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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
19/63

第018話 精神侵食05

「ま、そうだよな」

「なにがよ」


 不貞腐れたように応じるとロジィは無言で左手をひらひらと振ってみせる。私が殻命の祖や原初の魔砲使いについて調べてないはずがないということなのだろう。


「えぇ、そうね」

「わかっちゃいたが、知らないふりなんてな」

「悪い?」

「んーにゃ」

「回りくどい手を使って言わせておいて、なんなのよ」

「強要はしてないぞ」

「強要はね」


 実際のところ私は殻命の祖や原初の魔砲使いが転生前の言語を使用して文献などを残しているかどうかなど知らない。そもそも見つけることが出来なかった。ただロジィの言動から転生者が転生前に使用していた言語がなんであったかを知ったに過ぎない。


「それと改めて言っておくけど、言葉が通じるからといって私はその子に対する態度を改める気はないからね」

「別にそれでかまわねーよ」


 彼とコミュニケーションをとらせたいわけではないらしく、ロジィの意図はさっぱりわからない。この場だけのことかとも思ったが、その後も私の態度に関してロジィが苦言を呈することはなかった。


 そんな状態のまま時は流れ、3ヶ月も経つころにはショータはある程度の日常会話なら問題なく話せるようになっていた。


「編入手続きを済ませてきた」

「そう」

「めでたい日だし、パーティしようぜ」

「おふたりでどうぞ」

「そろそろやめねーか。そのくさい芝居」

「なんのことよ」

「最近は表情と台詞が一致してないぞ」


 またかと頭を抱えたくなる。前々回任務のときもそうだったが、急に私の意思とは反する感情が流れ込んで心が不安定になっていた。

 胸の鼓動は妙に高鳴り、口の端が引きつりそうになる。なにが原因なのかもわからない。ただただ息苦しく、それを誤魔化すように左胸を鷲掴む。


「おい、大丈夫か」

「気にしないで」


 そう答えながら、私は自分の左腕が爬虫類めいた硬質の鱗に覆われているのに気付く。普段なら指先から肘の辺りまでしか変化しないはずなのだが、どういうわけか今回は私の意思とは無関係に変化したばかりか肩口付近まで変貌していた。


「なんで?」


 思わずつぶやいた瞬間、胸が締め付けられるように苦しくなり呼吸が荒くなる。左腕部が完全に変貌してしまった私の姿を目の当たりにしたショータは化物でも見たかのように硬直していた。そんな彼の様子が私の目に入った直後、左腕が彼を切り裂かんと振り抜かれる。唐突な挙動に対応出来ずなかった私はなすがままに振り回されてテーブルの角で強かに脇腹を強打して床でうずくまる。私の意思を離れて不意打ちの攻撃を放った左腕は私の身体全てを支配することは出来なかったらしく、いつの間にか人間の腕に戻っていた。

 暴走した左腕の攻撃対象にされていたショータは即座にロジィが対応したお陰で無傷で済んでいた。


 今の私にショータを近付けるのは危険だと判断したロジィは、すぐさま彼を部屋へと引き下がらせる。


「悪化してたのか」

「そうみたいね」

「それでか」

「どうかしら。まさかひとを襲うなんて思わなかったわ」

「悪かったな、気付かなくて」

「表面上には症状現れないし、仕方ないんじゃない。私もここまで悪化してるなんて思わなかったもの」


 嘯きながら私自身も状況を理解出来ていなかった。この世界では私の爬虫類化する左腕は変性型殻化症へんせいがたかくかしょうという扱いになっている。それは殻命の祖が遺した呪いらしく、本来は鎧蟲の外殻のように肉体の一部が硬質化する症状らしい。なので類似した変化をする私の左腕もそういう診断されていた。

 しかし、実際には違うだけに左腕の暴走には混乱した。


「落ち着いたか」

「お陰様でね」

「本当だろうな」

「わからない。というのが本音ね」

「だよな」


 ロジィは右手で顔を覆うようにして長々と黙り込んだ後、ゆっくりと口を開く。


「寄宿舎だったな。編入を機にショータを預けることにするよ」

「そう」

「だからよ、少しでも身体に異常を感じたらすぐに教えてくれよな」

「善処するわ」

「変な演技はいらないぞっと」

「はいはい、わかったわよ」


 適当に応えながら左手をひらひらと振ってみせるとロジィはあきれたように肩をすくめつつも納得した。


 それから数日間、ロジィとショータは編入やら寄宿舎へ入る手続きやらで慌ただしくしていた。そんなふたりを尻目に私はひとりぼんやりと部屋に引きこもって過ごしていた。

 そうして迎えた編入日、私はロジィに部屋から引っ張り出されて玄関先に立っていた。正面に立つショータはどこか不安そうにしながらも安堵しているように見えた。そんな彼の目がちらりと左手に注がれ、自嘲する。私は深くため息を吐き、右手をちいさく振りながら一言。


『いってらっしゃい』


 私の言葉を耳にしたショータは申し訳なさそうに俯いた後、ぱっと顔を上げて大きな声で「いってきます」と返事をした。その顔にはもう私に対する恐れは見当たらなかった。

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