね。あんたが全力出したら魔導機関吹っ飛びかねないんだから」
「わーってるよ」
ロジィが魔力を惜しみなく注ぎ込むと車体はぐんぐんと加速して街から荒野へと跳ねるようにして抜け出す。がたがたと路面の悪い地面を高速で走り抜け、土煙をもうもうと上げていると九時の方向に先刻捕捉した魔法力の反応を感知した。
「いた、あそこ」
声を張り上げ、右手で指し示す。その先には低空を飛翔する中型鎧蟲の背に乗ったショータの姿があった。
ようやく目標を目視で追えるようになり、私は必要のなくなった左腕の暴走を停止させた。
「鎧蟲操ってるが、あれって異能か?」
「ううん、違う。あれは鎧蟲に使われてた魔導器を自前の魔力で操作してるだけよ」
「それってあたしらにも出来るってことか?」
「動かせるだけの魔力があるならね」
「そっか。今度試してみるか」
「あんたも物好きよね」
「空、飛んでみたいだろ?」
「そういえば、その手の魔導機械はなかったわね」
「あんまり乗り気じゃねーな。もしかして、お前さんの世界にはあったのか?」
そんなロジィの質問に私は人差し指を立ててとんとんと自身の唇を軽く叩いた。
「そうだったな。ま、あたしがいつか造ってやるよ」
「あんたなら出来るかもね」
「楽しみにしてろよな」
「そうね、気長に待ってるわよ」
追跡を続けるうちにショータの乗る鎧蟲の速度が徐々に落ち始めた。
「なぁ、ここって」
「えぇ、なんとも趣味の悪いことね。わざわざここに私たちを誘い出すなんてね」
ようやく鎧蟲を静止させたショータが降り立ったのは私たちが彼と出会った湖の畔だった。




